side 織斑ルイズ
父様がトリスタニアから戻ってきたらしいので、一緒にご飯を食べることになった。
どうやら昨日の内にジェロームが私の分も朝食の手配をしてくれたらしく、テーブルの上には六人分の料理が並んでいる。流石に突然私が増えたら料理を増やすことができず昨日の夕食は私の分は辞退したのだけど、どうやら今日は食べても大丈夫なようだ。
それと、ルイズにとっては戦争に行くための許可をもらうための帰郷でもあるので若干緊張しているようだけど、緊張したままではあまり上手く言いくるめることなんてできないだろうととりあえず頭を撫でておいた。
珍しく空気を読んだデルフリンガーも小さく『気張れよ娘っ子』と呟き、カティも笑顔をルイズに向ける。
……表向き最後の手段の準備はしておきましょうか。何しろ相手はイライラしている父様なんだから、戦争に行くのは確実に反対されるだろうし。
もしかしたら学院を辞めて結婚することになるかもしれないわね。その場合はもしかしたら私にも来るかもしれないけど、そうなったら丁重にお断りさせてもらいましょう。私にはもう心に決めた相手が居るしね。
side ルイズ・ラ・ヴァリエール
カティ姉様とレア姉様に励まされて、私はマザリーニ枢機卿に対する愚痴を言い続けている父様に話しかける。どうしても駄目なら……レア姉様に教えてもらったあの話をするしか……。
もしこれをやったら確実に色々と大変なことになるだろうけど……必要なことなんだし、覚悟は決めたわ。しゃっきりしなさい、私っ!
まずは私の手札とその重要度の確認と、使える手札と使いづらい手札と使えない手札の三つを分けて、それからね。
私が戦争に参加したいと言うことと、姫様が私を必要としている事、それから頑張って爆発魔法以外にちゃんとした魔法を使えるようになった事に体術自体も覚えて強くなったことは普通に使っても大丈夫な手札で、虚無の系統の魔法を使えることについては……大丈夫よね。姫様に口止めされてるけど、正直に言って家族の方が優先順位は高いし。
レア姉様については多分カティ姉様がみんなに説明してくれてたからみんな無反応なんだろうし、話さなくても多分大丈夫。
で、切りたくない手札は『私の将来と引き換えの説得』と『私の命を懸けての説得と言う名の脅迫』、『貴族位を返上しての参加』、『父様の昔の浮き名を母様にばらさない代わりに行かせてもらうという交渉』、『レア姉様と一緒に脱走』……ってところかしら。
どれもこれも効果はそれなりに高いと予想できるけど、後の事が怖すぎる。特に最後の。
そして絶対に切れない手札は……ヴァリエール家を滅ぼして戦争に行くことと、戦争に行くのを諦めること。
もしも私が戦争に行かなかったら、まず間違いなくトリステインとゲルマニアの両国はアルビオンに敗退するだろう。数で押せるわけでなし、質で勝るわけでなし……正直、どうして勝てると思えるのかが理解できないくらいだけど、どうしてかやる気満々の人が多いのよね。救い難いわ。
いっそのこと腐った貴族略して腐族の皆様方を最前線にお届けすれば汚職貴族もいなくなってトリステインが良くなるんじゃないかと思ったり、姫様誘拐事件の報告の時にアニエスとマザリーニを合わせた三人の前でぶち上げてみたりしたけど、やるなら準備期間が必要だってバッサリ切られちゃったしね。
ただ、姫様は殺る気満々だったみたい。ウェールズ様の復讐のためとは言え、よくもまあそんな周りに迷惑をかけそうなことを平気でやろうとするわよね。私なら絶対やらないわ。
……ちなみにレア姉様が大切な人を傷つけられた場合、真正面からハルケギニア全土に宣戦布告して人間も亜人も皆殺しにして後顧の憂いを断ち、その人と二人っきりでのんびり暮らすと本気で言いそうで怖いと戦々恐々していたりする私だけど、その話はシエスタ含むメイド達とギーシュにはあり得る話として受け入れられていたりする。
……とまあレア姉様のもしかしたらあり得るかもしれない未来の話はおいておくとして、今は父様と母様、エレオノール姉様の説得を優先させないと。
エレオノール姉様は朝からずっと私を睨み付けてくるくせに、何故か視線が合う度に顔を真っ赤にして顔を逸らしつつチラチラと私のことを観察することを繰り返してるし、母様は母様で私がエレオノール姉様の方を向く度に若干挙動不審だし、いつもと全然違うから作戦が練れない。
…………そう言えば、母様は最強の風メイジだったわね。もしかしたら昨日のエレオノール姉様を可愛がっていた時の声を聞かれちゃったりしたのかしら?
だとしたら大変、すぐに色々と考えを纏めなくちゃ。纏めようとして簡単に纏めきれるような物じゃないから困ってるんだけど。
えーっと……えーっと…………とりあえず、レア姉様とカティ姉様以外は初めから反対派だと考えておいてまず間違いない。レア姉様が水の精霊と約束した指輪の奪還についての話もあるみたいだし、ここはどうしても負けられない。
大きく息を吸って、一度吐いて、それからもう一度吸って、また吐き出す。……よし、覚悟完了。
交渉の基本は相手の不意をつく事と、相手からすれば予想外の事をして意識を振り回してやること。まずは先制攻撃して流れを掴むっ!
「……父様、私……好きな人ができました」
………………………………………………沈黙が痛い。まるで肌に直接突き刺さっているかのように痛い。
父様は笑顔で口を開こうとしたまま固まってるし、母様は母様で目を見開いたまま私の事を見詰めている。エレオノール姉様なんて、口に運ぼうとしたスープをスプーンごと床に落としてしまうくらいに驚愕している。この場で固まっていないのは私とカティ姉様、レア姉様の三人くらいのものだ。
そうして固まっている空気の中で、私は何も言わずに反応を待つ。カティ姉様とレア姉様は平然と食事を続けているけど、他の存在は殆どが動きを止めている。
なにしろあのお調子者のデルフリンガーさえ黙っているくらいだし、とりあえず受けた衝撃は大きかったはずだ。
……でも、いったいいつまで待てばいいんだろう? なんて思いつつ、私は完全に固まっている私の家族逹(-約2名)を眺めていた。