世にも悍ましい化け物の襲来を乗り越えた俺達だったが、未だにピンチは継続しているようだった。
「いあ……いあ……あばばbbb」
「qkde!qkde!」
「あぁ……窓に! 窓に!」
人が生み出した地獄、と言えばいいのだろうか。周りを見てみればまともな人なんていない。誰もが泣き叫び、錯乱し、発狂している。その中にはドクターも混ざっている。このままでは取り返しのつかないことになるのは間違いない。だからこそ、俺は反射的に動くことができた。
「ジークフリート! ブーディカさん! 清姫! 還って来た兄貴! 暴れているスタッフの人から落ち着かせて!」
発狂している人の中には機材に向かって拳を振り下ろしている人も居る為、このままではせっかく復旧してきた機材が再びジャンクに早変わりしてしまう。皆も俺と同じことを考えていたのだろう。既に動き出しており、数人を落ち着かせていた。
「立香君、助かったよ。私だけでは手が足りていなかったからね」
「このままにしておけないしね。というか、ダ・ヴィンチちゃんは大丈夫なんだね」
「私はデータとバイタルを確認していたから。直接見ていないのさ。本音はちょーっと惜しいことをしたと思っているけど」
やめてください。
ダ・ヴィンチちゃんが発狂したらカルデアが冗談抜きで崩壊するので勘弁してほしい。
数分後、発狂していたスタッフの皆さんの鎮静化は完了したものの、どちらにせよカルデア内はボロボロの状況だ。特異点の特定から、レイシフトするまでのあれこれができる人がいなくなってしまった。ドクターもダウンしている為に、ダ・ヴィンチちゃんも暫く時間を貰うという手しか思い浮かばないらしい。
「………あの化け物のことを知っていそうな真琴君。何か打つ手はないかな?」
「妙に含みのある指名の仕方をしますね……。一応、精神鑑定ができるので正気に戻すことはできると思いますよ」
なんか、創作物でよく見る怪しい人同士の裏の読みあいに見える。しかし、この二人は味方である。こういう人物が味方に居ると少し疑わしいけどとても頼もしく思える。思えない?
ところで、真琴。割と何でもできるよね。ほんとに俺と一緒で、ここに来る前は普通に生活してたの?
~~
肉塊相手に精神鑑定しているってよく考えたらおかしいだろ。そして、できていることに違和感を感じないこともよくよく考えてみればおかしい(確信)
きっとこれも俺の正体のヒントになっているのではないかと思う。
ちなみに、精神鑑定で一応狂気から戻すことはできているようだった。はじめは意気消沈しているスタッフの人たちが精神鑑定を受けた後は、とても微妙そうな声音で俺にお礼を言ってくるのだから間違いない。最も、それは一時的な物だったので定期的に見ていかなければいけないのだが。
また特異点で使ったネクロノミコンは元々俺が召喚した物ではなかったようだ。投擲した物はオケアノスの海に消えていったが、封印された物は残っているのだという。だから完全に別物ということだろう。恐らくあの声が言っていたプレゼントだったのだ。
そして現在、正気に戻った主要メンバーの元に俺は引っ張り出されていた。議題はあの時見えた化け物の正体。今後同じような化け物が出てくる可能性が在る以上、何かしらの情報を持っている俺から話を聴こうということらしい。
「では、未だ本調子ではないロマンに変わって私が聞こうか。真琴君、君はあの化け物の正体を知っているのかい?」
進行はレオナルド・ダ・ヴィンチが行うようだ。
残されたメンバーを考えれば妥当な線である。
「詳しい個体名なんかはわかりませんが、どういった存在なのかは知っています」
そこで俺は自分が思い出した知識からできる限りのことを伝えた。世界に存在する神々とはまた別の神話形態である事。それは宇宙を対象とした規模の大きいものである事。例外を除き、基本的には封印されている為、滅多なことでは出現しない事、など色々だ。
「成程、地球に囚われない神話。外宇宙からの使徒。どちらかと言えば異星人ってことなのかな」
「基本的には。例外はいくつかありますけど」
「因みに君はどうやってアレを倒したのかな? 英霊の宝具でも打倒できなかったのに」
その疑問はもっともだ。
人間では逆立ちしても勝てないスペックを持つ英霊。その切り札足り得る宝具ですら多少の傷を負わす程度であったにも関わらず、マスターである俺が倒せたのであれば疑問に思うのも無理はない。
「その前に一つ訂正を。俺はあれを倒したのではなく、元居た場所に帰ってもらっただけです」
「……何だって?」
「アレ等を相手するにあたって真正面から戦っても勝てません。しかし、基本的に不自由な身の上なので、呪文等で帰ってもらうことはできます」
打倒することが不可能、とは言わない。度重なる奇跡があり、女神に愛されれば人の身でもあれらを打倒することは可能だと思う。けれど、それができるのはほんの一握りの人たちであり、アレ等が出てくる前にどうにかするのが基本となるのだ。
「なら、今後の対策としては……」
「召喚されないことを祈るしか……」
今回出て来たあの巨大な魚人は恐らくカテゴリーとしてはそこまで強い方ではない。だからこそ、あの程度の被害で済んだのだと言える。ネクロノミコンにはもっととんでもない存在のことが記載されていた。それを踏まえると、この考えは恐らく正しい。
「……」
「……」
沈黙がその場を支配する。
特に今回の召喚で精神崩壊を起こした人たちは悲痛な表情を浮かべていた(多分。肉塊にしか見えないからわからないけど)。
第三の特異点ではどうにかなった。けれど、今後同じことが起きればどうなるかわからないということだろう。
「まぁ、今後似たようなことが起きる。もしくは似たような状況に陥れば自分が動きます」
「現状、真琴君に頼るほかなさそうだしね。……申し訳ないけど、僕からもお願いするよ……」
顔面蒼白のドクターも無理してそう言葉を紡いでくれた。それに対して俺は静かに頷く。恐らくこれが人類の未来を救うことと自身の正体を知る近道になるだろう。
例え俺への疑いが強くなろうとも、これだけは譲ることができない。ようやくこの視界で生まれたことにも意味がある。そう思えたのだから。
「―――今まで散々疑っといてアレだが、今回は助かった。あとよ、よく知りもしないであんな態度取って悪かったな」
会議が終わった後、クー・フーリンからそんな言葉を受け取った。
……何だこの肉塊(黄金)超イケメンじゃん……。これから俺も兄貴って呼ぼう。
実は生贄にされただけなんじゃないんですかねぇ……。
あの化け物に対応できるのは彼だけ、だけど彼も彼で不気味、ならばぶつけて潰し合い! という具合にね。
流石に穿ちすぎですって? 何をおっしゃいますウサギさん!
ワタクシ、これが仕事で性分なのですよォ! これがなくなったら全ッ然面白くないじゃないですか。
ところで、彼の獣は一体何処に居るんでしょうかね? 最近見かけませんど。もしかして健気に隠れているのかも知れませんねェ…。