A.今更じゃね?
「はぁ!? 故障したぁ!?」
『ちょっ、落ち着いて立香君! キャラ崩壊が酷いよ!』
「緊急事態なのに落ち着いていられるかァ!」
『ごもっとも!』
濃霧立ち込めるロンドンの街中に立香の叫び声が響き渡る。
だが、それも仕方のないことだ。何故ならば同行していたもう一人のマスター、乾真琴が近くにいないのだ。彼はマスターと言っても、サーヴァントがいない。ただでさえ危険な特異点に一人ではじき出されていることになる。立香が心配するのも無理はなかった。
『まぁ、落ち着いて。彼の居場所は全力で調べている途中さ。……第三の特異点で確認できた不安要素に対応できる人材をみすみす潰すわけにはいかない』
「……利用価値がなければ見捨てるの?」
『流石にそこまで堕ちたわけじゃないさ。なに、この天才にドーンとまーかせて』
「心配すんな、マスター。あの野郎はそう簡単に死にやしねぇよ」
クー・フーリンがそう立香を慰める。
彼には第三の特異点にて正体不明の化け物を退けた実績がある。それに、ここ最近まで警戒していた彼だからこそ言えるのだろう。
「それに……あまり他人の心配をしている場合ではなさそうですよ、
「……複数の駆動音が聞こえますね……」
『こちらでも活動している者を確認した。動体反応が複数!ただ、魔力反応は霧の所為で分からない!』
「……っ! 皆、戦闘準備……!」
真琴のことは気になるだろう。それでもやるべき事とタイミングはわきまえている。そうでなければ、三つの特異点を越えることはできないだろう。彼もこの旅を通して、人類最後のマスターに相応しいと言えるほどに成長しているのだから。
――――真琴、無事でいてよ……!
この後、無事にこの場は切り抜けたが、街中に立ち込める霧が人体に有毒だと分かり、再び心配することになる。丁度その時、騎士王に似た騎士とであい、この特異点で協力していくのだった。
~~
門にして鍵、全にして一、一にして全なる者……思い出した知識の中にその存在は確かに在った。召喚されたらその段階で終わり。全員で仲良く発狂エンド直行だ。
そういうわけで、一時間ほどかけて家の中をくまなく探してみた。その甲斐あって、日記の全貌を確認することができた。
どうやらあの死体、最終的に銀の鍵を手に入れることはできたのだが、その他の儀式準備中に銀の鍵を奪われたらしい。日記の後半は銀の鍵を取られたことに対する恨み辛みが書かれていた。
……というか、門にして鍵はどちらかと言えば人間が彼の存在の元に辿り着くというのが基本である。しかし、日記には
あともう一つ。……上で死んでいた日記の持ち主は俺にとってとてもおいしそうな料理に見えた。もう一度言うが、俺にとっておいしい料理に見えるということは肉塊になっている、ということでもある。
普通自宅で肉塊になって死ぬようなことなんてあるだろうか? 死体の具合は分からなかったが、室内を荒らすことなく肉塊になるなんて何をしたのだろうか。
「………ダメだ。まるで思い浮かばないな」
これからどうするか。
外は毒素の霧があたり一面に充満してる。だけど、ここで籠城するには上に死体がある。いや、この際死体はどうでもいいけど此処で籠城しているだけじゃ無駄に時間を浪費するだけだ。
まぁ、このまま待っていれば合流できるかもしれない。
しかし……銀の鍵が気になる。強奪されたということは別の誰かが銀の鍵を持っている。これが不安で仕方がない。万が一呼ばれでもしたら本気で終わるぞ。
「……行くか」
いざという時はここを根城にしよう。
場所を覚えて近くの建物を探索するか。
なるべく呼吸をしないように一度深呼吸をする。そして、意を決して再びロンドンの街中に繰り出した。
「……おかしい」
あれからいくつかの建物を見てみたが、何処も扉が開いている上に誰も居ないということが続いている。
一回だけならまだいい。けど普通ここまで連続して誰も居ない建物なんてないだろう。さてこれをしているのは魔神か、それとも単純に門にして鍵を利用しようとする者か……。
「しかし手掛かりがあの日記だけとなるとなぁ……」
もう少し全体的な情報が欲しい。
今の所銀の鍵の在り処も分からない。サーヴァントとかが見当たらないのはありがたいけど、手掛かりまでないのはちょっと。
ここはやはり、銀の鍵よりも立香達と合流することを優先したほうがいいか……。気にはなるけどこれ以上できることはなさそうだし。
頭の中で現状の整理と今後のことを考える。
取り敢えず、この付近は見て回ることができたので、拠点を移して捜索範囲を広げようと再び街に繰り出そうとしたその時――――部屋の中から足音が聞えた。
俺は聞き取れた足音の方にすぐさま振り向き、指を銃の形にする。サーヴァントだった場合は多分効かないかもしれないけど、そもそも隠れられる場所はないし。
誰も居ないことを確認した部屋の中から出てくる時点で普通の人間という可能性は排除。サーヴァントもしくは魔術的ビックリ生物であると考えられる。
数秒間、臨戦態勢で静止していると、ついにソイツは姿を現した。
現れたのは長身の男。
その風貌は青白く、どう見たって健康的な人間には見えない。ついでに恰好もおかしい。身に付けているのは全身タイツに似た何かであり、胸元がざっくりと空いている。首には羽のようなふわふわしたものがついているし、帽子は二股に裂けていて、その先端にはボンボンがついていた。
少し変わっているが、道化師の恰好と言えるかもしれない。
けれど重要なことはそこではないのだ。
俺が
ということは―――――
「おやおやおや? 物騒なものを構えますねェ。まだ敵かどうかも分からないのに」
「そういう態度の奴は大体敵だったりするものだと、個人的には思うのだけれど?」
「クヒヒ! 感じ方は人によって違うと思いますが。まぁ、落ち着いてくださいよ。ワタクシは別に争いに来たわけではありません。むしろ貴方のお手伝いを、と思いましてね?」
ケタケタと笑みを浮かべながら道化師は言う。
まるで信用する気にならない。フィルター貫通の件が無くてもうさん臭さMax。飴ちゃん上げるからついておいでっていう不審者ばりに信用できない。
「周りからの評価で言えば貴方もそう変わらない気もしますけどォ……。まぁ、信用できないのも無理はありません。なのでまずは自己紹介をいたしましょうか。ワタクシ達は信用第一なのでね。クヒヒィ!」
そう言いながら、道化師の恰好をした男は丁寧なお辞儀をした後こちらに名乗りを上げた。
「初めまして。ワタクシ、メフィストフェレスと申します。以後、お見知りおきを」
………まるで信用ならないんだけど。
「あー……これは信じて貰えてませんね。今までの経験でわかっておりますよォ、これは! 裏切り者と! 思われている目ですねェ!」
「目的は?」
「少しは会話をしましょうよ。悪魔は会話第一。契約を重視する以上、知的生命体足り得るツールは活用していきましょう。アンダースタンド?」
ウザイ。なんだこいつすっごくウザイ。胡散臭い、気色悪い、ウザイの三重苦だ。街中と同等レベルで嫌だ。
けれど、メフィストフェレスと名乗ったこいつは少なくともサーヴァントと同等で尚且つ外界の神々関係。本来ならもう俺は死んでいてもおかしくはない。向こうにも目的があるというのであれば選択権なんてないのか。
俺は腕を下ろして、メフィストフェレスを促した。
「賢い選択だと思いますよ? ……さて、話と言うのは他でもありません。貴方、ワタクシと一緒にこの愉快痛快なこの街を探索しましょう! 銀の鍵を目指して、ね?」
彼の言葉に俺は反応せざるを得ない。一方向こうはこちらの対応が大変愉快なのか不気味な笑顔を隠さずニッコニコしている。なんなら右手にはいつの間にか契約書みたいな紙が握られていた。
「わかった」
こうして、最も信用できない協力相手が誕生することになった。