貴方、生きているのでSANチェックです。   作:トメィト

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リスタート

 

 

 人類最後のマスターである立香が意識不明の状態になってから4日が経過した。カルデアのスタッフは自分たちの総力を持って原因の究明に勤めているが、未だ進展はない。

 キャスターとしての適正を持っているクー・フーリンも加わるものの、状況は好転しない。

 

 しかし、ロマ二には予想がついていた。グランドを自称するソロモン。あれだけ高位の存在であれば、直視するだけでも呪われる可能性がある。彼が生きているのはおそらくマシュと契約しているからだろう。彼女に力を貸している英霊はそういうことに耐性のある者だから。

 

「立香君……」

 

 今自分にできることは彼のことを信じて待っていることだけだ。ロマニは自分の無力さに嘆きながら、自分の出来ることを時間の許す限りするのだった。

 

 

〜〜

 

 

 身体にナニカが纏わりつく。

 聞いたこともない声が耳を犯す。

 腐った肉を煮込んで混ぜたような、酷い匂いがする。

 しかし、それらを己の意思でねじ伏せて進む。

 

 地の感覚はない。

 天井などない。

 視界に、道標になるものは一つとしてもありはしない。けれど、それでも前へと進む。

 

だってまだ何もしていないから。例え俺が何であれ、俺は俺自身を楽しめていない。自分の人生を謳歌していない。立香にも恩を返しきれていない。こんなところで止まっている暇はないのだ。

 

「どこに行くのかね」

 

 ふと、声がかかる。

 それは聞いたことのある声。夢の中で初めて意味のある言葉を発したあの声。人のことを堕落させる声だ。

 

「……」

「君の居場所など、どこにも無いよ。共に戦った彼らは誰一人として君のことを覚えてはいない。覚えていたとしても、扱いに差など生まれない。逆に不安を煽る結果となるだろう。……はっきり言おう。今はカルデアには不要、むしろ不和を生み出す異物でしかないのだよ」

 

 はっきりと、薄々気づいている事を指摘される。確かにあの組織は……カルデアは今の状態で完成されているのだろう。本来であれば2人目のマスターなんて不要で、立香1人だけでも上手くいっていた。いや、それが正しい形なのだろう。思えば、あのスタッフ達の対応も、彼ら個人の話ではなくもっと大きなモノが関わっているのかもしれない。

 

 けれど、そんな事俺には関係ない。例え誰にも望まれなくても、何より自分自身が望んでいる。それに、誰にもとは言ったものの、多分だけど彼も。人類史上最も度胸のある凡人たる彼はどんなものでも受容できる器を持っていると確信できるから。

 

「……ククッ。そうか、そうか……。なら、私からは何も言わない。ただ、私以外のモノは分からないがね」

 

 声がそういうと同時に、暗闇の空間に漂っていた異形達の半分が此方を捉える。先程とは一変、まるで獲物を見るかのような視線を投げかけられる。

 ……つまりはそういう事だろう。ここから出たければ、一度変えておきながら……人としてのもう一度を望むならそれなりの対応を見せろ、と。

 

 正直無理だと思ってしまう。ここに漂っているのは、第三の特異点で感じた不気味さと同じであり、巨大な魚人よりも格上だろうから。

 けど、彼に倣って立ち上がろう。どんなに巨大な相手にも膝を屈する事なく歩み続けよう。いつだって、最後に笑うのはそういう存在だと知っているから。

 

――――――えぇ、それでこそです!それでこそ、ワタクシが見込んだ方!! さぁ、汚名を返上しましょうかァ!

 

 

~~

 

 

「どうした」

「…………」

 

 今、俺は地面に伏している。理由はごく単純で、サーヴァントと戦ったからだ。尤もこの場には、頼りになる後輩や仲間の姿はなく俺1人だけという状況だけど。

 相手のサーヴァント。巌窟王と名乗った彼とは今俺がいる監獄島で出会った。魔術王たるソロモンを直視した結果、俺は呪われここに落とされたのだという。彼は俺に力を貸してくれ、ここから出る手伝いをしてくれた。しかし、この監獄島から出ることができるのは1人だけであり、巌窟王か俺のどちらかは取り残されることとなる。そこでリアルファイトに移ったわけだけど、どうにも力が湧いてこない。

まるで喉に魚の小骨が突き刺さっているかのごとく、違和感を覚えるのだ。

 

「何か躊躇いがあるようだな。もしや、未だ納得していない……というつもりではなかろうな?」

「そんなことは無いけど……でも、何かが引っかかるんだ。この状況に覚えがあるというか……」

「そうか。しかしこちらには関係がない。全力を出さなければ復讐鬼は外へ放たれ、人類の希望は失われることになる」

 

 巌窟王が地を蹴り、一気に加速する。それはサーヴァントにしては遅く自分でもギリギリ捉えることができるほどの速度だ。彼は律儀に俺との約束を守ってくれているのだろう。なら、こちらも全力で応えなければならない。そうわかっていても、誰かの顔が頭をよぎるのだ。いつも1人で戦っていた、誰かが。いや、元々喧嘩もろくにしない俺が真面目にやってもまともな戦いにならないけどね?

 

 身体の至る所に傷が増えていく。

 なんとか顔だけは守っているものの、胴体や足などは無防備だ。英霊にもなる人物がそれを見逃すはずもなく、再び後方に吹き飛ばされ、監獄塔の冷たい石造りの床に叩きつけられる。身体の至る所から痛みを感じ、動かす度に顔を顰めてしまう。

 

「………」

 

 あともう少しで思い出せそうなのに、思い出せない。すっきりせず気持ち悪い。しかし、このまま倒れているわけにもいかない。此処で負けてしまえばこの監獄塔に一生閉じ込められてしまう。

 痛む身体に鞭を打ち、覚束ない足で立ち上がる。巌窟王は俺の様子がおかしいのか高笑いをして笑みを深めた。思考を切り替えろ。今はもう考えているような場面じゃない。此処で負けるとはすなわち、あの魔術王に屈するということになる。それだけは絶対に嫌だ。アイツは俺の大切な■■を殺したのだから。

 

「―――ようやくか」

「ふぅ…………行くぞ!」

「来い」

 

 カルデアの魔術礼装に登録されている魔術、そして特異点に行くまでの間で習得した魔術をできる限り自分にかける。

 瞬間強化を自分にかけて少しでも火力を増やす。急激に強化されたことで身体が悲鳴を上げるが、死にはしないはずだ。先程の巌窟王に倣ってこちらも地を蹴って一気に加速する。そして、彼を倒すために慣れない拳を振るう。生きて、皆の元に帰るために。

 

 

 

~~

 

 

 

 藤丸立香が魔術王の呪いによって送られた監獄塔。そこに在る最後の間に一人の男が立っていた。―――――の帽子を身に付けて葉巻を吸っている。そう、それは先程まで監獄塔を脱出する権利をかけて戦った世界一有名な復讐鬼・巌窟王ことエドモン・ダンテス。

 彼は藤丸立香に負けながらも悔しそうな表情は見せていない。むしろ何処か嬉しそうですらあった。しかし、彼は直に笑みを消して、虚空に向けて言葉をかける。

 

「盗み見か。あまりいい趣味とは言えんな」

「えぇ、えぇ。それはもう、ワタクシは自他共に認めるロクデナシでして。今回の言い分は十割そちらにあるかと」

「フン」

 

 巌窟王の言葉に返事をしたのは何処か人を小ばかにするような声音。自分に非があると口では言っているが、改める気配はまるでなく、むしろ相手を馬鹿にしているようにすら感じる。

 

「それで、どうして貴様が手出しをしたんだ。お前にとってあいつは何の価値もないだろう?」

「誤解ですよ。あそこまで突き抜けている方は珍しいので、十分ワタクシ達の興味を煽ります。……まぁ、今は優先順位の関係でノーマークではありますがね」

 

 彼の返答に巌窟王は眉を顰めた。人を玩具のように見るというのはどうにも好きになることができない。特に藤丸立香のように認めた人間であれば尚更である。

 巌窟王の心情を察したのだろう。おどけた声は今度は自ら言葉を紡ぎ出す。

 

「おや、気に障りましたか。それは失礼いたしました。今回の目的は達成されているのです。態々貴方とことを起こす事態は避けたいですねぇ……」

「……あれは、貴様の主の差し金か」

「exactly!」

 

 確認したいことは終わったのだろう。

 声の返事をもらうと巌窟王は、監獄塔の奥へと足を進める。そして、暗闇に消える前、不意に身体を振り向かせる。

 

「貴様の主はいい同朋になったと思うのだがな」

「いえ、いえ。……ワタクシの主は何処まで行っても外れ者なので」

「惜しいことだ」

 

 それが最後の言葉となった。

 数々の囚人を閉じ込めた監獄塔に、元の静けさが戻った。

 

 

 




その自己中心的な考え方、まさに人間!
実に素晴らしい。此処まで自分を保てたニンゲンを他にワタクシは知りません! やはり貴方は最高ですよォ!!


えぇ、えぇ。それにしても……彼の王は余計なことをしたと心底同情しますよ。本当に。
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