私の考えではクトゥルフを少しだけ取り上げた勘違いものにしようと思っていたのですが、いつの間にかこんなことに……。
もしかして私は………ん? こんな時間に誰だ?
いあいあ。
『―――! 計器に巨大な反応! 霊基パターンから言って……魔神柱だ!!』
ドクターの焦った声が通信機越しに聞こえてくる。
魔神……第二の特異点で相対した、俺達の敵。人類の未来を焼却したモノ達の尖兵たち。悪魔の名を冠し、見劣りしないほどの力を持つ……らしい。元々一般人の俺にはよくわかっていないが、絶対的な存在であることは分かっている。レフ・ライノールと対峙した時に感じたのは抗うことの難しいなにかだったから。上手く言い表すことができないけれど。
「魔神って何さ?」
「端的に言ってしまえば悪魔ですね。それもサーヴァントの皆さんとは違い、限りなく本物と言っても過言ではありません」
「へぇ、奇遇だね。アタシも
「というか、多分姉御の方がよっぽど悪魔してるんじゃないんですかね?」
「おい、野郎ども。そこの馬鹿を大砲に積み込みな!」
「勘弁してください!」
やっぱりこの人達は凄い。
どんな時でも、自分達の信条を元に生きている。一本筋の通った人は強いということのいい例だと思う。
『魔神の反応が近づいて来てる……! 約五分後に追いつかれるよ!』
「なら、取るべき手段は一つだけだろう」
「あぁ」
サーヴァントの皆もやる気満々の様子。であれば、取るべき手段は一つだけ。第二特異点でやった時のように自分達の全力を以て対峙する。それだけだ。
「マスター。やりましょう」
「うん。……頑張ろう、真琴も一緒に」
「もちろん」
先程まで具合が悪そうにしていた真琴も、今は大丈夫そうだ。……彼は我慢強いため、あまり鵜呑みにはできないけれど。それでも彼の眼は死んでいなかった。普段と同じように人によっては不気味に思えるかもしれない澄んだ眼をしてる。
「じゃあ、迎え撃とう!」
~~
ちょっとばかり動揺してしまったが、事態はそんなことをしている暇などなくなっていた。ドクターの通信から聞こえて来た魔神襲来の声。けれど、俺からしてみれば多分、魔神よりももっとおぞましいものが顕現していると思う。だって見ちゃったし。さっきまで一時的な狂気に陥ってたし。もしかしなくてもあれがプレゼントだったりするのか。やはりあの声の主とは相いれないだろう。うん。
『来たよ!』
声と同時に、ソレは姿を現した。
魔神というものを見たのは一度きりで、レフ・ライノールが変化した姿だった。恐らく今までの経験から言って、俺だけ人間みたいなものが視れる―――なんて考えていたんだけどね。
『■■■■■■■』
現れたのはレフ・ライノールの見え方とは完全に違っていた。一瞬個体ごとに姿が異なるのではないかと考えたが、それは違うと一瞬で理解できる。
海から顔を覗かせるは、肉柱などではない。見える風貌はまさに魚。鱗や目、口などもそれに類するが、身体は魚類のそれではない。まるで人のように腕を持ち、胴体を持っている。背びれなども存在することから、魚人という表現がしっくり来るだろう。
尤も、その存在感はおぞましいの一言に尽きる。十中八九まともな存在じゃない。
――――こいつの姿は皆にどう見えているのだろうか。
俺のフィルターがかかってるからSAN値直葬形態で現れているのか、俺のフィルターを貫通するくらいの存在なのか。それによっていろいろわかってくる。
これ、立香とかが目にしたら大変なことになると思うんだ。サーヴァントなら多少耐性があるだろうから大丈夫だと思うが、元々普通の人である彼とキリエライトさんはちょっと……。
『えっ、魔神……反、脳……は、はは、ハハハハハh、hhじmslごfっこpkjjsk』
「ちっ!」
ドクターの言葉を聞いてすぐさまカルデアからの通信を切断する。この反応からすると、こいつはフィルターを貫通するタイプらしい。ある意味でみんなと視界を共有しているという奇特な事態だが、全然嬉しくない。
ドクターの状態と、それ以外のスタッフの安否が気遣われるが、現状はそれどころではない。この場にいる人も恐らくあれをそのまま見ているだろう。ということは……。
「uaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」
「すまない……俺は何もわかっていなかった。本当にすまない……すまない……すまない……」
「ゲイ・ボルク(自傷)」
「……あ、あ……」
「いったい何が起きているんだい!?」
「兄貴、ジークフリート、マシュ!?」
「アステリオス、どうしたの!?」
「おいおいおいおい。こんなのが出てくるなんて俺は聞いてないぞ……」
「……ホントよねぇ。どうするのかしら」
声を聴く限り、無事なのは立香、フランシス・ドレイク、エウリュアレ、そしてアルテミスとオリオンか。それ以外の人は全員アウト。というか立香強すぎィ!
「これは一体どういう……そもそも、あの怪物は本当に魔神なのか? 雰囲気とかかなり違う気が」
「立香! あまり見ないで! 直に正気を持ってかれるから!」
声音からまじまじと見ているであろう立香に注意を促す。他の正気な人たちもその言葉を聞いてあまり視界に入れないように身体の向きを変えた(と思われる多分)
それにしても最大戦力であるクー・フーリンやジークフリートが正気を失ったのがとても痛い。特にクー・フーリンに関しては自身の宝具を自分に放ち、カルデアへ送還されている。この特異点で彼の力を借りることはもうできないだろう。ジークフリートは自傷行為をしてはいないが、虚空に向かってひたすら謝罪を繰り返している。アステリオスは吼えるし、キリエライトさんは微動だにしない。
さて、どうする……。
――――■■■■■■
~~
ジークフリート、アステリオス、マシュに話しかけてもまるで反応は帰ってこない。まるで俺の声が聞こえていないかのような反応だった。真琴曰く一時的な狂気に陥っているとのこと。原因はあの魔神。
レフ・ライノールとはひときわ違う存在感を放つ、目に入れるのも苦痛な生物が起こしたものだという。
「で、真琴。あんたはアレの事知ってるかい」
「いや知らない。どうやって倒すのか、そもそも戦うことができるのかすらわからない」
「でも鉄砲は当たるだろう?」
「実体は確かに在ると思う。ただ効果があるかどうかまでは分からない」
「幽霊船の時も言ったけど当たるなら問題ないね。―――――何時まで呆けているんだ馬鹿ども!さっさと正気に戻りな!!」
ドレイクが天に向かって銃弾を放つ。すると、その音で船員の何名かが、正気に戻り彼女の言う通りに動き始めた。それでも全員が正気に戻ったわけじゃない。泣き叫ぶもの、笑いだす者、仲間に斬りかかる者、気絶する者、目の焦点が合わない者など正気じゃない人も多くいた。
「―――とりあえず、今は寝てて!」
そんな船員たちを沈めたのは真琴。このままでは仲間割れで戦いどころではなくなるとのこと。行動早いな。
「これ、一度態勢を立て直した方がいいんじゃないの!?」
「それができればとっくにやってるさ。元々追い付かれた以上、逃げるっていうのは現実的じゃないね」
「なら迎え撃つってか」
「……それしかないと思う。皆の状態とドクターの言葉を聞く限り、多分カルデアでも同様のことが起こっていると思う。なら、ここで立ち止まっているわけにはいかない」
皆の表情を見てみれば、それぞれの程度は違えどその戦意を失っているわけではなかった。これならまだ戦える。
「あ、立香。今はキリエライトさんとジークフリートの傍についてあげて。多分近くにいた方がいいと思うから」
「……真琴は大丈夫?」
「平気平気。……ある意味で専門分野みたいなものだから」
それだけ言うと、彼はドレイクやエウリュアレに指示を出し始める。オリオンとアルテミスは既に攻撃に移っており、彼も彼女達の制御を諦めたらしい。けれど、心なしか真琴の表情は今までよりも生き生きしているように見えた。
さあさあさあ!
絶体絶命の危機!! 大変ですねェ、絶望ですねェ……。
し! か! し!
これを乗り越えることができればあら不思議!
英雄としてもてはやされ、とても愉快な手のひら返しが見れるでしょう!!
……さしあたっては、ワタクシから一つアドバイスを送りましょう。
圧倒しすぎてはいけません。負けるなんてもっての外。
苦戦し、傷を負い、屈しそうになりながら……しかして立ち上がるその姿を見せるのです!
でなければ……次に討たれるべき化け物は、誰になると思いますか?
クヒヒ!