side 織斑ルイズ
デルフリンガーを磨きながらの馬車の旅は、ヴァリエール領に入ってしばらくしたところで一度小休止となった。
受けに回るととことん弱いエレオノール様を攻め続けて嗜虐心たっぷりの笑みを浮かべていたルイズは休みをとって冷静になったらしく顔を青ざめさせ、最初は必死に声を抑えようと頑張っていたけれど最後の方には艶やかな声を抑えられていなかったエレオノール様はいまだに顔を真っ赤にさせながらぼんやりと宙を見つめている。
……エレオノール様が妙な趣味に目覚めなければいいなと思いつつ、メイド服をカティとお揃いのブラウスとスカートの色違い(黒と黒に近い灰色)に変える。
ちなみにその状態でもデルフリンガーは腰元に居るし、スカートの下はスラックスを履いている。ただし始祖の祈祷書は仕舞いっぱなしだけど。
そのまましばらく駅でのんびりしていると、ヴァリエールの屋敷の方向から一台の馬車が走ってくるのが見える。家紋は当然ヴァリエール。だとすると……カティかしらね?
と、ちょっと馬車を見ているとその窓が開き、思った通りの人が顔を覗かせた。
「あらあら?」
「あら♪」
「あらら?」
「あらあら」
「あらー♪」
「あら♪」
「あらららー?」
「あらあら★彡」
「何語だよ」
カティと雰囲気で話をしていたらデルフリンガーにつっこまれた。まあ、ここでツッコミがなかったらしばらくこのまま話をすることになっていただろうから別にいいんだけどね。
ちなみにさっきの話の内容は
「あらあら?『やっぱりレアだったのね?』」
「あら♪『ええ。カティも元気そうで嬉しいわ♪』」
「あらら?『そう? ありがとう。……それで、今日は姉様に連れられて帰ってきたのかしら?』」
「あらあら『帰ってきたと言うのは適切じゃないけど、そうなるわね』」
「あらー♪『そうなの? それじゃあ歓迎しないとね♪』」
「あら♪『ありがとう、カティ♪』」
「あらららー?『ところで、姉様とルイズは……どうしたの?』」
「あらあら★彡『色々あったのよ★彡』」
となる。自分で話しておいてあれだけど、よくこんな言葉を理解できたわね。私もカティも。
「レアのことだもの。大体わかるわ」
「カティのことなら私も少しはわかるわ」
にこにこ笑いながら私とカティは抱き合う。なんだかそれを見ていたヴァリエールの領民がざわざわと騒いでいたけれど、その辺りは気にしなくても大丈夫だろう。たかがカティが二人に増えただけだし。
「それじゃあ、そろそろ行きましょう?」
「そうね。……シエスタ。ルイズとエレオノール様を馬車に詰め込んでおいて」
「……わかりましたけど…………もしかして、またずっとあれが続くんですか?」
そう言いながらもシエスタはカタカタ震えているルイズをエレオノール様の乗っている馬車に乗せて扉を閉める。そう言えばシエスタはずっとあれを聞いてたわけで……なんと言うか、大変ね? 私は普通に聞き流してたけど。
あと、多分なると思うわ。エレオノール様はまだくてっとしてたし、ルイズはあれで苛めっ子気質だし。
流石にいけない一線までは越えないと思……いたいけど、私の想像を遥かに越えるくらいエレオノール様が可愛かったら可能性はあるかもしれないわね。
「聞いてるだけなのが嫌なんだったら、学院の馬車はここに置いておいてシエスタも混ざってみる?」
「ッ!? なななにゃにゃにほいっちぇりゅんじぇしゅかっ!?!?」
「あらあら、カミカミねシエスタ」
「あらあら、可愛いわねメイドさん」
「どうしてお二人はそんなに仲がいいんですかってレア様が二人いらっしゃる───!!?」
「レアは私よ」
「私はカティよ」
「「二人合わせてカトレアよ?」」
「息が完全に合ってらっしゃる!練習でもしてたんですかっ!?」
「別にしてないわ」
「しなくても何となくわかるもの」
「ちなみに大概黒い方の私がレアで」
「大抵白っぽい方の私がカティね」
「「けれどお腹は真っ白よ?」」
「カティ様の方はよく知りませんが少なくともレア様の方は嘘です!」
「あらあら、言われちゃったわね、レア?」
「そうね、言われちゃったわね、カティ?」
クスクスと笑い合いながら、私とカティはカティの乗ってきた馬車に乗る。動物だらけで少し狭くはあるけれど、動物達はちゃんと気を使って端に寄ったり小さくなったりして邪魔にならないようにしてくれているのでそこまで困る事は無い。
入るついでに手近に居た熊や蛇などを軽く撫で、久し振りに出会った動物達に挨拶をする。カティの所の動物達は、どうしてこんなに大人しいのが多いのかしらね? 不思議よねぇ……。
と、そこで馬車が進み始めたらしく、鞭が入る音と馬の嘶きが聞こえる。後ろの馬車からは……くぐもった嬌声が聞こえてくるような気がする。くぐもっているせいか誰の声かはわからないけど……と言うよりは『どっちの』声かわからないという方が正しいかもね。
まあ、この声は気のせいなんだから問題ないわ。御者をやっているシエスタが頬を朱に染めているけれど、きっと寒くて顔が赤くなっちゃったのね。ヴァリエールの屋敷に着いたら暖かいシチューでも食べさせてあげましょうか。
「……いやいや、本当にいいのかよ相棒? 後であの娘っ子が酷い目にあっちまうんじゃねえか?」
「大丈夫よ。私の予想通りなら面白いこtげふんげふん、まあ、酷いことにはならないわ」
ルイズはね。
「……あっちの金髪の嬢ちゃんは?」
「最悪被虐趣味に目覚めるか、あるいは究極の誘い受け体質になるか……カティはどっちだと思う?」
「そうねぇ……誘い受けになってくれれば面白そうだけど……」
「ルイズの反撃が欲しくてもっとルイズを苛めるようになるんじゃないかしら?」
「姉様だったらあり得るわねぇ」
「「うふふふふ♪」」
「……妹と自分の窮地に楽しそうだなオイ」
もしもデルフリンガーに顔があればひきつったような表情を浮かべていることが簡単に想像できそうな声でデルフリンガーがツッコミを入れてくるけど、私もカティも鏡に映したかのような笑顔を浮かべて受け流した。
……後ろの馬車からの喘ぎ声なんて、聞こえないわ。