side 織斑ルイズ
ぶとうかい、なう!
一応注意しておくと、『武闘会』ではなく『舞踏会』ね。もし武闘会だったら確実に勝利は私の物よ。
ただ、こういうところで開かれるそれなりに大きな大会だと不正が多いし、それに優勝して箔をつけようとする馬鹿な奴が多く出そうなので出場は辞退しそう。
まあ、そんなことを言いつつも実際には武闘会じゃなくて舞踏会なんだから関係の無い話なんだけどね。
……と、そんなことは置いておくとして……この舞踏会では誰もが姿を変える。つまり、私がこっそり入り込んでいても気付かれるような事はまず無いってことね。
それに、理想の姿になっているはずの参加者の中には何故か私が何人も居る。普段通りの黒一色に染まったメイド服に袖を通し、黒いカチューシャと黒手袋をつけている。
流石に左手の甲にあるちょっと壊れたガンダールヴのルーンまでは再現されていないみたいだけれど、それでも手間と効果を考えると十分に使えるものだと思う。
私はなんでもないかのように平然とした顔で会場に入り、ぐるりと一周辺りを見回す。
……あそこでは踊っている『私』と『私』はルイズとシエスタね。ちょっと注意して見れば結構簡単にわかるわね。
それからあそこでギーシュと一緒に踊っている二人の『私』はモンモランシーとケティ。ギーシュはどうやら他にも何人も居る『私』の中から見事にモンモランシーとケティの二人を見つけ出して見せたらしい。
……やっぱり、ギーシュは少しは男前になったみたい。器の大きな甲斐性のある男を捕まえられたモンモランシーとケティの二人には、とりあえず祝福の言葉を贈っておいてあげよう。
と、それはそれとして私は変身しないままに料理をつつく。やっぱりマルトーの作った料理は美味しいわね。食べないでも平気だけれど、食べた方が幸せだしね。
それに一応魔力の節約にもなるし、残した物は捨てられちゃうからもったいない。そんな風に捨てられちゃうくらいなら、事実上容量に限界がない私が食べた方がずっといいわよね?
と言うことで頂きます。私は作戦決行までは暇だし、食事の直後に運動をしたところで私は特に行動を阻害されたりはしないもの。
……まあ、年に一度のスレイプニィルの舞踏会なんだから、楽しみたい人は楽しめるだけ楽しんでいればいいわ。私も私なりの方法で楽しむだけだし、展開は読めない方がお話としては楽しいものができるもの。是非とも全力で引っ掻き回してくれるとありがたいわ。
「……で、相棒は引っ掻き回されたその舞台を更に上から引っ掻き回して遊ぶ……と」
「よくわかってるじゃないの。もしかして思考回路が私に少し似てきた?」
「ねーよ。相棒のぶっ飛びっぷりに少し慣れてきただけだっての」
「あ、デルフリンガーも食べてみる? 食べたこと無いでしょ? 剣だし」
「食べねえよ。食べたいとも思わねえし食べる必要もねえからな。剣だし」
ちょっと話を吹き飛ばしてみたけれど、デルフリンガーからのツッコミは無い。少し前までならここにツッコミが入ってきたはずなのに……悲しいわ。とても。
デルフリンガーも昔の私と同じように吹っ切れて、相手をからかうことに楽しみを覚えるようになっちゃったのかしら?
「もっとねえよ。俺のこれは呆れてんだよ。疲れたからもうツッコミたくねえってのもあるが、やっぱ面倒になってるんだよ」
「デルフリンガーがツッコミを入れなかったら被害者は増えていくわよ? 騎士アニエスとか」
「……卑怯者め。普通こんなことに人質まで取るか?」
「人質? なんの話かしら? 私はただ『そうなる可能がある』って言うことを話しただけよ? 人質なんてそんなそんな……」
……と言うか、別に同類が増えても問題ないわよね? どうせデルフリンガー自身には無関係なんだし、ついでに仲間が増えれば寂しくもないわよ? もしかしたら私を逆に言いくるめることができるようになるかもしれないし。
「ハ、よく言うぜ。そもそも本気なんざ出そうとしないくせによ」
「当然でしょう? 私が本気でやったらこの世界なんて5分も持たずにまるごと消滅するわよ?」
「……もっと早く終わらせることができると思ってたぜ」
「0.02秒も4分59秒99も『5分未満』には変わりないでしょう?」
「確かにな。…………ってちょっと待て。もしかして相棒、0.02秒で世界まるごと消し飛ばせるのかよ!?」
……できなくはない。あんまりやりたくないからやってないけど、可能か不可能かだけを率直にかつ正直に言えば『できる』。疲れるし面倒だし面白くなさそうだからやらないだけで、やろうとすれば……まあ。
ただ、何度も言うけれど面倒だし楽しくないし疲れる。特に世界を終わらせるくらいの高威力の魔法を無詠唱で使うとなると、流石に魔力の消費量が心配になってくる。
…………まあ、あくまでできるかできないかで言えばできると言うだけの話なので、やるやらないは別の話だ。私は今のところ世界を滅ぼす気は無いし、その予定も無い。
少なくとも、私を楽しませてくれそうなモノがこの世界に存在している限りは世界を壊すことなんて考慮することすら無いだろう。安心していいわよ、デルフリンガー。
「……一応形だけ安心しとくよ」
「好きになさいな」
私は疲れたように呟いたデルフリンガーにそう言い残して、食事の手を早め始めた。
……うん、美味しいわ。
side タバサ
ガリアからの命令書に書かれていた内容を思い出しながら、動けなくなることがないくらいに料理を食べる。
任務の内容は、トリステイン魔法学院にて『漆黒メイド長』と呼ばれ、学院で働く全ての平民と一部の貴族から絶大なる信頼を寄せられている彼女……レア様を殺害するか、あるいは事が終わるまで時間を稼ぐこと。方法は問わないし、誰を巻き込もうと問題ない。
……とは言うものの、正直彼女と敵対はしたくない。なにしろ彼女自身が強力なメイジであり、さらに近接戦闘でも中距離・遠距離戦闘でも圧倒的な能力を誇る事は、ラグドリアン湖の畔で一戦を交えた時点で紛れもない事実として記憶しているし、現にスクウェアクラスに昇格した今の私とキュルケの二人が同時に戦っても魔法すら使われずに鎮圧される。
……『フェニックスウィング』と言うらしい掌打で魔法を弾き返したり、『カラミティウォール』と言うらしい高速で迫り来る衝撃波の壁に撃った魔法ごと吹き飛ばしたり、『カラミティエンド』と言うらしい手刀でキュルケの“フレイム・ウォール”と私の“アイス・ウォール”を同時に両断するような相手を、どうやって足止めすればいいのか。
あえて言おう。無理であると。どう考えても不可能であると。
しかし、この任務を成功させれば母様の心を治すことができる。母様が、私のことを名前で呼んでくれる。私を抱き締めて、撫でてくれる。
……私は覚悟を決め、ぐっと杖を握り締めながら時間を待った。……できることなら永久に来て欲しくないと言う思いと、早く来て欲しいと言う矛盾した願いを胸に秘めながら。
ストックがなくなりました。もしかしたらまたちょっと止まるかもしれません。パソコンの調子も良くないし。
それでは。