side シエスタ
戦争が始まり、レア様とルイズ様が学院からいなくなって暫く。私達メイドを含んだ学院に勤める平民達は、毎日の日課となってしまった鍛練を繰り返しながら日々を過ごしている。
戦争が始まってからは新しいメイドが入ってくる事はなく、メイドがいなくなることもなくなっていた。
毎日毎日掃除に洗濯、マルトーさんのお手伝いとして貴族様方の食事の準備にお部屋のベッドメイキング……普段と変わらぬ毎日です。
ただ、レア様がいなくなってから修行の密度と量が少しずつ増えてきていて、毎日空いた時間に六時間程度、体力と筋力をつけるために体幹などを本気で気にしながらの走り込み(手足に重ーい錘付き)や、瞬発力をつけるためのウォーク&ラン、判断力を鍛えるために実力の近い者同士でのゆっくり模擬戦(初めはゆっくり、徐々に加速していく。ちなみに私は3対1)、動体視力を高めるために普段から様々な物をじっと見つめる等々……今まで以上にハードで、そしてその分結果が出てくる修行に時々怪我をする子もいるけど……そんな時こそいつの間にか私達と一緒に鍛練をしている三人のうちの二人の貴族様の出番。
魔法の練習にもなって、それでいて精神力の増加にも役立つ(らしい)ので、割と喜んでやってくれている。
初めのうちはどうして貴族様がこんなことをしているのか不思議に思いはしたけれど、なんでもレア様が来てすぐの時にレア様と決闘してボコボコにされた貴族様の恋人だと言うことらしく……この鍛練に参加すれば胸が大きくなったり腰周りの無駄なお肉が落ちたりいつの間にか精神力が増えていたりするという話を聞いて参加したらしい。
……『恋する乙女は強いですね』と言ってみたら、とても可愛らしく恥じらう姿を見せてもらえました。ごちそうさまです。
ちなみにもう一人は無口なミス・タバサ。本名ではないだろうと思っているけれど、そんなことを気にするメイドはここにはいない。名乗りたければ名乗ればいいし、名乗りたくなければ名乗らなければいい。名前が変わっても本人が本人であると言うことは変わらないのだから。
で、本人曰く一度レア様と戦って敗北したのでその強さの秘密を得るために参加しているそうなのですが……残念ながら私達のやっている技は生身による攻撃が基本。ミス・タバサのような長い杖を使った杖術や槍術といった技には使えないものが多いので……体捌きや力の受け流し方くらいしか教えてさしあげることができませんでした。期待に胸を膨らませた彼女の意思に応えられないとは……メイドとしてこれほどの屈辱はそうはありません。
ですが、槍術にも使える体捌きを教える際に、槍でも素手でもできそうな必殺技にもなり得る基本技の応用をいくつか自分で意識せずにやっていたので、どうやら私達は武器を持ってもそれなりに戦えるようだと言うことを理解しました。
同時に、ミス・タバサも杖も魔法も使えないほど接近された時のために素手での技を一つ覚えましたし、一応の満足は得られたようです。
それ以来ミス・タバサは朝早くから鍛練に参加していることが多くなり、体捌きも攻撃もとても上手になられました。
……まあ、それでも魔法無しではかなり頑張らないとメイドやコックには勝てないようですが、ミス・モンモランシとミス・ロッタにはなんとか勝てているようです。
ですが、やっぱり数ヵ月とは言え先輩相手には多少難しいものがあるらしく、どちらもそれなりにボロボロになってしまうのが痛々しくてなりません。
そしてもちろん、ミス・ロッタやミス・モンモランシ、ミス・タバサのお力を借りて、メイド達は魔法を打ち払う鍛練を致します。
この場は魔法学院、この場に攻め入って来るような者ならば、恐らくかなり高位のメイジであることは必然的に明らか。
故に、火のラインクラスであるミス・ロッタの炎や水のラインクラスであるミス・モンモランシの瀑布、風のトライアングルクラスであるミス・タバサの風等で慣れていかねばならないのです。
……土のメイジがいれば四属性全てのメイジとの経験が積めるのですが、流石にそれは高望みが過ぎますからね。ミス・モンモランシとミス・ロッタの婚約者であるらしいミスタ・グラモンが居れば話は別だったのかもしれませんが、それは戦争が終わってミスタ・グラモンが魔法学院に戻ってきた時にお願いしてみましょう。
……そうだ、今度学院に詰めてきている銃士隊の方にもお相手願ってみましょう。いつもいつも同じ相手とばかり戦ってもあまり成長しませんからね。
それに、女王陛下に仕える銃士隊の方なら魔法が使えなくとも凄まじい強さを誇るに違いありません。きっとあちらの隊長さんが手加減に手加減を重ねても私程度では傷の一つも負わせることもできずに敗北してしまうほど強いに決まっています。それほど強いのでしたら私達を相手に怪我一つ負わせずに勝つ事など造作もないでしょう。
まあ、とは言え私もレア様に教えを受けている身ですし、何もせずに負けていく気はありません。精々頑張らせてもらいましょう。
……ちなみに私は現在『見切り』の訓練中。ミス・タバサに出していただいた数本の氷の槍を、私の周りを囲んだメイド達が私に向かって投げつける。
そうして高速で飛んでくる氷の槍を限界ギリギリまで引き付け、それからほんの僅かな力を加えて軌道をねじ曲げて避ける。
様々な方向からタイミングを変えて飛んでくる氷の槍は、少し失敗したら私に突き刺さって易々と貫いてしまうだろう。
失敗しなければいいだけだけれど、実はこれが結構難しい。
飛んでくるのが一本きりならよっぽど早くない限り問題ないんだけれど、これがいくつも飛んでくるとなると動く方向や弾く方向にも気を使わなくてはならなくなるし、いつ飛んでくるかもわからないので余力を残しておかないといけない。
それに、目の前を高速で突き進んでくる槍を限界まで引き付けながらもまばたきをしないと言うのもまた難しい。
……けれど、こうして強くなれば理不尽な貴族様方に色々と反撃することもできるようになり、戦闘能力を求められることも十分に考えられることなので、こうしてやるのはある意味では必要なこと。
……レア様。ルイズ様。お二方の戻る場所を守るために、シエスタは頑張ります!ですからお二方も、体にはお気をつけください!
メイド一同、心よりお帰りと健康をお望み申しております。