草木も眠る丑三つ時。
なんて比喩が通じたのは、昔の話。
現代のこの国は、眠らない。
否、眠ろうとしない。
それはこの、沼津も例外ではない。
人間の営みが灯す明かりは、消えようとせずに、この国を照らし続ける。
その灯火を、ビルの屋上から見つめる影が一つ。
異形。
そう呼ぶのが相応しいだろう。
その影は確かに人の形をしている。
だが一つ、明らかにおかしい箇所がある。
『翼』だ。
その影の背中には、一メートルはあるであろう翼が生えていた。
影は呟いた。
「どこにいる、E...。」
そして影は翼を広げる。
この世の光を全て吸収するかのような、漆黒の翼だった。
「待っていろよ...。」
影は、闇の中へと飛び立った。
これから語る物語は、少年少女の物語。
永遠の輝きを求める少女達と、
刹那の命を求める少年の、
青春の物語。
※※※
午前6時30分
久永 悠(ひさなが はるか)の1日は、波の音で始まる。
いつも通りの時刻に起床した悠は、まず部屋の窓を開ける。
途端に、磯の薫りが部屋に入り込んでくる。
その薫りをいっぱいに吸い込むと、今度は海に向かって、深々とお辞儀をする。
その間、30秒。
それが終わってようやく、悠は着替えを始める。
この一連の"儀式"は、死んだ両親から教わったものだ。
死んだ両親はよく悠に、
『この世で絶対に忘れてはいけないものは、女の子との約束と、海への敬意だ。』
と、言っていた。
この沼津の海は、悠のことをずっと見守ってきた。
悠が嬉しいときも、悲しいときも。
気がつけば悠にとって、海は心の支えになっていた。
悠の両親は、悠が8歳だった9年前に亡くなった。
二人揃って大型トラックに跳ねられ、即死だったらしい。
当時の悠はそのトラックを運転していた運転手に怒り狂い、そして憎んだ。
ー何で、父さんと母さんが。
ー許さない。
ー絶対に、許さない。
何度も何度もそう思い、また、実際に本人に言う寸前のところまでいった。
その心が鎮まったのは、ある女性が悠に訪ねてきたときのことである。
その女性は、悠に礼を言いにきたのだった。
どういうことなのか聞くと、両親はその女性の娘を助けるために道路に飛び出したらしい。
なんでも、その女性の娘はひったくりに突き飛ばされ、縁石に躓き、その拍子に車道側に転んでしまったところに例のトラックが来たそうなのだ。
そこに偶然居合わせた悠の両親が、その娘を助けるために、二人揃って道路に飛び出したというのだ。
結果的にその娘は助かったが、その代わりに悠の両親が犠牲になった、というわけなのだそうだ。
その話を聞いて、悠は両親の安らかな死に顔を思い出した。
ーあの顔は、そういう理由だったのか。
それから悠は、頭を下げ続ける女性を帰らせて、そして、両親が死んでから初めて、泣いた。
ひたすら泣いて、泣き続けて、涙が枯れたのは真夜中だった。
それから悠は、満月にある誓いを立てた。
『誰かを守るために、生きる。』
そんな誓いを。
それから9年。
仏壇の両親に挨拶をしてから、悠はいつものように呟くのだった。
「...早く死にたい。」
お楽しみいただけましたでしょうか?
果たして9年の間に悠はどう変わってしまったのでしょうか?
そしていつ変身するんでしょうか?
Aqoursも次回からしっかり登場させますので読んでいただけたら幸いです。
感想、評価お待ちしております。