その6
色々変態ショタコンピンクヘッドをからかいまくったが、最終的に教えない方向で決着をつけた。ここで重要なのは決着がついたわけではなく、決着をつけたという点だ。
具体的には、耳元で色々なことを囁いただけなんだが。
例えば、使い魔と言ってはいるが契約はしていないから実際は違うのに学園に残ることができているのは俺が使い魔と言うことを否定してないからで、俺が気を使ってなかったらここから居場所なくなってたよ? とか、自分の立場を守るために勝手に呼び出した平民を殺したら、お前の家にまでは行かないかもしれないが、確実にこの学院の平民の中でお前の家の立場は悪くなるぞ? とか。
まあ、変態ショタコンピンクヘッドの実家は確か公爵家だったはずだし、実際はそんな大して痛くもないんだろうけど。
ただ、母親の方は昔の怨敵に似たようなことをした奴が居たはずだから、少し怒るかもしれないが。
まあ、変態ショタコンピンクヘッドが文字通り死ぬほど怒られようが俺には関係ない。ざまあみろ、ってくらいかね。
そんな訳で昼御飯。いつもは抜くことが多いんだが、叩き起こされたから一応食べることにした。
用意されてた貧相なのは片付けて、食堂の隅で自分用に作る。嫌がらせの意味も込めてそこそこ豪華なやつを。
「おい平民。それはお前には過ぎたものだ。よこせ」
「黙れ♪ お前が最後に寝小便を垂れたのが二年前の夏のことで、証拠隠滅のためにベッドに火をつけて実家を火事で灰にしそうになったことをぶちまけるぞ♪」
「なぁっ!?」
あ、もうぶちまけちゃった。俺は困らないから別にいいけど。
「……え………まさかあの人が……」
「嘘だろ……?」
「けど、あの反応……本当のことじゃないか?」
周りでぼそぼそと囁きあっている誰かさん達の声が聞こえるが、俺はそれらを全て無視して料理を作って食べる。
「決闘だ!」
「やだよめんどくさい。弱いもの虐めをして楽しいかい? 楽しいんだろうね。まったく、こういう相手と付き合う人は大変だ。いつでも自分が最高に偉いと思ってるから付き合う相手のことなんて一切考えないだろうから付き合った相手の意思を無視して勝手に物事を進めるだろうし、意見を言ったとしても絶対関係が険悪になるだろうし、友人にするにも恋人にするにも婚約者にするにも結婚相手にするにも適さない人間は行動力のある馬鹿と行動力のありすぎる馬鹿と行動力と決断力を併せ持つ馬鹿以外にも人の話を聞かない馬鹿も居るんだな。そういうのは戦時中に敵軍の首脳陣にいっぱいいるといいよな。勝手に暴走して勝手に自滅して勝手に相手の被害を増やしてくれるからね。味方にいると厄介で敵にいると嬉しい相手がこんなところにいるよ。しかも自覚がないときた。馬鹿は死ぬまでなおらないと良く言うけど、実際は死んでも直らないと思うんだよな。特にこういう勘違いの激しい馬鹿は女性に言い寄って断られてもそれは相手が恥ずかしがって勢いで断ってしまったんだろうとかいうのを本気で考えるから困る。全力で嫌がられていることくらいさっさと気付けと言いたいところなんだが、俺に被害が来なければ好きにしてればいいと思うぞ? 人間ってのはそういうものだしな。あとついでに決闘って確かありとあらゆることをやっていい何でもありの戦いで、騙されるんだったら騙されるような隙のあるそいつが悪いってことになるあれだろ? よくそんなのを俺相手に挑む気になったよな。家族や恋人を人質に取られても人質にされるような間抜けな自分を恨まなければいけないそんなのをわざわざ挑んでくるなんて、それこそ馬鹿としか言いようがない。こっちには受けてやる意味も理由も義理も無いが、お前が両掌と両の膝を地面につけたまま額を地面に擦り付けて『お願い致します、この卑小にして矮小なる愚物である私めと決闘をしてください』って言うんだったら考えるだけ考えてあげないでも無いけど?」
「イル・デル……」
「馬鹿か」
いきなり杖を振り上げてきたその馬鹿の手に、千の顔を持つ英雄で作ったパチンコ玉程度の大きさの金属球を指弾にして撃ち込む。
加減はしたから精々手首の骨の複雑骨折くらいで済んだだろう。
取り落とした杖を拾い上げ、右手を抑えながら悶絶している馬鹿の目の前に突き付ける。
「お前が馬鹿なことをしたという証に、この杖は貰っておくぞ?」
「ふ……ふざけるなっ!」
叫んだ馬鹿の頬を本人の杖でひっぱたく。かなりの勢いで首が弾けるように横を向いたが、気絶もしてないし死んでもいない。
「ふざけてなどいない。俺は真面目さ。暴力を振るってきたから暴力で返す。当然のことだろ?」
それだけ言って俺は料理を消費する行為に戻る。色々な方向から睨まれているが、わざわざこんなところで手を出そうとする馬鹿はこいつ以外にはいないだろう。
多分、俺に不意打ちでもするやつが居るだろうけど、そう言うのはとりあえず某串刺し公のやったあれのように晒してやれば静かになるさ。
勿論晒すのは夜だろうけど。証拠がなければ裁けないってのがいいことだが………まあ、その時分身の一人が他の誰かと一緒にいればいい。
…………まったくもう。俺はただ静かに寝たいだけだって言うのに、どうしてこんなにも周りは俺のことを起こそうとするんだろうな?
その7
あの後色々あったが、俺は気にせず普段通りに過ごしている。
基本的に貴族連中は俺にはノータッチにすることにしたらしく、襲われることもなければ話しかけられることも無い。
ただ、あの馬鹿の杖は縦に四つにして厨房の竈の中に放り込んでおいたため燃えて無くなってしまった。
原作の主人公のように人気は無いが、それでもそこそこ好意的な知り合いは多い。
例えば、ちょっとした道具で買収(?)した学院長の爺さんとか、千の顔を持つ英雄で作ったエンジンとガソリンで興味を引いてみた頭が寂しい人とか、変態ショタコンピンクヘッドの隣の部屋の微熱さんとか、料理長の人とか黒髪メイドとか。
……まあ、それは置いておくとして………俺は誰かと戦闘をすることもなく、剣を買いに行く事も無く、微熱さんに言い寄られることもなく過ごしているんだが……このままだと土くれのフーケによる破壊の杖の窃盗事件がなくなるんじゃないかとか考えている。
無くなったら無くなったで構いはしないんだが、そしたらきっとアルビオンに行くことも無くなるだろうし、変態ショタコンピンクヘッドが虚無の担い手(胸の話ではなく)として覚醒することも無くなり、相当話が歪みそうな気がしたが……………まあ、いいか。俺の知ったことじゃない。
とりあえずこの大地がみんな浮かび上がるようなことがあっても、千の顔を持つ英雄でラピ○タでも作ってやれば(下についているあれは確実に武器だから作れるさ)俺は平気だし。
そんなわけで俺は今日も学院の庭の隅でのんびり寝ている。春は日差しが暖かくて良いねぇ……ほんとにさ。
自堕落に過ごすのは最高だ。自分の寝たい時に寝たいだけ寝て、起きたい時に起きて、食事も自分で好きなのを適当に作って食べて、たまに来る変態ショタコンピンクヘッドをからかって、学院中を走り回って逃げて………。
そんな時に、変態ショタコンピンクヘッドから話があった。どうやら使い魔品評会と言うものがあるらしい。それに参加しないといけないらしいんだが………この変態ショタコンピンクヘッドが嫌々ながらも頭を下げるような事らしい。
「まあ、今回はちゃんと理由もあるし、わざわざ追いかけ回して嫌がらせしたりいきなり攻撃してきたりしないで頼んできたから、いいよ」
「……もしかして、初めからそうしてれば話が早かったりしたわけ?」
「なんだ、沸点が低くて導火線が短いだけで頭が悪いわけじゃないんだ? しっかり回し方も回すべき時もわかってるみたいだし…………なんでいつも冷静にしてないの? それだけで人生のかなりの割合を損してるよ?」
「そうなの?」
「そうそう。生き急いでも焦っても人間にできることには限りがあるし、どう頑張ってもいつか死ぬんだから落ち着いて行こうよ」
そんな感じでのんびり話す。ようやくほのぼのできる気がするよ。
すると変態ショタコンピンクヘッドは何度か頷いて、俺に向かって指を突きつけた。
「なら、私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、使い魔に願うわ。私と共に、使い魔品評会に出ましょう」
「……まあ、及第点ってことにしとこうか。いいよ」
俺は一応頷いて、それから一応立ち上がる。
「それで、その使い魔品評会ってのはいつ?」
「明日」
「馬鹿じゃないの?」
「誰が馬鹿よっ!」
……いや、だってさ。
「普通、前日にそんなこと言うか? もう少し早く言って、色々と作戦を練ったりするだろ」
「ぅ……だって………もっと早く捕まると思ったんだもん……」
「………とりあえず、自分の実力を過大せず過小せず評価して、その上でできるかできないかの区別をつけられるようにならないと………いつか後悔することになると思うよ? 例えば、その場の流れに任せていたらいつの間にか戦時中の国に行かされてたりとか、ついかっとなって爆発魔法で人を殺しちゃうとか」
「そんなこと無いわよ!」
「あの爆発の威力なら、十分人は死ねるんだよ。ここの奴等はそういうことに疎くて仕方無い」
…………って、そんな話じゃない。明日に迫った使い魔品評会の話だ。
色々あったから見世物にされるのは慣れたし別にいいんだが、いったい何をやろうか悩む。
どの程度までならやっていいのか、どこから先はやっちゃいけないのかがわからないって言うのは、かなり本格的に困る事態だ。
「……どこまでだったらやっていい?」
「……逆に聞くけど、あんたは何ができるの? 平民だし、大したことはできないんでしょ? 常識的に考えて姫様に不敬じゃないようなことだったらなんでもやっていいわよ」
……マジで? なんでもやっていいのか?
だったらやることは決まったな。それの打ち合わせもすぐ終わるだろうし、労力もいらない。とても簡単だ。
それじゃあ、やることも決まったわけだし…………寝るか。
俺は出しておいた揺り椅子にまた座り、うつらうつらと船をこぎ始めた。
「……ちょっと、何やるかは決めたの?」
「おー。夜になったら簡単に話してやるよ。それまでお前も寝とけ」
こんなにいい天気なんだから、楽しまなくちゃもったいない。
その8
もうすぐ使い魔品評会だが、俺より変態ショタコンピンクヘッドのことが少し心配だ。
その理由は実に簡単。だが、ネタバレは良くないので黙っておこう。どうせすぐにわかることなんだし。
「……それじゃあ、行くわよ」
変態ショタコンピンクヘッドは俺が千の顔を持つ英雄で作った片眼鏡を鼻の上に乗せて、扉を潜る。
俺もクロの片眼鏡を同じようにかけて、変態ショタコンピンクヘッドに続いて会場の中に入る。
その瞬間にざわざわと周囲が一気に五月蝿くなったが、俺も変態ショタコンピンクヘッドも全く気にしない。
そんなわけで、俺と変態ショタコンピンクヘッドは同時に頭を下げる。勿論口を開くのも全く同時。
「「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールにございます」」
……あ、俺はクロでカンニング中ね。じゃなかったら変態ショタコンピンクヘッドの名前を呼べるはずないだろ?
side キュルケ
…………え? ……いや、ちょっと……なにこれ?
私の前に、ルイズが二人。どちらも黒い縁と鎖のついた片眼鏡をかけていて、あとは私が朝に見かけたルイズのままだった。
けれど、そういえばルイズは朝からおかしいと言えばおかしかった。
挑発するように胸を強調しても、ただぼんやりと眺めてため息をつき、自分の胸を見つめながらぺたぺたと触ってからもう一度私の胸を見てため息をつく。
『……いいなぁ………』
『ヴァリエール。急いで救護室に行くといいわ。あなた絶対どこかおかしいから』
『いいわよそんなの。そんなことをしたって私の胸が増える訳じゃないん………』
『……ちょ、ちょっとヴァリエール? なんだか目がすごいことになってるわよ!? 何でそんな目で私の胸を……その手は何!? ちょっと近寄らないで、ヴァリエール? ヴァリエールっ!?』
……………………。
「……キュルケ。だめ」
「……はっ!私は何を……?」
「壁に頭をぶつけていた」
……ああ、通りで頭が痛いわけね。けど、記憶の封印はできたみたいだしいいわ。
……それにしても、まさかあのルイズにあんなことをされるなんて……ほんの少しも思ってなかったわ。
私の二つ名は微熱だけれど、そっちの趣味は無いのよ。
「さて、姫様の前に出てきたわけだし、やることはやらないとね? 私《ルイズ》?」
「そうね。それじゃあ私《ルイズ》は私と私《ルイズ》のどちらが使い魔として挨拶しなければいけないかを決めてあるわよね?」
「勿論よ。使い魔としての挨拶は、使い魔である方がやるべきだと思うのよ」
「そう。なら、よろしくね私《ルイズ》」
「何を言ってるの。使い魔はあなたの方でしょう? 嘘つきは嫌いよ?」
「そっちこそ、使い魔なんだから使い魔らしく挨拶するべきだと思うのよね。ちょっと頭を下げるなり、無礼じゃない程度に慇懃に頭を下げるなりしなさいよ。簡単じゃないの」
「そんなに簡単だって言うなら私《ルイズ》が手本を見せてちょうだい。私は使い魔としての礼儀なんか持ち合わせてないのよ」
「いやねぇ私《ルイズ》。使い魔と言っても私も私《ルイズ》も人間じゃない。人間として間違っていない礼を見せればいいのよ」
「それもそうかしらね。うん」
「「それでは姫様、ご機嫌麗しゅう」」
長々と二人で話し合ったかと思えば、二人同時にスカートの裾をちょっと摘まんで礼をする。本格的にどっちが本物のルイズでどっちがイチカなのかがわからないわね。
完全に同調した動き。どちらもいつもとはちがう話し方。どちらも全く同じに見える。
今の礼も、ずれている所なんて一つもなかった。
体を折る角度。頭の位置。声の響き。発音。どれをとってもまったく同じに見える。
恐らくだけれど、学院で一番ルイズを見ている私がわからないのだから、きっと私以外も気づける人はいないだろう。
「……タバサ。どっちが本物か……わかる?」
「………………」
タバサは暫く黙って二人のルイズを眺めていたけれど、やがてふるふると頭を振った。
「まあ、そうよね」
私はタバサの頭を撫でる。さらさらと指に絡み付いてくる髪の毛の感触が気持ちいい。
「まあ、今回はこうして私の使い魔の特技を見せる場だし、それはもう十分見せたんじゃないかしら? ねえ、私《ルイズ》?」
「そうよね私《ルイズ》。私は人前に立つのは嫌いでも苦手でもないけれど、ずっと注目され続けるのはあまり好きじゃあ無いものね」
「やっぱりそうよね。流石は私《ルイズ》。使い魔になっても私のことをよくわかっているわね?」
「何を言ってるのかしら。使い魔は私《ルイズ》でしょう?」
……なんと言うか、もう頭がおかしくなりそうだ。
右のルイズは片眼鏡以外はルイズに見えるし、左側のルイズもやっぱり片眼鏡以外はルイズに見える。
こうなったら、どっちが本物のルイズなのかの種明かしに期待するしかない。
「それじゃあ、最後にどっちが使い魔として喚ばれたのかを明かしてからお開きにしない?」
「そうね。そろそろいい時間だし……そうしましょう。嘘は無しよ」
「当たり前でしょ。私《ルイズ》だって私がそんなことをしないってわかってるでしょ?」
「勿論わかってるわよ。ただ言ってみただけ」
「私《ルイズ》は趣味があんまりよくないわね」
「私《ルイズ》に言われたくはないわ」
いいから早くしなさいよ。
私のそんな考えを読み取り、嫌がらせをするかのようにゆっくりのんびりと話を続けるルイズとルイズ。
「……ねえ私《ルイズ》。やっぱり明かさないでもいいかしら?」
……え?
「私はいいと思うわよ?」
え……え………? え?
「「そう言う訳で、ごきげんよう姫様」」
それだけ言って、ルイズとルイズは種明かしもせずに去っていってしまった。
……せめてどっちが本物かくらいは教えてくれても………。
~この品評会の少し前の出来事~
「それじゃあ、怒らないように精神に蓋をするから。外したければ簡単に外せるけど、外さない限りは理性的に行動できるように」
「……そうね。ここで怒ったら色々不味いものね。やってちょうだい」
そう言われて、一夏はアリス・イン・ワンダーランドを集束状態で展開した。
そしてルイズの頭の中身に蓋をつけ、そしてアリス・イン・ワンダーランドを消す。するとそこには、険のとれたルイズの笑顔があった。
「……それじゃあ行きましょ?」
「はいはいまた後でね」
そんな一夏をくすりと笑い、ルイズは自分の部屋から出ていった。
その9
使い魔品評会を適当に終わらせたんだが、変態ショタコンピンクヘッドはなんでか上の空だ。まるでこれから重要な客が来ることに集中しきっているようだ。
原作ではあの……アホリエッタだっけ? ……が学院に来た日に変態ショタコンピンクヘッドと会って内戦中のアルビオンに行くはずだ。しかし、俺は決闘もしていなければ土くれのフーケを捕まえてもいないんだから来るわけが無い。
………と言うか、来たらそいつの頭が不味い。人の上に立っちゃいけないタイプの頭の作りをしているとしか言えなくなってしまう。
それに、原作に比べると色々と足りなさすぎる。人も経験も人脈も、あらゆるものが。
微熱さんは変態ショタコンピンクヘッドのことを気にはかけているようだが、わざわざ馬だかグリフォンだかで走る奴を追いかけようとは思わないだろうし、元々ついてくるはずだった馬鹿薔薇貴族も関係が無い。
……この状況なら失敗して当然だな。むしろ失敗しない方がおかしい。
まあ、それもあり得ない話だ。
…………そう思っていた時期が俺にもあった。どうやらこのアホリエッタは名前の通りに頭の中身がスカスカらしい。
けど、アホリエッタのあんまりにもあんまりな泣き落としに見事に引っ掛かってる変態ショタコンピンクヘッドも同じくらい駄目だな。何でこう流れに身を任せて危ないところに行こうとするんだか。
ちなみに俺は変態ショタコンピンクヘッドの顔をするのをやめている。来た時に変態ショタコンピンクヘッドはクローゼットの中に押し込んだ上で二人に分身して二人で変態ショタコンピンクヘッドの姿になって『本物はどっち?』って聞くのも面白そうだとは思ったんだけど。
やめた理由は簡単。面倒臭かったから。
………で、ほんとに行くのか? アルビオン。
「勿論行くわよ。……あんたには強制しないわ」
「………びっくり。断ろうが何をしようが強制されると思ってた」
「…………まあ、つい最近までの私だったらそうしてたかもだけど……ねぇ?」
『ねぇ?』と言われても困るんだが。確かにこうなったのはいいことだけど。
「一応言っておくと、行ったら多分死ぬぞ?」
「そうよねぇ……死ぬのは嫌よねぇ………でも行くって言っちゃったし…………困ったわねぇ……」
………おっさん臭い、って言う感想は、俺の心の中に秘めておく事にしよう。バレたらまた追いかけ回されそうだし。
ほんと、丸くなったんだか尖りっぱなしなのかわかりづらい成長の仕方をしてるよなぁ…………。
……でも、変態ショタコンピンクヘッドが居なくなったら、この学院でのんびり寝ることはできなくなるよなぁ………それは困るよなぁ…………。
それに、ほっとくとあのロリコン髭がなぁ……。
この国が滅ぶとかそんなのはどうだっていいんだが、平和じゃなくなるのは困るよなぁ……。
……………………仕方無い。原作を崩壊させるべく、ちょっと暴れるとしようか。とりあえず大隆起の元になる地下の風の力の塊をアンダーグラウンドサーチライトに放り込んで、鉱脈のあったところに土を出して埋めて、後はアルビオンの貴族派をジェノサイドサーカスかバスターバロンか何かで皆殺しにすれば……ああ、ガリアとロマリアの問題があるか。
…………よし。直接的な被害が来るまで放置しよう。今回は来てるからアルビオンの貴族派連中を巨大なロードローラーでミンチにしていこう。平民も貴族も関係無いぜ? あっはっはっはっは。
「笑顔が黒いわよ?」
「なんの話かよくわからない」
そういうことにしておこう。
……それじゃあ、邪魔な変態マザコンモジャ髭が来る前にさっさと行こうかね。いまならなんの問題もなくアルビオンまでつくだろうし。
そんなわけで、エアライナーを使って空に道を作り、千の顔を持つ英雄でバイクを作って空の旅。シルバーカーテンで隠蔽はばっちり、そしてそこらの幻獣よりもずっと速い。
……ちなみに、作ったバイクの名前はバギブソン。とある仮面ライダーの敵役の一人、『驚異のライダー』ゴ・バダー・バが乗っていたバイクを再現してみた。
ただしそれだけじゃああんまり速くはないので、反則だが強化パーツとしてゴウラムを追加。バギブソンゴウラムになっている。
時速はなんと700キロメートル近く。これなら三時間もしないうちにアルビオンまで到着するだろう。
「ね……ねえ………寒いんだけど…………」
「……ああ、そりゃそうだ」
ちなみに変態ショタコンピンクヘッドは俺の後ろに乗って寒さに震えている。こいつ馬鹿だよな。空の上なんだから寒くて当たり前だろうに。
……原作にはそういう描写はなかった気がするけど。
仕方無いので変態ショタコンピンクヘッドにはシルバースキンのアナザータイプを着せてやった。後ろ向きに射出してもちゃんと着せられるんだから凄いよな。
ぬくぬくと暖まっている変態ショタコンピンクヘッドはほっとくとして………確か王城の方に用があるんだったな。
俺は少しずつ高度をあげながら、どうやって貴族派の反乱軍を黙らせるかを考えていた。
…………やっぱりアレやるか。『ロードローラーだァ!!』やるか。それともロードローラーの代わりにタンクローリーにするか?
……迷うなぁ…………。
そこでふと、自分が何に乗っているかを思い出す。
よし、決定。変態ショタコンピンクヘッドには言わないでおこう。その方が面白そうだし。
その10
アルビオンを確認した。どうやらこれはもう勝てないなってレベルの負け戦になっているらしい。
そんなわけで俺は城に入るのに邪魔なあの船をどうにかしようと思います。
「……ちょっと。あの一番大きな船に近付いて行ってるような気がするんだけど」
「気のせいじゃないよ。実際近付いてる」
「…………このまま行ったら、ぶつかるわよ?」
「ぶつかるねぇ」
「………………ぶつける気?」
「うん」
「『うん』じゃないわよ!なんで平然としてるの!?」
「だってこのバイク重いからハンドルから手を離してもまっすぐ進むんだよ。それに、」
「……………………それに?」
そこまで言ったところで、俺はようやく変態ショタコンピンクヘッドの顔を見る。
盛大にひきつっていた。
俺はそんな変態ショタコンピンクヘッドに笑顔で一言。
「もう手遅れだよ」
「気付いてたわよ」
その瞬間、バギブソンゴウラムは前方に突き出した牙に炎のような物を纏ったまま、一際巨大な木造船の横っ腹に衝突した。
side ルイズ
轟音と共に私は使い魔の後ろで鉄の馬に跨がったまま反乱軍のもつ大きなフネに突撃した。
当然私達を乗せている小さな鉄の馬がフネに勝てるわけもなく、ばらばらになって落ちていく。
…………そんなイメージは、一瞬で崩壊した。私達の乗った鉄の馬は巨大なフネの底を撃ち抜き、中の壁を何枚も何枚も簡単に貫通して反対側から飛び出した。
振り返ってみるとぶつかって撃ち抜いたところを中心に妙な金色と赤の紋様が浮かび上がっていて、その紋様から雷のようなものが何本も放出されている。
……けど、今はそんなことよりも気になることがある。
「ねえ」
「どうした変態ショタコンピンクヘッド」
「その呼び方辞めてよ。私にはルイズって名前があるんだから」
「ああうんごめん、文字数増えると人の名前限定で覚えられなくなるからゼロでいい?」
「ひっぱたくわよ? ご主人様って呼びなさい」
「御愁傷様」
「違うわよ」
全くもうこいつは…………って、私こいつの名前知らないわね。自分の名前のことで叱れないわ。
「……じゃあ、あんたはなんて呼べばいいのかしら?」
「一夏」
「イチカ? 変な名前」
「五月蝿いぞ変態ショタコンピンクヘッド。俺のところだったら一般的とまでは言わないまでも普通の名前なんだよ黙ってろ。と言うか自分はちゃんと呼べって言いながら人の名前を馬鹿にするのか。そんなんだから貴族全体の品格が下がっていくんだよ」
「……ごめんなさい」
「別に気にしてない。遠くに来れば文化も常識も変わる。だったら名前の基本くらい変わってもおかしくないし」
じゃあなんで言ったのよ、と言いたくなったけれど、口を開いた瞬間にまた別のフネに衝突して舌を噛みそうになったから黙る。
……そう言えば、こんな風に正面からものすごい勢いで衝突してるのに、どうして私達は無事なのかしら。
……まあ、それを聞くのも後でいいわね。舌を噛みたくないもの。
私はそう思いながら、帽子を目深に被って視界を塞ぐ。目の前で起きる人の死から、目をそらすために。
バヂィッ!
「ぐぎゃぁっ!?」
……ああ、また一人死んでいく。バギブソンゴウラムと言うらしい奇妙な鉄の馬の牙に跳ねられ、乗っているドラゴンごと挽き肉になる。
これもみんな、姫様の頼みを聞いて、イチカに頼んだ私のせいね。
私は一つ溜め息をついて、目の前の小さな体に抱きついている腕に力を込めた。
「……まったいら」
「死にたいの?」
「まさか。シルバースキン着てるんだから殆どの奴はまったいらになるし、柔らかさなんてわからんよ」
「そう。ならいいわ」
……八つ当たりに、ちょっと周りに浮いているフネに火でもつけようかしら?
これだけ的が大きければ、外すこともないわよね。
……はっきり言って、私は激情家だ。今もそれは変わっていないし、それは私の本質の一部だから変えるつもりもない。
今こうしてイチカに色々なことを言われても我慢できているのは、激情を外に出さないで内側に溜め込むことを覚えたからだ。たまに失敗するとかそんなことは気にしないでほしい。
溜め込んだ激情は精神力になる。一度に精神力が溜まれば、その器はそれに耐えようと大きくなる。事実そうして位階を上げたメイジだって存在する。
いつもいつもイチカは私をからかうけれど、それもまた私の糧になっている。
そうして溜め込んだ精神力を、一つの呪文に詰め込んだ。勿論かなり余裕を持たせているけれど、それでもここ数日で急に増えた分の半分近くを注ぎ込んで、私の口は呪文を紡ぐ。
コモンスペルでは小さな爆発が起きる私の魔法。錬金や発火などのドットの魔法では、少し威力が上がる私の魔法。
ならそれを、今まで試したことはなかったけれど、スクウェアスペルにしてみたらどうなる?
答えは、ここで出る。
唱えるのは、母さま得意のあの呪文。風のスクウェア、真空の刃で相手を切り刻む竜巻。
「『カッター・トルネード』!」
私は詠唱を終わらせると同時に、まだいくつも浮いているフネと、眼下の軍勢に向けて、杖を振り下ろした。