side 織斑ルイズ
王宮に騎士アニエスを置いてきてからすぐに魔法学園に出発する。少なくとも私はこの程度じゃあほとんど疲労することすら無いし、久し振りにマルトーの料理が食べたくなったから少し急ぐ。
空を飛んで移動することの利点は、外敵に襲われにくいことよね。襲われそうになっても加速すれば逃げ切れることが多いし、逃げ切れない場合はちょっと魔力を込めて睨み付けてやれば野生の動物はさっさと逃げ出す。それでも逃げ出さなければそれは明らかに誰かが躾ている獣で、私のことを監視していると考えることができる。
私の世界だと主にロマリアの担い手と使い魔が“窓”やルーンの力で魅了した鳥獣に見張らせていたり、周囲のゲルマニア貴族が使い魔を放っていたりしていたけれど……全員見事に撃退して見せたわ。“エクスプロージョン”は本当に便利ね。狙った空間をピンポイントで爆破できる上に爆破の前兆が無いから脳味噌を直接爆破すれば避けきれる奴は殆ど居なかったし。
ちなみに、上空の使い魔の頭を爆破した後には『ふっ……汚ねえ花火だ……』と言うのが習慣になっていた。意味はよくわからないけれど、暫くして肉片が降り注いで来た時には確かに汚いと思ったりもした。ドラゴン肉のステーキは結構美味しかったけど。
……と、そんな適当な考えはどこかに放置しておくとして、魔法学院に到着。ルイズとシエスタの言っていた銃士隊の人間は一人もいないようだけれど、かわりに戦争から生きて帰ってきた男子生徒達が結構いるらしく、男子寮には所々灯りが付いている。
真夜中の学院の中庭に無音で着陸する。私の後ろではルイズとシエスタが同じように着陸し、すぐに勢いを殺して私のすぐ近くで止まる。
とりあえず私達は無言のまま、女子寮のルイズの部屋に行く。シエスタは使用人寮に行こうとしていたけれどルイズがそれを阻止し、手を引いて来ていたから問題は多分無い。
ルイズはどうやらシエスタがお気に入りになったようで、私のいない間はシエスタに添い寝してもらって寝ていたそうだ。だからシエスタがルイズの部屋に入るのを見ても誰も何も言わないらしく、私の心配はどうやら無意味な物だったようだ。
それで今日はと言うと、ルイズは私とシエスタの三人で一緒に眠りたいらしい。その交渉をするために私が騎士アニエスを置いてから暫くの間姫様に交渉していたらしく、上手いこと学院からシエスタの雇用権を貰うことに成功したそうな。
要するに、今のシエスタは文字通りにルイズのものと言うことらしい。
シエスタはルイズのことを主としたい、ルイズはシエスタを自分のものにしたい。そんな二人の願いが綺麗に叶えられる形になったわけね。おめでたいこと。
……だけど、このままだとルイズが不毛な道に走っちゃいそうで少し不安だわ。私とシエスタとカティ……好きな相手が同性ばかりなんだもの。しかもそのうち二名は同性どころか同姓で、更にその中の一名は同姓どころか同一人物。……これはいくらなんでもマズイわよね?
永続性転換薬だって無い訳じゃないけど……前に一回イチカに使ってみて凄いことになった(ただし、何故か半日で効果切れした。他の相手には解除薬を使うまで効果があったのに……どうしてかしら?)し、色々解決することはするけど……同じくらい面倒なことになるから辞めておきましょう。元々これ悪戯用兼拷問用だし。
そう言うわけで永続性転換薬を使うことは却下の方向で。下位互換の一時性転換薬だったらともかく、永続型は鬼畜すぎるもの。ナハトニッドに侵入してきたロマリアの腐れエセ神父共はこの薬と他のいくつかの薬を使われて『美人だけど高慢な女司教を自由にできる高級娼館』に放り込まれた上に死ぬこともできず客の相手を続けさせられ、最終的に意識の方まで女になって平民の相手を喜んでするようになり、どこかの誰かに買われて幸せな余生を送ってもらったりする……ってこともよくあったしね。
当然ながらそう言うことの対象になったのはこちらに賄賂を要求してきたりした腐れ神官だったし、同じ目に会いたいと思う奴は少なかったから何度も続いたら結構静かになったし。
……一時期右手の甲にルーンを持つ月目の女性神官も居たりしたけれど、気にしちゃいけない。気にしたら負けよ? 何に負けてるのかは知ったことじゃないけどね。
一つ言えることがあるのだとしたら、教皇様も一応男だったってことかしら? まるで『信じて送り出した自分の使い魔が人間としての尊厳なんて考慮されないレベルで壊された』時のような悲痛な顔をしていたけれど、いったい何があったのかしらねぇ? 私は何にも知らないわよ?
……“忘却”は記憶に蓋をするんじゃなくて記憶を根本から消滅させる魔法だから、かかれば完璧。ってことは、かかっていなかった人間その他の種族は“解呪”なりなんなりで身を守ったんでしょうね。“虚無”の魔法を防げる結界やマジックアイテムなんて早々作れるものじゃないけど、少数ああいうのが残った理由がこれならわかる。
……まあ、全て私達に手出ししてきたから色々と理由をつけてハルケギニアからもそれ以外からも永久に退場してもらったけどね。どうでもいいけど。
さて、それじゃあ私は適当に襲撃を受けたらしい魔法学院内部を見て回ることにする。あんまり黒いことや過去の事ばかりを気にしていても何も始まらないし、ついでに言うなら私は過去は懐かしむ以外には振り返らないタイプなのよね。
イチカがそんな感じだったし、イチカの周りの存在も大体そう。だから私もそれにつられてそんな感じになってしまった。別に困ってはいない……と言うか、イチカと一緒なのはむしろ嬉しい。
「……相棒。なにニヤニヤしてんだ?」
腰元のデルフリンガーが茶々を入れてくるが、それもあまり気にならない。今の私はちょっと機嫌がいいからね。
「昔の事を思い出してたのよ」
「…………そりゃあ、さぞかしぶっ飛んだ人生を送って来たんだろうな。振り回されてきただろう奴らにお祈りしとくぜ」
確かに、結構ぶっ飛んだ人生ではあったけれど……楽しい人生でもあったわね。
笑いあり、涙あり、苦労話も黒い話も子供の前ではとてもとてもできない話もそこそこあり、個人的には後悔の無い爽快な人生だったと思っている。
唯一それに傷があるとすれば……イチカとの子供がいなかったことね。残念。
その残念さをこめて、私はシルバーローブ・メイドフォルムのエプロンの裏い口を開いたアンダーグラウンドサーチライトから水精霊とアンドバリの指輪の入った小瓶を取り出し、中身を噴水に放り込んでおく。これで水精霊との約束は果たしたわ。
……さて、これから何をしましょうか…………。
デルフリンガーとレアの話は現在鋭意執筆中です。普段より長くなりそうな予感がひしひしと……!