side ルイズ・ラ・ヴァリエール
シエスタと一緒にアルビオンに来た。学院長には一応伝えてきたけれど、その他には誰にも言わずに来たのでここで私が狙われるようなことは無いと思う。と言うか、無いはず。
あっても逃げ切るくらいはできるはずだし、ついでに全力で暴れればレア姉様曰くトリステインの魔法衛士隊相手に一騎当百くらいの事はできると言われたのであまり心配はしていない。
「それじゃあ行くわよ、シエスタ」
「はい、ルイズ様。……ですが、レア様はどちらに?」
「“探知”で探したらあっちの方角に反応があったわ。そんなに遠くはないみたいだから、すぐに着くと思うわ」
船旅で固まった身体をほぐしながら話をする。一応ちゃんと柔軟はしていたし、船の上でもできる分の鍛練はちゃんとしていたけれど……やっぱりちゃんと走り回れないと若干物足りなく感じちゃうのよね。
最近はキュルケやタバサも随分強くなってきたし、モンモランシー・ケティ・ギーシュの三人はラインクラス三つでヘクサゴンスペルを無理矢理作り上げられるようになった(ただし、流石に無駄が多くて効力的にはスクウェアの上位がいいところ)。だから学院を離れるのが少しだけ残念だと思ったりもしたけれど……私達の修行が進まないという事実はその残念さを受けてでも改善すべき事。なんだか最近自分を鍛える事が楽しくなってきてるし、もう自分を鍛えるのが趣味になって来ているものね。
日に日に強くなっていくのがわかるって言うのは楽しい。昨日までの私にはできなかったことが、今日の私にはできるようになっている。いつかの日には夢見ることしかできなかったことを、今の私はできるようになっている。
……ただそれだけの事が、私は楽しくて仕方がない。少なくとも、何をやっても変わらなかった魔法を使うことよりもずっと、自分ができることを増やしていくのは私を虜にした。
……まあ、編み物と裁縫は頑張っても頑張ってもできないのは変わりないんだけど。
どうしてあそこまでできないのかしらね? 自分でやっててあれだけど、本当にどうしてかしら?
……と、それはそれとして早くレア姉様に会いに行こう。早く新しい毎日の修行メニューを作ってもらわなくちゃ。私やシエスタの分はともかく、戦争に参加していないメンバーの修行メニューがかなり古くなってきているし、物足りなさそうにしているメイド達もかなり増えた。新しいのを作ってあげないと可哀想になってくる。
新規参加メンバーはまだまだまだ私やモンモランシーやケティやタバサのメニューをやりくりしておけば大丈夫だけど、ずっとそのままって言うわけにもいかないものね。
「……あっちは森が広がってるような気が……」
「多分森の中ね。他にもいくつか反応があったから、もしかして森の中に村でもあるんじゃない?」
「なら、どのくらいで着くと思います?」
「“加速”使えば最速五秒」
「“加速”を使わず、無理もしなければ……余裕をもって二日といったところですか」
……ちゃんと“加速”を使ってかつかなり無理をした身体強化をした状態で後先考えない事を前提とわかるのは凄いわね。流石シエスタ。
「感謝の極み。……ですが、これでもルイズ様に仕えようとする身でございます。主の考えを読むのは当然かと」
「……その喋り方もその一環?」
「左様でございます」
シエスタはいつも通りのメイド服の裾を広げ、私にペコリとお辞儀をした。まったく、本当に得難い従者を得られた私は幸福者ね。出会いを運んできてくれたレア姉様には感謝しないと。
……それじゃあ、すぐに出発しましょう。できれば面倒事には関わり合いたくないし、なんだか無理に明るく振る舞おうとしている傭兵達が私とシエスタを見て何を考えるかわかったものじゃないしね。
歩き出してすぐ、私の懐から財布をスろうとした男を軽く放り投げ、シエスタがその男を掌底で空の彼方に吹き飛ばす。あっちの方向は確か崖だったから、メイジじゃない限りは海まで落ちて叩き付けられて魚の餌になるか、あるいは落ちている最中に鳥か竜の餌になるかのどちらかの最期を迎えることになるだろう。
まあ、自業自得よね。人の財布をスろうとしたんだから、失敗したらどんな目に遭うかくらいは理解して、覚悟の上でやっていたんでしょうし。
消えた男の事はすぐに頭から消えた。今はこうしてなんだか全体的に暗い雰囲気の町を抜け、森まで行かないと。
もしかしたらレア姉様が盗賊か何かに襲われて慰みものに…………なる前に盗賊が皆殺しにされて、最悪アルビオンが消し飛んでるわね。
……なんだ、急ぐ必要ないじゃない。だったらお金は節約しつつ、のんびり迎えに行きましょうか。
「はい、全てはルイズ様の御心のままに」
「あんまりよそよしくされると私は寂しくて構ってほしくてシエスタにイタズラしちゃうわよ?」
「ッ───!? み、御心のままに……」
私の軽口に真っ赤になりながらもそう答えるシエスタに、私はなんだか楽しくなってきてしまった。
ああ、この可愛らしい私のメイドは、いったいどこまで私を喜ばせれば気が済むのかしらね?
私は自分より高い位置にあるシエスタの頭を撫でてから、またのんびりと歩き出す。けれど今日はシエスタにイタズラすることは決定事項としておくとして……うふふふ♪
「……何故でしょうか。突然寒気がしたのですが」
「寒気だけ?」
「………………ほんの僅かの期待感があったことは認めます。しかし、これだけは言わせていただきます」
シエスタは若干朱に染まったままの顔を私に向け、私の目を真正面から見つめながら言った。
「えっちなのはいけないと思います」
…………。うん、きっとこれは誘われてるのよね? じゃなかったらこんなに可愛く言う筈がないし、ああもうシエスタ可愛い。
「……どうやら効果のほどか見られないようですので、もう一つよろしいですか?」
「なに?」
「ルイズ様は……最近レア様に似てきましたね。中身が」
シエスタの言葉が私に突き刺さる。……似てきた? 誰が? 誰に? 私が? 誰? レア姉様に? 私レア姉様に似て姉様私姉私様似て似て似て私姉様似て私がかががが…………。
……なんだか凄くショックを受けた私は、とりあえず泣くことにした。
……くすん。