side 織斑ルイズ
後ろの馬車や腰元の剣の柄から聞こえてくる声を受け流しながらの道中は中々に楽しいものではあったけれど、この世界……いや、私の知る限り全ての世界のありとあらゆる事象、現象、状態……どんなものにも始まりがあり、そして同時に終演も存在する。
……要するに何が言いたいかと言うと……ヴァリエールの屋敷に到着したと言うことね。
「回りくどい言い方はよせよ、聞いてるだけでイライラしてくるぜ?」
「言葉遊びは知識と文化を持つ種族にのみ許された特権よ? それを しないなんて とんでもない」
「なんで最後んとこだけ片言なんだよ」
「あらあら、レアと剣さんは仲良しなのね」
「相棒だもの」
「たまにへし折りにかかってくるけどな」
まあ、あまりにも空気を読めない発言をされたらそのくらいはやるわよ。本気でへし折りにかかったり致命的な破損をさせるほどはしないけど、そこそこ強くね。
あえて空気をぶち壊して貰いたい時もあるけど、下手に手を出したらむしろ大変なことになることも多いもの。
特に、ロマリアのいかれ坊主共に勝手に喧嘩を売られたら私はロマリアを滅ぼさなくちゃいけなくなる。正直それは面倒だし、最終手段はあまりとりたくない。簡単に伝家の宝刀を使って対策練られちゃたまらないもの。
「その事を知ってる奴ごと消滅させちまえばいいんじゃねえか?」
「つまりデルフリンガーは『敵も味方も中立も無関係の者も一切合切全部纏めて皆殺しにしちまえばいいじゃねえか』と言うのね?」
「言ってねえし」
「あらあら、それは怖いわね。人に会わば人を斬り、鬼に会わば鬼を斬る。人も鬼も精霊も魔物も亜人も獣もなにもかもを、老いも若きも男も女も人種も宗教も種族も関係無しに殺し尽くせばいいだなんて……結構外道で完璧主義なのね? 剣さんは」
「なんかこっちの嬢ちゃんが怖いこと言い始めたんだが!? しかもなんか俺がそう言ったみたいな感じになってるし!?」
「言ったじゃない。『その事を知ってる奴ごと消滅させちまえばいいんじゃねえか?』って。スクウェアクラスの風メイジの聴覚は凄いのよ? 私の知っている最高の風メイジなんて、本気で集中して魔法でブーストかければトリステインの自宅からガリア王宮の噂話を完全に聞き取ることだってできてたんだから」
「なにその化物」
「『烈風』カリンよ」
「ちなみにその次女は記録されている限りではハルケギニアで初めて全属性をスクウェアクラスにした猛者だったりするけど、そんなオールマイティな次女と完全に風のみに特化した母親との喧嘩では母:次女の勝率が5.125:4.875だったらしいわ」
「どっちも化物だなオイ。本当に人間か?」
…………多分ね。あんまり自信は無いけど、多分人間だと思うわ。
「あらあら、レアの世界の私は凄かったのね?」
「カティなら、私の世界のカティを越えられる可能性は高いわ。身体が治ったのが私の世界のカティより五年は早いもの」
「あら嬉しい」
「「うふふふふ♪」」
私とカティの笑顔を見ながらデルフリンガーが何故か戦慄していたけど、そんな戦慄するようなことがあったかしら? 私の知る限りじゃあそんなのは無いはずなんだけど。
「ほら、後ろのルイズと姉様の……」
「ああ、あれね。確かにあれは凄いわ」
私とカティは意識して流し続けていた背後の喧騒に視線を向ける。そこに居るのは当然エレオノール様とルイズの二人。その二人が今何をしているのかと言うと……。
「ここここのおちびっ!ちびルイズっ!私のむむむ胸を揉みしだくだなんて、いいいいったいななな何をかんがえてるのこのちびルイズっ!」
「ほえんふぁふぁい!ほえんふぁふぁいへえはわ!へお、ひゃきにふえをほんれひはほはへえはわれ」
「言い訳無用!たった半年見ない間にこんなに胸を育てたルイズが悪いのよ!」
「ひょんなひぇっひょうな~」
……どうしてあれで言葉が通じるのかしらね? 私もわからないでもないけれど、それでも万全を期すなら数秒のタイムラグが欲しいわよ?
まあ、エレオノール様は素直に態度で出すことは無いけどあれで家族思いではあるし、そう言うのがあれば何となくわかるのかもしれないわね。
あるいは理解しないでやってるのかもしれないけど……多分それは無いでしょ。多分。
「……確かに気持ちよくはあったけれど、いくらなんでもあれは……」
「ふぇ? にゃにかひひまひはひひはひひはひれふへえはわぁぁぁ!」
「五月蝿いわよちびルイズ!」
聞こえてますよエレオノール様。まあ、あれだけはしたない声を上げておいて『なんともなかった』なんて事は言えないでしょうけど、それならそれで何も言わなければ良いでしょうに。
やっぱりエレオノール様は頭が固いと言うかなんと言うか……。
……ついでに言わせてもらうと、なんだかこうしてルイズを追い詰めることで何かを期待しているような顔をしてますよ? 具体的には言えないですけど、挑発型誘い受けみたいな雰囲気が……。
「あらあらまあまあ、姉様ったらそんなに癖になっちゃったのかしら? あなたはどう思う? ルイズのお友達のメイドさん」
「ふぇっ!? わ、私ですかっ!?」
カティが真っ赤になりながらチラチラとルイズ達を見ていたシエスタに声をかけた。シエスタは見知った顔が二つ並んでいることに慌てながらも、しっかりと言葉を選ぶ。
「ええ、貴女よ。だってあなた、ルイズに揉まれたことあるでしょう?」
「ッ!? ゴホッゴホゴホ……な、なにをそんなっ!?」
けれど、そんな選んだ言葉もカティの言葉に消し飛ばされたらしい。まあ、カティは他人の隠し事や心の動きに関しては異常なほど鋭いし、そうなっちゃうのも仕方無いわね。
つまり、さっきカティが言った『エレオノール様はあれが癖になった』って言うのも多分事実なのよね。
……やれやれ、どうしてヴァリエールにはまともな人間がいないのかしら。
カティと母様は人類最高峰のメイジだし、父様はそんな二人にボロボロにされてもちょっとすると傷一つなくなってる変態的な回復力の持ち主だしルイズは学院内で最強の生徒だしエレオノール様はちょっとマゾっ気あるし……。
あーあ、一般人は形見が肩身が狭いわ。
「狭くなってそれかよ。相棒は普段どんだけ自由なんだよ」
「どこまでも?」
「納得したくねえけど納得だわ」
あらあら納得されちゃった。