——————この世界は残酷だ。
彼にとってこの世界に希望はなく。
時が経てば経つほど絶望は増していく。
この世界に生まれ落ち此れは此れと赤子なりに物わかりが出来るようになりこの小さな世界は何て眩しくて明るいんだとその小さな感性で涙を零した。
人里離れた地で暮らす僕たちはとても裕福な家庭とはいえないがとても——————とても幸福だ。
外界からの接触を断ち、人が来ない森林地帯とはいえ人が迷い込まないよう人払いの結界やらよく分からない結界が張ってある。月に一度顔を隠した人が外の情報をお父さんに報告しにやってくる。一言も言葉を発さないからちょっと怖い人だけど此処じゃあ手に入らないものをくれるからちょっと良い人。
僕は子供なりに聡明な方だと思う。お父さんの手伝いで畑を耕したりお母さんの家事の手伝いをしたりお姉ちゃんに勉強を教えてもらったり妹と一緒に遊んだり——————怒られる事もあるけどどれもこれも新鮮で日々が新しい事の発見で楽しかった。
何時ものようにお父さんの手伝いをして妹と遊んで疲れを癒やすため沸いたお風呂で温まり汚れを洗い流す。夕食になると誕生日をお祝いされた。自分でもすっかり忘れていたが今日は僕が生まれて八年目の誕生日だったりする。ケーキなんて高価なモノ食べたことないけどいつもより豪華だから大好き。
家族からの誕生日おめでと~声援は温まるものがある。皆では~ぴぃば~すでーとぅ~ゆーを歌って盛大に盛り上がった。今日から八歳。この幸せな時間がずーっと続けばいいな。
あれから数日が経ち妹とキャッキャと笑いながら外で遊んでいると何時もの"ちょっと怖いけどちょっと良い人"がお父さんと家の玄関を潜るのを見かける。
きっちり一か月に一度、最終日にしか来ないのに今回は二十日にやってきた。いつもより何だかよそよそしかったし。
夕方まで妹と砂遊びをして帰るとまだお父さんと"ちょっと怖いけどちょっと良い人"が話し込んでいた。話の内容はよく分からないけど途中からお姉ちゃんも参加していた。僕と妹はお母さんに連れられ就寝。優しいお姉ちゃんが何処か悲しそうな顔をしていたのが脳裏から離れなかった。
眠りは深い方だけど今朝は余り寝付けなかったせいで少しだるい。妹はぐっすりだったが今朝が苦手な体質のせいかすごく眠そうだ。今朝は家族みんなで朝食をとるのが日課だ。なのにお父さんは"ちょっと怖いけどちょっと良い人"と深夜に出かけたらしい。こんなことは初めてだ。何だか胸騒ぎがするが気のせいであってほしい。
あれから月日は流れ明日九歳の誕生日を迎える。お父さんは帰ってこない。お母さんは必ず帰ってくるからと僕の頭を撫でてくれる。お姉ちゃんは何処か寂しそうに心配ないよと抱きしめてくれた。妹には僕がついてるから全然寂しくないとお兄ちゃん子になってしまった。
明日は僕の誕生日。今年はお父さんが居なかったけど明日からはまた家族みんなで暮らしたいな。
燃えている。みんなの帰る
お父さんと耕した稲は焼かれ黄金の景色がくすんだ紅色に変わる。
僕はソレをただ見ている事しかできなかった。
お姉ちゃんに抱えられ林の中に逃げる。
茫然と——————
呆然と——————
この九年間離れる事のなかった居場所が今ではあんなに遠くに——————点になり消える。
何が起きたのか分からなかった。誕生日を次の日に控え毛布を被り明日に期待を込めて夢現と意識をシャットアウト。その後日時が変わる前にお姉ちゃんに叩き起こされ眠気がとれぬ間に外まで手を引かれ、そこで見た光景に意識が停止した。
後は一歩も動かない僕をお姉ちゃんが抱きかかえ今に至る。
放心状態から妹が居ない事に意識を別方向に向ける。こんな状況だ、僕が付いてやらないと。
妹はお母さんと一緒らしい。はぐれたなら早く合流しないと。
呼び掛けようと声を張り上げようとしたらお姉ちゃんに止められた。<奴ら>に捕まる——————と。
<奴ら>が何なのかは分からない。見つかる、捕まればただでは済まないのは僕でも分かる。
そこからはお姉ちゃんに手を引かれ予め決められていた集合地点に向かう。聞かされてないのは僕と妹だけ。
音を立てずゆっくり忍び足で手を引かれる。何時着くかは分からないけどもうそろそろだと思う。先を歩くお姉ちゃんの顔から血の気が引いて行く。僕がどうしたの?と聞く前にそれは起こった。
『お、やっときたじゃん待ちくたびれちゃったよー。まったく……お前らの前で殺す予定だったのによーお前らが遅すぎて暇つぶしで潰しちまったじゃねーかよ』
服はボロボロに破かれ、手足は歪に折り曲り、体の皮膚を剥がされ——————奇跡的に顔には傷一つなく——————
「見ちゃダメ!」
胸元が微かに動いていた。生きている。アレで生きていた。
呼吸が出来ない。網膜に張り付いた映像がループする。胸が苦しい。体に力が入らない。
「こっち!」
お姉ちゃんに抱きかかえられ——————
『え?逃がすと思うの?いくらなんでも舐め過ぎでしょ。これってアレですか?自分は好きにしていいから弟は見逃してほしいって王道な口説き文句言うつもりなの?いやいやないないありえないよー。
声にならない悲鳴がお姉ちゃんから漏れる。両足を膝から潰され背中を踏まれても悲鳴一つ上げず僕を守っている。
『お前等の血筋はほんとーに拷問しても悲鳴一つ上げねーんだよねー。この前……一年くらい前か……お前と同い年くらいの男なんて目の前で妹とお母さん犯して拷問したのに何一つ喋らねーんだぜ?酷いと思わない?何か喋ればお前だけは見逃してやるって口酸っぱく言ってるのによー。……親不孝者だな、アイツもお前も』
断固として痛みや恐怖を顔に出さなかったお姉ちゃんが——————泣いた。
悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて——————悔しくて仕方ないんだ。
何もできない
無力でどうしようもない
弱くて弱くて……ひ弱な
——————自分に。
『ま、もう飽きたからいいや。妹さんで十分楽しんだし。これ以上時間かけたら魔女にばれちまう。——————
"パン"と、空気が振動するとお姉ちゃんの頭からゼリー状のぷにぷにが僕に降り注ぐ。
この目を知っている。焦点が定まっていない。瞳孔は開き切っている。嗚呼……正気が無いんだ。生物の死に疎い僕でも分かる。お姉ちゃんはもう笑たり怒ったり僕を抱きしめてくれないんだ。
『あー……冷めた。俺別にショタコンじゃないんだけどなー……潰そー』
蜘蛛が蝶々を捕らえ殺し食べる。捕らえられた僕は絶対的捕食者に殺されるんだ。
首を靴底で圧迫される。死——————これでみんなのところに——————
『あれ?あれあれあれあれぇ~?何で此処に居るんだお前?奇跡的に黒薔薇様の御眼鏡に適って奇跡的に気に入られたお前が何で此処に居る?あれ?もしかして怒っちゃったり?ぷぷうぷっ……沸点低すぎだぜ黄薔薇ちゃんよ~?おお、やるの?こっわい目ェしちゃって。今結社は争いごと禁止になってんっしょ?黒薔薇様のごめいれーで!上司からも刺激すんなって言われてっからひーてやるよ、粗方任務かんりょーだし。何より黒薔薇を怒らすのは俺の本意でもない……』
あれ?なにがどうなって……
『すまない……私に力が無いばかりに……今は眠れ』
其処からはよく覚えていない。
☦ ☦ ☦ ☦ ☦
随分と懐かしい夢を見ていた。
自分の人生の分かれ道。他に選択肢は在ったかも知れない。
けどこれはハッキリと断言出来る。
何度やり直そうが私はこの道を選択するだろう。
私の様な存在がまた何処かで生まれ復讐の連鎖が続くのなら。
私が終止符を打つ。
私と同じ<金の瞳>を持つ者の為に。
黄薔薇様をお姉ちゃんに——————
黒薔薇様を妹に——————
楽しかった。あの時の様に手の掛かる妹が出来たようで、私を気にかけてくれるお姉ちゃんが出来たようで、この日が唯続けばいいなと——————
"どうなろうと死は覚悟している。どうせ一度は死んだ身だ。黒薔薇様の邪魔になるのなら……"
思いは託した。やれることはやった。イデアの破片は散らばったのだ。それぞれの役割をまっとうする為に。
ぼやけた視界に一筋の光が流れる。嗚呼、やっと来てくれた。私を止めてくれる光が。
断絶結界、遮断結界の二重構造による結界。
断絶結界は強固だが外から内側の様子が把握できるのが難点だが、遮断結界をもう一層張る事による認識のズレを発生させている。
それも私の遮断結界で最も干渉力がある結界。
"何か違和感を感じるけど気のせいだろ"
一瞬視界の端で黒いモノが動いたように見えたけど気のせいだろ。
何か変な音が聞こえた気がするが気のせいだろ。
茂みが騒めいたが気のせいだろう。
体に違和感を感じるが気のせいだろう。
"何時もは人が沢山いるが今日は少ない気がするが気のせいだろう"
この場所を割ける様に人は此処に寄り付かない。人払いの上位版と思えばいい。
この結界がある限り結界の内側で何が起ころうが外の人間はソレを否定し"気のせいだ"と現象を否定する。
そう——————儀式の邪魔だ。そんな理由で死体の山を築こうが誰もがソレを否定する。"気のせいだと"
それも全て——————私が死ねば無くなる。
『サァ……。復讐の連鎖を破壊して下さい。復讐を全うした私が言えた切りはないが……。復讐とは関係のない第三者が止めない限り灰薔薇は止まらない。グスタフ・ヴィシーの呪いは此処で食い止めなければならない。オートマトンを創造せし父よ。貴方は娘に復讐と破壊しか残せなかった。嗚呼……。悲劇だ。この世界は何処までも残酷で満ちている』
けれど——————
光が結界を無視し私を暖かく照らす。私の肉体はこの世界に一遍も残らない。私の思いなど誰にも知られることなく幻想のように消えていく。だがシュプリッターは無くならない。イデアの破片はただその時を待つだけなのだから。
『……美しい』
その言葉の真意を知る者はいない。
※金の瞳
原作でも謎が多い種族。一族。
<シュメル人>と呼ばれているが特徴は金の瞳しか分かっていない。
機巧少女は傷つかないにおいて禁忌な存在。(NARUTOで言ううちは一族みたいなモノ)
魔力総量が非常に高く膨大。強大な魔力で重力異常が起こるほど。
要するに、魔力総量が馬鹿みたいに異常でそれだけで脅威になる存在。