side 織斑ルイズ
「なあ相棒。さっきの魔法はいったいなんだよ? つーか俺を出した意味は? 俺を持ってる意味は? 俺の存在価値は?」
デルフリンガーがさっきから私に質問を続けている。ここで黙って目を逸らしたらきっとデルフリンガーは凄く傷付くと思うので、ここはできるだけ優しく答えてあげることにしようと思う。
「あの魔法はただの“マジックバリア”よ。上空に部厚く硬く、そしてかなり広範囲に渡って作り上げた“マジックバリア”を敵軍に向けて叩き付けただけの、コモンスペルだけを使うお手軽必殺技第二段よ」
「第二段? 一段は?」
「“ライト”のステルスで暗殺。ちなみに第三段は“3Dミュージカル”で視覚と聴覚を誤魔化して迷いの森に閉じ込めたりするわ」
「うわ相棒」
……もしかしてそれって『相棒』を『外道』とか『鬼畜』って言うのと同じ意味で使ってない? 揉むわよ? 前回は謂れの無い事で移らされたけど、今回は始めっから抜き出し版の方に持ってくくらい揉むわよ? どうせ男にするも女にするも私の意思一つで決まるんだから。
「いやすまん謝る、本気で謝る、すまん。だからそれだけは勘弁してくださいマジでヤバいです。そんなことされたら俺は剣だけど人生観変わっちまうよ? 一人称が俺から私に変わっちまうかもしれないと本気で思うくらいヤバいから本当に勘弁してくださいごめんなさい。あと色々危ない発言も勘弁してください」
「あら、一人称が変わっちゃうのはダメよ? 普段は気の強い俺っ娘がベッドの上でどうしようもない感覚に悶えてるのが可愛いんじゃない」
「聞きたくなかった!相棒の微妙な性癖なんて聞きたくなかった!どうしようヤバい貞操がヤバい!俺剣だから考えたこともなかったけど六千年も守り通してきた貞操がヤバい!?」
「何言ってるの。今まで何人もの相手に身体を任せてきたくせに」
「そりゃ俺は剣だからな!俺を扱うことができる奴に身を任せたことはあるけどよ!それとこれとは意味が違いすぎるだろ色々と!」
まあ、冗談だけどね。ああ楽しい。デルフリンガーをからかうのは楽しいわ。
ここまでいい反応をとられちゃうと……むしろ本気でやりたくなってきちゃうのが人間の不思議なところよね。あれね、人間の性ってやつ?
「そんなもんで俺の貞操は危機に曝されたのかよ……」
「あらやだ、過去形じゃなくて現在進行形よ? ……あ、過去進行形かしら?」
「知らねえよ。ってかまだ俺の貞操危ないの!? ピンチなのか!? 娘っ子ー!助けてー!相棒に犯されるー!!人型にされてぐちゃぐちゃどろどろにされて相棒無しでは生きられない体にされちまうー!!」
「もう、人聞きの悪いことを言わないの」
……間違ってないかもしれないけど。一応坐に持って帰るつもりだし。
宝具が増えるよ!やったわイチカ!
『……おめでと、ルーちゃん。…………すかー……』
ありがとイチカ!ああイチカの声を聞いたら元気が出てきたわ!私、ちょっと頑張っちゃう!
「何を?」
「デルフリンガーくちゅくちゅ?」
「……どうせまた冗談だろ?」
「勿論。まだ冗談よ」
「そうかい。…………ん? 相棒、今『また』じゃなくって『まだ』って言わなかったか?」
さてと。そろそろフーケの記憶にあったウェストウッドの村ね。不意打ちで“忘却”を食らって退散させられるようなことは無いようにしなくちゃ。
それと、フーケの事はフーケじゃなくてマチルダって呼ぶようにしないとね。フーケ自身盗賊稼業の事は妹分には伝えていないみたいだし、そう言う後ろ暗いことは隠してあげた方が嬉しいだろうしね。
……あ。みーつけた♪
side シエスタ
レア様がアルビオンに残って暗躍し始めてから数日。私とルイズ様を含む学院生徒達の生き残りは学院に戻ってきました。
私が居ない間にも他のメイド達は鍛練を欠かしていなかったらしく、しっかりと強くなっているようでした。
そして何より変わったのが、残っていた貴族の子女方の一部がメイド達と一緒に鍛練(鍛練と言えるほどきつくないが)をしているらしいこと。その一部の中には、今までは離れたところでこっそりとミス・タバサを見守っていたミス・ツェルプストーがおり、ミス・タバサと並んで頑張って修行をしているらしい。
……見たところミス・ツェルプストーはミス・タバサと違って剛拳寄りだと思われるので、共通点は一部の体捌きや基礎体力を作るくらいしか一緒にできることは無いと思うのですが……まあ、私はレア様のように弟子でもない相手にあれこれ教える趣味は持ち合わせておりませんので構わないでしょう。
それよりも今は自分の事です。戦争は恐らく終わるとはいえ、終わった後にはまた色々と面倒な出来事が待ち受けていると聞きます。そんな面倒事からはさっさと逃げることが望ましいのですが……残念なことにルイズ様はまた政争に巻き込まれていくのでしょう。
戦争の後は政争。敵を倒したら内部から次の敵が。ああ、いったいいつになればルイズ様は平和な日常を過ごすことができるようになるのかしら。
私はルイズ様の平和な余生を願い、平穏な日常を願い……願いと、そう願う切っ掛けとなった出会いに感謝をしながら、構えた拳を前に突き出した。
両足で大地を踏み貫くイメージ。自分の足が地下深くまで埋まり、重心も体幹も完全に固定されていることを想像する。
事実を想像に近付けるため、両の足はしっかりと大地を踏みしめて動かぬようにして、願いを掴み取るように握った拳で再び突く。拳は空を貫ききれず、その反動が足に大地を貫かせる。
そんなことは構わず、願いと感謝を込めて、私の未来の主……ルイズ様を思い浮かべて拳を突き出す。
何度も何度も繰り返してきたこの行動。初めはただの突きだったが、気が付けば動く度に行動を阻害する大気を鬱陶しく思うようになり、その大気の枷を振り切ってからは大気の壁が立ちはだかって私の前進を止めようとする。
しかし、その壁も私が何度も殴り続けた結果、薄くなって来ていることは間違いない。ほんの少しずつ、ほんの少しずつ速く、強くなっていった私の拳は、まだその成長を止めていない。
目指す高みは完璧なるメイド。掃除洗濯炊事は勿論、経理や軍の指揮、戦略戦術の立案から実行、賊から主を守るための戦闘技能や盛られた毒の看破等の実務から、主に愛玩物として扱われてその心を癒したり、時には夜のお世話まで……ありとあらゆる仕事を完璧にして完全に。
果てしなきメイドの道を、私は歩き始めたばかり。いつの日か私は壁を越え、死ぬその時までメイドとして生きていきたい。
願いを胸に、出会いに感謝を。私は想い、拳を突き出した。