side 織斑ルイズ
毎日の日課としての鍛練は、けして飽きるものではない。自分が成長するのを自覚することは楽しいし、気が緩んだかどうかして以前よりも結果が落ちると悲しいし悔しい。そしてそれらの感情は体を動かす原動力になるし、メイジならば精神力に変わる。
だからこそルイズはああして特大の精神力を保有しているわけだし、他のメイジ達も少しずつ魔法の腕を上げてきていると言う結果が生まれているってこと。
私も『普通剣・八斬一突』や居合をできる回数が少しずつとは言え上がってきているし、“ブレイド”とデルフリンガーの二刀流にも手を出す時間が取れるようになった。良いことばかりよね。
さて、それはそれとして……ジョゼフから手紙が届いた。“瞬間移動”を使った傍受不能の超隠密の手紙なんて、便利だけれど贅沢すぎて使うものはほとんど居ないだろう。一応“瞬間移動”は虚無魔法だしね。
手紙の内容は、『計画開始準備完了』。どうやら必要事項は揃ったらしい。これからまた予想外の事が起きたらそれに合わせて計画を修正していくとして……とりあえずいくつか計画の修正が必要になりそうな出来事が起きるでしょうね。例えばビダーシャルがガリアにやって来たりとか、ビダーシャルがガリア……と言うかジョゼフに仕えるようになったりとか、そう言うのが。
まあ、それはそれで面白そうだから伝えないでおくけどね。やることは変わらないし。
そして、私は既に計画を実行しているだろうジョゼフに向けて短く手紙を書く。短く一文。『健闘を祈る』と。
…………それじゃあいつも通りにお仕事しましょう。今頃タバサは悩んでるだろうけど、その辺りは仕方ないと割り切って。
とりあえず、ジョゼフを殺させることくらいはさせてあげるし、お母さんの心を直す薬も…………あ。
……そう言えば、あげるの忘れてたわ。まあ、今度タバサがガリアの自分の家に帰ることがあったら……いやいや、ジョゼフ本人はともかく、ジョゼフ派の馬鹿は暴走しかねないわね。
仕方がない。それじゃあ計画が終わったら『宝物庫からパチって来た』とか『エルフの知り合いに賭けで勝った時に貰った』とか『知り合いが作った奴を持ってた。前にあげようとしたら『そんなのいらない』って言われたからしまっておいた』とかそう言う風にして渡しておこう。
実際に前に薬をあげようとはしたし、私は何も間違ってない。私は悪くない。
ちなみに計画の内容を超・大雑把に説明すると、
①戦争
②“忘却”
③教会襲撃
④逃げる
と、こんな感じになる。
前回は教会などにブリミル教の経典とかを残しておいたのが失敗の原因だった。だから今回は教会などに保存されている全てのブリミル教の聖書および始祖像などを纏めて破壊することで、ブリミル教の復活を阻止する事が狙い。
方法は“エクスプロージョン”でいい。あれは一応狙ったものだけを攻撃できる上に攻撃範囲も広いから広域殲滅にはもってこいだし、ついでに狙ってないものには効果が全く無い。人にも物にも効果のあるなしを決めるのは私だけ。便利な魔法よね。
今はまだ戦争の火種をばらまいている段階。大国ガリアとその他の全ての国と言う絶望的にも見える状況に持っていくために、ジョゼフやシェフィールドだけではなく私も動かなければならない。
運よく私はトリステインの王族にそれなりに近い。だからこそ真正面から姫様に接触するも裏からこっそりマザリーニに接触するも自由自在。状況と立場によって接触方法を使い分け、その時により都合のいい方に状況を引っ張っていく。そうすることで私はハルケギニア全土を戦争に巻き込まんとしている。
……恐らく今頃は、タバサの元にジョゼフからの手紙が届いている頃だろう。ガリアの暗部、北花壇騎士として、私を殺せ……と言う命令書が来ているはずだ。
日時は、もうすぐやってくる舞踏会の日の夜。舞踏会の真っ最中。私と戦い、できるならば命を奪い、できなければひたすらに時間を稼ぐ。命令書にはそれだけしか記されていない。
一応それなりに交遊関係はあるし、ある程度……向こうも殺したくはないと思ってはくれるだろうと言うくらいには仲もいい。
まあ、タバサ自身がそれで私を殺せるかどうかは別問題。あの程度の神秘で私を傷つける事なんてできないわ。これは英霊や精霊、神霊の特権よね。便利便利。
戦士系の世界だったらまず確実に英霊や神霊を傷付けられる相手なんていないし、この世界ならかなり強めの魔法じゃないと毛先ほどの傷すらつかない。最低でもスクウェアくらいは無いと。
私が人間だった頃ならドットスペルでも十分殺せたんだろうけど、もう英霊になっちゃってるものね。暗殺者の皆さんには悪いことをしたとほんの少しも思ってません。むしろざまあ。ざまあ。ざまあwwww
「……楽しそうだな、相棒」
「結構楽しいわよ? デルフリンガーもやらない? 悪役ごっこ。今なら悪の女幹部の座が空いてるわよ?」
「誰がやるかよそんなもん。なにやらされるかわかったもんじゃねえ」
……この前人型になってから勘がよくなったわね。直接的に危機に陥ったから、道具ではけして持てない生存本能ってやつが働いて勘がよくなったのかしら。
お陰で私はデルフリンガーと遊ぼうとしても逃げられちゃうことが増えてちょっと残念。この悲しみは消えることは多分無いからちょっとぶつけても問題ない相手が来るまで奥底に溜め込んでおきましょう。
デルフリンガー本人にぶつけるのもいいけれど……あんまり嫌がることばっかりしてるとデルフリンガーに嫌われちゃいそうだもの。
……まあ、デルフリンガーがなんと言おうと私がデルフリンガーを持っている限り、デルフリンガーの立ち位置は私の相棒で左腕なんだけどね。もしも私が魔王とか言われるようになったら、多分デルフリンガーはなにもしないでも悪の中ボスって感じで収まるでしょうし、同時に悪の女幹部の座も……。
「おーい相棒よーい。なに考えてるのかわかんねえけどとりあえず俺は悪の組織の幹部にはならねえぞー」
「えー」
「『えー』とか言っても駄目なもんは駄目だぞ。俺はやらねえかんな」
デルフリンガーに袖にされてしまった。悲しいわ。くすん。
こうなったら、デルフリンガーが折れるまでやるしかないわね。
「……相棒? 『折れる』ってのは比喩表現だよな? マジで俺が折れちまうまで痛め付けるとかそんなことはねえよな?」
「勿論」
「勿論……どっちだよ!?」
なんだか少し必死そうに見えるデルフリンガーを放置して、私はのんびりと行動を再開する。さて、いったいどんな楽しいことが私を待ち受けているのかしらね?