「…………うぉえ」
「え、えっと。大丈夫、ですか?」
「酔い止め呑む?」
「うん。ありがとう」
「情けないわねー」
「………………」
以上、船の上で酔う俺に対する皆さんの反応でした。
酔い止めを持ってきてくれる立香には頭が上がらない思いだけど。申し訳ない。船酔いでただでさえ弱っているのに加えて肉塊が近くに来ると流石にクルものがある。善意で酔い止めを差し出してくれているのが声音から感じ取れるので非常に心苦しいのだが、ぶっちゃけ止めになっちゃう。吐いちゃう。
こういう場合は甲板に出て風に当たればいい、みたいなことを聴くけどとんでもない。俺の周りは常時地獄。風景で心を清めるどころか逝きつくところまで逝くまである(主にSAN値)
取り敢えず薬が効くまではおとなしくしておこうと思う。
こんな状態にも関わらず、俺をやじるように言ったのは女神エウリュアレ。俺達が彷徨っている海域の手掛かりを探していた時、最初に辿り着いた島に居たのだ。その時、敵と思わしき血斧王エイリークと遭遇したのだが、クー・フーリンやジークフリートがいるため、数と質でゴリ押して退いてもらった。
その後見つけた迷宮にて遭遇したのが彼女ともう一人、かの有名なアステリオスである。……このエウリュアレもステンノと同じような反応をしていた。その関係だろうか。アステリオスがこちらを探るように細やかに視線を送って来た。俺としても、彼の姿は意外だった。只の肉塊ではなく、そこに無理矢理牛の骨をぶち込んだかのような姿に見えるとは予想外である。おかげで海に引き続き、久しぶりにサイコロを振ることになった。
それはともかく、薬も効いてきたらしい。
少し落ち着いてきたのでこの場であの夢について考えてみる。
今まで見て来た夢の中でもあそこまで言語が聞こえてくることはなかった。これは俺の中で妙な慣れができていると考えていいのかもしれない。もし次に同じ夢を見たとき、もっと受け取れる情報量は多くなるだろう。
それよりも気になるのはここ最近聞き取れるようになった声の存在。無駄に同じ言葉を連呼していた声とは違い、はっきりとこちらに分かる声で語り掛けて来た存在。一切感情を読み取らせないという不気味さを遺憾なく発揮して久しぶりにSAN値削ってくれたわけだけど、気になることを言っていた。
――――故に、一つ、プレゼントを贈ろう。
プレゼントというのが今一理解できていない。起きてから自身の身体をチェックしてみたけど、特に問題は見当たらなかった。身体は自由に動かせるし、思考回路もまとも……だと思う。感覚をいじられたのかとも思ったが、聴覚・触覚・味覚共に問題なし。視覚も問題が在るのが常時なので問題なしだった。皆の反応もいつも通りだった。
夢だからこそ現実に干渉しないのは当たり前と言えば当たり前なんだけど、コレに限っては言い切れない。あの時感じた寒気は夢という一言では済ますことのできないものだと思うから。
~~
何の、成果も、得られませんでした……!
夢ではないだろうと思っていたのだが、結局特に何か起こるわけでもなかった。戦況は著しく変化しているというのにプレゼントの全貌はまるで見ることができなかったのである。
戦況としては、エウリュアレを狙う黒髭一味に遭遇して船の差で負け逃走。月の女神に遭遇して協力を促す。黒髭リベンジ、そしてヘクトールの裏切りとエウリュアレが奪われると、とても激動の変化が加わったにも関わらず特に何もなかった。
俺としては唯々、立香に近づこうとする海賊たちを倒すことに専念しているだけだったのだ。
……まぁ、夢に出て来て直に影響を及ぼすようなものではないと割り切り、一先ず逃走したヘクトールを追うことになった。こちらとしては戦力として、クー・フーリンやジークフリートがいる為、そう負けることはないと思うが……。
「えうりゅあれ……」
「大丈夫です。絶対にエウリュアレさんを助けますから」
「ほんとか?」
「うん。約束する。だから、今度こそエウリュアレを助け出して守り抜こう」
「………」
頼りになるぞ立香。
エウリュアレと離れ離れになったことで傷心気味のアステリオスを慰める彼は何やら貫録を感じる。メンタルマスターかな。
閑話休題
ここで問題だらけの人理の旅らしく、俺達の往く手を阻むようにして障害が現れた。そう、嵐の存在である。突発的に発生した嵐は、音からして竜巻すら伴っているようだ。
もたもたしていたらヘクトールを見失うという時、フランシス・ドレイクは嵐を利用して加速することを提案。船員たちは彼女に尻を蹴っ飛ばされながらその指示に従った。
俺としては船員の人に同意した。いくら黒髭にやられた際、ワイバーンの素材で補強したとはいえ、嵐を利用して加速するなんて考えられない。ぶっちゃけ不可能だろうとすら思った。
ところがどっこいできました。
フランシス・ドレイクの読みは当たり、いつの間にかヘクトールを目と鼻の先まで捉えたのだ。その為、エウリュアレを人一倍強く思うアステリオスが暴走。仲間になったオリオンの制止を少しの間だけ聞くという律義さをみせた後に単騎で乗り込んでしまった。
「あ、アステリオスさん!?」
「このままじゃ、マズイ。俺達も行くよ!」
「……ったくそう言うと思ったぜ。捕まってろよマスター!」
それに続き、立香・キリエライトさん・クー・フーリンもヘクトールの居る船へと飛び移り、戦闘を開始する。ジークフリートは俺のことを抱えて同じように船に入ってくれた。お礼を言うと、気にすることはないと返してくれた。なんだいい人か(確信)
ヘクトールはトロイア戦争の英雄であり、アキレウスを手こずらせた防衛のエキスパートでもある。今回のようにエウリュアレを奪わせないような戦い方も心得ているようだ。しかし、こちらもクー・フーリンやジークフリートという大英雄が味方に付いている。アステリオスの怪力も決して無視できるものではない。
「全体強化……!」
加えて立香の魔術がある。味方の力を増加させる魔術により、勢いづいた二人はヘクトールを一気に押し込む。その隙にこちらもエウリュアレを奪還した。
「貴方に助けられるなんて……気持ち悪くなりそうだわ……」
「……それはこっちも同じだよ」
何やら暴言を吐く彼女だが、残念ながらこちらも同意見である。誰が目に痛いほど光る肉塊を抱きかかえなければいけないのか。最早罰ゲームだ。そんなことを考えつつも、そのまま魔力強化した肉体でヘクトール達が乗っていた甲板を蹴り、フランシス・ドレイクの有する船に帰還する。
「取り返したよ!」
「ナイス真琴! ……全員撤退!」
立香の号令と共に、乗り込んでいたサーヴァント達が次々と戻ってくる。殿を務めていたクー・フーリンも帰還したところでフランシス・ドレイクは舵を一杯にきり、そのまま反転した。
その時一瞬だけ、ヘクトールの背後から巨大な船がやってくるのが見えた。
「――――――――ッ!!!??」
思わずその場にうずくまる。
この感覚は身に覚えがあった。あの夢の時と同じ、いやそれ以上の悪寒が体中を駆け巡った。
立香とキリエライトさんが心配そうに駆け寄ってくれるが、そんなことに気を回している余裕はない。
だって見てしまったから。
視界が異常な俺が、ヘクトールに近づく船の中にいる、数多の生物の肉でできた、巨大なナニカを。
~~
「……逃げられた、か……。いや、これはこちらの落ち度だね。まさか、あの嵐の中を飛んでくるとは思わなかった」
遠ざかる船を見ながら彼、ヘクトールは一人ごちる。
本来であれば、もうじき到着する今の上司と合流してエウリュアレを引き渡す作戦であった。だが、予想よりも連携が取れていたこと、一人ひとりの質が違ったこと、アルテミスやドレイクの援護によりエウリュアレの奪還を許してしまった。
「これはとても怒られるだろうなぁ」
ヘクトールがそう言うと、一つの船が近づいてきた。
そこに乗っているのは金髪の美男子とそれに付き従う様に佇む少女。そして巌のような体躯を持った巨漢。
彼らこそは伝説に名高いアルゴー号の船員たち。数多の神話で語られてきた英雄である。ヘクトールはこれから受ける罵声のことを考えて少しだけ表情を曇らせた。
ついに彼らが乗る船が自分の乗っていた船の隣につき、移動する。今回の上司と言われた男。アルゴー号の船長である金髪の美男子、イアソンは笑顔のままヘクトールを受け入れた。しかし、エウリュアレがいないと知った瞬間にその表情を一変させて彼に対して怒鳴り散らした。
「ハァ? エウリュアレを取り返された!? どうしてそんなことが起きるんだよ!?」
「……相手が手練れだった、としか言えませんねぇ」
「糞っ、所詮は敗戦の英雄か。ここぞという時に使えないやつめ。これなら初めからヘラクレスを行かせるんだった……」
そう言ったイアソンはヘクトールから視界を外し、隣にいる少女に語りかける。
「僕の妻となるメディア。……君の神託はなんと言っているのかな?」
「はい、マスター。神託の内容はたった今変わりました」
イアソンはその言葉に従い静かに待った。どうして自分が神託を受けられないのか、と思ったことはあるがそれはもういい。とにかく、予定が変更になったために指針として聞いておかなければならないと思ったのだ。
誰もが黙って見守る中、一番最初にソレに気づいたのは――――大英雄ヘラクレスだった。
「■■■■■―――――!!」
「ちょ、どうしたヘラクレス!?」
バーサーカーのクラスで現界した大英雄ヘラクレスが咆哮を上げ、メディアに向けて持っている斧剣を振り下ろした。突然の行動にイアソンも驚きの声を上げる。ヘクトールも止めに入ろうとするがもう遅い。彼が振り下ろした斧剣は制止も虚しくメディアを切り裂いた。
「な!? どうしたんだヘラクレス! これじゃあ、オレがこの四海の王に―――!」
理解不能な行動を咎めようとヘラクレスに近づいたイアソン。だが、そこで違和感に気づいた。
メディアから光の粒子を確認できていなかった。それはサーヴァントとして現界したものなら消える際に残していくものだ。しかし、今回に限ってはそれがない。
どういうことかと、イアソンがメディアがいた場所に視線を向ける。するとそこには……。
「シんta……ク、ニハ……kouアリ、マsu……』
ドロドロとナニカが溢れる音がする。
メディアと言う容器が割れたことにより、中身が溢れ出るように、着実に着実にソレは漏れ出していた。
黒、赤、青、緑……どの色でもあり、どの色でもない。出てくる液体は、肉のように蠢いているようで、自然に流れ出ている。目もないのに、覗かれている。耳もないのに、聞かれている。鼻もないのに、嗅がれている。手もないのに、触れられている。あらゆる矛盾を内包し、それでも矛盾していない。
理解不能、理解不能、理解不能。
本能がそれを拒否する。
全身が視るなと叫ぶ。
「あ、あ……ァ……ア?」
やがて、流れ出たそれは蠢き、集まり、一つの肉塊のようになった。様々な生き物のパーツが消化し忘れたかのように突きでているそれは、およそ地球の生き物とは言えないだろう。
ヘラクレスはその肉塊に対して、バーサーカーでも衰えることのない剣戟をみせる。並みの英雄なら一太刀で倒すことができるだろうソレは、肉塊を倒すには至らない。斬られた先から再生され、逆に彼が握る斧剣はまるで酸をぶちまけられたかのように融けていく。
ヘクトールも自身の宝具を開帳、戸惑いながらも標準を絞り、爆発的な破壊力を持つ槍を投げるが、それも大穴を開けるだけで、仕留めるには至らなかった。
打つ手なし。逃げようとするには時間が立ちすぎた。何時の間にか、肉塊の範囲は船を覆っており、船自身がアレだと感じさせた。
「……ぁ……」
『――――"Hail Pharaoh of Darkness, Hail Nyarlathotep, Cthulhu fhtagn, Nyarlathotep th'ga, shamesh shamesh, Nyarlathotep th'ga, Cthulhu fhtagn!" 』
気に入って頂けましたかねぇ……。
それにしても、啓蒙と知識が高い人は気を付けないといけません。
でないとすぐにこの通り! あっという間に飲まれてしまいます!