ゼロの使い魔 ~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

29 / 68
057

 

 

 

 

side 織斑ルイズ

 

交渉中、交渉中、現在交渉中……と言っても実際は交渉どころか単なる脅迫以外の何でもないんだけどね。

弱味を握ってそれを楯に相手を脅し、自分の思い通りに相手を動かそうとするんだから……まあ、ただの脅迫よね。だからどうしたって話だけど。

 

私の前に居る交渉相手は、王都トリスタニアで徴税官をしているチュレンヌとか言う腐れ卑賊(卑しい賊を勝手に略した)とその取り巻き。全員が全員何故か……何故か!杖を失い、顔面蒼白のままガタガタと無様に震えている姿は……それはそれは滑稽なもの。

まあ、醜い豚が震えていても嫌悪しか感じない。ルイズやシエスタが震えている姿はあんなに可愛いのに、どうしてやっている人間が変わるだけでこんなにも見苦しいものに変わるのかしらね?

 

「……相棒はドSだな」

「少し黙っててくれるかしら? ドリルにするわよ」

「ドリル!?」

 

なにそれこえー!!と騒ぐデルフリンガーをメイド服中のアンダーグラウンドサーチライトに捩じ込んで黙らせ、それから徴税官一行に視線を向ける。

 

……ビクリと肩を震わせて怯えられた。ただ見ただけなのに、酷いわね。

確かにちょっと殺気も乗せはしたけど、この程度で怯えたら母様のチラ見にすら耐えられないんじゃないかしら?

前に『あ、白髪……』ってつい言ってしまった時の母様の殺気は……小動物ならそれだけで殺せてしまいそうなほどに濃密なものでした。

そしてカティに同じことを言ってしまった時は、母様の騎獣であるマンティコアが泡を噴いて失神し、一時心停止まで陥ったそうなので、あまり怒らせない方がいいかもしれないわ。

 

……まったく、ヴァリエールは本当に魔境ね。私もヴァリエールの出身だけど、あの二人ほど異常じゃないと自負している。

 

まあ、そんなことは置いておくとして……武器を奪われたまま席についているこの馬鹿共をなんとかしなくちゃね。

 

「そう言うわけで、貴殿方の汚職の証拠を掴んでいます。上司についでとばかりに自分の分の罪まで着させられて懲戒免職、財産没収、処刑の三拍子を食らいたくなければ自ら職を辞し、二度と政治に関わらない事を誓えば見逃してあげることを考えてあげなくもないわ」

「くっ……」

 

私に恐怖しながらも苦々しげに呻く徴税官とその取り巻き。そのうちの一人がなにかに気付いたような表情を浮かべ、私に向かって傲慢そうな笑みを浮かべてきた。

 

……多分だけれど、これは自分の上司に今まで通りに揉み消してもらう事を今さら考え付いたか、あるいは私がたかが平民だから上申しても信じてもらえない……どころかまず上申できないとでも考えたのか、もしかして力で押さえつける事を考えたのか……。

まあ、どっちにしろ的外れ。あちらの考える前提条件とこちらの用意した正確な前提条件がかなり食い違っているんだから仕方無いのかもしれないけれど、まずは私(平民)がどうしてあんな化物みたいな速度で動けるのかを考えることくらいはしてほしかった。

 

平民でも魔力はある。魔力があれば魔法はともかく魔力操作による身体能力の増幅くらいはできる。杖が無くても、詠唱が無くても、ちょっと努力してやれば簡単だ。

シエスタを見てもらえればわかるだろうけど、慣れてしまえば意識しないでもできる。やっていない人が多いだけで、カティや母様もやっている。

 

要するに、杖の無い徴税官一行に私を力で押さえることはできないんだけれど……あの顔は実に下衆な事を考えている顔だ。殺したい。殺すけど。

 

「たかが平民風情が、いったい誰に口を利いているつもりだ? 我々は女王陛下に仕える魔法衛士隊。貴様ら平民とは格が違うのだ!」

「そうですね。国に害しか与えない屑と、様々なものを産み出して国を支える平民では比べるまでもなく平民の方が格が高いですね。わざわざ自分の格の低さをひけらかさなくてもみんな理解していますから、そんなことはしなくてもいいんですよ? まあ、自分の小ささを理解しているだけ他の数人よりも少しは優秀ですね。えらいえらい」

 

私が言葉を紡ぐ度、相手の額に青筋が増えていくのを眺めながらも私は笑みを崩さない。別に公爵家の誇りとかそんなものではなく、ただ単にこの国丸ごと敵に回ったとしても……勿論、ルイズやカティ、母様達ヴァリエールも含めて全ての貴族と神官が敵に回った場合でも、私一人で30秒(“エクスプロージョン”の効果範囲を世界そのものにまで広げるのに必要な詠唱時間を余裕を持って考えた時間)もあれば殲滅できる。

つまり、なんら驚異を感じないし、世界を滅ぼすのに些かの躊躇いも無い。必要なら、やる。

大抵必要がないからやらないだけで、結局はちょっと大きい人間を殺すのと変わらない。明らかな格下との戦争って、どうしてこんなに虚無感ばかりが前に立つのかしらね?

 

とりあえず、激昂して襲いかかろうとしてきた一人の手首を取って顔から床に叩きつける。中々勢いがあったからちょっと顔が酷いことになっているけど、気にせず座ったまま床に叩きつけられた反動を利用して何度も何度も振り回しては叩きつける。

顔と言わず背中と言わず、あらゆる場所を叩きつけてボロ雑巾のようになった取り巻きBは、振り回され過ぎて外れた肘と肩を奇妙な方向に曲げ、それなりに整っていたような気がしなくもない顔を血と青痣と埃でぐちゃぐちゃにして沈黙した。

なんだか涙と鼻水と涎と血が混ざった汁を垂れ流していて汚らしかったのでおまけとして最後には顔が見えないように俯せにしてあげたのだけど、まるで断末魔を上げる蟲のように手足をビクビクと痙攣させているその姿自体が見るに耐えない。ああ汚い。

 

「き……貴様……貴族に……」

「貴族? 何処の何方が『貴い一族』なのですか? 私の前には『卑しく愚かで醜い汚職まみれの賊』しかおりませんが」

 

……あるいは、私の居た世界とこの世界の間の感性には暴力的を通り越して絶望的なまでの差があるのかしらね。私の感性では少なくともこんなものが貴いなんて事はあり得なかったし。

……なんだかこの世界で上手くやって行けるかどうか不安になってきたわ。基準となる価値観が違いすぎる相手と付き合うには物凄く忍耐を必要とするし、私にはそこまでの忍耐は無い。キレるポイントに触れられたら簡単にキレちゃうもの。

やれやれ、困ったわねぇ……。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。