ゼロの使い魔 ~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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side シエスタ

 

銃士隊の皆様が学院に来て、生徒の方々に槍術の鍛練などを施し始めてから数日。学院に残った多数の子女は悲鳴を上げたり愚痴を漏らしたりしているが、片手で数えられる程度の人数ではあるものの欠片も疲れた様子を見せない方がいた。

私達の鍛練に参加しているミス・モンモランシ、ミス・ロッタ、ミス・タバサの三人。そしてミス・タバサのご友人のミス・ツェルプストーであった。

 

槍を持つ時にはしっかりと腰を落として真っ直ぐと突き出す。そして突き出したら直ぐ様元の位置に戻し、何時でも突きを繰り出せるように構え直す。

他の貴族様方があまり上手くない……と言うか、かなり不格好にしている中で三人だけが体幹をほとんど揺らさずに槍を突き出しているのは、なんだか奇妙と言うか場違いと言うか、微妙な気分にさせる。

これに威力を乗せるのなら、一瞬で重心を体幹から槍の穂先の先端にまでずらすか、あるいはレア様がやっていたように全身の関節を高速で連動させて撃ち抜くか、またあるいは冗談の一つとして教えてくれた上半身のバネを全力で使う事によって足の踏ん張りが効かなくても高い威力が出せる技を使うか……。

なんにしろ、ミス・モンモランシもミス・ロッタもミス・タバサも、皆さん逞しくなられました。銃士隊の皆さんも感心した目で見ていますよ。

 

と、それはそれとして私達メイドはお昼は寮や教室などのお掃除です。授業のほとんどが無くなっているために個人の部屋のお掃除は部屋の主がいないときに行われていますが、男子寮の方は一度清掃されてからはほぼ手付かずです。汚す人が居りませんからね。

ですので今の仕事は主に一度使われた教室や食堂の清掃と、よく貴族様が集まるテラスの掃除。中庭の掃除も忘れてはいけませんし、図書館や職員寮等も……そこそこ大切です。そこそこ。

 

お掃除の場所が一つ減っただけで結構な時間が空きますので、そこにさらに鍛練の時間を詰め込んでいきます。

レア様に決められたメニューを使い、少しずつ少しずつ……。

 

……ところで、私達の鍛練を影から除き見ているミス・ツェルプストーはいったい何がしたいのでしょうか? ミス・タバサに熱い視線を注いでいるようにも見えなくはありませんが……いつもつまらなさそうなんですよね。

まるで、昔から仲がよかった友達をぽっと出の見知らぬ相手に取られた子供のような……そんな表情です。

 

…………ミス・タバサ。腰から背骨、背骨から肩への連動が上手く行っていません。

どちらか片方の足を軸にするのもよろしいですが、ミス・タバサはお体が小さく、体重も軽いためにあまり重い攻撃はできませんし、受けれません。

ですから、どんな時でもすぐに回避に移れるように体幹はできるだけ固定していた方がよろしいでしょう。

 

「…………」

 

こくり、と頷いたミス・タバサの腰と肩を取って、ゆっくりと動かしていく。正直、私はかなり剛拳派なのでミス・タバサのような柔拳が合う方に教えるには不適なのだけれど……それでも足捌きや体幹移動くらいは教えられるのでいいだろう。初めはミス・ルイズと一緒に習っていたわけだし。

 

「……こうして、ゆっくりと正確に。ゆっくりできるようになれば、後は加速させていくだけですから」

「…………」

 

再びこくりと頷いたミス・タバサは、私が言った通りにゆっくりと動きを体に覚え込ませようとしているようだ。真剣な表情のまま、レア様がやっているようにゆっくりと。

 

……ミス・タバサのこの集中力は驚嘆に値します。気が付いたら追い抜かされてしまいそうで、ちょっと不安になるほど。

私も自分の鍛練に移り、自分用のメニューをこなしていく。

一つ一つの動きの意味と、その動きから派生する動きを想像し、それらの動きを加速させていく。それから私専用の修行として、一時間ずっと全力で拳を突き続ける。今までの最高数は千と二十。全力でなければ倍か三倍は行けそうなのだけれど、全力で、自らがこの拳を振ると言う意味をよく考え、理解しながら。

 

……初めのうちはへろへろだったけれど、今ではきちんと真っ直ぐ拳を突き出し、そして時々突き出した拳が壁のようなものを殴っているような感触がするようになった。

私の感覚では、もう少しでこの壁を破ることができそうだ。そしてこの壁を破った先には、きっと更なる発展が待ち受けていることだろうと予想している。

 

……ああ、感謝を。拳法との出会いに。我が身を鍛える幸せとの出会いに。

レア様に、感謝を。

 

私は感謝とこの場所を守ると言う意思を乗せて、私の前に立ち塞がる壁に拳を突き出した。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

鍛練その他の仕事が終わり、今日はゆっくり寝て明日に備える。また明日、元気でいられるように……。

 

……って、それで終わればよかったのだけど……どうやらそう簡単には終わらせてくれないらしい。神様と言うのは案外性格が悪いようです。

 

真夜中に学院に何者かが侵入してきたようです。メイド達の殆どはその事に気付いて寝台から飛び出してメイドの正装であるメイド服に袖を通し、侵入してきた者達に見付からないように学院の隠し部屋の一つに集まった。

……起きてこれなかったメイド達は全員今日の昼に怪我をしていて疲労した者らしい。体力が足りないならしっかり休んで明日の仕事で頑張ってもらう事にしましょう。

 

「……怪我をした者以外、全員集まったようです」

「師範代、指示を」

 

意識をお仕事モードから戦闘モードに切り替えたらしいメイド達が点呼を終わらせて集まる。まさか本当に武術が役に立つ日が来るなんて……と思わなくもないけれど、その辺りは仕方の無いこと。敵の行動に文句を言ったところで、仕方ないといったら仕方ないのです。文句を言って敵がいなくなるならいくらでも文句を言うでしょうが、敵は容赦なんて知ったことかと攻めてくる。

……ならば、私達は戦うのみ。雇われただけの主でも、雇われている間はご主人様。職場と自分と主を守るため、自らのすべてを使って戦いましょう。

 

「それじゃあ、まずは情報を集める。隠れるのが上手い者は、誰が、何のために、どうやって、何人で忍び込んできたのかをできるだけ詳しく。武器もできればわかると嬉しい」

「了解しました。すぐに出発します」

 

言うと同時に十人程度のメイドが消えた。どうやら気配を消し、姿を消し、全力でこっそりと情報を集めてこようとしているようだ。

 

それでは、情報が集まり次第、戦いへと参りましょう。

 

……そして、ミス・ルイズやレア様の戻る場所を守るのです。

 

 

 

 

 

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