「きにしちゃ~いけねーよっと」の心意気で気軽に見てやってください。
アストリッド・セト——————いや彼女の要望でアストか。しかし二人っきりの時はアストで人前ではアストリッドと呼んでほしいとはどうしてだ?名前を使い分けるなど面倒なだけだと思うのだが。だが彼女の願いを断る無粋な事はしたくない。
承諾すると顔を下にし耳が赤く染まってしまった。風邪でも引いたか?両手とも胸に当てているし体調が優れないのだろう。少し歩き過ぎたのかもしれないな。
今日はもう帰るかと提案すると勢いよく頷かれた。やはり体調が優れなかったか。連れ回した罪滅ぼしに付き添うことにしよう。
彼女に合わせて再び歩き出そうとすると右手を掴まれた。如何やら手を繋いで歩きたいようだ。仕方ないなと思い手を離さないように指を絡めてしっかりと握る。
何やら魔力が乱れ動揺した気配がアストからした。流石にこの繋ぎ方は女性に失礼だったか。手を放そうと指を解こうとすると先程より強く握られた。痛くない、けど必死さを感じる握力。魔力と念動の強化なしでは流石のアストも年相応の力しかないらしい。それが分かると何だか可愛らしい所もあるんだなと素直に感心した。
だがこれで手を繋がないといけない程体調に問題がある事が判明した。俺は一度手を放し支えやすいように肩と腰に手を回す。
手を放した瞬間妙な負の気配がした気がしたが直ぐに消えたから気のせいだな、うん。
露出した肩に触れると標準よりも高い体温に感じる……触れた所から体温が更に上昇してるのはなんでだ。
兎も角このままでは最悪命に係わるかもしれない。歩き出そうと足を踏み出すがアストの歩きがおぼつかない。……不味いな、アストの体調が優れないから支えてはいるがこれ以上女性の体に触るのはいただけない。
唯一話したことのある異性——————母の話によると「女は男に触れられるのを極端に嫌う」と言っていた。
他にも「女は男を喰らう狼」や「所詮女は男の顔しか見ていない」とか「女は男の税を貪る悪魔」とも教わった。
母は父を狼のように喰らい、結婚も顔と財産で決めたの?っと聞いた時は「……ま、まれに……そう稀に!私のように御淑やかで可憐で顔やお金なんて関係なく……こい……そう恋よ!わたしはあの人の内側、内面に惚れたのよ!あ、けどわたしみたいな女は滅多に居ないから注意してね♪いい?女性から話し掛けてくるタイプはまず間違いなく顔と財産目当てよ、無視しなさい無視。あと露出の高い服とタッチが多い女性も要チェックよ!この手の相手は誘ってる!まず間違いなく誘っている!!あ、詳しい事は大人になってからね。と・に・か・く!一、触らない。二、喋らない。三、目を合わせない。之はママとの約束よわかった?」
俺も男だ。母の言葉が矛盾していると理解しているが……母の目の前だけではこの教えを守っていたな。この三つ項目に触れてしまった女性——————"216人"が謎の失踪を遂げている。絶対母だ。母がやった。子供の時は酷かったなぁ……。
今は母はいない。もしばれても現薔薇である金薔薇に"元"薔薇の母が手を出す事は出来ない。
肩と腰に掛けた手で彼女の肌に触れアストを感じ取る。腰に回した手を離し足待ち上げる。
アストが悲鳴のような声を上げるが今は無視だ。今は急いで屋敷に戻るのを優先しよう。
彼女の体に負担を与えない速度で屋敷に辿り着いた時、彼女は気を失っていた。
☦ ☦ ☦ ☦ ☦
「アスト」
な……なんという……何という胸の高鳴り!やばいやばいやばいやばいヤバすぎる!名前を呼ばれただけでこの威力!胸が煩くて苦しい……なのに……嬉しい……。
「大丈夫か?……顔が赤いな、風邪か?胸を押さえて、気分が優れないんだな。今日は一段と冷えているのに連れ回してしまって済まない。もう屋敷に戻ろうと思うのだがそれでいいか?」
頷く事しかできなかった。こんな顔見られたらプライドがズタズタだ。歩き出そうとする彼の手を反射的に握ってしまった。自分でも驚くほど自然に、握ってしまった。すると彼は指を絡めてきた。
「(……え?なななななな、っなん……で/////嬉しいけど、嬉しいけどなんでこの状況で指を絡める!!?こ、これってあれだよね?えっと恋人つなぎ……だよね?私達って会ったばかりだしまだお互いの事詳しくは知らないしまだ手を繋ぐような関係でもないし、まだって別にこれからそんな関係になりたいだなんて思ってないしそれにそれに……)」
彼が指をゆっくりと私の指から離れようとしていた。
「(……だ、だめ!)」
気付けば私は彼の手を弱弱しく、けどいっそう強く握りしめていた。自分でも何故こんな事をしたのかは分からないが解る事はある。嫌なのだ、手を放すのが。すると彼は私の手を解いた。
「(いや……だよね……ハハッ……私みたいな女が……そうだよね……)」
肩と腰に優しく手が回された。
「(…………………………え?)」
思考が停止した。比喩でも何でもない、脳が考える事を放棄していた。茫然とするなか彼の手の温もりが素だしの肩を通し感じ取ることができた。
「(——————!!!!?????ななななななナななナナナナ7777n——————途中から"な"と"ナ"と"7"の区別がってなに現実逃避してるのわたし!これ!こ、これってまる抱きついて……落ち着け……心を平静にして考えるんだ…こんな時どうするか……1+1=2……2+2=4 4+4=8……8+8=16……何か違う気がするけどだいぶ冷静に——————)」
歩き出したことに気付かず足がもつれてしまう。もう自分の不甲斐無さに涙を通り越して呆れてしまう。私は一体何をしているのだろう。その時、体に浮遊感が襲った。
「きゃっ!?」
普段の彼女からは想像できない乙女らしい悲鳴。両足肩を持たれ彼の胸に密着する形になり身動きが取れないこの体制。俗にいうお姫様抱っこ←(超重要)
この訳の分からない状況に「おろしてください」と言おうと顔を上げるとそこには今にも触れ合う距離に彼のが——————そこから先は覚えていない、気付いた時には屋敷のベットにいた。
控えていた使用人に彼の行方を聞くとどうやらもう帰ったとのことだ。如何やら彼に伝言を頼まれているようだ。『今日はすまなかった。よければまた会って欲しい』とのことらしい。
今日は私らしくなかった。また会う時は気を引き締めておこう。