―――うん。まぁ、こうなるよね。
「帰って来て早々済まないね。真琴君」
さて、今俺がどうなっているのか。それをお伝えしよう。
あの後、レフ・ライノール(真)を倒し、ついでに彼をレフ/ライノール(肉柱)にしたアルテラという英霊が出現した。その力は絶大で誰もが絶望しかけたがネロ・クラウディウスと立香を中心として立ち上がり何とか撃破。聖杯を手に入れることができた。それでめでたしめでたしと終わるかと言えば、そうはならない。
女神の言葉、神祖の態度、そしてレフ・ライノールの怒り。それらが俺を未知の化け物にしてくれたからだ。自分で考えていて泣けてきた。
で、皆の精神状態を考えて俺だけ隔離することにしたのだ。その場所は、レオナルド・ダ・ヴィンチの工房。なんでも、サーヴァントの近くに居ればある程度大丈夫だろうということを言ってドクターとレオナルド・ダ・ヴィンチが庇ってくれたらしい。
「まぁ、あれだけ言われれば不安になる気持ちも分かります。というか、自分も自分のことが怖いですよ」
冷静に考えて、あれだけ言われるなんて俺は一体何なんだろう。生まれたときから自我を持っている。前世の記憶と呼ばれるものが在るのも分かっている。でも、思い浮かべることができない。価値観も、学修したことも残っているのにまるで霧がかかったかのように思い浮かべることができないのだ。
こんなの疑われるわ。近くに俺みたいなのが居たらぶっちゃけお近づきになりたいとか思わないもん。
「というか、良くこの案が通りましたね。ダ・ヴィンチちゃんがいる処ってカルデアでもかなりの重要拠点ですよね?」
「……そこら辺は今までの実績さ。ダ・ヴィンチちゃんのビックリドッキリメカで囲うって言っておいたから」
「えぇ……」
そんな実績を作り上げるほどのことをやらかしたのかこの人。え、大丈夫だよね。この後、改造されたりしないよね?
俺の眼を直してくれるのであれば大歓迎だけど、身体の改造はノーセンキュー。
「別に変なことしないよ。これは体裁を保つためにこうしているだけで、危害を加えようとしているわけじゃない」
「そうですか……」
聞くところによると別に生活基盤が此処になるだけで、閉じ込められるわけではないという。
「自分で言うのもなんですけど、其れ意味あるんですか?」
「彼らが最も恐れているのはマイルームで何をしているのか、ということだけらしい。だから、私が近くにいることによってその心配を取り除こうってわけさ。あ、別に監視カメラを仕掛けているわけじゃない。魔力を感知するセンサーを仕掛けているけどね」
まぁ、センサーならいいや。
「……許してとは言わないよ」
「気にしてませんよ別に」
ここに居る方が逆に安全と言えなくもないだろうしね。
~~
第二特異点も無事に乗り越えて、真琴が部屋を移動したある日。久しぶりに食堂で彼と遭遇することができた。その様子は普段と変わらない様子であった。あんなことがあり、あのような仕打ちを受けた筈なのに……。
一先ず安心したので話しかけてみる。
「真琴ー」
「……ん?あ、立香」
こちらの声に反応して振り返った真琴。相変わらず異常に透き通った目が俺のことを射貫いていた。人によっては不気味に感じるかもしれない。ただ俺は引き寄せられるような不思議な魅力があると思っている。ホモじゃないよ?
「久しぶりに一緒に食べない?」
「いいよ」
既に料理を取って来ていた彼に席を取っておいてもらい、俺も急いで料理を運ぶ。そして、彼の正面に座って一緒に両手を合わせた。
「いただきます」
「いただきます」
今日はこの前新しくサーヴァントとして召喚に応じてくれたブーディカさんが作ってくれた料理である。彼女が生きていた時代のものらしいが、それだけにとどまらず現代の調味料を組み合わせるという荒業をしてくれている為俺達でも違和感なく食べることができるものだ。とてもおいしいです。
「あ、そういえば一つ聞いていい?」
「急にどした?」
「いや、真琴っていつも食べるときに目を瞑ってるなぁと思ってさ」
「あぁ、これ?」
まぁ、皆他人の食べ方なんて気にしないかもしれないけどさ。いつもいつも目を瞑って食べることには何かあるんじゃないかなと思った。
「これはね。料理の食感を楽しむ為なんだ」
「へぇ。やってみよ」
彼に倣って目を瞑りご飯を食べてみる。すると普段とは感じが違い、食感がダイレクトに伝わってきてとても面白い。この状態でいくらとかたらことか食べてみたい。
「面白いね。自然に目が閉じることはあるけど、自分から閉じて味わうってことは中々しないから」
「そうだろうねぇ。自分の好物とかなら目を瞑るのも分かるけど、普段の料理はそこまで味わったりはしないだろうね。特に、俺達みたいに衣食住に何の不自由もなく育ってきた連中は」
「……そうだね」
オルレアンそしてローマと二つの特異点を乗り越えて来た分、俺達は二つの時代、二つの国の事情を見て来た。もちろん、それらが一晩で片付くような内容ではない為日を跨いだ。
カルデアの物資支援があったとはいえ、日常と比べると不便な生活をしてきた。それを含めると彼の言葉も痛いほど理解できる。
「………ねぇ。真琴はさ。現状をどう思う?」
人理修復を掲げ、最前線で戦う彼。しかし、周りの反応はあまりよくない。魔術的なことが絡んでいるのだとすれば俺には理解できない領域となり、正確なことまでは分からない。でも俺が視る限り、彼は誠実に生きていると思う。例え何かしらの隠し事があったとしても、人として隠し事の一つや二つあるだろう。だから、この状況には少し納得がいってない。
「仕方ないことだと思う。だって、俺達一人ひとりに人類の未来がかかってる。カルデアの職員だって、殆ど寝ないで次の特異点の割り出しや、機能不全に陥っているシステムの修理をしてるから。どうしても精神的に弱っちゃうんだ」
「………」
「まぁ、こうして心配してくれるだけでとてもありがたいさ。それに自分の限界は見極めてるから」
「………そっか」
「立香はどう思っているのかわからないけど、俺はこう見えて情けない男だぞー。よく内心で嘆いているし、理不尽なことあったら内心で罵倒するし。この前のステンノは本当に許すまじ。アイツ絶対魅了効かなかったことを根に持ってやがったよ」
「……ぷっ。そんなこと言うと直接乗り込んでくるんじゃないの? 神様だし」
結局、詳しいことは聴くことはできなかった。どうして皆が異常と呼べるほどに彼を疑うのか。その真相は分からないけれど。少なくとも、
「ちなみにこの前清姫が部屋に入っていったけど大丈夫だった?」
「えっ、何時の話」
「昨日」
「……そういえば今日は一度も見ない……」
「………」
「………」
「今日泊めて」
「無理」
――――この笑顔は、信じられる。
「怖くて部屋帰れないんだけど!?」
「ベッドの下(ボソッ」
「やーめーてー!!」
混沌の中でも確かなものもある。