side 織斑ルイズ
皆さん、事件です。予想通りに起きたこととは言っても、一応こう言うことは伝えておいた方が良いらしいので。
そんなわけで私の準備が無駄になることもなく味方のそれなりの数が洗脳されて離反し、兵士も兵士達の慰安にとよこされた平民達も、まるきり敗残兵のようにロサイスに向けて鬱々と移動を続けている。
ついでにあの鬱陶しかった指揮官は、一人を残して初めに爆殺された。今はその残った一人が指揮を執っている状態なのだけど……こんな時にまで責任のことを考えるなんて馬鹿よね。さっさと撤退準備だけでも整えてしまえばいいのに。
……これって利敵行為よね? 軍法会議にかけたら処刑確実なネタよね? まったく、被害は少な目に役立たずは死んでもらいたかったのに、どうしてこう……馬鹿にそんなことを求めるのが悪いのかしら?
例えばあの月目の神官や今の臨時の指揮官みたいに、馬鹿相手にするのが悪いのかもしれない。
ちなみに月目の神官は、ルイズに近付いてきたはいいけれど凄まじく胡散臭いものを見る目で見られ、直後に私に触れようとして来たのでついそこそこの殴り付けてしまった
殴られても死にはしなかったようだけど、吹き飛んだその神官を受け止めようとした風竜と一緒に骨を折ってしまったようだ。
……イチカの物である私に口付けをしようとするからそうなる。私に触れる事が許される男は、イチカを除けばダンとカズマくらいなのに……ぽっと出のエセ紳士が触っていい訳が無いでしょ。
とりあえず、万死。
と言うことでヴィンダールヴを殴り飛ばしたり魅惑の妖精亭の一員のところに居たシエスタに眠らせたルイズと手紙を渡し、数人に伝言を頼み、ついでに逃げ出していたトリステインの元駐屯地から使えそうな金属製品や樽のままだったり瓶詰めされていたりするワインを拝借し、殿を任せられたルイズの代わりに戦場に向かう。
馬の代わりにバイクを駆り、久し振りに私は『
姿も声も変わらないけれど、かわりに意識が若干変わる。
優しい『レア』から、合理主義者の『織斑ルイズ』に。
活かさず殺さず必要最低限に足止めして、それから適当なところで離脱させてもらおう。わざわざこんなどうでもいい軍のために命を捨てるような真似をしたいとは思わないし、まだまだやることはたくさんあるもの。
左腰にベルトに止めた『始祖の祈祷書』を。
右手の中指には私の世界の『土のルビー』を。
右腰には吸魔の長剣『デルフリンガー』を。
右袖の中には私の杖を。
外套代わりにローブ形態のシルバーローブを纏い、準備は完了。幸運なことに私を見ていた動物達は『何故か』気絶していたため精霊以外の全ての生物に私の姿は見られていない。
昔なら兎も角として、今では見付かりたくない時に見付かるようなヘマはしないわ。相手が常識外の存在なら話は別だけど。
side ルイズ・ラ・ヴァリエール(貧→並)
なんだか突っ込まなくちゃいけない気がして目を覚ます。けれど目が覚めて一番最初に視界に入ったのは、いつものようにゆっくりと鍛練の型をしているシエスタと、戦争に参加していたギーシュとマリコルヌ。どうやら二人とも運よく今の今まで生き延びていたらしい。
よかったわねギーシュ。モンモランシーとケティの二人を処女のまま未亡人にしなくて済んだわよ?
「君は本当に女の子かい!? だとしたらもう少し恥じらいと言うものをだね」
「シエスタ。私、殿を任せられた筈なんだけど……レア姉様は?」
僕の言葉は無視かい!? なんて言っているギーシュを放置して、シエスタに姿の見えないレア姉様の行方を聞いた。
……と言うか、それも気にしなくちゃいけない事だけどその前にここはどこよ?
「ここはアルビオンから撤退する最後の船の中です。レア様は数日前にルイズ様を私に預け、そのままアルビオン軍へと向かっていきました」
「…………相手の数は七万も居るはずなのに、どうしてかしら、レア姉様が負けるところが想像できないのだけれど」
「奇遇ですね、私もです」
とりあえずレア姉様の心配はやめて、周りを見渡す。実に質素な部屋で、正直今まで自分はよくこんなところで眠れたものだと驚いてしまう。
ついでにお腹が空いた。シエスタの言葉が正しければ、最低でも丸一日以上の時間を眠り続けているはずだから当然なのだけど、やっぱりお腹が空くとイライラする。
「シエスタ。お腹が空いたわ」
「いやいやいや、自分の姉が一人で七万の前に残っているって言う話を聞いた直後の反応じゃないだろうそれは!?」
「はい、そろそろ起きる頃だと思いましたので用意は万端整っております」
「そしてそっちのメイドも平然と受け入れるのはどうかと」
「うん、ありがとうシエスタ。いただくわ」
「人の台詞を叩き切っておきながら平然とそっちと話をするのはやめてくれないかね!?」
「いい天気ね、シエスタ」
「ルイズ様? ここには窓なんてありませんよ?」
「あら、うっかりしてたわ」
「「ふふふふふ♪」」
「……もう好きにしてくれ」
ぐったりと疲れたような姿を見せるギーシュをその場の全員でスルーし続け、どこにとってあったのかは知らないけれど温かいシチューを食べる。なんでもシエスタのお祖父さんが作ったタルブ村の名物らしいけれど、美味しいわね。
聞いたこともない野草とかも使われてるみたいだけど……毒が無いのは確認したみたいだから多分大丈夫でしょ。確認したのがシエスタだし、そんな杜撰な仕事はしないと信じているわ。
「……それで、レア姉様はいつ頃お戻りになるのかしら?」
「さあ? 私には理解できかねます。もしかしたら既に学院のルイズ様の部屋で優雅に紅茶でも啜っているかもしれませんし、もしかしたらアルビオン軍から迷惑料として武器や防具を巻き上げているかもしれません」
「あー……確かにどっちもあり得そうね……私の部屋に入ったら澄ました顔でそこに居て、平然と『お帰り~』とか言ってくれそう」
ちょっと想像しようとしてみたら物凄くリアルに描かれてしまったその情景に少し笑いが漏れる。シエスタも同じように笑いを堪えているようだから、きっと同じものを想像してしまったのだろう。
なんにしろ、レア姉様の心配はしなくてよさそうね。私たちはのんびりお帰りを待ってましょう。
「あ、お代わり」
「はい、どうぞ」
付き出した空の皿にさっと注がれるシチュー。まるでこうなることを予想していたかのようだ。
「それと、レア様からの手紙です」
「ありが…………シエスタ。今晩ちょっと閨に来なさい」
胸の谷間から手紙を出すって……私に喧嘩を売っているのね? 高く買うわよ本当に!
「あと、シチューのお代わりを」
「はい、どうぞ」
ありがと。
ルイズはレズではありません。