side 織斑ルイズ
この村で過ごし始めてから結構な時間が過ぎて、騎士アニエスに胃を押さえる癖が身に付き始めた頃。その頃にはとっくに一週間は過ぎ去っていたけれど、何故か騎士アニエスはそれを忘却してしまったかのように普通にこの村に居る。
いったいどうしてこうなっているのかはただのメイジである私にはよくわからないけれど、とりあえず姫様が私を呼んでいると言うこの状況はそこまで急ぎの物では無いんだろうと言うことにしておく。
そう言うわけで私はまだこの村にいる訳なんだけど……。
「レア姉様!ようやく見つけました確保っ!」
「レア様発見、確保っ!」
……何故か、ルイズとシエスタがやって来ていた。ここは見つかりづらい場所にあるはずだけど、よく場所がわかったわね?
「“探知”でレア姉様を探しました!ちょっと疲れました」
「気配察知です。レア様があまり気配を隠さないでいてくれたお陰で助かりました」
「二人とも成長したわねぇ……」
気配察知に広域“探知”……基礎は教えたけれど、その基礎をこうして使いこなしているのは間違いなく本人達の努力の賜物。毎日毎日しっかりと鍛練を続けてきた証をこうして見せてもらうと言うのは、師としては少し嬉しかったりもする。
師と言ってもあまりいい師匠ではないだろうけど、その辺りは少しは頑張ってるから見逃してね?
……と、それはそれとして……ついてきてるのはいったい誰かしら? 私はホウキ様のように気配察知で相手の位置どころか身長体重スリーサイズ、相手が誰でどんな体勢をしていてどんな表情をしていて体内に手術の痕があるか無いかまで全てわかるような人間じゃないから困るのよね。
そんなことができる方が人間じゃないって言う意見もあるみたいだけど、その辺りは私の知ったことじゃない。私も一応人間の枠からは外れてるわけだし、今までにかなりの命を奪ってもきている訳だし。
……それはそれで置いておくとして、ちょうどいいので“加速”して姿だけ見に行くことに。偵察のコツは『こちらが相手に気付いていることを相手に気付かれない内に行動する』こと。今はその条件に合致しているし、同じく“加速”しているジョゼフやルイズならともかくとして、まともな人間であれば“加速”状態の私の姿を捉えられる人間は殆どいない。
何しろ私の最大倍速の“加速”は言ってしまえば『スタープラチナ・ザ・ワールド』と同じようなものだしね。止まっている時間の中を動けるのは同じく時間を止められる者か、あるいは光を越える速度で動いて擬似的に時間を止められる者のどちらかくらいだもの。
そう言うわけで“加速”開始。気配のした方向に走って移動し、相手の顔を…………って、なんだシェフィールドじゃない。ってことは裏にはジョゼフが居るわね。
どうしてルイズをつけてきたのかはわからないけれど、とりあえずこの世界ではまだ気を許しちゃいけない相手と言うわけね。
シェフィールドってちょっとしたヤンデレだし、それは多分この世界でも変わって無いだろう。なにしろ根本からのヤンデレだったし。
まあ、私からしてみればこの世界の人間はあまり強くないし、イチカがいないせいか外れていく人間は私の周囲に固定されている。
だったらジョゼフもイザベラもシェフィールドもビダーシャルも、あんな人外と言えるレベルまで外れた所までは行っていないはず。あくまでも人間やエルフ等の常識の範囲内に収まっているはずだ。
……とか考えつつ、シェフィールドの懐に手を入れて通信用のマジックアイテムを抜き取る。ついでにその他にも風石を嵌めてある指輪や既に血の着いている多数のスキルニルの入った袋(どうやら中の空間が広がっているらしく、懐に入る程度の大きさで中身は小屋くらいはあるらしい)等を無断で拝借し、ついでにちょっと使い方をシェフィールドの記憶から教えてもらってからシェフィールドをガリアの王宮に“瞬間移動”で運ぶ。行き掛けの駄賃にいくつか王宮の宝物庫の秘宝を頂いてからアルビオンに戻り、何事もなかったかのようにルイズに抱き締められた状態で“加速”を解いた。
……流石にちょっと魔力を消費したような気がする。“加速”を無詠唱でかつ物理方面から無理矢理時間を止めるくらいの速度まで持っていったりしながらアルビオンからガリアまでの“瞬間移動”を人を連れて一回、私個人で一回の計二回。私の意識内での時間は大体数分だけど、昔の私からしたら結構な無茶をしていることはわかってくれると思う。
しかし今の私からしてみれば大したことは無く、今回の行動を別の簡単なことで表すならば……助走をつけてサッカーボールを本気で蹴り飛ばすくらいのもの。文字通り、大したことではない。
「レア姉様、いったいどうしてこんな所に居るのですか?」
「ちょっと知り合いの妹さんに会いに来たのと、アルビオンの虚無の担い手を見に来たのと半々くらいね」
「そうですか…………ぅえ?」
なんだかルイズの喉から楽しい音が溢れたけれど、私はまったく気にしない。シエスタと一緒に目をぱちくりさせていたりもするけど、それも気にしない。気にしたら長いもの。
「……あの、レア姉様?」
「虚無の担い手は現在この世界に五人居るわよ?」
にっこりと微笑みながらルイズに質問される前に答えていく。間違ってないから大丈夫よね。
「…………心を読まれたことについてはもういいです。レア姉様ですから。それで……」
「トリステインのルイズ、アルビオンのテファ、ロマリアのヴィットーリオ、ガリアの……は、まだ秘密。最後の一人も秘密」
「 」
「その方が面白いからよ」
「心を読むのはともかく何も言ってない状態で答えるのはやめてください!」
「気が向いたらそうすることを考えるだけ考えておくわ」
一応、本当に気が向いたら考えるだけはするわよ? 考えるだけはね。
「それで、私はアルビオンの虚無の担い手であるテファに会いに来たの。まあ、私が雇っているとある人と繋がりがあるみたいだったから『お宅の妹さんは元気にしてますよ』って伝えたかったって言う目的のついでなんだけど」
「虚無の魔法使いに対することがついで!? 普通逆じゃないんですかレア姉様!?」
そういったルイズをシエスタが連れて離れる。
「……ルイズ様。相手はレア様です」
「……ごめん。つい熱くなっちゃってたわ……そうね、レア姉様だものね…………」
……なんだか失礼ねぇ……デルフリンガーを優しくバラして磨いちゃおうかしら? 普段は隠されている柄の中身まで、しっかりと……。
「八つ当たりは辞めてくれや」
「仕方ないわね、まったく」