ゼロの使い魔 ~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

28 / 68
056

 

 

 

 

side 織斑ルイズ

 

チップレース最終日を迎え、私とルイズはそこそこ慣れたように行動し続けている。

五日目終了時点でのチップの総量は、私が八十八エキュー八十八スゥ八ドニエで全体三位。ルイズは二十八エキュー四十二スゥ五ドニエで番外。ルイズがここまで頑張れるようになったなんて……感慨深いわねぇ……異世界とはいえ自分の事だけど。

 

そう言うわけで順風満帆のまま最終日も元気に働いていたのだけれど……やっぱり面倒事と馬鹿貴族はふとした時に現れるのだと再確認させられた。

 

王都の徴税官、名をチュレンヌ。以前私が……じゃない。大盗賊『土くれのフーケ』が忍び込んで資金と汚職の証拠を根こそぎ持っていかれた腐れ貴族の一人だ。

どうやら財産を盗まれてもへこたれずに汚職を繰り返してきたようだけど……私がここにいる時に来たのが運の尽きだったわね?

 

私は徴税官を路傍の石を眺めるような目で見つめ、それからワインを持っていこうとするルイズを引き止めて学院の服に着替えてくるように言う。

それと同時に早口で作戦を伝えてから、ルイズの持っていたワインを受け取って栓を開ける。

……これからやることを素面でやってられるほど図太くなった覚えは無いのよ。信じてもらえることは少ないけど。

 

「え……ちょ、ユナ? 何をしてるの?」

 

さっきまで忌々しそうに徴税官を睨み付けていたジェシカがなんだか慌てたように私に問いかけるけど、私は最近することの無くなっていた『殺す笑み』を浮かべ、一本目を空けて二本目に突入したワインの瓶を呷るのを辞めて答える。

 

「ちょっと、久し振りに暴れてみようかなぁ……ってね」

 

まあ、物理的に暴れる訳じゃないけど、やってること自体は相当暴れているに等しいことだものね。

一平民(私は貴族の地位を捨てたし、それ以前にこの世界の住人じゃ無い)が徴税官とは言え貴族を(イチカ程じゃないけど)罵倒し、最終的に脅迫して貰えるものは大体全部貰いつつ徴税官を罷免させて逆恨みからの襲撃やら何やらを防止するために命まで頂いておこうって言うんだから。

そんなことをするんだから、少しくらい気が大きくなっていないとやってられないわよね。

死人に鞭打つことはできても、生者の爪を剥がして熱した油に塩を漬け込んだものを塗り付けてできた火傷に唐辛子を擦り込無用な真似なんて……あんまりやりたくない。

 

「あんまりなんだな」

「あんまり、よ」

「え、今どこから声がしたの?」

 

いつもの通りにデルフリンガーと話したら、それを聞いていたジェシカがきょろきょろとデルフリンガーの声の元を探す。まあ、普通はこの剣が喋るだなんて思わないものね。どうでもいいけど。

 

「ジェシカ。あの貴族のツケっていくらくらい?」

「え……っと…………たくさん?」

 

……どうやら記録するのが面倒なくらいに飲み食いされていたらしい。本格的に救えないわね。救う気なんて初めから欠片も無かったけど、良心の呵責が随分薄れたわ。

 

ホールを見てみると、徴税官の取り巻きの馬鹿共が杖を抜いて客を散らしているのが目に入った。

あの客全員が支払いをしてない事を考えると、やっぱり迷惑極まりない。

 

とりあえず“複製”記録の中にあった安物のワイン(ボトル一本二~三エキュー程度)を一本ととある書類を手に持ち、未だに威張り散らしている徴税官一行に近付いていく。回りの女の子達が心配そうな表情を浮かべたままこっちを見ているけれど……まあ、心配は要らないわよ。どうせこいつはここで終わりなんだから。

 

ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てている徴税官に笑顔のまま近付いて行くと、そんな私に気付いたらしい徴税官達が私の体を下卑た目で舐め回すように眺める視線を感じた。

特に胸と顔に集中したそれはかなり…………それこそこの場でくびり殺してしまいたくなる程度には不快だったが、ぐっと堪えて笑顔をひきつらせないように固める。

 

そして射程距離まで近付いた私は、にっこり笑顔を崩さないままに……

 

「ほほう……これは「黙れ豚」」

 

バゴシャンッ!と派手な音をさせながら、手に持っていたワインの瓶(安物だけあって脆いし薄い)を徴税官の頭に叩き付けた。

しっかりと腹の部分で殴ったため気絶するような威力ではないし、それでいて派手な光景と音でこの場の全員の注目が徴税官と私に集まる。

けれどその注目の割合は明らかに徴税官の方が高く、誰も私が動いたことには気付かなかったようだ。

 

「な……平民風情が何をっ!?」

 

数秒の時間を使って漸く現世に復帰した取り巻きの一人───今回一番だったことに敬意を表して取り巻きAと呼んであげましょう───が杖を抜こうとするが、なぜか、その腰元にはさっきまであったはずのレイピアのような軍杖が無くなっていた。

慌てる取り巻きAを無視して私は持っていた書類の束を起き上がって怒鳴ろうとした徴税官の鼻先に突きつける。

その内容を読んでしまったらしい徴税官は怒りで真っ赤になっていた顔色を今度は真っ青に染め替え、書類から私に視線を移す。

私は黒いことを考えている笑みのまま瞼を開き、私からは見えないけれど恐らく黒と空色に染まっているだろう目で徴税官を見つめる。

 

……なんだか取り巻きや徴税官の喉から掠れたような呼吸音らしきものが聞こえたような気がするけれど、気のせいだと言うことにしてスルーする。

杖を奪われて戦力としてはほぼ無力化された徴税官とその取り巻き達をにっこり笑顔で牽制しつつ、ちょうど私の居る側の椅子が空いたのでそこに座って脚を組み、丸で傲岸不遜な女帝のように命じる。

 

「いつまで床に這いつくばっていれば気が済むの? 貴方は虫? 虫でもなんでもいいからさっさと座りなさい、このゴミ虫が」

 

口を開こうとした取り巻きの一人の頬をデルフリンガーの峰で叩き、反論を封じる。やっていることは強盗と変わらないけれど、相手がこれだったら別に問題は無いわね。

個人的にはあまり好きな言葉じゃ無いんだけれど、『正義は我にあり』ってやつよね。

ここでちゃんと叩き潰しておかないと、他の貴族が『この程度の罰で済むなら自分も……』と馬鹿なことを考えるようになっちゃうかもしれないものね。

一罰百戒一罰百戒。何事も初めが肝心よ。やり過ぎると暴君とか言われちゃうから気を付けないといけないけどね♪

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。