そんなわけで、約一か月ぶりの投稿はマリアさんのいっぱい食べる君が好きシリーズになります。
書いていて、なぜだかコントみたいな会話になってしまった二人です(なんでだろ)
他で上げさせて頂いているシリーズの続きも、一応はのんびり描いておりますので、どうか身構えず待っていただけると幸いです……。
「待ちなさい立花響ッ! そんなに走って――どこへ行こうというのッ!」
ワタシを追いかけながら走るマリアさんから、そんな必死な声が上がった。
しかし、そんな彼女からの叫びにも応えずに、ワタシは自分の足を止めようともしない。
「任務が終わった途端、いきなり走り出したりなんかして……一体どうしたというのよッ!?」
マリアさんの困惑したような声。
叫びながらもきっちりと、全速力で走り続けているワタシに付いてきている辺り、さすがマリアさんだなぁと、余裕の無い頭の片隅でそんなことを暢気に考えていた。
それは今から遡ること、数十分前の出来事である。
ワタシとマリアさんは、二人でS.O.N.G.の出撃任務にあたっていた。任務の内容は、高速道路の上で発生したという、大規模な交通事故。
どうやら事故を起こした車が派手に出火してしまって、他の車両にも引火する可能性があるため、迂闊に近付くことの出来ない消防隊の代わりに、私たちS.O.N.G.に出動要請が入ったのだ。
事故に巻き込まれてしまった人たちを、シンフォギアを使って救出、保護する任務。
いつもなら、クリスちゃん達も一緒に出撃する場面だったのだが、たまたま事故現場にすぐに駆けつけられるのが、ワタシとマリアさんの二人だけだった為、任務はワタシたち二人だけで行うことになった。
とはいえ、最年長者であるマリアさんが一緒に居てくれることは、もうそれだけでこの上なく頼もしいもので、特に任務に滞りもなく『死者ゼロ』という最高の形で、救出任務を完遂することが出来た――ハズだったのだが。
それは、師匠からの帰投指示を受けて、呼んでもらった迎えのヘリをマリアさんと一緒に、道路の上で待っていた最中のこと。
「……ハッ!? き、聴こえるっ……!?」
いきなりそんなことを呟いたかと思うと、ワタシがヘリを待っていたそのポイントから、突然駆け出して行ってしまったのである。
「えっ!? ちょ、ちょっと――貴女ッ!?」
面食らったのはもちろん、なんの脈絡無く置いてけぼりにされてしまった、マリアさんのほうだった。
そして、そこからしばらくの間。
どこかへ向かって全力疾走するワタシと、それをひたすら追いかけるマリアさんという、不思議な構図が出来上がってしまったのだった。
「だからッ! 待ちなさいってばッ! ちょっと貴女ッ!? なにがどうしたというのっ!? ワケを言いなさいッ!?」
走りながら、何度も事情を尋ねてくるマリアさん。
ワタシは彼女の声を背中で聞いて、走るスピードを緩めないままに、余裕のない声で返事をした。
「たしかに聴こえたんですッ! この立花響の五感レーダーが、ビンッビンに反応しちゃいましたぁッ!! 詳しい話は後でしますからッ! 黙ってワタシについて来て下さいッ! 振り返るな全力疾走ですッ!」
「お前それ絶対バカにしてるだろうッ!?」
ツッコむマリアさんには悪いけれど、いちいち構ってあげられるような余裕は今はない。
視覚と聴覚、そして嗅覚をフルに活用しながら、自分が確かに反応した“存在”の気配を、必死に辿って奔走するワタシ。自慢ではないが、こんなときに発揮する自分の集中力は並みではない。ワタシは一切の迷いなく、お目当ての場所まで走り続けた。
「――ッ! ま、まさかッ! まだ事故の被害者が残っているというのッ!?」
ワタシの言葉を訊いてか、マリアさんがハッとしたような表情を浮かべている。しかし、目的の場所はもうすぐそこなので、悠長に返事をしている暇など無い。
事態は刻一刻を争っているのかも知れないのだから。
やがて。
「――ッ! 間違いない……ココだッ! ここですよ、マリアさんッ!」
ワタシはとある《お店》の前で、ようやく足を止めた。後ろから追いついてきたマリアさんが、ワタシが指で差し示した場所を、真剣そのものといった表情で見る。
「そうとなったら急がなくては! 早くシンフォギアを纏って、人命を助け出す……わ、よ…………?」
果たしてそこに広がっていた景色は。
狭くもなく、かといって広くもなく。今どきいっそ珍しいとさえ思ってしまうような、そんなピンク色の可愛い『のぼり』が掲げられたお店。
どことなく懐かしさを感じさせる雰囲気が漂ったそのお店は、実に庶民的な印象で、近所の住人たちから愛されていることがよくわかった。
広告代わりに出ているその『のぼり』には、ポップな字体で、大きな文字が書かれている――『からあげ弁当』。
「ひぃ~ん……いくらなんでも、殴ることないじゃないですかぁ、マリアさん……ッ!」
涙目になりながら自分の後頭部をさすりつつ、ワタシ。
「うるさいっ! 元はといえば貴女が任務中に、紛らわしい行動をしたのが悪いんでしょうがッ、まったくもうッ!」
鼻息荒く、マリアさんが噛み付くように怒鳴る。どうやら怒らせてしまったようだ。見るからご立腹な様子の彼女に、慌ててワタシは頭を下げて何度も謝った。
「ごめんなさぁい、マリアさん……。このお店から、油の跳ねる甘美な音が聴こえたもので、ついつい我を忘れてしまいまして……」
「油が跳ねる音って貴女ねぇ……ッ! ……ん? いや、ちょっと待ちなさい貴女。おかしいでしょ。さっき私たちが居た場所から、いったいどれだけ離れていると思っているの……? あの距離で、そんな小さな音を聞き分けられるはずが……」
「いいえッ! この立花響ッ、たしかに聴きましたッ! ワタシの中にある『美味いもんレーダー』が、確かにこの座標から異常な量のアウフヴァッヘン波形を観測したんですッ!」
「捨ててしまえそんな食い意地レーダーっ!」
胸を張って、一切の淀みなく言い放ってみせるワタシ。
そんな様子を、マリアさんがなんだか眩暈でも覚えたような顔をして見ていた。
「クリス達からなんとなく訊いてはいたけれど、まさかここまでだなんて……っ」
恐るべし立花響……っ、どうりで敵わないわけだ……。
マリアさんがなにやらボソボソ呟いている。
どうやら呆れられているらしいことだけはなんとなく判ったが、いまさらそんなことをいちいち気にするワタシではなかった。マリアさんのほうを上目遣いで伺いながら、もじもじと口を開く。
「そ、それでですねッ、マリアさぁん……? こうしてS.O.N.G.の任務完了後になんとも運命的なことに、大変美味しそうなお弁当屋さんを発見したのですから、ここはひとつ、本日のワタシたちのランチはここいらで現地調達を――」
「ダメよ。早く行かないと迎えのヘリが来てしまうわ。それにまだ、私たちは作戦行動中じゃないの。任務というのは、無事に基地まで帰還するまでが任務の範疇なんだから。悠長に寄り道なんてしていてはダメ」
ワタシからの渾身のご提案を遮って、ピシャリと言い放つマリアさん。元来た道を戻るように、そのまま歩き出して行ってしまう。
「……そ、そんなぁ」
ワタシは目の前が真っ暗になったような気分になって、がっくりとその場で崩れ落ちてしまった。
「あっ、こらッ! ちょっと、早く立ちなさいッ! 子供じゃないんだから駄々捏ねたりしないの、みっともないッ!」
ワタシの様子を見て、ぎょっとした顔をするマリアさん。
「嫌だぁ……ッ。お腹空いたぁ……ッ! もうここから一歩だって動けないですよぉ……ッ! 任務でいっぱい頑張ったんですから、ご褒美ぐらいあってもいいじゃないですかぁッ! お弁当ぉ~……ッ!」
マリアさんの長くて綺麗な脚に縋り付いて、さめざめ泣きながら訴えてみせるワタシ。突然入った任務のせいで、すっかりお昼を取り損ねてしまっていたワタシの胃袋は、もうとっくの昔に限界点を迎えてしまっていた。
「ちょっ、どこ触って!? やめなさいってばッ! ランチだったら、本部の食堂だって食べられるでしょう!? なにもここでわざわざ頼まなくたっていいじゃないのっ!」
「ぜんっぜん良くないですよぉッ! 外出先で素敵なご馳走グルメと出遭うッ! それこそ旅の醍醐味じゃあないですかぁッ!?」
「旅じゃない任務だこのばかものっ!」
と、そんな調子で。
ぎゃあぎゃあと、ワタシたちが道路の真ん中で言い合いをしていると。
――ジュワァァ!
『っ!!』
目の前のお店から、そんな、なんとも耳に心地の良い軽快な音が聞こえてきた。
同時にうっすらと辺りに漂ってくるのは、揚げ物特有の香ばしい匂い。
「貴女がさっき聴いたというのは、この音のことだったのね……。よくもまぁこんな音を、あんなに離れた場所から聞き取ってみせるものだ――って、居ないッ!?」
マリアさんから驚いたような呆れたような、そんな複雑そうな声が上げる。しかし、そのときにはすでに、ワタシの姿はお弁当屋さんのショーウィンドウの前にあった。
赤い屋根が印象的な、お持ち帰り専用らしいその店構えは、まさに『街のお弁当屋さん』といった風の外観。
お弁当の食品サンプルがずらりと並んでいる注文カウンターのすぐ隣には、そっくりそのまま調理スペースが並ぶように設けられているらしく、窓ガラスによって中の様子が覗き見ることが出来た。
ワタシはその窓にかぶりつくようにして、調理場の様子を必死に伺っていた。
油がたっぷりと張られた大鍋。その前で、割烹着を着た四十代くらい女性が、下処理の済んだ鶏肉をせっせと鍋の中へ、丁寧な手つきで放り込んでいる。
鶏肉が油に浸かるたび、パチパチと耳触りの良い音が響いている。
すると同時に、下味に使われていると思しき醤油と、鶏肉の脂が混ざり合った、えもいわれぬ芳ばしい香りがガラスを越えて、ワタシの鼻にまで濃密に漂ってきた。
「あぁ……まさにこれぞ、胃袋を直にスクラップフィストするか如き、力強い美食の調べ……ッ! もうこの匂いだけで、ごはんがイケる……ッ! ごはん&ごはん……ッ! まさに炭水化物の永久機関だよぉ……ッ!」
「ワケのわからないこと言ってないで、ホラっ。さっさと本部へ帰るわよ!」
ぐいっと、首根っこをマリアさんに掴まれて、ワタシ。そのままマリアさんがワタシの身体を引っ張って行こうとするが、かぶりついていた窓の縁枠をがっちりと掴んだワタシが、それに全力で抵抗しようとする。
「う、嘘だッ!? こんなに素晴しい旋律を前にして、この場を去ることの出来る人間なんて居るハズがないですよぉッ!? ハッ!? もしやこれが噂に聞くLiNKERの副作用ッ!? 積もり積もった過剰投与による弊害が、まさかこんなところにッ!?」
「そんなわけッ! ないッ! で、しょぉう……ッ!? ていうか貴女、常識外に力が強いんだから、全力で抵抗なんてされたら太刀打ち出来ないじゃないッ! さっさとその手を離しなさいッ!」
「イーヤーでーすぅー……ッ! からあげ~~ッ!!」
引き剥がそうとするマリアさんと、それに抗おうとするワタシ。
そんな、なんとも奇妙な拮抗劇を繰り広げていると、いつの間にか、から揚げを作っていた女性の姿が調理場から消えてしまっていた。
「ふふ、まぁ、仲良しさんなのねぇ」
「――ッ!?」
隣からそんな風に声を掛けられて、はっとそちらを見る。すると、いつの間にか販売スペースである注文カウンターの中で、さっきの女性が微笑を浮かべながらワタシたちのことを見ていた。
「あっ、えへへぇっ、どうもッ! こんにちはッ!」
「あぁもうっ、見なさいッ! 貴女がしつこいから、お店の人に笑われちゃったじゃないッ!」
「うぇぇ~……? それワタシのせいなんですか、マリアさぁん……?」
「うふふっ」
ワタシ達のやり取りがよほど面白かったのか、お弁当屋さんの女性が小さく噴き出しながら、
「そんなにウチのから揚げが、気に入ってもらえたのかしら?」
と、ワタシのほうを見ながら、尋ねてきた。ワタシはイチもニもなく、すぐさま答える。
「はいッ! そりゃもぅたまんないくらい美味しそうでしたッ!」
「まぁ、嬉しいわぁ」
私の言葉を訊いて、嬉しそうに顔を綻ばせると、その人は一度、調理場スペースの方へと引っ込んで。
「もしよかったら、はい――どうぞ味見をしていってくださいな」
と、小さな受け皿に入れられた、二個のから揚げを差し出してきてくれた。
「い、いいんですかぁッ!?」
「えっ、あの、私の分まで……」
「うふふ。若い子に誉めてもらえて嬉しかったから、ちょっとしたサービスですよ。もしも気に入ってもらえたらぜひ、お弁当のほうも買っていってね」
にっこりと笑顔の女性。
ワタシは目を輝かせながら、さっそく女性が持っているお皿の中へと手を伸ばした。
「わぁッ! ありがとうございます~~ッ! それじゃあ、ちょいとばかし失礼しまして――っ、お~~ッ!」
一緒につけてくれていた爪楊枝を使って、からあげを一つ持つ。ずっしりと重たい、ボリュームの詰まった質感。そして、いまさっき揚げ終わったばかりであることを示す、シュワシュワと中で油の跳ねる音が、小さく漏れ聴こえていた。
「あっ、こらッ! ちょっとは遠慮というものを知りなさい貴女っ!」
「うふふ、いいんですよ。ほら、よかったらお姉さんの方も」
「お、お姉――ッ!? ……あ、ありがとうございますっ」
身長差のせいか、ワタシたちのことを仲の良い姉妹だと勘違いされてしまっているようで、ニコニコと嬉しそうにマリアさんの分のから揚げを勧める女性。
せっかく厚意を向けてくれているのに、誤解を解くのは忍びないと思ったのか、マリアさんはあえてそのことには何も言わず、躊躇いながら自分の分のから揚げを手に取っていた。
「いっただっきまーすッ!! はぐ――ッふ!? 熱っ!? あふあふッ、はふッ、ほふぅ~……ッ!」
そんなマリアさんを横目に見ながら、耐え切れなくなったワタシが一番に、湯気が立っているから揚げへと齧り付く。
パリパリと食感の良い衣に歯を突き立てると、熱々の脂がじゅわっと果汁のように溢れ出してきて、危うく口の中を火傷しそうになってしまった。
「揚げたてなんだから熱いのは当然でしょう、まったく……ふぅ、ふぅ、はっ、ふ……ッ」
「はぐ、ふぐ……あ――ん、むっ、ほふ……ッ! ――くぅ~~ッ! おぃ、っしぃ~~~~……ッ!!」
噛むたびに、じゅわじゅわと尽きることなく溢れてくる、鶏肉の香ばしい脂。醤油と少量の香辛料によって、しっかりと下味をつけられた鶏肉は、揚げ物特有のパサパサ感は一切なく、舌の上でとろけるようなジューシーさを保って、何度もワタシの舌を刺激する。
サクサクパリパリの衣が、鶏肉から漏れ出たうま味のエキスを余すことなく全て吸収していて、食感のアクセントだけに留まらず、鶏肉が本来持っている甘みや食感を十二分にまで引き出していた。
ガツンとストレートに轟いてくる、猛烈な濃度の旨味。噛めば噛むほど、もっとその旨味を感じようと、勝手に口の中が唾液で満たされていく。
「まぁ良かった。そう言ってもらえて、とても嬉しいわ」
「……っ! ほ、ホントすごく美味しい……ッ。サクサクで、じゅわっと鶏の脂が口の中で弾けて……ッ。それなのに全然くどくないわ……ッ!」
衝撃を受けたようにマリアさんが口にする言葉に、口の中をいっぱいにしながら、ぶんぶんとワタシも頷いてみせる。
飲み込むのが勿体無いとさえ思ってしまう、そんな至福の時間。やがて嚥下を終えると、
「……ごくり」
無意識に、喉を鳴らしてしまうワタシだった。
胃袋が悲鳴を上げているかのように、さっきからきゅうきゅうと音を出している。
もうだめだ。ただでさえ空きっ腹だったところに、こんなに美味しいものを口にしてしまっては、もはやこれ以上の我慢なんて出来っこない。
「ま、まりあおねぇちゃぁん……ッ」
「ぶはッ! げほごほっ! あ、ああ、貴女いま何て言って――~~~ッ!? わ、わかったわよ! わかったから、そんな捨てられた子犬みたいな目で私を見るのはやめなさいッ!」
からあげ弁当を二つ、テイクアウトさせてもらうわッ!
ワタシの魂を賭けた必死の訴えを、ついに聞き届けてくれたマリアさんが、真っ赤な顔をしながらお弁当屋さんの女性に、そんな風に注文をしてくれたのだった。
帰りのヘリコプターの中で、ついつい本能を抑えきれなくなったワタシが、お弁当が入った袋に手を突っ込もうとして、それをマリアさんに華麗にかわされたりしながら我慢すること、数十分。
やっとのことでS.O.N.G.の本部へと帰還したワタシ達は、師匠への事後報告もそこそこに切り上げると、本部の中に併設されてある食堂へと駆け込んだ。
「早くッ! 早く食べましょうよマリアさんッ! さぁ早くぅッ!」
「うろたえるなッ! 餌を前にした小動物かお前はッ!? 心配しなくたって、から揚げ弁当は逃げて行ったりしないわよ!」
すでに手を洗って、すっかり食事をする準備を整えたワタシが、今か今かと目を輝かせながら、その瞬間を心待ちにしていると。
「はい――じゃあ、ちょっと遅くなってしまったけれど、ランチにしましょうか」
マリアさんが手に持っていた袋から、お店で買った2つのお弁当を取り出してきてくれた。
「わ~いッ!! いっただっきま~すッ!」
プラスチックの容器に、黒ごまが散りばめられたたっぷりの白米。鮮やかなピンク色をしたしば漬けが、控えめに盛られているその横で――容器の蓋が辛うじて閉まるくらいの、これでもかと山盛りに入れられた、きつね色をしたから揚げの姿があった。
「~~~~ッ!!」
もう限界を何度も突破した状態だったワタシの胃袋が、トドメとばかりに大きな音を立てる。
ワタシはついに本能を解き放つと、お弁当につけられていた割り箸を手に取った。
「……す、すごいボリュームね。買うときにお弁当屋さんの奥さんが、『ほんの少しだけサービスしておきました』と言っていたけれど、全然ほんの少しなんかじゃないわよ、この量は……」
白米とから揚げによって出来た2つの山を前にして、マリアさんがすっかりたじろいでしまっている。
「まずはさっそく、やっぱりメインのから揚げからッ!! は――ぐッ、はむぅっ!? っむ、あ、んぅ……~~~ッ! 身体の奥底に染み渡るこの旨味ィ!」
思いのままに、お弁当の中へ箸をつける。お店で購入してから、少しの時間が経ってしまったにも関わらず、から揚げの衣はサクサクの揚げたて食感を保ち続けていて、中から溢れ出す鶏の脂の量もまったく衰えていなかった。
それどころか、少し温度が冷めた事によって、から揚げが持っている旨味が更によりよく感じ取ることが出来て、ビリビリと痺れるような錯覚すら感じてしまう。
「この強烈なうま味を逃さないためにもぉッ! ここですかさずごはんッ! はぐっ、はぐはぐッ――っ! くぅ~~~~~んッ、ッ!!」
から揚げの美味しさを逃さないよう、すぐさまたっぷりの白米を頬張るワタシ。ふっくらとした白米が持つ甘みと、肉のジューシィなこってりの脂が混ざり合って、反則級のポテンシャルを発揮してくれた。
もはやこうなってしまえば、ワタシの箸が止まる時間は一秒だってない。から揚げを食べては、すぐさま白米をかきこんで、その強烈な美味しさに身体を震わせる。そして、また次のから揚げへ。たまにしば漬けを挟み口の中をさっぱりさせつつ、そしてまた、から揚げの強烈な旨味を愉しむ――その繰り返し。
「す、すごい……とんでもない速度で、お弁当の中身が減っていくわ……」
マリアさんがそんな私の食べっぷりを見て、本気で驚いていた。
「ふぁっへぇ!(だって!) もぉふぉんふぉ、おなはがへこへこへぇッ!(もうホント、お腹がペコペコで!)」
「喋るなら、口のものを飲み込んでからにしなさいよ……あら? まだ袋の中に何か入っているみたいだわ、なにかしら?」
夢中で食べまくっているワタシをよそに、マリアさんがお弁当屋さんから貰ってきた袋を、なにやらごそごそと漁っている。
やがてその手になにかを握ると、ワタシに向かって見せてきた。
「もぐもぐッ――ふぉおッ!? ふぉ、ふぉふぇふぁッ!!?(そ、それは!?)」
「あぁ――マヨネーズ、みたいね」
マリアさんが取り出したもの、それは小さな小袋に入った、揚げ物用のマヨネーズだった。
口を動かしながら、座っていた椅子からガタンっと立ち上がって、驚愕するワタシ。
「あ、こら、行儀悪いわよ」
「っく、はぐもく……っごくんッ! な、なんとッ、こんな対揚げ物用の最終兵器を用意していただなんて……ッ! あのお弁当屋さんの奥さん、抜け目が無いです……ッ!!」
あわあわと震えた手で、マリアさんからマヨネーズの袋を受け取るワタシ。そして、そのまま封を切ると、慎重にその中身を絞って、自分のから揚げに回しかけた。
サクサクの衣を纏ったきつね色のから揚げ。その上に白くて光沢のあるマヨネーズが、まるでドレスのようにあしらわれていく。
「ふぉぉおお……ッ!?」
「マヨネーズ一つでうろたえ過ぎだろう……」
目を輝かせて嬉しい悲鳴を上げるワタシに、本日何度目かも知れない、マリアさんの呆れたようなため息が漏れた。
ワタシは箸を使って、ドレスを纏ったそれを持ち上げる。
「から揚げにマヨネーズ……ッ! あぁ、これぞまさに、カロリーという名の副作用と引き換えに、美味さの適合係数を引き上げる禁断のLiNKER……ッ!! つまり今なら白米の絶唱が歌いたい放題のやりたい放題……ッ!!」
限界以上にまで空腹のまま焦らされていたこともあって、ワタシはすっかりおかしなテンションだった。
「もはや意味がわからないわ……」
マリアさんからのそんなツッコミも、もはや今のワタシの耳には入ってこない。
「は――っぐッ!! ――む、ぅッ!? ~~~っ! ~~っ! ~っ! も、ぐ……もぐぐッ――はぐはぐはぐッ!
」
「そこまでいったらなにか言いなさいよ!? 無言でご飯をかきこまないのッ!」
マヨネーズが持つ酸味とまろやかなコクが、から揚げの香ばしさと重なり合って、味の奥行きが何倍にも跳ね上がる。これでもかと言わんばかりに膨れ上がった旨味が、何度も何度も口の中で連鎖爆発していって、ご飯を進む手が止まらなくなってしまった。
あれだけたっぷりあったお弁当も、我ながら驚くほどのハイスピードで、ぺろりと完食してしまうワタシなのであった。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。すっかり貴女の食べっぷりに圧倒されてしまって、私まだ自分の分を食べてないじゃない……ッ! い、いただきますッ! はむっ――」
その隣で、マリアさんがはっとした顔をして、慌てて自分の分のお弁当に向き合っていた。
「くっ……あまりの美味しさに、この私としたことがすっかり食べ過ぎてしまったようね――それでも残ってしまうという、この驚異的なボリューム……ッ! 侮れないわね、日本のお弁当屋さん……ッ!」
「はいッ! はいはいはーいッ! それでしたらこの立花響ッ! まだまだ胃袋に余裕がございますッ! ぎぶみーおかわりですッ!」
「くっ……どうりで敵わないわけだ……って、何度同じネタを言わせるのッ! というか、どんな胃袋してるのよ貴女は……はぁ、もういいわよ、ホラ。私の分も食べなさい」
「やったぁ~~~ッ!! では失礼しましてッ! はぐはぐっ――」
「切歌や調も、なかなか旺盛な方だと思っていたけれど、貴女を見ていたらそれも霞んでしまうわね……。これで太らないというのだから、もうホント……剣だけじゃなくって、槍の方も可愛くない……」
「ふぇ~~~ッ! おいしぃ~~ッ!!」
おしまい。
なんだかマリアさんが、ただの手のかかる妹を持ったお姉ちゃんみたいなキャラに……。まぁ、イノセントシスターとか見てると、それもあながち間違ってなさそうなので、大目に見てやってください(他人事)
いつもよりハイテンションで、ちょっとおバカっぽい響ちゃんが描けて自分は楽しかったです(ほくほく)
さぁ、これでSONG装者メンバー全員揃ったことですしッ、ようやく複数メンツで、ご飯とか食べにいっちゃうお話が書け――
???「それ……本気で仰っているんですか?」(にっこり)
……アッ