side 織斑ルイズ
私とルイズはやっぱりホールでの接客に回された。まあ、何となく理由はわかるわね。自分で言うのもあれだけど、私もルイズも美醜で言えば綺麗な方に傾く程度の顔をしてるもの。
多少人付き合いに問題があったり、あんまりチップを貰えなかったりもするかもしれないけれど、その辺りはまあ初日だから仕方ないわよね。
ちなみに私が開始二時間で集めたチップの総額は2エキュー48スゥ5ドニエ。成果としてはそれなりによし……って所かしらね。
今はお客さんが少ない時間帯らしいから私のように一人の客に時間をかけて相手をすることもできるんだけど、時間が過ぎて忙しくなったら私の方法だと貰えるチップの量が減るでしょうね。
その辺りは慣れていかないと改善しないだろうし、元々チップを貰うことが目的じゃなくて情報を集めることが目的なんだから別にいいんだけど。
「お待たせしました」
「ありがとう。……君、新入りさんかい?」
恐らく常連なのだろう客に話しかけられて、私はにっこりと笑顔を浮かべながら答える。
「はい。今日入ったばかりのユナと申します。先輩方共々よろしくお願い致します」
ぺこりと頭を下げつつちょっと胸を揺らして見せると、その人の顔が簡単に緩む。まあ、私は触らせるつもりは欠片も無い訳だけれど、触ってこようとする方には優しく手を押さえて可愛らしく
「おイタは、『めっ』ですよ」
……と言うと、何故か触るのを諦めてくれる。
同時になんだか懐かしいものを見る視線に変わるんだけど……何かしら、優しいお姉さんに軽くたしなめられたようにでも感じてるのかしら。
「大体合ってると思うぜ。中身はともかく外身は完璧だからな」
「確かに、あのユナ姉様はお姉さんキャラよね。本性はともかく」
後でデルフリンガーに“加速”をかけて三時間ほど放置してみよう。中で何年過ぎるかわからないけど、それなりに寂しく感じるんじゃないだろうか。
それからルイズ。この世界で初めて縮乳薬を使った人間として有名にしてあげるわ。
「すまん相棒、俺が悪かった。“加速”状態のまま三時間とか何百年単位で時間が過ぎて寂しいからマジで勘弁してくれ」
「いや……いやぁ……もうつるぺたに戻るのはいやぁ…………」
ルイズ、ガン泣き。よっぽどつるぺたに戻りたくないようだけど……残念ながらもし使った場合は昔の体型に戻るんじゃなく、今胸に付いている脂肪がウエストや二の腕や首回りなんかに行くから……戻るんじゃなくて全体的に太るのよね。
身体から括れが失われ、見るも無惨な完璧な寸胴に。皮下脂肪ならともかく内臓に脂肪がついたら落としにくいし、体調も相当悪くなる。
勿論そういった副作用の無い完全版縮乳薬もあるし、逆にエネルギーを必要としない完全版豊胸薬もあるにはあるのだけれど……出さない方が私的には面白いから出すことは無いわね。
と、そんな感じで『戻るんじゃなくてもっと酷くなるだけ』と言うことを伝えてみたら涙ながらにすがり付いてきたので接客を頑張ってもらうことにした。できる範囲でいいから怒らず、例え怒ったとしてもそれを外には出さないように。
流石にちょっと難しいかと思ったので、ちょっと目を合わせて数時間くらい徐々に弱まりながらも効果を持つ短期催眠術をかける。魔力の波動を視線で直接相手の視神経から脳まで届けて催眠術をかけ、効果の調節をする。
ちなみにこの技はナノハが『すずかちゃんの真似~』と言いながらやっていた魔眼モドキをさらに真似したもので、以外と強力だったりする。
なにしろイチカに(拒絶されてなかったどころか受け入れてもらっていた状態とはいえ)効果があり、しかもイチカの方から……イチカの方から!キスしてくれて、『好きだよ』って言ってくれるくらい強力。
勿論受け入れてもらえなかったら殆ど効果は無いけど、他の催眠術系統は受け入れてもらっていても効果が無いものばかりなのでどれだけ効果が高いのかよくわかってくれたと思う。
そう言うわけで、催眠術によって精神にある程度穴の空いた簡易版の蓋を取り付けられたルイズは、それなりに上手に接客ができるようになった。
相手の軽口をある程度受け流せるようになり(後で店の屋根裏で枕に当たってはいた)、侮辱と取れるような内容も華麗に受け流し(見えないほど素早く顎先をかすらせるように拳を振るって黙ってもらったり)、運んでいる料理やワインなどを落とすこともほとんど無くなった(身体能力とバランス感覚任せ)。
なんとも脳筋的に成長したとは思うけれど、我慢したことによって精神力はかなり増えているはずだ。
ルイズの精神力の源としてもっとも効率がいいのは『憤怒』。怒りを押さえ込んで濃縮し、純粋な結晶になるくらいまで純化したそれは……まあ、最後までエクスプロージョンを唱えてそれなりの規模の爆発を起こさせることができるくらいはあるだろう。これからのことを考えれば、精神力はあればあるだけいいものね。
……さて、それはいいとして……仕事はちゃんとしないと。接待と料理運びといなくなったお客さんの使っていたテーブルの片付けと……いつも学院でやっていることと大して変わらないわね。相手が貴族か平民かって言う違い以外には……ああ、平均年齢が随分違うか。オスマンが一人で随分引き上げているけど、流石に追い付かせるほどじゃないだろうし。
ついでに手が空いている時には汚れたお皿を洗って拭いたりルイズをこっそりサポートしたり周りの女の子達を見てこの店でのお客の扱いと上手なチップの貰い方を学んでみたり、勿論色々な人が話をしている噂を聞いて覚えるのも忘れない。
なるほど、確かに忙しいわね。忙しいけど……暇すぎるよりはずっといいわ。人間は暇だとあまりいいことを考えない生き物だし、忙しくてやりがいがあるならそれが一番よ。
……時々暇じゃなくても良からぬ事しか考えない人なんかも居るんだけれど、それは本人の資質の問題だから私にはどうもできないわね。できて精々皆殺しか、悪事の証拠と胃薬を用意してマザリーニの執務室まで特攻するくらいね。
後者の場合、マザリーニの胃に多大なダメージを与える代わりに相手を社会的に抹殺した後杖を取り上げて平民達に虐殺させるくらいの事はできる。面倒だからやりたいとは思わないけどね。
そう言えば、マザリーニに渡したあの情報は役に立ってるのかしら? あれだけの汚職(公金横領やら税の過剰徴収やら賄賂やら他国への情報売買やら反逆罪やら)の証拠があれば、大体の相手はどうにでもできると思うんだけど?