………いっそのこと、立香かメッフィーでいこうかな。
この場に居る誰もが分かっていた。彼に勝ち目なんてないことに。
相手は四つの特異点を越えて来たマスターである立香とその仲間達ですら叶うことのなかった相手。聖杯で呼び出された英霊を雑多と吐き捨て、文字通り器が違うのだと見せつけた……人理焼却の元凶であるソロモンだ。一度交戦経験があるからこそ、メフィストフェレスの力量は理解できているし、真琴に関しても彼はどれだけ特別な事情があろうとも人間だ。
立香の元に集った二桁に届かんばかりの英霊を以てしても歯が立たなかった相手に、二人で叶う道理などない。
「メェェェフィィィィスト!! もうちょっとこう……出力とか上げられないわけ!?」
「ワタクシ悪魔ですけど貴方も大概ですね! ニンゲンできることとできないことがあるんでございますことよォ!」
「お前悪魔だろ!!」
「そうでした! うっかりうっかり」
爆発が多発する地帯にて大声で冗談を交わす二人だが。口とは裏腹に余裕はない。メフィストフェレスの片腕は既にこの世にはなく、真琴の身体にもいくつもの赤い線が走っていた。
持ってあと数分という所だろうが、これでも大健闘していると言える。相手はソロモン。決定的な危機に陥った時、呼び出される人類史中で至高とされるサーヴァントの内の一体。それを相手に二人でもたせているのだから。
「――――無駄なあがきを……これで終わりだ」
しかし、それもここまで。
数分で彼らの戦い方を読んだソロモンは立香達に顕現させていた四つの魔神達を起動させ、宝具を軽く凌駕する魔力塊を彼らの方に放った。
並の英霊は愚か一級のサーヴァントですら葬れる威力で放たれたソレに、真琴が対抗できる手段はない。せめてもの足掻きとして自分に緊急回避の魔術をかけるものの焼け石に水。彼の身体は紙くずのように宙を舞い、その後地面に叩きつけられる。
「いやはや、この霊基ではこれが限界のようですねぇ……。我がマスター! 貴方の選択、楽しませてもらいましたよ! イヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」
共に戦った謎に包まれたサーヴァント、メフィストフェレスは消滅し、もはや真琴に抵抗できる手段など残されてはいなかった。
彼は消滅していくメフィストフェレスを眺めながら自分の身体が動くかどうかを確認する。
「………」
結論として、いくつかの骨が折れているのだろう。身体を動かすたびに叫び声を上げたくなるような激痛が走った。
今もなお開いている通信機越しに、ロマニの焦った声が聞こえる。職員たちの絶望の声が聞こえる。ダ・ヴィンチの沈黙を感じる。彼らは諦めている。此処で
そのようなことを考えながら、真琴は思う。
人類の未来なんてものはもはやどうでもいいのだ。元々彼は無理矢理連れてこられた側の人間であり、カルデアの使命に燃えていたわけではない。彼に仲間などは居ない。自業自得な面もあるが基本的に彼に味方などいなかったのだから。しかし、それでも――――
「…………」
既に意識を保つことすら辛いだろうに、立香は変わらず真琴に手を伸ばし続ける。
彼はそういう人間だ。魔術はうまく扱えないし、戦術面に特別優れているわけでもない。しかし、そんな彼だからこそ、どんなサーヴァントとも手を取り合うことが可能であり、真琴と関りを持ってくれるのだ。だからこそ、皆が人類の希望として彼を望むのだ。
「――――■■■呪い」
血で紙に文字を書き、それと放置されていた聖杯を魔術で共に立香の方へ飛ばす。
すると、今までレイシフトできずにいた筈の彼らの身体が徐々に消え始めた。
感覚的にこれから何が起こるのか彼らは悟る。カルデアに帰るのだ。
『どういうことだ!? 彼らの身体が……!』
『レイシフトと同じ現象……?』
疑問の声が上がるが、それに答える声はない。
最後の最後まで立香は真琴へと手を伸ばそうとする。
けれど、結局その手が握られることはなく――――――――彼らは第四の特異点から姿を消した……。
~~
その光景をソロモンはただ見届けていた。それは余裕でもあり、優先順位の違いでもあった。カルデアのマスターには既に細工をしてある。自ら手を下すことがなくてもあのマスターはおしまいだと彼だけが知っていたから。
直に興味を無くしたソロモンは自分の目の前に転がっている真琴に視線を送った。彼の身体は既に死に体。呼吸も荒く、目の焦点もあっていない。全身に力が入っていないのかピクリとも動かない状態だった。
「ふん」
これで死んだ……とは思っていない。
他の全てを差し置いてでも、この人間だけは始末しなければならないと彼は理解している。
中身の有無など重要なことではない。問題は皮にあるのだ。放置しておけば必ず自分たちのみならず全てを侵す病魔に成り得るモノだと彼は千里眼から読み取っているのだから。
右手をゆっくりと掲げ、人ひとりに使うには多すぎるほどの魔力を注ぎ込む。
そして―――――抵抗らしい抵抗を一切見せない真琴に向かって彼は魔術を振り下ろし、ソロモンはロンドンを去った。
聖杯がなくなり、崩壊するロンドン。
先程まで激闘を繰り広げられていた地下にはいくつもの傷跡があり、死体などは何一つとして残されてはいなかった。
~~
目を覚ませば、そこには何もない空間が広がっていた。あたり一面は暗闇に支配され、一寸先も見渡せない状態にある。全てグロ肉に変換される仕様を生まれたときから所持している自分にしてはとても珍しい光景だった。と、言ってもこの空間に見覚えがないわけではない。むしろ馴染みのある場所と言ってもいいだろう。だってここは今まで夢で何度も見たことがある空間なのだから。
『■■■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『■■■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『■■■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『■■■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『■■■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『Nya■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
声が聞こえる。
それは前から。
それは後ろから。
それは右から。
それは左から。
男の、
女の、
子どもの、
老人の、
動物の、
植物の、
道具の、
あらゆるモノの声が、聞こえる。
称えているようである。
恨んでいるようである。
祝福してるようである。
呪っているようである。
そして何より、嘲笑っているようである。
『Nya■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『Nya■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『Nya■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『Nya■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『Nya■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『Nya■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『Nya■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『Nya■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『Nya■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
『Nya■ ■■ta■! ■■■ ■■■■na!』
今までの比ではない。
狂ったように声が聞こえる。幾つもの数が混ざりあい、騒音にすら聞こえるのに、何故か個人個人の声音をはっきりと聞き分けることができる。声に潜む感情を読み取ることができてしまう。ある意味、肉塊だらけの世界を眺めているよりもキツイ。
だが、一番キツイのは、
「6;f』
――――――まるで溶けるかのように自分がなくなっていく今の感覚だった。
だぁぁれが役立たずですか! これでもワタクシ、柄でもないくらいには頑張ったんですがねぇ?