side 織斑ルイズ
村を見つけた私は、とりあえずその中を覗いてみる。するとどうやらちゃんと当たりを引けたようで、そこには輝くような金髪にエルフ特有の長い耳をしたお嬢さんと、多分普通の人間だろう子供達が遊んでいるのが見えた。
とりあえず必要なものとして食料と水。それは結構な量を用意してある。重要な物資だものね。
あととりあえずの信用。これについてはフーケ……マチルダを使わせてもらう。
都合のいいことにあのハーフエルフのティファニアはフーケの事を心の底まで信じきっているようだから、綺麗な表面の部分といつでも明かせる腹の一つ二つを明ければいいだろう。
私は腰から下げっぱなしだった始祖の祈祷書と抜き身のままのデルフリンガーの刃をアンダーグラウンドサーチライトにしまい、フードを外して入り口らしき所(基本が獣道でわかり辛い)から村の中に入る。
……本当、のどかと言うかなんと言うか……なんにしろ小さな村ね。ジョゼフ達と一緒に遊び暮らしたナハトニッドの村を思い出すわ。
まあ、流石にナハトニッドの村はどこもここまで自然に囲まれてはいなかったけどね。精々森が近くにある程度だったわ。
と、そこまで考えたところで一人の女の子がこちらを見ていることに気付く。少しどころじゃない警戒心が見て取れるけれど、確かに突然現れた上に剣まで持っている私はかなり怪しいから仕方無いのかもね。
「こんにちは、お嬢ちゃん」
「ッ……」
私が声をかけたら、なぜかそれだけでびくっとされた。子供好きじゃないから別に悲しくもなんともないし、そうやってびくつく理由もわからなくはないけれど……とりあえず近付くのはやめておきましょうか。
「悪いんだけれど、ティファニアさんを呼んでもらえるかしら? ちょっと大事なお話があるの」
私がそう言うとその女の子は驚いた様子を見せ、そしてどこかに走り去っていった。
気配を読んでみると、女の子らしき気配はちゃんとティファニアらしき気配のところに走っている。子供にしてはそこそこのスピードだけど、やっぱり子供は子供。かなり遅い。
そう言うわけで、私はのんびりとその女の子の後を追う。かなりのんびり歩いているから女の子がティファニアの所に到着するより早く追い付くことも無いだろうし、追い付いたとしてもそれはある程度の説明が終わった後くらいになるはずだ。
「けどよ相棒。結局のところこうして姿を出すだけで警戒されちまうと思うんだが、その辺りはどうするつもりだ? 警戒されて遠隔で“忘却”かけられたらいくら相棒でも忘れちまうだろ?」
「ウィンに頼んで向こうの声を拾ってるから不意打ちは受けないわ。もしも本当に“忘却”を使ってきたらその瞬間に高速詠唱で“解呪”を使って“忘却”を消すわ」
「もし“エクスプロージョン”とかだったらどうすんだよ? しかも途中で詠唱を切った早いやつとか、他にも“加速”だったりしたら」
「“エクスプロージョン”でも“解呪”で消すわ。“加速”されたらその瞬間にこっちも“加速”すれば間に合うでしょ。あれ無詠唱でやらないと使っている間に他の魔法は使えないし」
……ただ、無詠唱で“加速”を使うと魔力が切れるか気絶するか寝るか意識して魔法をやめるかしないと加速しっぱなしだからちょっと困るのよね。ちょっと加速してない時間で二分ほど練習したらなんとか意識して消せるようになったけど、練習が難しいのなんのって……。
まあ、それができるようになってからは『宿題を出された次の瞬間に片付ける方法』としてお世話になったり『タイムサービスで熟練の奥様達に競り負けない方法』として凄く重宝したけどね。
うん、やっぱり虚無魔法って生活お役立ち魔法の宝庫だわ。一番はコモンスペルの“固定化”だけど。
「……なんか……なんか間違ってる。虚無の魔法はおもいっきり戦闘のための魔法の筈なんだが……」
「少なくとも私はそうやってお世話になったわね。考え方が古いんじゃないかしら?」
「……いや、年齢だけなら俺より相棒の方がずっ」
メギィ……ギギギギギギギギギギ………………
「……何か言ったかしら?」
ギシギシと鈍い音を立ててデルフリンガーの金具が軋みをあげる。何かを喋ろうとしてるのかなんなのか知らないし知りたくもないけれど金具がガチガチと私の手の中で暴れようとしている。
……まあ、放さないけどね。たとえ手の中で金具がひしゃげていっていても、金具に私の指がめり込んでいくのがわかっても、今回ばかりは許さないし挽回のチャンスも与えない。
たとえ相手が何歳でも、女に年齢と体重の話は禁忌なのよ。自分でネタにするならともかく、他人が触れちゃいけないところっていうのもたくさんあるしね。
「あ……あの…………」
突然声をかけられたと思ったら、私から少し離れたところにティファニアが居た。どうやらデルフリンガーにお仕置きをしている間にここまで来ていたらしい。
フーケの記憶よりも若干成長しているけれど、確実に本人だとわかる姿。ついでに非常に……非常に大きな胸。少し前までのルイズが見たら奇声を上げて飛び掛かり、よい子には見せられないくらいまで揉みしだいてしまいそうなくらいに大きい。
フーケもこの胸については微妙な反応をしていたようだし、本人も少し気にしていそうな空気なので私は触れないようにしておくつもりではあるけれど……とりあえずルイズは連れてこないでよかった。心底そう思ってしまった。
ちなみに私はもう胸の大きさには特に何も思うことは無い。ホウキ様やタバネ様もかなりあれだし、イチカは胸とかは関係なく私のことが好きだと言ってくれた。イチカの周りに居る人を見ていれば、そのことはよくわかるはず。
胸に貴賤無し。もしもそれを尊いと思い、もしもそれを卑しいと思うなら、それはそれを見た者の心の有り様を表しているのである。
by.私
…………と、特に意味のないおっぱい談義はこの辺りでお開きにしておくとして……今はこうして向き合っている相手に集中しなくちゃね。
とりあえず手始めに、自己紹介からかしらね。
私はデルフリンガーを掴んでいる手を放し、ついでに無詠唱でひしゃげた金具を元の形に直す。金属疲労すら無効化する魔法って便利よね。
それからにっこりと笑顔を浮かべ、軽く頭を下げる。
「初めまして。私はレア。貴女のお姉さん……マチルダさんを個人的に雇っている者です」
……間違ってはないし、問題もないわよね。うん。