機巧少女は傷つかない―蒼の世界―   作:namaZ

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九月までには終わらせる予定です。

あくまで予定です。

終われるかな?







二十三輪

 シュプリッターから受け取った破片は()()

 一つは起動装置の鍵。もう一つは転移装置の鍵。

鍵を開けると其処はかの有名な地。

 

 ローマ<フラウィウス闘技場>

 

 そんな呼び方をするのは地元の人間か余程の博学な者だけ。まだ<コロッセオ>の方が解りやすいかも知れない。

 コロッセオの正面入り口。死刑宣告の如く数多の戦士。奴隷。犯罪者。女。子供。聖人に至るまでこの門を潜り抜けた。

 そんな地獄の門に鎖で繋がれた門番。

 

 私には分かる。アレが誰なのか私には分かる。素顔は見えない。肘、膝から切断された手足は鎖で無理やり止血されている。

 死んでいると思えるそれはピクリとも動かない。アレが結界の支柱と知らなければ周りの死体と同一視しているところだ。

 

 

「メタトロン」

 

 

 シュプリッターの結界は二層。コロッセオを守る強固な断絶結界。認識を誤魔化す遮断結界。互いが干渉しないよう十メートル幅がある。その幅の間に私は転移された。

 本当なら隙間なんてない二重結界。層になるような隙間なんてあのシュプリッターが作るはずがない。シュプリッターは二つの結界に隙間を作る事により遮断結界の影響を受けないようにしたのだ。

 遮断結界の影響下にない私は断絶結界内のシュプリッター(オリジナル)をちゃんと認識できる。

 

 

「彼との約束を果たす……」

 

 

 シュプリッター(破片)シュプリッター(オリジナル)を止めろと。灰薔薇に利用されている邪魔な自分を止めろと言った。

 なら、方法は一つしかない

 

 

 そう……止める方法なんて一つしかない。

 

 

「……今、殺してあげる」

 

 

 光を一点に集中させる。

 万物を破壊し創成する始まりの光。

 万物は光であり、総ての力の源もまた光。

 光を克服するのは不可能であり、逆もまた然り。

 

 底には何も無い。永久の闇。

 光は眩い輝きと共に破壊を撒き散らし闇を生み出す。 

 

 彼は"止めてくれ"と頼んだ。

 止める方法はそれこそ他にもあるのだろう。

 手を尽くせば選択の幅は広がる。

 人を頼るのもいいだろう。新しい発見を得ることが出来る。

 

 ——————私は"止めろ"と言われればコレしか思いつかない。

 

 私が人との関わりで親しいやら信用できるやら背中を任せられる人物はごくひと握り。  

 セト家の使用人……の少数。同い年のメイドの子。そしてラグナ。

 どの人も私と同じ考えと感性をしている。

 拘束、武装解除何て無駄。殺した方が速いって考え。

 可哀想とか情けとか同情とか降参とかで殺さないなんて意味のない事(ナンセンス)だ。

 故に私はコレ()しか知らない。

 コレ(殺す)以外考えられないし想像も出来ない。

 

 

 ——————彼もソレを想定している。自分を死に追いやる事を前提に計画している。

 

 

 私もソレしか知らないから。

 他の選択なんてない。

 

 

充填(チャージ)完了。……何時でも撃てます」

 

 

 メタトロンは静かに告げる。

 私は攻撃を指示する。

 放たれれば瞬き一つする間に目標を蒸発させてしまう。

 発光するメタトロンをしり目にしかとシュプリッターの最後を見届ける。

 オリジナルであるシュプリッターとは組織間での形式上の間柄でしかない。 

 会話も本音などありはしない。

 彼はメタトロンの言葉を借りるなら正しく<戦士>だ。

 光線がシュプリッターを包み込む刹那。 

 

 情顔()は口元しか見えなかったが、やはり、どこか、救われた様に微笑んでいた。

 

 

 

 

     ☦     ☦     ☦     ☦     ☦

 

 

 

 

「此処が転移先?ローマじゃないか。市民も普通に生活している。こんな所に灰薔薇は居るのか?」

 

「……分からない。けど、普通なのが異常なのかも……しれない」

 

「シュプリッターが意味もなくローマに転移させるか?……高度な隠匿術で此処の市民でさえ気づかない何かがあるのか?灰薔薇は何かをしている。賢者の石を使うほどの魔力消費が懸念される何かが……この場所の何処かに居る筈だ。俺達が気付かないだけで確かに()()()()

 

 

 違和感も異常も発見できない。何だか人が避けて通る場所があるが偶然の()()()()()()

 悔しいが何も見つけることが出来ない。捜索しようにも下手に動き回れば白薔薇に掛けられた<鏡花水月>が解けてしまう。   

 どうする?

 

 

「エーイン通行人とぶつかりそう……」

 

「え?おっ!あぶねーあぶねーイルクの<鏡花水月>が解けちまうぜ」

 

 

 白薔薇の魔術<鏡花水月>は姿も音も消せるから便利だが、魔術を発動させたり早く動けば自動的に解けてしまう欠点がある。

 歩いて探索するしかない。

 人が全くいないさっきの場所に遠ざかるように探索しているが()()()()()()()

 

 すると突如空間に亀裂が生じる。

 人が妙に居ないあの場所だ。

 

 人が居ない?何故あそこだけポッカリと人が居ない?そもそも此処は——————

 

 

「何故気が付かなかったんだ!ローマで有名なコロッセオの地じゃないか!何故コロッセオが無い事に気が付かなかったんだ?!」

 

「……魔力で体が重い。ハーが居る」

 

 

 コロッセオを睨み付けると上空のアストに気付いた。アストも誰かに接触し此処まで導かれたのだろう。

 アストの元に急ぐ。鏡花水月が解除されたが気にせず駆ける。

 

 

「ラグナ貴方も来てたのね!」

 

「アスト……無事でよかった。メタトロンは役に立ったか?」

 

「勿論……ラグナの作った自動人形ですもの。性能に驚きの連続です」

 

「其処まで言ってくれると作った甲斐がある」

 

 

 アストは地上に下りると俺の胸に飛び込んでくる。

 

 

「……大丈夫か?」

 

「少し……ほんのちょっぴり疲れただけです……。今はこのまま……」

 

「そうだな……俺も少しだけ疲れたからな……」

 

 

 強く。強く抱きしめる。アストが壊れないよう優しく、けど力強く抱きしめる。

 嗚呼、落ち着く。疲れていたのは本当だ。だがアストの温もりが不思議と癒してくれる。

 暫らくこうしていたいが——————

 

 

「おいそこのバカップル。砂糖をばら撒くのはいいがその被害に合うこっちの身になれよ。コーヒーは苦手だが物凄く欲しいぜ」

 

「あんたには言われたくないけど緊張感を持ってほしいわね。灰薔薇は壁の向こうに居るんだぞ」

 

「……いいな」

 

 

 クレオ、貴女の言う通りだ。そして白薔薇。いいなって如何いう事だ。

 

 

「金薔薇、傷を診せろ。治してやるよ」

 

「貴女が?いいけど早くしてね」

 

「……は~。あんた達は素直に礼も言えないのかい」

 

「レイ?礼だと?礼の意味を知って言ってるのなら滑稽だなクレオ。礼とは"人間関係を円滑に維持するため、相手に敬意を表すために頭を下げる"屈辱的な行為だ。俺だってそのぐらいするが貴女に敬意を表す必要性が無い。円滑な人間関係もこれ以上下がる事もないだろ?」

 

「死ね」

 

「……」

 

 

 クレオは気分が優れない様だ。いや、機嫌が悪いか。

 文句を言いつつアストの傷を治療する。

 

 

「メタトロンは返すわ。その方がメタトロンの性能を発揮出来る」

 

「そうだな。腐毒なる獣(ベヒモス)を持ってきたなら十分だ。メタトロン」

 

「は……」

 

「ご苦労だった。C-MOONは使い物にならないからな。お前が居てくれて助かる」

 

 

 灰薔薇相手にタイムラグが生じるC-MOONでは心許無い。メタトロンの応用性と破壊力はここぞとばかり役に立つ。

 

 

「あ、有り難きお言葉!(ふふふ……主は私が居なければやはり駄目なのですね)」

 

「景気づけの一発をかますぞメタトロン」

 

「はい!」

 

 

 アストより正確に操作し効率よく魔術回路を満たしていく。

 

 

「結界が無ければこんな壁太陽の光で塵にしてくれる。シュート」

 

 

 光線はコロッセオの外壁を溶かしコロッセオ内の空間異常を齎している魔力源を穿つ。

 時同じく白薔薇とその私兵はコロッセオ内に侵入し煙が晴れるのを警戒して待つ。

 

 

「無様だなトリスメギストス。薔薇が勢ぞろいの中戦力外が何故此処に居る?正直真っ先に死んだのかと思ったぞ」

 

「真っ先に死んで欲しかったの間違いだろ"ヴィシー"」 

 

 

 賢者の石の規格外の魔力だけで咄嗟に空間を歪めメタトロンの光線を捻じ曲げた。魔術師ではないクレオと違い一流の魔術師である灰薔薇は賢者の石を正しく制御化に置いている。

 

 

「ヴィシーか……そう呼ばれるのは久方ぶりです。まさかシュプリッターが攻略されるとは計算外です。シュプリッターが死ぬ予定は私の計画には存在しなかった。アレは私に忠誠など微塵もありませんがその能力には一目置いている。アレは役に立つ。そう思うと損害ですね。ですが、一足遅かったですね。あともう少しで準備を終える所です」

 

 

 コロッセオ処刑場。数多の戦士。奴隷。犯罪者。女。子供。聖人の血、肉、骨を浸み込ませた紅い砂。

 クレオは理解した。何故今の今まで気付かなかった。

 建造物——————コロッセオ自体が錬金術の錬成陣を象っている。

 円形は錬金術の基本であり、これは力と時間の循環を示す。

 いくつかの交点で必要な《血の紋》はとっくに完成している。

 賢者の石の錬成陣は完成して——————否、賢者の石を錬成した私だから分かる。コロッセオの錬成陣は間違っている。此れではちゃんと機能しない。

 灰薔薇は何の準備を終えたのだ?

 だが状況は此方が有利だ。灰薔薇が何かをする間に殺せる人間が数人居る。また賢者の石の魔力で空間を歪める防御法を執ると予想するが、あんなの長くは続かない。何より物量で攻めれば僅かに空間を歪めようがある程度無視して当てる事が出来る。

 

 魔力を持たぬ錬金術師が此処まで推測できるのだ。本場の魔術師なら光線を防がれた時点で推測できる。

 愛を求める精霊(ウンディーネ)程ではないが白薔薇は激流を生み出し灰薔薇を呑み込む。

 其処に叩き込めれる弾丸の嵐。水の流れを利用し的確に狙い撃つ。

 態々長ったらしいチャージはせず人差し指からレーザー銃の様に光線を連射する。

 それら全てを腐らせる腐毒が静かに吹き荒れる。

 

 

「いくら私がこの状況を計画に含んでいなかったとしても"もしも"の可能性があれば準備を怠る私じゃありませんよ?まぁ……この状況は最も確率の低い起こりうる可能性でした。ですが考慮すべきですね。まだ此方には"銀薔薇ラルジャフラム"が縛られている」

 

 

 地獄の業火。銀薔薇の儀式結界は燃費の悪さと扱いにくさで本人でさえ上手く操作できない難点がある。最低でも一〇〇人の魔術師の管理体制の元、魔力枯渇で廃人を大量生産しない限り起動させても継続するのが困難な銀薔薇自身で封印指定にした禁忌魔術。その特徴は"人間が想像できる事象の再現"。

 人間が再現できる事象には限界がある。科学で再現できない科学の限界は魔術で補えばいい。

 銀薔薇の一族は代々<炎>を追究してきた。この世の全てのモノには、その原型となった根源が存在するはずだ。"原初の炎"は全ての始まり。その炎を観測、到達点の"再現"まで解析すればあらゆるものの原因、始まりからその終わりまでも内包する全ての事象に関する知識を得る事が出来る。

 本当か嘘かは定かではないがラルジャフラム一族の悲願は其処に集約される。

 

 この儀式結界はその過程に生まれたもの。術者本人がその場を一歩も動く事が出来ない変わりに与えられた絶対防御。

 

 太陽の中心部の"再現"。

 

 ソレこそこの魔術がもたらす事象に他ならない。賢者の石による永久機関を得た<地獄の業火>に死角はない。

 

 

「……ギーが制御しないとこれは使えない。ギーが従う理由も一つしかない」

 

 

 ラルジャフラム一族屈指の天才である銀薔薇が付いて居るのなら制御は銀薔薇一人で十分。

 銀薔薇は誰にも従わない。自分が頂点でありそれ以外は自分にかしずく存在。

 白薔薇と銀薔薇は目を合わせると殺し合いを始める仲だった。まさに犬猿の仲を体現した関係。   

 黒薔薇が頂点に立つまでは。

 

 

「僕たちが見えないだけでハーの隣にクロがいる」

 

 

 其れしか在りえない。確実にいる。銀薔薇も中心にいる。

 

 

「これは銀薔薇様の魔術<太陽核(ケアン)>だ。熱の余波を閉じ込め周りに影響を与えないようにしているが触れれば消滅するぞ」

 

「ケアン……あの結界は太陽の中心核と同じ摂氏一六〇〇万度を"再現"しているのか?」

 

「嗚呼そうだよ。時間が惜しい、何処かに隙間があるはずだ。酸素を循環させる通気口が」

 

「なるほど。糸口はあると」

 

「……僕が一人分の穴を抉じ開ける。アオが行って」

 

「了解」

 

 

 白薔薇の作戦に誰も口を挟まない。時間が惜しいのもあるが結界内にいる黒薔薇と銀薔薇を確実に救出するには銃使いより接近戦に長ける騎士の方が成功の確率は上だ。

 

 

「《世界を構築する四大元素の一つ、偉大なる始まりの命の源、清らかなる水よ——————

 それは生命を育む恵みの雨にして、真実の愛を罰する裁きの涙なり——————

 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき泉の水に身もだえ凍える不幸なり、その名はνερό(ネロ)

 その役は清算、顕現せよ、我が身に集いて力と為せ——————》」

 

 

 魔術演唱はラグナと戦った時と全く同じなのに水の流れ全く違う。

 (ネロ)を従わせ人の形に象るのではない。

 (ネロ)を吸収しエネルギーを内に止め同化する。

 

 

「《愛に死せよ"恋を証明する精霊(オンディーヌ)"——————!!》」

 

 

 水の中を流れる様に移動するラグナの斬撃を躱した<瞬間移動>とは違い水そのものになる第二形態。

 自らを現象化し周囲の空気中の水分を全て水に変換する。——————其れだけではない。

 都市に存在する水分が掻き集められている。知性ある生物を除いた全ての水が白薔薇に内包されて行く。

 水の精霊も根こそぎ掻き集めるが——————

 

 

「(足りない、足りない!)」

 

 

 此れでもまだ摂氏一六〇〇万度の壁を穿つことはできない。

 このままでは全てが終わってしまう。

 "黒薔薇(クロ)のに出会う前の白薔薇にモドル"——————それしかない。

 

 

「《偉大なる広大な海を祖に神は生命を創造し破壊の涙を零す——————

 それは生命を洗い流す激流や土砂となり、罪深き咎人を祖へと還す——————

 海は生命を引き摺り込み肉体を凍てつく深海へと導く祖の守護者なり——————

 その名は海魔、その役は暴食、顕現せよ、我が身に集いて力と為せ——————》」

 

 

「《"海の魔王(クラーケン)"——————!!》」

 

 

 観光地でも有名なコロッセオには人が集まりやすい。今も遠目から野次馬が此方の様子を見ている。

 この対処に軍隊が動いたかもしれない。

 

 

『餌が自分から喰われに来る』

 

 

 水の触手が人々を蹂躙する。水に捕らわれた者の"生命力"を水に変換・還元する。

 何千という人間が呑み込まれそれら全ての"水"を圧縮し内包する。

 

 水に捕らわれた者の"生命力"を水に変換・還元する最終形態。

 人の命をすすり力に変える汚れた化け物(クラーケン)

 遠い昔、白薔薇は黒薔薇に忠誠を誓いこの殺す事に特化した形態を封印した。

 魔術師ではない人間は何の抵抗も出来ず水に変えてしまう。

 魔術師でも余りの殺傷力の高さにただ殺されるのみ。

 

 だが所詮水。太陽の中心部摂氏一六〇〇万度の前では蒸発してしまう。

 ただ水を操るだけならそうだが白薔薇の水は唯の水ではない。

 

 

「空気を循環させる穴は……ここ」

 

 

 全力の水害を穴に通し其処から炎を"鎮静化"させ無理矢理抉じ開けていく。

 内包された水が失われていくが一気に一人分の通行口を開く。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 メタトロンが光速に近づきラグナを投げ入れる。

 穴を開けられたのは一秒にも満たぬ時間。

 服を焦がすが無傷で侵入に成功する。

 

  

「左腕を引き換えか……高くつくぞ」

 

 

 侵入には無傷で成功したがその瞬間鋭利な糸で左腕をやられた。

 

 

「結界に穴を開け侵入してくる確率は〇.五%。〇.五%も可能性があるならその対処も視野に入れます」

 

 

 無数の植物の蔦が襲い掛かる。俺の左腕を切断するほどの切れ味。灰薔薇の側に黒薔薇が眠らされている。銀薔薇は拘束されてはいるが大きな怪我は見受けられない。

 防御に回ればそのままなぶられる。

 

 正面突破しかないだろ!

 

 魔靭の刃が蔦を切り裂き灰薔薇に迫るが蔦の密度が高すぎて相殺される。

 一振りが駄目なら二振り、二振りが駄目なら三振りと着々と進めて行く。

 

 

「片腕だけでここまで粘るとは予想外です。人間とは剣術を極めれば人間を超越した存在になれるのですか?削っても切られても怯まず。まるで東洋の鬼ですね。ですが、ヒヒッ!私に触れる事も叶わずミンチになりなさい」

 

 

 サーベルで切り裂くが間に合わない。

 致命傷にならないように切り傷を増やしていく。

 脳、心臓、右腕が無事ならそれでいい。

 足、腹、胸に穴が空けられようと止まらない。

 

 灰薔薇から余裕が消える。薔薇の棘がラグナを串刺しにするため囲み襲い掛かる。

 ラグナは直感した。類稀な感性が彼に告げる。

 

"ここしかない"

 

 アストリッドの瘴気を閉じ込めていた瓶を灰薔薇の進行方向に向かって叩き割る。

 薔薇は腐り、灰薔薇を守っていた蔦も朽ちる。

 蔦で覆われていた灰薔薇がその姿をさらす。

 

 

「この餓鬼がァ!!」

 

 

 ラグナの左足に薔薇の棘が足の裏から太腿にかけ串刺しにする。

 痛みに怯み、攻撃の機会を失い、満足に動けぬ状態。

 後は料理するだけ——————

 

 有ろう事か、右足で更に前に踏み込み串刺しの左足を無理矢理外す。

 真っ直ぐ抜いたのなら刺し傷だけで済んだが、彼はそのまま左足を振り切り皮と筋肉の繊維で繋がれたモノとかす。

 右足の踏み込みは右手で握りサーベルを投擲するため。野球のピッチャーを見立て微かな残像を残す投擲ホーム。元々精密な投擲が苦手なラグナが導き出した最善の一手。

 激痛を無視したそれは肉体強化により痛覚を遮断した彼だからこそのもの。

 

 サーベルは空気を割り、止めようと間会った蔦を斬り、灰薔薇の腹部へと深々と突き刺さった。

 

 

「ァガ?!」

 

 

 灰薔薇は衝撃に耐えきれず五メートル後方に吹き飛ばされる。

 

 

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!惜しかったですねブラットレイ。もう間もなく儀式は終了します。私を殺す最後のチャンスを貴方は逃したのです!」

 

 腹部に刺さったサーベルを右手で支え立ち上がる。

 

 

「もう誰にも止められない——————私の勝ちです!!」

 

 

 "ゴキ"

 

 

 骨が砕かれる鈍い音。どういう事なのか灰薔薇の背骨が砕かれた。

 

 

「な……なですかこれは……」

 

 

 原因であるサーベルを引き抜き元凶であるラグナを怨嗟の籠った血走った眼で睨む。

 

 

「なんなのですかブラットレイィィィィィィィイイィイイ!!?」

 

「分からないか?自分の体だぞ」

 

「こ、これは?!体が膨張している……筋肉が膨れ上がっている!!」

 

「植物は不思議でな、栄養を与えすぎると死ぬんだよ。人間の筋肉も鍛えれば鍛えるだけいい何ていうが、限界までに鍛え膨れ上がった筋肉は骨を圧迫し本来護るはずの器官を破壊してしまう。

 胸鎖乳突筋頚板状筋頭板状筋肩甲挙筋斜角筋小胸筋大胸筋棘下筋棘上筋肩甲下筋三角筋小円筋前鋸筋僧帽筋大円筋小菱形筋大菱形筋上腕三頭筋上腕二頭筋烏口腕筋上腕筋腕橈骨筋円回内筋回外筋示指伸筋総指伸筋長側手根伸筋尺側手根伸筋長母指屈筋深指屈筋橈側手根屈筋外腹斜筋内腹斜筋脊柱起立筋腸腰筋腹直筋腹横筋腰形方筋小臀筋大臀筋中臀筋梨状筋大腿筋膜張筋大腿四頭筋大内転筋短内転筋長内転筋恥骨筋薄筋ハムストリングス縫工筋前脛骨筋腓腹筋ヒラメ筋膝窩筋長腓骨筋短腓骨筋をサーベルに組み込まれていた肉体強化により無理矢理限界突破させた。最後は永年お世話になった自分の体で逝け」

 

 

 肉ダルマになり筋肉が内臓器官を潰していく。

 

 

「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!いいだろうご褒美だ!!この器貴様にくれてやる!!だが私は死なない!!その顔絶望に染めるまではなァあ!!!」

  

 

 筋肉に顔は埋もれ、弾ける音と共に脳は破壊された。 

 

 

 

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