一方、真琴と同じようにロンドンへと赴いた立香達は現地で出会った協力者と共にこの特異点の情報を集めていた。そして現在、ある仮説を確認するためにロンドンの街中を巡回している最中である。メンバーはクー・フーリン、マシュ、清姫、そして現地で出会ったモードレッドだ。
「……大丈夫かな」
立香が呟く。
彼の言う大丈夫が指すのは現状一つしかない。レイシフトする際にはぐれた真琴のことだった。この死の街と化したロンドンに一人で放り出されている。立香にはマシュの恩恵により、魔力の塊たる霧の影響をほぼ受け付けないが、真琴にはそれがない。それどころかマスターを護るサーヴァントすらいない。特異点でサーヴァントがいないのは命綱なしでバンジージャンプをするようなものだ。
「真琴さんですか……確かに心配ですね。ここはサーヴァント以外にも霧がありますから」
「うん、そうなんだ。ドクターもまだ通信がつながらないって言ってるし……」
「前にも言ったがアイツはそう簡単に死ぬ玉じゃねえ。俺達はこの霧をさっさと取っ払って、合流しようぜ」
「私も同感です。信用も信頼もできませんが、彼は嘘を吐きません。実力に関して言ってもそう簡単に死にはしないと思いますわ」
サーヴァント達が立香を慰める。
その様子を見たモードレッドは不思議だと思った。同じ仲間なのに、心配をしているのは立香とマシュだけ。他の連中、時間を越えて通信をしている人も
仲間のはずなのにそう思っていない。そう彼女の直感が告げていたが、直にその考えを頭から外す。実物を見たことがない自分がどうこう言うのは筋違いであり、彼女にとってそこまで大きな問題ではないからだ。自分はこの街を穢す不届き者をぶちのめすのみ。
「………お、どうやらアイツの読みは当たったみたいだぞ」
カルデア側の問題を置いておき、モードレッドは霧の中から生まれた人型を指さす。その光景こそ、彼らが求めた者。この霧の正体を掴む鍵。
立香も一先ず考えを改めて、自分が直面している問題に向き合うのだった。
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取り敢えず、台座となるための六つの細工はぶっ壊した。一日を消費してしまったが、少なくとも直に門にして鍵を召喚! なんて事態は防げたと思う。もっとも、銀の鍵の在り処は未だに不明なため、全く安心できないのが現状だが。
「それにしても、こんなものまで残していたとは……」
「まぁ、記録は魔術師の基本ですから。それにしては、無駄な部分が多いようですけど。何処までもつまらないですねぇ」
門にして鍵を召喚しようとしていた魔術師は、儀式に必要な台座にそれぞれ自身が書き残した日記を置いていた。魔術師は自身の魔術を絶えさせないために子孫に継承していくというのは聞いたことがあるので、気にはならないのだが、問題はその中身。先程言ったようにもはや日記である。魔術のことに関しても触れてはいるが、半分はどうでもいい身の上話が入っていた。
「それでも気になる情報はいくつかあった」
合計で六つ手に入れた日記の中で役に立ちそうな情報も確かに在った。それが、日記全てを読破するという苦行に繋がるのだが、今はいいだろう。
重要な情報というのはどうしてこの付近に人がいないのか、門にして鍵の存在をどう知ったのかが書かれていた。
まず、門にして鍵の存在だが、ロンドンの魔術協会に行った際に顔を隠した黒ずくめの男が教えてくれたのだという。黒ずくめの男曰く、もっと知りたければ魔術教会の奥深くに眠る魔本を読めばいいとのこと。
しかしこの魔術師、プライドの為か、指図するような男の言葉に耳を貸さず、周辺の住民を片っ端から生贄として利用して門にして鍵を呼び出そうとしたらしい。規模が規模な為、これ以上隠しとおすことはできないと思った魔術師は大人しくロンドンの魔術協会にて男の言った書物を探したという。
「……?」
ここまで思い返して、引っかかりを覚える。
顔を隠した黒ずくめの男も引っかかるが、矛盾が一つ生じているような……。
「そうか」
門にして鍵の存在が記してある魔本はどれもこれもヤバイ奴。常人であれば発狂してもおかしくはない。
メフィストフェレスを召喚した魔術師が精神的に強靭であった……というのは正直考えにくい。日記からもメフィストフェレスの話からもそう感じることはなかった。
「……メフィストフェレスを召喚できたのは、魔術師が細工をしたのではなく、縁による召喚」
正常な精神状態ではなかったために、メフィストフェレスという異形が召喚できてしまったのではないか。その可能性が出て来た。いや、本来の状態でもメフィストフェレス呼べたと思えるくらいにはロクデナシだったっぽいけど。
となると、日記に書かれていた内容があまり信用できなくなってきた。少なくとも、魔術協会で魔本を読んだ以降に書かれたものは。
「……いやまて」
そもそも時系列はなんだ。
メフィストフェレスが召喚されたタイミング。
銀の鍵を奪われたタイミング。
台座を作ったタイミング。
―――――ワタクシとしても銀の鍵を使われるのは避けたいのです。
「まさか」
どの儀式の準備よりも先にメフィストフェレスを召喚したとしたら。
そして、最後、銀の鍵を手に入れた瞬間にメフィストフェレスに殺されたとしたのならば……。
―――――まぁ、しかし最期の瞬間に見せた絶望の表情だけは高得点でしたけど。
それは、彼にとって最高の娯楽だったのではないか。
「なぁ、メフィストフェレス」
「―――どうかしましたか?」
「もしかして、銀の鍵さ。もう持ってんじゃないの?」
俺が尋ねた瞬間、道化師の恰好をした男は静かに立ち止まる。こちらも足を止めて、彼に向き直る。
汗が垂れる、呼吸が荒くなっていく。この考えがあっているのだとすれば、何故彼は俺と行動を共にしていたのか。何故、こんな茶番を繰り出していたのか。
「……キヒヒ!」
――――答えは、この道化師のみ知っている。