その16
最終的に俺がちょっと頑張って地下の風石をアンダーグラウンドサーチライトに放り込み、空洞を埋めて土地問題を解決。それからルーちゃんとジョジョを本気で怒らせて精神力を増やさせて、亜人やエルフを含む全ての知的生命体から差別的な思想や始祖サマ(笑)の記憶を消し去った。
その事を知っているのは俺とジョジョとルーちゃん、フィーさんとビダさんといざべえだけだ。
「だから私をいざべえなんて変な名前で呼ぶんじゃないよ」
「やだ」
そんないつものやり取りをしつつ、俺は眠りにつこうとする。
……ちなみに、トリステインの王宮から始祖の祈祷書をギってきたが、トリステインは未だに気付いていない。
まあ、元々白紙にしか見えないんだし、あんまり重要視されてなくても仕方ないかね。
そのお陰でルーちゃんとジョジョは忘却の魔法を覚えることができたんだし、お礼の一つや二つは言っといた方がいいかもな。
盗んだのがバレるといけないから絶対言わないけど。
……ただ、困ったこともある。
例えばルーちゃんが俺を追いかける時に‘加速’を使ってきたり‘テレポート’を使ってきたりして逃げるのが難しくなってきた事とか、ジョジョの悪戯が色々と壮大になってきたりとか、そんな感じだ。
何が困ったかって、やることしっかりやってる上に結果が悪いことでは終わらないようにしっかり考えられてるところが厄介なんだよね。ジョジョの悪戯は。
まあ、俺は別にいいけどさ。平和になったし。
そんなわけで俺は今日も、様々な場所で必要以上によく眠る日々を過ごしている。
トリステインの学院の中庭や、ガリアの王宮。アルビオンの王宮でも寝たことがあるし、空の上や森の中でも寝ている。
学院で寝ていると、よく使い魔達が寄ってきてみんなで寝ていたりする。(一体を除いて)話はできないが、なんとなく考えてることはわかる。ルーちゃんの都合上ここで寝ることが一番多い。
アルビオンやガリアの王宮は、よく無断で入ってるから追いかけ回されたりもする。
ガリアの方はジョジョが色々やってくれたから最近はあんまりそういうのもなくなってきたけど、アルビオンの方は結構続いている。
まあ、見付からなければなんにもならないんだけど。
空の上や森の中で寝るのも簡単だ。シルバースキンを散らして展開すれば防御は十分だし、空で寝る場合はエアライナーを使って足場にしてそこに寝る。
森の中でも服が汚れないように同じようにして寝たり、エアライナーの上に揺り椅子置いて寝ていたりもする。
その他にもタルブってところの草原で寝っ転がってみたり、とあるオアシスの水の上で寝っ転がってみたり、偶然会ったエルフ(名前は忘れた。原作通りなら多分ビダさんの姪)と一緒に寝てみたり、特に意味は無いけど砂漠を越えて遥か東の方まで行ってみたり………まあ、雲海が見える山の上で寝てみたんだが、なかなかいい景色だった。
そんな俺の睡眠遍歴と周囲の苦労日記は置いといて……今日もこの世界は割と平和だ。
side いざべえラ
「誰がいざべえラだい誰が!」
「……諦めろイザベラ。悲しいかもしれんが、我ですら大いなる意思には逆らえん。蛮人の言葉に直すのならば、運命と言うのだろう」
そう言ったビダーシャルに視線を向けて、イザベラは笑う。
「ハッ!運命? だからどうしたって話さ!そんなのが私の運命だって言うなら、私はその運命を意志《ちから》でねじ曲げてやるさ!」
その姿は、ここ最近のことで精神をすり減らしているビダーシャルには太陽のように眩しく映る。
「……私はエルフだが…………惚れてしまいそうだ」
「……………………じょ、じょじょ、じょ、じょうだんはおよしよびびびびだぁしゃる」
イザベラはしばらく意味を理解できなかったのかぽかんとしていたが、数秒後になって瞬時に顔を朱に染めた。
そして素晴らしくどもりながらビダーシャルに反論するが、どう見ても嬉し恥ずかしのラブストーリーにしか見えない。
この二人にも相手の種族に偏見というものがあった。
だがそれも、ルイズとジョゼフの二人の全力の虚無魔法によってそう言ったものが取り払われ、お互いに相手を一つの存在として見ることができるようになってからは、その間柄は少しずつ変わっていった。
……イザベラは過労と睡眠不足で前後不覚にも似たような状態だったから偏見なんて表に出ていなかったろうって?
…………それは、気にしちゃいけない。きっと仕事を任せる時に『エルフなんだからこのくらい簡単よね。だって人間の私が今までは倍の量をやってたんだから!』とか思ってたんです。きっと。
熱に浮かされたような表情のイザベラと、常の無表情の中で目だけに熱を込めたビダーシャルの距離が、じりじりと近付いていく。
向き合っているだけという状態から、手が触れ合い、そして抱き締め合う。
今まではそれだけでも十分過ぎると思っていた二人だったが、今の二人はその程度では止まらない。
さらに二人の距離が縮まりその影が触れ
「っくしゅんっ!」
「なっ!? 何をやっているのですかヴァリエール嬢!折角あの色気も胸も良い話も出会いもなかったいざべえラ様の春だというのに!」
「ご……ごめんなさい。でも、シェフィールドの髪が私の顔を擽ったのが原因よ?」
「はっはっは。なに、構わん構わん。わざわざ休みや仕事の時間や場所が噛み合うようにしてやっているのだから、いくらでも機会はある」
そんな話し声が聞こえ、二人は声のしてきた扉の方へと視線を向ける。
するとそこには、一番下に桃色の髪をした最近体の一部の成長が著しい少女ルイズと、ジョゼフ絡みの守備範囲が広すぎることで有名な女傑シェフィールド。そして自らの父親であるガリアの自称無能王であるジョゼフが、縦に並んで部屋の中を覗いていた。
「父上………い……いったいいつから覗いておられたのですか?」
「なぁに、お前がビダーシャルに『そこの資料の山の中の真ん中よりちょっと上あたりにある去年の税率分布表取って』と言う30分ほど前からだ」
「まさかの朝食直後!?」
「冗談だ。ヴァリエール共々‘加速’を使って数分に一度見に来ていただけだ。漸く春が来た娘が心配でな。…………ああ、それと子ができた時は言えよ? その時から本気出す」
「なっ……あ………ぁ……う…………」
顔を真っ赤にして俯いてしまうイザベラから視線を外し、今度はビダーシャルを標的にする。
「それにしても、お前は意外とまっすぐ物を言う奴だったのだな。いつも面倒な婉曲表現ばかり使うから、それが趣味かと思っていたんだが」
「……黙れ、ジョゼフ」
「はっはっはっは!なに、俺が言いたいことは一つだ。…………イザベラより早く死んだら殺すぞ?」
それだけ言い残して、ジョゼフは‘加速’を使って逃げていった。
「じゃあねイザベラ。子供が生まれたら抱かせてちょうだい。あと、良ければ第三子の名前は私に決めさせてくれると嬉しいわ」
第一子は自分達で決めたいでしょうし、第二子はジョゼフに譲らないとね~。と言い残してルイズも消える。
残ったシェフィールドは辺りを見回して、それから笑顔を浮かべる。
「……ごゆっくり………」
ぱたん、と扉が閉められた。
その中には、お互いを意識してか僅かにぎこちなくなった二人だけが残された。
「…………し、仕事しましょう!」
「そ、そうだな!それがいい!」
二人はなにもなかったことにしようと、放り出されていた仕事に戻った。
その17
ルーちゃんが
「はぁ……なんだか眠いわね………でも授業に出なくちゃいけないし……こんなときに風系統は羨ましいわね。私が二人いたらなぁ……」
とぼやきながら祈祷書を読んでいたら偶然見つけた分身魔法を会得し、ガリアにいながらにしてトリステインで授業を受けているようになってからしばらく過ぎたある日、ふと思い出した。
「ねぇルーちゃん」
「どうしたの? 三千世界の鴉を殺す地獄のような戦争が起きるような予感でもした?」
「何でそんなに具体的かつどうしてそれを知っているのかわからないような事を聞いてきたかは置いといて、確かルーちゃんってお姉さんいたよね?」
「居るわね。できればエレオノール姉様にいい人を紹介してあげてくれないかしら?」
「無理無理」
「そうよね~無理よね~」
あっはっはっはと笑い合いつつ話を進める。と言うか、ルーちゃんがそんなこと言ってたって知られたら怒られないか?
「妹に言われ《さきをこされ》たくなければ婚約から結婚まで進んでみればいいじゃないって言うわよ。行き遅れでたまった鬱憤を妹に八つ当たりして恥ずかしくないのか、ってね」
「殺されないか?」
「母さまの目の前で昔の母さまに変装して『僕の名前はカリン。『烈風』のカリン・ド・マイヤールだ!』ってあの趣味の悪い格好をしたイチカに言われたくはないわね。なによあの格好。趣味が悪いにも程があるわ。母さまがあんな趣味の悪い格好をしてユニコーン隊と戦うわけないじゃない」
「あっはっはっはっはっはっは」
…………いや、恐らくやってるんだけどねあの抜けたところのある人は。
ついでに当主の方も口と腹を押さえてテーブルに突っ伏して笑いを堪えてたし。
……その笑いも、俺がカリンちゃん(笑)を辞めてサンドリヨンさん(爆笑)になったらひきつったけど。
勿論サンドリヨン(爆笑)はくさい愛の言葉を吐かせてみたけど。ああ楽しかった。
で、ふと思い出した内容なんだが……
「話がずれたけど、あのおっとり系の方の病弱じゃなければ当然凄い人気が高かっただろう方のお姉さん居たじゃん?」
「ちいねえさまね。それが?」
「その人なんだけどさ、多分俺その人の病気治せるよ?」
ルーちゃんの体が固まった気がした。
ギギギギギギ……と錆びた歯車が無理矢理動くような音を立てて俺の方を向く。
「……それ………ほんとう?」
「多分だって。確実じゃない」
とは言うが、まあできるだろうと思っている。なんと言っても便利な神鳴流。人の縁を斬ることができるんだから、病魔くらい斬れるだろう。
どちらも形がないと言うところが共通してるし、特に退魔の業である神鳴流が病魔《・・》を退けることができないとは思えない。
そんなことを考えていたら、ルーちゃんが祈祷書を机に置いて床に正座で座り込んだ。
そして、珍しく全力で頭を下げた。
「……イチカ。お願いだからちいねえさまを治してあげて。私にできることだったらなんだってするし、私のものはなんだってあなたにあげる。………だから、ちいねえさまを……」
「なんか心に響いたからいいよ~」
「軽いっ!?」
実はそこまでしなくてもやってあげてもいいかなーって思ってたし?
「じゃあ行ってきまーす。面倒だから俺がやったってことは内緒の方向でよろしく~」
「あ……ありがとう。イチカ。内緒ね」
よしよし。それじゃあ行くかね。
side カトレア
動物達が何かに気付いた。それが何かを私に教えてくれている。
見てみると、動物達は部屋の隅に視線を集中しているようだ。
大きな蛇がその場所に何かが居ることに最初に気付いたが、なぜか全く緊張の色を見せない。警戒すらしていない。
……そんな相手を、私は一人知っている。
「こんばんは、ルイズの使い魔さん。いい夜ね」
「……機械類はともかく、動物相手に体温とかは誤魔化せないか。こんばんは、ルイズのお姉さん。確かに月は綺麗ですね」
ゆらり、と、なにもなかったはずのその場所から銀色のコートを着た青年《・・》が現れ、私に軽く挨拶をする。
どうやってここに入ってきたのか。どうやって姿を消していたのか。気にはなるけれど、そんなことができるのがおかしいという考えはついぞ出てこない。
私は笑顔で青年を迎え入れた。
「それで、あなたがこんな夜にいったいどんな用かしら?」
眠たがりの青年は、銀色の帽子を脱いで私に笑顔を向ける。
「暗殺仕事でございます」
「……狙いは私?」
「はい」
急に口調を変えた青年は、冗談のように笑いながらもどこからか剣を出す。
その剣には毒は付いていないようだけれど、そんなことは関係なくあの刃は私の命など簡単に奪ってしまえるだろう。
けれど私は落ち着いていた。なんと言うか、まるでそういう劇画を見ているような気分でその剣を見ている。
動物達が私の前に出ようとしたり、彼を襲おうとしていたけれど、私はすぐにそれを止める。
そして、青年に一言。
「痛くしないでちょうだいね?」
「勿論」
風切り音すらさせずに銀閃が走り、私の体に刃がめり込んだのがわかった。
意識が掻き消え、痛みを感じることなく私は眠りに落ちた。
目が覚めると、私の体には傷ひとつなくここにあった。それどころか、いつもより体が軽くなったような気がする。
杖を持ち、私は簡単な魔法を唱えてみる。
「‘ライト’」
杖先が光り、魔法が発動する。そしてすぐに魔法の明かりを消してしばらく待つけれど、苦しくなることも咳き込むようなことも無い。
「大丈夫みたいだね」
「ええ。ありがとう」
昨日の夜と同じ場所に、ルイズの使い魔の少年《・・》が立っていた。
「それじゃあ俺は戻るけど、秘密にしといてね」
「ええ。お姉さんは約束をちゃんと守るわよ?」
少年は悪戯っぽく笑うと、その場からすぐに姿を消した。
私は窓から空を見上げ、呟く。
「ありがとう、私の可愛いルイズ。ありがとう、イチカくん」
その日の太陽は、なんだかとても綺麗に見えた。
その18
ロマリアをなかったことにして、亜人と人間の意識内の差別を取り除き、ついでにルーちゃんの姉のおっとりした方の病気を直してからしばらく、具体的には二ヶ月くらい過ぎて、ジョジョがふとあることを思い出した。
「そう言えば、まだシャルロットに母親の心を治す薬を渡しとらんな」
「なにやってるんですか父上。さっさと渡してついでにばれないように手を回しつつお金を渡して放逐してくださいよ。もうエレーヌを人形って呼ぶの嫌なんです」
「そうか。大変だな」
「主に父上のせいですがね!」
「いざべえは大変だねぇ」
「お前のせいでもあるんだよ!」
いざべえが噛みついてくるが、俺は気にせず受け流す。正直に言ってどうでもいいからな。
どこの誰の精神が壊れようと、それが俺に程近い相手のじゃなければ歓迎だ。
…………俺のそばにいる奴で精神がおかしくないやつなんかいないだろうと言うのは言っちゃあいけない。
そんなわけでいざべえはそのエローヌとか言う奴に薬を渡そうと呼び出すために手紙を書いたようだ。態々自分が憎まれるように手紙の内容をいじるってのは苦しそうだな。
今のいざべえならビダさんが守ってくれるだろうし、怪我とかそういうことは気にしなくていいだろう。
俺はそう考えつつ、のんびりゆっくりと寝転がっている。
その隣にはルーちゃんが始祖の祈祷書を枕に眠っているが……あまり寝心地はよく無さそうだ。
当然と言えば当然だが、始祖の祈祷書とか言う本は相当固い。簡単に言うと5.5ミリの鉄鋼弾なら余裕で弾けるくらいに固い。そんな物の上に頭をのせてたんじゃあ、そりゃ痛いよな。
……ふぁ…………。
side いざべえ
私はエレーヌを呼び出した。とりあえず薬を渡して、母親と一緒に10年は暮らしていけるだけの資金を渡す。そしてそれからガリアから放逐すれば、エレーヌは晴れて自由の身となるからだ。
これまで私はエレーヌに様々な試練を与えてきたが、罪悪感に襲われなかった事が無いとは言わない。私は元々魔法の腕など関係無く私になついてくるエレーヌが嫌いではなかったし、叔父上が死んだ時にも涙を流した。
しかし、周りの状況がエレーヌをあのまま置いておくわけにはいかなくさせた。
父上が王になって多大な利益を得た者。エレーヌを担ぎ上げようとするものを抑えてガリアを平定するには、今考えてもああするしかなかったと理解している。
あの頃の鬼畜外道極まりない父上がその事を考えていたとは思わないが、結果としては中々のものだっただろう。
そのお陰でエレーヌは死なずに済んだし、叔母上も心を壊したが死んでいない。
……まったく、なにかに操られて出来た無様な演劇のようだ。最後にこうして一定の幸福が残されただけでもよしとしなくちゃね。
……問題は、エレーヌを放逐した後のこと。薬を叔母上に飲ませるまではまず大丈夫だろうけど、それから後のことはさっぱりわからない。
私にとってもエレーヌにとっても最良なのは、私達の言った通りにエレーヌがガリアを出てもうガリアの地を踏まないことだけど、これは正直望み薄だ。
エレーヌはともかく、叔母上はあの叔父上との思い出の詰まった屋敷から出ようとはしないだろうし、エレーヌ自身は確実に私と父上に復讐する気満々でいるだろう。
戦闘になれば、相手は非合法の汚れ仕事で実力をつけたエレーヌだ。苦労によって溜まったストレスと鬱憤によって増幅し、スクウェアとなった私でも勝てることはまず無いだろう。
……きっとビダーシャルは私を守ろうとしてくれるだろうけど………私は、一応とはいえ王女。そして相手は実の父親を私の父に殺されているのだから、あれだけのことをしてただで済むとは思っていない。
覚悟は、できている。
「……イザベラ」
すっ、と、ビダーシャルの手が私の手と重なる。その手を辿って視線を持ち上げると、私のことを落ち着き払った目で見つめているビダーシャルがいた。
「……お前は死なせん。この私が保証しよう」
ふっ、と、肩が軽くなったような気がした。私はビダーシャルの指に自身の指を絡めて、ゆっくりと持ち上げる。
「……ありがとう。ビダーシャル」
こつん、と額に当てたその指は、少しだけひんやりとしていた。
…………ああ、頭が冷えたらもう少しいい案が出てきたよ。恐らくだけど、私もビダーシャルも父上もルイズもシェフィールドもイチカも、誰もが納得するだろう案をね。
これも最近苦労したせいで回転が早くなった頭のお陰かね? だからと言ってその原因になった父上とイチカに礼を言う気にはならないけど。
side シャルロット(ISの不憫ツッコミさんとは原作の発売元以外には関係無い)
……何の話?
………まあ、私には関係無い。上でも関係無いと言っているし。
私は北花壇騎士として、ガリアの王宮に呼び出された。最近はあまり呼び出されることはなかったのだが、どうやら少し長い小休止だったようだ。
王宮に着くと、いつものように謁見の間に通される。今回は卵を投げつけられることもなく、謁見の間に到着する。
「北花壇騎士団、六号様のおなーりーッ!」
扉が開かれ、部屋の中に招き入れられる。
王座にも見えるその場所に座っているのは、私の従姉であり王女であるイザベラ・ド・ガリア。私の所属している北花壇騎士団の副団長でもある。
そしてその隣に立っているのは………エルフ。それも、確実に私より数段上手の使い手だ。
もしかしたら、今回の呼び出しは私の処理のためかもしれない。この場であのエルフと戦えば、私は確実に敗北するだろう。そうしたら後は魔法なんて使わずとも私を殺すことができる。
私は杖を握りしめる。僅かに杖が軋みをあげ、手から血の気が引いて真っ白になっても握りしめる。
そんな私の反応を楽しんでいるのか、イザベラは私のことをにやにやと笑いながら眺めている。
「それじゃあ今回の仕事の説明をしようじゃないか」
いつものように始まったその説明から、いったいどんな言葉が続けられるのか。私は杖を握る手に更に力を込めながら、イザベラに視線を返す。
「……そんなに怖がるんじゃないよ。なんてことはない取引さ。あんたが首を縦に振るだけで、みんな幸せになれる素敵な取引だよ」
イザベラはニヤリと言う笑みを更に深めて、私に言った。
「私の父の代わりに、ガリアを治めておくれ。シャルロット・エレーヌ・オルレアン」
そんな信じがたい言葉が、イザベラの口から飛び出てきた。
その19
side イザベラ
エレーヌの呆けた顔なんて久し振りに見たかもしれない。そう思うとなんとなく笑いが込み上げてくる。
隣ではビダーシャルが驚愕の視線を向けてくるが、頭のいいこいつならすぐに私の狙いくらいは読めてしまうだろう。
……まったく。才能が無いってのは辛いね。謀略や考え事は苦手だよ。内政だったらそこそこいけないことも無いけどさ。
とりあえず、驚きの表情のまま固まっているエレーヌに言葉を続ける。
「勿論今回の仕事には特別報酬を用意してあるよ。………お前の母親の心を直す薬を、ここにいるビダーシャルが作り上げたのさ」
「ッ!?」
エレーヌの目が見開かれる。その視線は、私の持っている小瓶に注がれていることが簡単にわかる。
「さて」
ちゃぷん、と薬瓶を揺らす。それだけで呆然自失だったエレーヌは意識を取り戻し、私に視線を……向けるが、ちらちらと薬瓶に目が行っている。
そんなに熱い視線を向けていたら利用されるだけだよ? エレーヌ。今みたいにね。
「この薬は今私の手の中にあるこれだけしかない。あんたがこの案を蹴るのなら、私はこの薬は用済みとして踏み砕くつもりだけど……さあ、どうする?」
……まったく。私は酷い女だ。私はそう思考する。
エレーヌにとっては漸く来た母親を治すチャンス。その上ガリアの王になれば私達を殺すのに軍を差し向けることもできる。
私達はたったの二人(私と父上のみだと思い込んでいるだろう)だし、片方は落ちこぼれの三流王女。もう片方は魔法の使えない無能王。殺さず捕らえて自分の手で殺すことも簡単にできるだろう。
復讐を遂げることが容易になり、母親まで取り戻すことができるという悪いことの無い話。ここまでメリットしかない話ならば、大概の者は受けるだろう。
だがエレーヌにはそんなことは関係なかったようで、ただひたすらに薬瓶を見つめ続けていた。これなら逃げるのに無理をする必要は無さそうね。
…………ちなみに、エレーヌに対するメリットは今言ったそれで、私達にとってのメリットは他にある。
父上と私は、仕事をしなくてよくなる。これは私の胃には最高の出来事になるだろう。
シェフィールドのメリットは、外面を気にせず父上と共に居られること。身分の差で悩んでいた彼女に、ほんの少しのプレゼント。
ビダーシャルのメリットは、正直に言ってあまり無い。ただ、虚無の担い手である父上が放逐されれば四の四が集まることもなくなり、結果的にエルフ側の問題は一時的に解決する。
イチカとルイズのメリットは、特には無い。ただあの二人は寝ていれば割と幸せだと公言しているし、問題ないだろう。
「……それで、どうするんだい? 私は愚図は嫌いだよ。今、この場で決めるんだ」
……ああ、悪役っぽいったらありゃしない。
side ジョゼフ
「さて、夜逃げの準備は整ったか?」
「はい、我が主」
「勿論です父上。イチカから預かったこの『アンダーグラウンドサーチライト』という魔法具の性能を限界まで引き出し、そして私達の私物の大半を詰め込んだ布を畳んで懐に入れれば完成でございます」
「俺の分は自分で持っているが、各々忘れ物は無いな? 下着や着替えはある程度出しておくのだぞ? バレたら面倒だ」
そんな会話の直後に、俺達はグラン・トロワから飛び出した。
イザベラはフライで。ビダーシャルは精霊の力と言うもので。シェフィールドと俺はゴーレムに乗っている。
これで俺達は書類地獄から抜け出せる。賄賂やら不正やらを纏めて摘発するために書類の量が否応なく増えていたのが原因の一つではあるが、それでも処理すべき書類の量は多すぎる。
俺が悪戯をしていたのは、ただ暇だったからとか面白そうだったからということはない。その騒ぎによって出た不正な金の流れや、業務内容と比較して明らかにおかしい行動をしている場所などを特定し、更にそれをたしなめるイザベラに清流の同情や親近感を持たせて情報をいれやすくするという目的もあった。
……とりあえずやることメモをおいておいたし、王様マニュアル(作者・編集俺)も机の上に置いたし、冠も机の上だし、まったく問題ない。そのはずだ。
それに、シャルロットが詰まれば他の者が手を貸すだろう。不正をしていたり悪辣な行為を当然のように行っていた者を纏めたリストは置いてきたし、シャルロットを次の王にして即座に俺が退位するというふれも出した。国民も貴族も無能な簒奪者である俺よりは、幼くとも有能なシャルルの娘を受け入れるだろう。
……それでは、俺達はゲルマニアにで行くとしようか。髪の色を染め替え、加速を使って駆け、追っ手が来る前にゲルマニアで土地を買い、適当に納めていこう。
税はあまり多くは必要無いが、兵と軍を作るにはそこそこ必要だ。それもあまり大した量を取る必要は無いのだから、そこそこ人気は出てくるだろう。
そうすれば寝床と料理人は手に入るし、掃除もそこそこの人数を雇えばいい。いつも使わない部屋はそこまで掃除する必要は無いし、数部屋ですむだろう。
さあ、俺達のニューライフを満喫しに行こう。あの地平の果てまで!
その後日談的何か1
いざべえとジョジョがガリアの王族を辞めてから早くも二年。俺達にとっては漸くで、いざべえとビダさんにとってはまだちょっと早いんじゃないかというとある儀式のような何かが、ここ、ゲルマニアのナハトニッド男爵領の教会で行われている。
その内容を具体的かつ簡単かつ率直に表すと、『結婚式』と言った。
たった二年ではあまり領地は豊かにはならなかったが、それでも凶作続きだった畑からは領民全員が飢えない程度の作物がとれた。
ジョジョはいくつかのことを実験させてある程度の法則を発見していたが、あまり必死になっていないような研究員では大した差が出ない。
そこでこうして農民に効果のありそうな奴をやらせてみたら見事に成功したらしい。そのためにわざわざガリアのリュティス付近とよく似た気候のところを選んだんだとか。
……本当に、悪戯をしているときの姿からは考えられない有能さだ。
そんなジョジョだが、娘の結婚式はそこまで豪華にはしなかった。あまりやり過ぎるとガリアにバレるとわかっているようだし、いざべえ自身があまり派手な結婚式をよしとしなかったからという理由もある。
そんなわけで結婚式の式場にいるのは、当事者である二人を除けば新婦の父親であるジョジョ、新郎新婦共にかかわり合いの深い俺とルーちゃん、ビダさんの姪であるらしいルク、なぜかノリノリで神父の役をやっているフィーさんの七人だ。
それに会場整備役のメイドや執事、料理人も含めれば結構な人数になるが、大概は笑顔を浮かべている。
ルクだけは時々微妙な表情を浮かべていたが、俺は気にしない。面倒だし。
ちなみに、ブリ教が無くなったので結婚式の誓いの言葉は始祖じゃなく、自分の信じるものに誓いの言葉を述べるものになった。病める時も健やかなる時も、貧しき時も富める時も、ってやつだな。
ビダさんは恐らく『大いなる意思』とやらに。いざべえは……自分の中に流れる水の力にでも誓ったんじゃないか? 俺は知らんけど。
そんな二人を見ながら、ルーちゃんは呟く。
「まったく。どうせならもっと早く結婚してしまえばよかったのにねぇ」
「だよねぇ」
たった二年。それだけの時間でルーちゃんはかなりの成長を見せていた。
具体的には、性格がきつくて余裕がない上に胸も無い方の姉がマジギレして胸をむしりとろうとするくらいに胸が大きくなったし、身長もカティさん(余裕たっぷりでたまに心を読んでくる方の姉)より少し大きいくらいまで伸びた。今のルーちゃんとカティさんが並ぶと真面目にそっくりすぎて驚く。
そんなルーちゃんに結婚を申し込む輩も多いが、ルーちゃんは纏めてスパッと断っている。
その際に俺がダシにされ、決闘騒ぎになったのでバスターバロンの初御目見えになったことをここに記しておく。
………ついでにその後、ルーちゃんに告白されて保留してるのも記しておく。
正直、俺とルーちゃんが結婚したところで関係はなんら変わらないような気がする。鈴やののちゃんと同じような感じだ。
だったら俺は面倒だししなくていいかなぁ……と思ってる訳だ。
「まあ、確かに今と関係は変わらないでしょうねぇ………私があなたに振り回されて、厄介事を一緒に何とかして、のんびり寝て………」
「どうせ年を食っても何をしてても一緒にいることになるんだ。だったら必要ないだろ」
「ふふっ……そうかもね」
ルーちゃんはコロコロと笑う。会ったばっかりの頃のルーちゃんからは想像もできないな。
「イチカのお陰よ。あの洗脳がなければ私はきっといつまでもあのままだったと思うしね」
「そうだな。かなり後々まであのめんどくさい性格だっただろう事は簡単に予想できるよな」
「自分でもあれはめんどくさい性格だったってわかってるわよ」
「今だからわかることだよなぁ……」
「そうねぇ……」
……さてと。流石に今日くらいはいざべえとビダさんの二人だけにしてやろうか。ジョジョもフィーさんもルーちゃんもルクもそのくらいはしてやるだろう。多分だけど。
今までは結構こっそり覗いてたとか、ゾナハ虫で覗いてたとか、アリス・イン・ワンダーランドで盗聴してたとかそんなことは無い。流石に俺でもそこまで趣味が悪いことはしていない。
ジョジョやフィーさんがしてるとかそんなことは知らないが、少なくとも俺はやっていない。
もしジョジョ達が覗こうとしてたら止めてやるつもりだ。いくらなんでも趣味が悪すぎる。
……さてと。俺はジョジョとフィーさんとルクにシルバースキンのリバースを着せて寝ようか。子供の名付け親になりたいんだったらいざべえに排卵誘導剤を、ビダさんに精力剤を盛ればいいんじゃないか? そんなものがあるのかは知らないが。
俺なら超速効性でかなり強力なのが作れるけど。千の顔を持つ英雄はほんと便利だ。
「そんなわけで、二人の料理にこれ盛っといてくれる?(ヒソヒソ)」
「承りました(ヒソヒソ)」
コックに渡しておいて、これでいい。二~三日止まらないかもしれないが、そんなのは俺の知ったことじゃない。
…………まあ、頑張れいざべえ。頑張れビダさん。応援はするぞ。
side ビダーシャル
イザベラが私のベッドに座っている。何度も見た夜着に身を包んだイザベラだが、何度見ても飽きることがない。
「……ビダーシャル」
ぞくり、と背に何かが走る。イザベラの声が耳から私に侵入し、全身を貫いた。
その声はいつも聞いている声とは種を変え、鋭くも重くもないが、ずるりと私に絡み付いてくるような気がする。
イザベラが私の手を取り、私はイザベラと共にベッドに倒れる。
私の片方の手はイザベラの手を押さえつけるかのような形でベッドに押し付けられ、もう片方の手はイザベラの胸に触れて━━━
「……やさしく、シて、おくれ………?」
―――ぱつん、と、私の何かが切れた。
ここから先はよく覚えていない。覚えているのはイザベラの白い肌と、私の名を呼ぶイザベラの声。そしてイザベラ自身の包み込むような暖かさだけ。
限界までイザベラを味わって気絶し、目が覚めた時には、私の寝顔を見ながらにこりと笑っているイザベラがそこにいた。
「ははは、ビダーシャルもなかなかやるね? 壊れてしまうかと思ったよ」
「……すまん」
俯く私に、イザベラは笑顔を向けて言う。
「いいさ。次からは気を付けておくれよ?」
イザベラは、そう言い残してぱたりと布団に倒れ込んだ。
……すまん。