この世界には『伝説』と呼ばれる者がいる。
ーー「さあ次はルイズ、やってみなさい。」ーー
ゲームでいえば『「」』(空白)が其の主な例だろう。
ーー「やめておきましょうよ、先生。ルイズの奴がやったらどうなるか分かったモンじゃない。」ーー
彼もしくは彼女は主にMMORPGに出現、チートを使う奴まで倒す力を見せた、尤も最近は見なくなったが。
ーー「そうだそうだ、あいつは『ゼロのルイズ』だからな。」ーー
さらに『M』(エム)というゲーマーもいる。
ーー「いや、やるわ。」ーー
彼は全般的なゲームに出てきて、来る敵、相手を容赦なく打ち負かしている。顔も割れているがこの頃姿を見せなくなった。話では其れらしき人物が大学病院で同じ天才ゲーマーである『N』(エヌ、こちらは伝説級ではない)と話し込んでいるのを見たとか。
ーー「やっぱり失敗じゃない!」ーー
そしてもう一人、速さを追求する『TAS』というゲーマーがいる。
ーー「いや、中になんかいるぞ!」ーー
然し伝説とは案外蓋を開ければそこまで其れらしきものではない。
ーー「此れは……平民の少女!?」ーー
例をあげれば、その神速の『TAS』は少女だったりする。
私の名は鶴脚水蘭 多須、つしみらん たす、と言う。下の名は兎も角上は読みにくい、と思うかもしれないが読めないことはない。尤もネットから同じ名字が出てきたことをみると、キラキラネームというほどの奇怪さは持ち合わせていない、そんな名だ。種族で言えばスラブ系、国籍で言えば日本人。親はいない、数年前に異国の地にて捨てられそのまま孤児院やら誰かの家やらを回って、最終的に帰化し、又自身の家を手に入れられた。最終学歴はなしだが
そんな私にとってこの状況は不可解なものにあった。周囲を見渡せど高層ビルなどないし、水田も少なくともここからは見えない。所謂中世の欧州の建造物に近い者が立ち並び、幕府やら工場やらといったものですらない。そして周囲には何処の学校とも、もしくは企業とも取れない制服を着た人々が佇んでいた。先にも言った通り、其れは一般企業に見られるワイシャツにスーツといったものでもなく、軍服を模した学ランやセーラー服でも、ブレザーですらなかった。そして中から桃色の髪をした少女、私から見れば十分年上だが一般的な感覚より便宜上少女とさせて頂く、が話しかけてきた。
「あんた、誰?」
これは素直に名前を聞かれているだけなのだがそうとは取りにくかった。個人情報というのは命と同等の存在だ。若し無闇に教えた場合どうなるかは専門家だろうと想像もつかない。
「さあ、ご想像にお任せするわ。」
「教えてくれないと困るの。」
「だったらリアルタイムアタックとでもしておこうかしら。」
「あんた、記憶喪失?」
「いえ、全然。」
「そう、まぁいいわ。それで何処の平民なの。」
平民、ねぇ。これはひょっとして一般人を指してるのだろうか。
「え……と、平民ってことは即ち一般市民ってこと?」
「一般し……何y」
「ルイズ、『サモンサーヴァント』で平民を呼び出してどうするの。」
其の少女、ルイズというのだろう、の応答は別の声にかき消された。然し奴ら平民平民、馬鹿にされている気がする。こいつらには現代社会において市民がどのぐらい重要であり脅威なのかをきちっと教えてやらねばなるまい。そう思いまずルイズに話しかけようとするが彼女はお取り込み中、というかただ皆に笑われている。
「ちょ、ちょっと間違っただけよ。」
「それを聞くのはもう何回めかな。」
「さすがは『ゼロ』のルイズ。」
そしてどっと哄笑が騒々しくなる。自分のは自意識過剰にしても彼女は馬鹿にされているようだ。そういう者が一つ頼れるところがあるとすれば何処か、それはここでも同じだったらしい。
「ミスタ・コルベール!」
此処が教育施設であることはこの台詞からはっきりした。然し当の先生は馬鹿げているとしか思えない格好、具体的に言えば典型的な魔法使いのそれだった。とすると考えられる可能性はいくらかある。一つは仮想世界に入り込んでしまった可能性。一つは幻覚を見ている可能性。そしてパラレルワールドに来てしまった可能性。そして新興宗教か何かの共同団体に捕まった可能性。ここから模索していく必要がある。其のためにはまず情報が必要……と彼らの会話に耳を傾けた。
「なんだね。ミス・ヴァリエール。」
「あの! もう一度召喚させてください!」
「それはだめだ。ミス・ヴァリエール。」
「何故ですか!」
「二年に進級する際、君たちは『使い魔』を召喚する、それがルールだ。そして現れた『使い魔』から属性を判断する。春の使い魔召喚は神聖な儀式だ。一度しか呼び出すことはできない。」
「然し! 平民を使い魔にするなど……」
「これは伝統だ。ただの平民にしろ呼び出されたのなら使い魔としなければならない。この儀式のルールは全てに優先する。」
「そんな……」
成る程、あくまで彼らの視点からという制限付きだが、情報が飲み込めてきた。彼らは『春の使い魔召喚』の真っ最中、そしていかなる過程かは知らないが、ルイズとかいう少女の使い魔として私が選ばれたわけだ。ただし元の問いはまだ未回答だ。解が見つかればいいが……と、不意にルイズがこちらに近づいてきた。
「ねぇ、あんた感謝しなさいよね。」
「んぁ?」
「貴族にこんなことをされるなんて、普通は一生ないんだから。」
宗教というのは恐ろしいものだ。有名大学の構内に注意書きが貼ってあるのもわかる気がする。まぁ貴族と会うのが一生に多くはないのは確かだろう。尤も会いたいとも思わないが。それで、何をしに来たのかと思ったら中二病特有の詠唱を始めた。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」
そして、杖を私の額に置くと……こ、これは
「ひゃっ、何すんのよ。」
「へ、だって『してよかった』んじゃあなかったの。」
「違うわよ。何よ平民のくせに。」
「貴族は平民がいないとろくに金も稼げないんだよなぁ(指摘)。」
そんな最後の言葉は無視され、彼女は先生に報告しに行ったようである。其の間にまずは持ち物を確認しておこう。えっと、
・スクリブルノーツ
・COAT『BABYLON34 真夏の夜の淫夢 〜the IMP〜
・テレビゲーム『仮面ライダー サモンライド』のライダーゲート
・テレビゲーム『四八(仮)』(ディスクのみ)
・GENM CORP.の筐体に似た何か
誰得なんだろうか。兎に角ヨンパチとひではあとで割っておこう。然しスクリブルノーツがあるのはかなりの得手だ。この先心配する必要はなさそうだ。と思ったのもつかの間、体がほて、いや暑くなってきた。
「アツゥイ! アツゥイ!」
するとルイズが戻ってきて冷静に応答した。
「すぐ終わるわ。使い魔のルーンが刻まれてるだけよ。」
「救いはないんですか?」
「あのね?」
「ファッ!?」
「平民が貴族にそんな口利いていいと思ってるの。」
お前後で日本国憲法を朗読してこい。と、いつの間にか火照りも消え、左手の甲に何らかの模様が描かれた。話によれば此れがルーンとやらなのだろう。教師らしき人物がまじまじと見ているが、そんなに珍しいものなのか。
「さぁ皆んな、教室に戻るぞ。」
そして其の言葉とともに……他の人々が一斉に
「ルイズ、お前は歩いてこい!」
「あいつ『レビテーション』すらまともにできねぇんだぜ。」
「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ。」
そうかそうか、お前らはそういうやつなんだな。其の分こちらから仕返しを「あんた、何なのよ!」
「何か?」
「わかるでしょ、あんたのせいで皆から笑われてるのよどうにかしなさい!」
そうか、成る程。それじゃあ
「どんな手段を使ってでも?」
「ええ、でもあんたに何ができんのよ。」
然し私は其れに答えず、代わりにノートに二つの単語を入力した。『戦車』『磁石』たちまちそれらが具現化する。
「乗り込め。」
「主人に対してそn「だから乗り込めって言ったのが聞こえなかったの? ご主人様の召喚したこの私がただのホモサピエンスじゃないってこと、其れを示すいい機会じゃない。」
其の言葉にルイズはしぶしぶ乗り込む。そして私も乗り込んだ後、
「えっ、何此れ、浮いてるの?」
戦車は高速で回転をしつつ飛び始めた。其の勢いはただの移動用の魔法なんぞとは比べものにならず、次々と追い抜いて行った。そんな訳で意味不明の飛行物体に驚いた生徒たちが教室に入ると、
「どうも、これはこれは。随分遅かったようで。あとここで私を倒すとフリーズするので悪しからず。」
『ゼロ』のルイズと其の使い魔がいた。
「はぁ、何でこんな田舎者が呼ばれたのかしら。」
時は戌一刻あたり。自分の寮部屋でルイズは告げ口を利いてきた。勿論無視する訳にもいかないので言い返した。
「此処に比べたら東京はまるで都会だが。」
「はあ? トウキョウ? 何処よ其処。」
「東京、東の京と書いて東京。北緯百卅六度四分十一秒から同百卅九度一分六秒、東経百五十三度五十九分十一秒から同百卅六度四分十一秒に存在する都道府県で日本国の首都。その経歴は主に江戸時代から続いており、未だ城下町が残る部分もある。とまぁこんなところかしら。」
「トウケイもホクイも分からないけど、少なくともあんたの知る場所じゃないみたいよ。此処はトリステインでその魔法学院が此処よ……何よ物珍しそうに。」
「いえ、私のいた世界では、日本に限らず世界中で、魔法なんてものはなくって代わりに科学が支配してたわ。いや魔法と呼ばれるものはあったにしろ、其れとはだいぶ違ったわ。」
「例えば?」
「そうね、体は剣で云々かんぬんといったら荒野の中に剣がいっぱい刺さった結界ができたり、指輪を腰帯に翳すと煩い音と一緒に魔法が発動したり。」
「へぇ。兎も角ここは魔法学校、私はルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。あんたは私の使い魔。いいわね。」
「私としては一刻も早くゲームがしたいんだけど。あとネット。早くVIP速報が見たいわ。」
「此の由緒正しいヴァリエール家の三女が何であんたみたいなのを使い魔にしなければならなかったの。」
ふぅーん、私をあんたみたいなの呼ばわりね…
「『あんたみたいなの』とは随分な言われようね。」
「何、抗議するつもり?」
「いや、どうせ使い魔なんだし。でも、私を従えておけば
「はぁ、全く……」
「そうそう、此方からも名前を言う必要があるわね。私は鶴脚水蘭多須、鶴翼の鶴、腕と脚の脚、流れる方の水、蘭学の蘭、多いと書いて多、須くと書いて須、とこんな感じよ。」
説明したものの反応は鈍かった。そうだろう、表意表音文字があるとは限らないのだから。後そうそう、確かめておきたいことがある。私はノートに『iPad』と書いた。するとかの有名なタブレットPCが目の前に現れた。
「何、さっきの魔法!」
「スクリブルノーツね。書いたものを自由に召喚できる。原理は知らん。それより問題はこっちだ。」
そう言いながら上部の釦を長押しする、とたちまち禁断の果実のマークが現れ、数秒後見慣れた画面へとなった。
「こっちは何の魔法なの。」
「これは魔法じゃない、科学だ。此れが起動するということは此の世界でも科学が使える、其れが試したかったの。
「そもそも科学っていったい何よ。」
「簡単にいえば自然を人間にとって好都合な形で再現した、といったところかしら。尤も過程で自然界にないものもあったりするけど。兎に角、此れは自然そのものとも言えるから万人に、平民だろうと魔法使いだろうと、使えるわ。」
「どうしてそんなのができるの?」
「そうね、皆んな物が上から下へ落ちるのは知っている。だから風車を使って仕事をさせられた。其れと同じで物が擦れた時に電気を帯びるのを知っている。ほら、雷は雲が擦れた時の静電気だし羊毛の服は冬パチっとくる。雷魔法でそんな覚えあるだろ。だから紙をずっとこすっていれば電気が人工的に作れる。」
「へ、へぇ、もしやと思って考えたことあるけどそうだったのね。」
「寧ろ、考えたことがあるってのが驚きよ。魔法を使っていると常に自分本位で庶民より上に立とうとするだろうから。」
「私だって自分本位よ。ただ魔法が使えないだけ。だから使えるように書物を読み漁るし自分にしかできない能力なんて考えたりする。御蔭で魔法の基礎から応用まで全て知っているわ、魔法が使えないのと引き換えにね。」
成る程、ゼロね……
「面白いじゃない。」
「へっ?」
「あなたは『ゼロ』のルイズ。然しルイズは魔法使い。こんな面白いパラドックス見たことないわ。私の主人として申し分ないわ。」
「上から目線は兎も角、そんなに素晴らしいことかしら。」
「そうよ。其れに貴女は魔法を使うために日々努力していた、そういうの私、好きよ。」
「えっ、好きって……」
そういうルイズの顔を此方に寄せ、こう囁いた。
「貴女と私なら、きっと最強になれる。」
鶴脚水蘭 多須 つしみらん たす
ロシア系の日本人。かなりの美貌と稀有なゲームの腕を見せる。其の所為か現実でも物理法則を無視しようとする変態。挙句は倫理と児ポ法まで無視しようとする変態。金髪ロリ美少女が好きというが本人がまさに其れである。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
魔術師でありながら魔法が使えない「ゼロ」の魔法使い。一方で其れを補うためにつけた学力はとてもよく、また強い観察眼と融合性、独創性を持っている。