六話まで引っ剥いといてこうも簡単に名前を出していいものか?・・・・・・まいっか。
皆様の寛大な御心で読んで下されば幸いです。
あの出来事から半月。母にはばれないように三日に一度顔を合わせ二、三時間会話するのみ。
あ、そういえば一週間前にお互いの自動人形を見せ合ったな。使い手、作り手が違えばこんなにも外殻、魔術回路に違いがると改めて実感させられた。
母が近くに居ないか気配を警戒しているとたまに視線を感じる。俺に場所を覚らせない事からプロ。それも相当訓練、経験を積んだ歴戦の魔術師なのは確かだ。
アストも気付いていたようだが害はないので今では無視している。視線を感じとった当初は視線の主を捕縛、無理なら抹殺しようと考えていたが、存在に気付いた素振りを僅かに行えば直ぐに視線は何処かへ消えてしまう。
また視線を感じる際の時間帯に規則性はなく、早くて数分数時間後、遅くて一日三日一週間後と時間を割り出し居場所を特定するのがほぼ不可能に近かった。
だがこの視線の主——————監視者が誰の手の者か容易に想像できる。結社魔術師戦闘部隊、その中でも幹部直属の選りすぐり戦闘部隊。そんな者達を監視者として送り込める存在は一つだけ——————<薔薇>、更に絞り込めば三人の魔女しかいない。
だがアストはその事で疑問が生まれる。
(あの方々が自ら指揮を執るだろうか?)
答えは『否』だ。おそらく他の薔薇の誰かに全部放り投げたのだろう。そこで生まれるもう一つの疑問。
(何故私達が監視されているのか)
・・・・・・思い当たる節がありすぎて逆に困った。だが薔薇が動く程の『ナニカ』。その『ナニカ』は直ぐに思いあたる。
彼が男性であり私が女性である、ただこれだけの理由。しかし、結社にとってはそれは許されざる所業だ。
幹部——————三人の魔女は事実上薔薇を支配している。持ち前の権力、美しさ、能力全てを駆使し三人の魔女は薔薇の頂点に咲き誇っている。
それでも所詮は薔薇の一輪。
十輪揃っての薔薇。
一輪は所詮一輪でしかないのだ。
個の能力は違えど<薔薇>の時点で権力にさほど違いが無いのだ。違いがあるとすれば培った人脈とその能力と力。
三人の魔女が最も危惧するのは薔薇同士が男女の契りを交わすことによりギリギリに拮抗している薔薇での権力が一気に崩壊してしまうことを恐れているのだ。
黒薔薇、銀薔薇、白薔薇、は確かに仲のいい魔女だ。だが、一輪は所詮一輪でしかないのだ。
それにしてもあの三人は本当に仲がいいと思う。普通は同じ薔薇でも自分の"力"を固持し他の薔薇とは表向きは社交的に沸舞うのが常識だ。結社設立からの歴史を振り返れば分かりやすいように其の風景が思い浮かぶ。
ああいうのを友達というのだろう。……別に羨ましいとか憧れてるとか今まで友達が居ないとかそういう意味ではない、断じてない!
最近は彼との接触は
今日も監視者の視線を感じる。だけど、今日は予想の斜め上の行動をとってきた。
『オ初ニオ目ニカカリマス、ワタクシハ薔薇直属魔術師戦闘部隊隊長コードネーム<シュプリッター>ト申シマス。コノタビ金薔薇様ニ対スル数々ノ無礼ゴ容赦クダサイ』
「同じく薔薇直属魔術師戦闘部隊副隊長コードネーム<ネッビア>!」
声からしておそらく男性、深々とお辞儀する闇に溶け込む漆黒のコートの男は目元まで被っているフードのせいか顔はよく見えない。この男が噂の直属部隊、しかも隊長と副隊長ときたもんだ。どうしたものか?話を聞かないことには何も進展はないか。——————スイッチを切り替える。
「……なによう?監視から接触に移行したなら何か用があるのでしょう?」
『ハッ、金薔薇様ハオ気付キダト思ワレマスガ我々直属部隊ハ薔薇ノ命令ニヨリ貴方様ヲ監視シテオリマシタ。ソノ御方ガ金薔薇デアル貴方様ニオ会イシタイトノ事デス』
「……それは誰なの?」
『残念ナガラソノ質問ニハ御答エシカネマス』
「(でしょうね。同じ薔薇でも私は新参者、とくにあの三人の命令には逆らえない)もしも私がその誘いを断ったら?」
『私ニ貴方様ヲ強制スル権限ハ御座イマセン。シカシ……コノ誘イヲ断ワレバドウナルカ御分カリデショウニ』
こいつ……全部計算してやがる。強制する権限が無い?権限が無くとも『命令』は受けているくせに。どうせ「誘いを断ったら無力化して連れてこい」と命令を受けているだろう。でなければ薔薇を守護する精鋭部隊トップが二人そろって<三人の魔女>の傍を離れるなんてありえない。そう、この誘いを断わるという事は結社に懸けられている疑いを認めるに等しい。結社そのものが敵になる。薔薇の新参者でも幹部である私は殺されなくても彼方のいい様に記憶を改竄されるだろう。今選ぶべき選択は——————。
「……案内なさい」
『御意』
姿勢を正した<シュプリッター>と名乗る隊長は仮面?と呼べるか怪しい見るための穴も息をする為の穴もない鏡のような仮面を着けていた。正面から見詰められているせいか私の顔が映し出される。
これが薔薇直属魔術師戦闘部隊隊長……喋り方は片言、穴一つ無い鏡の仮面、見るからに変人、てか変態。隊長の変態レベルがこれなら逆に副隊長は普通である事を願いたい。
「……隊長、そろそろあの方が指定した約束の時間が迫ってきてますが」(ボソッ)
『モウソンナ時間カ(部下に聞こえる程度の小声)。金薔薇様、申シ訳アリマセンガ呼ビ出シタ御方ガ時間ト場所ヲ指定シテオリマシテ、少々距離ガアリマスガ大丈夫デショウカ?』
薔薇直属魔術師戦闘部隊副隊長と名乗った者は<シュプリッター>に耳打ちする。顔には——————よかった、当たり障りのない白い仮面。
「構わないわ……その者も貴方と同じ役目と考えて?」
「はっ!私の任務は金薔薇様の案内、護衛及び監視であります!」
副隊長はまともっぽいな。というか、いくら分かっている事とはいえ本人を前に監視って言っていいものなのか?
『任務内容ヲ口外スルナ馬鹿者』
「っつ!!!!私としたことが申し訳ありません!」
やっぱりダメでした。
『副隊長<ネッビア>』
「はっ!」
『仮面ヲ間違ッデイルゾ』
「なんと!」
隊長の仮面で自身の仮面を間違っていることを確認した瞬間——————白い仮面がひょっとこに変貌した。
「…………さっさと案内なさい」
呆れた。もう色々諦めた。薔薇直属魔術師戦闘部隊所属のこの場に居ない部下たちは隊長と副隊長の二人により個性豊かな一風変わっている集団(変人共)としてアスト記憶に刻まれた。
☦ ☦ ☦ ☦ ☦
蒼薔薇の継承者にして若き天才。——————ラグナ・ブラットレイは宛先アストリッド・セトと書かれた手紙を片手に記入されていた場所に向かっていた。
いくら監視の目があるからといってこれでは逆に怪しまれるのではないだろうか。確かにアストの事は嫌いではない。好きか嫌いかと聞かれれば好きだろう。だが、それは、友達としての好き——————なのだろうか?
……考えすぎか、女性とは母以外余り接したことがないからな、うん。それに——————
アストからの手紙を読んだ時から違和感があった。文字も書き方も薔薇の印もアストのモノの筈なのにナニか……なにか小さな違和感。最近忘れていた感覚、ラグナは戦争時この感覚に何度も助けられている。
指定された場所に向かうにつれ違和感が確信へと変わる。
微かな殺気が空気を伝わり歩みを進めば進むほどよりハッキリと感じ取れる。念の為に自動人形を用意しといてよかった。相手の返答、出方次第では……此処は戦場へ変わる。
彼が連れて来た自動人形は今まで作り上げて来た人形の中でも最強の部類に入る能力を所持している。外見はどことなくアストリッドに似ているが髪の色は金髪でなく緑色碧眼。服も黒ではなく緑に重点を置いた作りになっている。
待ち合わせ場所は森林に囲まれた人里離れた公園。あたりを見渡してもアストの姿はなく嫌な予感は見事的中。直ぐに仕掛けてくるかと待ち構えるが三十分しても行動を起こさない。
あぁそうか、此奴らは待ってるんだ。俺に隙が出来るのを。言わばこれは根競べ、俺を此処に誘いだしたのに成功した時点で逃げ場が無い様に周囲に身を隠している。大体の感覚で居るのは解るが正確な人数、居場所までは分からない。
向こうからしたら俺は逃げ場を失った格好の的。一斉に攻撃を受ければひとたまりもない。だが、誰も最初の一人目にはなりたくないのだ。
此方が攻撃を行った瞬間に出来るほんの僅かな隙に一斉に突っ込んでくる算段。何故俺を狙うのか簡単に予想できるがもしもアストの関係者なら非情に不味い事になる。
「……あー、君たちはアストリッドの関係者か何かか?それとも……俺を殺せば薔薇の席をくれてやると命令を受けたか?」
「——————っ!」
誰かが動揺したのが解る。返答はそれで十分だった。
「そうか……なら、遠慮は要らないな」
魔術回路に魔力を流し込み自動人形に組み込まれた能力を起動させた。
「<C-MOON(シームーン)>——————殺せ」
その声に突き動かされる様に隠れていた魔術師たちは自動人形を強制支配(フォース)で襲わせた。彼らはこの時悟った。「先手を取らせてはダメだ」と。しかしその直後——————体が
「俺の攻撃待ちだったようだが当てが外れたな、先手を譲った時点でお前たちの負けだ。『コレ』はまだ未完成で精密操作はおろか出力制御も出来はしない。なに、当たり所が良ければ死にはしないさ。この公園は山の山頂付近に位置しているが落ちても木々がクッションになってくれる」
どの道三キロ先は木々もない高原。空を飛べない限り助かりはしないがな。
「そういうわけだ。そろそろしがみついている木から手を放したらどうかね?運よく頑丈な木に掴まり君だけ落ちなかったが、何なら俺が木を根元から切断してやろう」
「ま、まて……待って下さい!ブラットレイ様!わたくしは貴方様が欲しがっている情報を記憶しています!なのでどうか———」
「命だけでもってか?古典的だな聞き飽きたよその手の台詞は」
「しかし!」
「君に聞かなくてもある程度までなら予想と推測が可能だ。"俺を殺せば薔薇の席をくれてやる"此れに反応した君達は幹部の誰かと繋がりがあるのは明白だ。そして此処数ヶ月に及ぶ監視の眼、此れだけである程度幹部を絞り込める。決め手はあの手紙、秘密に会いたいのなら何故手紙に薔薇の印を付ける?目立って仕方ない。俺を誘い出すための偽装。偽物とはいえ印そのものを複製できる錬金——————黄薔薇だろ?」
「……あ、……えっと……」
見るからに動揺。此れで確証を持てた、此奴に聞く事は最早ない。
無慈悲に無情に何の躊躇いもなく木を根元から切断した。
「ぁぁああああああぁあああぁああああああああああああああああ!!」
遠ざかる声を聞きながら此れからどうすべきか考えをまとめながら公園をゆっくりと後にする。
隊長さんの口調が分かりにくければ後で修正します。