ゼロの使い魔 ~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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side 織斑ルイズ

 

……気分が悪い。実に気分が悪い。見ず知らずの他人に道具扱いされることがこんなにも気分の悪いことだなんて今まで知らなかったわ。

誰もがルイズを兵器として扱い、そこに個人の意思を認めようとはしない。軍とはそう言うものなんだろうけど……そんなもの私の知ったことじゃない。ちょっと流れ弾に当たってもらおうかしら。

やり方は簡単。敵でも味方でもいいから誰かの撃った攻撃魔法を、“念力”を使って軌道をねじ曲げて狙った相手の額に当てる。どうせ誰がやったのかなんてわからないし、わかったとしてもそれは私じゃなくて私に利用された見知らぬ誰か。私に損は無い。

 

ただ、やるならアルビオンまで行ってからにしないとね。こんなところで総指揮官が殺されたら、尻尾を巻いて逃げ出すように国に戻ることになるかもしれないし。

 

……さて、それじゃあ始めましょうか。ルイズの持ってる始祖の祈祷書から、今のルイズに必要な魔法探しをね。

敵戦艦をダータルネスに引き付けるんなら“幻影”一つで十分でしょうけど、もしかしたらこの世界の始祖の祈祷書には私の知らない魔法が眠っている可能性もあるしね。

例えば“強制転移”とかで目の前に居る戦艦をダータルネスまで跳躍ばす(多分それなりに疲れる)とか、“忘却”でトリステイン・ゲルマニア連合軍が向かっているのがロサイスだと言うことを忘れさせ、その上でダータルネスに向かっていると誤情報を植え付けるって手もあるし……って、これは私の始祖の祈祷書に載ってる内容だったわね。

ルイズがどうするのかはわからないけど……頑張ってみるといいわ。多分“幻影”を使うだろうけど、考えることは無駄にはならない筈だもの。

 

……それじゃあ、作戦を思い付いて実行に移されるまで、私は適当な暇潰しでもしておきますか。

杖を磨いて、デルフリンガーを磨いて魔力をあげて、契約精霊であるウィンにも魔力をあげてからまだ時間が余ったら……ちょっとお昼寝でもしましょう。

雲の上を飛んでいるからいい天気で暖かいし、積んでいる風石のお陰で上空の冷たい空気が中まで入って来ることもない。つまり、寝るにはちょうどいい。

 

ルイズの部屋のベッドの上、腰元のデルフリンガーを抜いて磨き始めた私は、暫くこうして暇を潰すことにした。

 

 

 

 

 

side ルイズ・ラ・ヴァリエール

 

右手の指に水のルビーを填め、始祖の祈祷書を眺めながら使えそうな呪文を探す。

本気でなんでも知っているんじゃないかと疑っているレア姉様によると、始祖の祈祷書は持ち主……この場合は私の適正と望む力によって次々に呪文を増やしていくらしい。どうして知っているのかと聞いたら、デルフリンガーを指差して初代ガンダールヴ、サーシャと言う名の女性の武器だったと教えられた。

つまり、レア姉様は六千年前に始祖ブリミルと共にあった伝説の剣をどこからか手に入れてきていたと言うことらしい。

 

……そんなもの、どう考えても国宝級の代物だと思うのだけど、レア姉様曰く王都の隅の武器屋で埃を被っていたのを安く買って来たらしい。

武器屋の店主は『口の悪いボロ剣』と言って百エキューと言う安い値段で売ってくれたらしいけど……実際の価値を知るとたったそれだけで本当によかったのかと不安に思ってしまう私がいる。

なにしろ冗談抜きでの国宝級。その価値がしっかり評価されれば数十億エキューは下らないだろう歴史と、伝説の剣と言われて納得できる性能を持った長剣。その存在が知られていれば、王宮の宝物庫に始祖の祈祷書と並んで安置されていてもおかしくないくらいの物。

 

……が、王都の武器屋で百エキュー。これでなんだか心配にならない人なんて殆どいない筈だ。

 

……知りたくなかったわ。知らなければこんなことで悩まないで済んだのに。どうして私はなんでも知ってそうなレア姉様に聞くときに『どうしてそんなことも知っているのか』なんて聞いちゃったんだろう? このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、一生の不覚よ。

どうせ聞くならレア姉様の体術はどこで習ったものかを聞いた方がよっぽど有意義だったと思うわ。それはそれで私の常識が砕け散ってしまいそうな気がするけれど、それだったらこんなに悩まなくて済んでいたはずだもの。

 

……それと、なにか良さそうな魔法は無いかって聞いてみたら、平然と“幻影”が一番費用対効果に優れているとかなんとか言われたので探してみたら、適当にページを捲っていった先にそれらしき魔法を発見した。

虚無系統の初歩の初歩、“イリュージョン”。一応上級である“加速”に比べて随分と簡単に使えたけれど、“加速”より強くてはっきりしたイメージの力が必要で、ついでに言うと規模次第で随分と精神力の消費量が変わったりするんだけど…………レア姉様の“3Dミュージカル”……“ライト”と“マジックバリア”を使ったアレ……と似たような効果を持っているみたい。

イメージさえあれば後は魔法が自動で形を整えてくれるようなので“3Dミュージカル”よりも使うのは簡単だけど……後で状況に合わせての変更が効かないのが欠点ね。

 

……ちなみに、レア姉様が使う“3Dミュージカル”を分割した“ライト”による幻を見せる魔法は“ホログラフィー”、“マジックバリア”による音を出す魔法は“音響装置”と名付けられ、できるのが片方だけでも気違いの所業、両方合わせてできたらただの化物と言われるようになっているのは公然の秘密。

私も虚無魔法を覚えてからコモンスベルはできるようになったので試してみたけれど、レア姉様の頭はいったいどんな風になっているのかわからなくなった。本気で気違い染みている。

 

……と、レア姉様がメイジとしてかつて無いほど優れた存在であることや、優れすぎて私のような普通のメイジには理解できない存在だと言う話はどこかに適当に放置しておくとして……命令された内容に答えるための魔法は見付かった。けれど時間はまだまだあるので今日くらいはのんびりさせてもらうことにする。

練習を終わらせ、部屋の隅のベッドに座って私を眺めながらデルフリンガーの手入れをしているレア姉様の隣に座る。

レア姉様は私の頭を肩で受け止めながら、デルフリンガーの刃に油を塗っては必要以上に塗りつけられたそれを汚い厚手の布で拭き取っている。

その度にジャリジャリと音がしているので、多分デルフリンガーの錆はまだ落ちきっていないんだろう。

 

……結構前からちょくちょくやっているのを見ていたけれど、随分頑固なのね、デルフリンガーの錆は。

 

そんなとりとめの無いことを考えながら、私はレア姉様と鉄の匂いの中で、ゆっくりと目を閉じた。

 

……おやすみなさい。

 

 

 

 

 

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