機巧少女は傷つかない―蒼の世界―   作:namaZ

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戦闘シーンの描写を変えてみました。初めてなので正直不安です。
よろしければアドバイス等の感想をお願いします。
戦闘描写苦手w


九輪

 戦闘能力が未知数のキメラが二体。

 世界を裏から支配する薔薇の師団。稀代の錬金術師黄薔薇クレオ・ヘル・トリスメギストス。

 

 

 相手にとって不足はないが、わざわざ黄薔薇の本領が発揮できる部屋に侵入する必要はない。

 アストから黄薔薇の錬金術について少し教わったが手の内は其れだけではないはずだ。

 唯でさえこの屋敷は奴の絶対領域。更に危険物がわんさかとあるあの部屋には是が非でも入りたくない。

 

 

「来ないの?まあーこの部屋に入らないのは賢明な判断。だけどいいのか?もうあんた等視界に捉えているぜ?」

 

 

 背筋に悪寒を感じた。咄嗟の判断で強制支配によりC-MOONでアストと共にラグナはその場から飛び退いた。そしてその判断がアストとラグナの命を救う。

 

 

「ッ!?」

 

 

 黄薔薇が放った黄金は防御魔術を練りこんだコートを貫いたが奇跡的に掠り傷一つない。自動操作の時と違い針ではなく黄金が弾丸程の大きさ、しかも密度も速度も桁違いに上がっている!

 

 

「アスト!視界に入るな!」

 

「わかってる!」 

 

 

 視界から外す為距離をとりつつ壁に隠れる。アストもC-MOONも傷はないようだが問題は其処じゃない。幾重にも防御魔術が織り込まれ、ジャガー型自動人形の熱線でも十秒耐えられるコートが唯の金の弾丸に貫かれたのが問題だ。

 

 

「私は金って言い方嫌いなんだー。だって金薔薇の金じゃん?あんたと被っちゃうしさ。だけど、黄金は違う。全然違う。同じ意味なのに<きん>の二文字も発音されない」

 

 

 黄薔薇の意思で変幻自在な黄金が彼女に集まる。この部屋だけではない、壁模様としての黄金も、純金の壺や黄金で作られたオブジェがこの屋敷中から集まりだす。

 

 

「黄金には二つの意味がある。<黄>色と黄<金>。私の存在を……今在る私を形作る切っ掛けになったこの二つ。だが……だからこそ……」

 

 

 壁、床、天井に埋め込まれていた黄金までもが石造りを突き破り集まる。

 

 

「<黄>薔薇と呼んでいいのは黒薔薇様だけなんだ!」

 

 

 金と言う金が蠢きながら黄薔薇の下に集まる。従順な犬が主人の下に帰るように。

 

 

「一世紀も生きていない蒼臭い蒼二才が薔薇の師団舐めてんじゃねーよ!」

 

 

 フードを剥ぎ取ったキメラが襲いかかる。隠れている俺とアストに何の迷いもなく向かってくる。天井に張り付いたキメラが此方に視線をむける。

 

 

「薔薇最強の魔女黒薔薇ショコラ・バンセン・アブラクサス様は争いを好まない!人が死ぬのも好まない!薔薇を想い世界を愛する黒薔薇様は結社の秩序を守り掟を守ってきた!」

 

 

 キメラと目が——————合った。

 

 

「黒薔薇様は喜んでいた……生意気なそうじゃが次の薔薇世代を担うゆうしゅうなやつらじゃ……と。其れをあんたは———ッ!!」

 

 

 飴細工を溶かし固めるように黄金が全て集まり一つの球体が出来上がる。

 

 

「黒薔薇様を失望させた!」

 

 

 高圧で圧縮された黄金の弾丸がマシンガンの連射の如く正確に此方に放たれた。

 

 

「くそっ」

 

 

 小さく吐き捨て、ラグナは回避に専念する。

 

 一瞬でも止まれば最後、コートに織り込まれた防御魔術は意味を成さず貫かれ風通しのいい体になることだろう。

 

 

 キメラと黄薔薇の眼はお互いリンクしいる。黄薔薇の攻撃タイミングからまず間違いない。<破壊の右腕>だったか……金を覆い破壊の威力を上げているのか。

 

 

 回避を怠らず視界の端にいまだに弾丸を連射する黄金の球体が映る。放ち続けるせいか体積が段々小さくなっていくが、全てを打ち放つほど黄薔薇は愚かではない。

 

 

 此の連射が止まった時——————其の時は——————

 

 大気を轟かせていた黄金の弾丸が突然——————止まった。

 

 ——————キメラがくる。

 

 キメラの爪が大気を裂く。刀で応戦するも見事受け止められた。

 

 そのつばぜり合いの中キメラの姿を視た。

 

 視てしまった。

 

 

 ギョロっとした凸状の目玉。

 薄ら光る肌は爬虫類特有の滑り。

 背中には動きが阻害されない程度の大きさの翼。

 鋭い爪。

 

 トカゲ?カメレオンか、だが其れだけではない。羽の翼、鳥。翼の形状からして鷹。

 

 人間をベースにしたキメラ。しかも二体の生物を合成し作られた複合型。

 

 自分も魔術により人間をやめた身体能力を持ち合わせているが見た目からして人外にはなりたくはない。

 

  

 C-MOONが拳を振りかぶるがキメラは持前の身体能力で難無く躱して見せる。C-MOONは追撃にラッシュを叩き込むがどれも掠りもしない。

 

 

 複合キメラはカメレオンの色変化能力と鷹の飛行能力を組み合わせた不可視三次元攻撃で着々とC-MOONに切り傷が増えていく。

 

 現時点のC-MOONのステータスでは複合キメラは倒せない。

 

 

 地面が陥没するほどの踏み込みで斬り掛かるが、複合キメラの身体能力は其れさえも反応し皮一枚のところで躱す。

 

 

 そのまま距離をとられ仕切り直しにされる。油断無く刀を構えC-MOONを何時でも攻撃出来るよう複合キメラを観察する。

 

 戦闘の余波が肌を刺激する。如何やらアストはまだキメラと戦っている最中らしい。

 

 人間ベースの複合キメラの素材は<人・カメレオン・鷹>。人の部分はアストとの戦闘で逃げ延びた直属部隊の二人のうちの何方。理性はない。命令を聞くだけの犬。複合キメラとなり基盤となる身体能力は人類を遥かに凌駕し、無意識か、其れともソレだけ意図的に残されたのか僅かだが念動防御で体を覆っている。

 

 

 刹那、複合キメラがアストへ駆け出す。

 

 

(……そういう作戦か黄薔薇ッ!!)

 

 

 何度も命がけの戦争で殺し合い生き残ってきたラグナは先読みに長けていた。此方に考えがあり作戦があるように、敵も一人一人考えを持ち此方を殲滅しようと作戦を企む。

 

 敵の考えにのってしまえば全滅するのは此方。逆に此方の作戦に誘い込むか、敵の考えを読み裏をかき殲滅するのが先読み。

 

 

 ラグナは——————複合キメラを追わず逆方向に飛んだ直後、天井が彼の目の前で落ちた。

 

 

 あのまま追っていれば潰されていた!敵の考えを読み危険を回避する。だが、潰されようが潰されまいが、どちらに転ぼうが敵の作戦は成功したといえた。

 

 

「分断……か……」

 

 

 二十m先に黄薔薇が待ち構えていた。 

 

「その年で蒼薔薇を継承しただけはあるな蒼二才。鋭い佳い眼をしている。察しの通り金薔薇にはキメラ二体を、あんたは私を相手にしなくちゃいけない。あのまま潰れていた方が楽に死ねたと後悔しながら私に殺されな」

 

「此れは戦争だ。貴方が俺を殺すのならそれは俺の力が貴方より劣っていた、唯それだけだ」

 

「心意気がいいな蒼二才」 

 

「だが……貴方はどうだ?」

 

「どうだとは?」

 

「お前には殺される覚悟があるのかと聞いている」

 

「覚悟ねー……若いな蒼薔薇……覚悟だと?私に覚悟を問うか蒼薔薇。生憎私に覚悟なんて御大層なものはない。……一世紀前私は死んでいた。この体は黒薔薇様あっての命……私を形造る心は忠義のみ。この体も心も全て黒薔薇様のも、死などもとより怖くはない。私が恐怖する時、それは……黒薔薇様との契約を破る時のみだ!」

 

 

 黄薔薇クレオ・ヘル・トリスメギストスは感情的だと思う。一人で勝手に語りだし。一人で勝手に盛り上がり。一人で勝手に完結する。

 

 感情的に戦っては勢いは増すが隙ができてしまうが——————それ故に強い。

 

 

「黄金よ!敵を切り裂け!錬金術の真髄を魅せてやれえ!!」

 

 

 しなる。

 

 鞭が、否、タコの触手を刃に変えたかのように黄金の触手が四方八方から迫る。金の弾丸の点の攻撃ではなく"線"の攻撃。

 

 

 黄金の触手の一本一本がコートの魔術防御は容易に突破しこの体を切り裂く。

 

 C-MOONは回避に専念させ、念動を纏った刀で迫る"線"を逸らす。

 

 休む暇のない"線"の嵐。

 

 斬り、逸らし、躱しながら徐々に距離を縮める。

 

 時間にして一分の攻防。たった六十秒で三桁の攻防。

 

 

 全て——————防げなかった。

 

 

 体が軋む。体が内側から破壊される感覚。致命傷は避けているが体に傷が刻まれる。

 

 破壊の力を黄金に流し込んでいるおかげか、<破壊の右腕>に直接触れているわけでもないので威力が軽減している。

 

 また当たる。細胞が破壊されながら距離を詰める。

 

 C-MOONの射程距離は五m~十m。"線"を躱し二十mあった距離が十mまで——————

 

 

「C-MOON!」

 

 

 人間と違い強靭な肉体をもつC-MOONは一瞬で黄薔薇クレオとの距離を零にする。

 

 頭、首、胸、腹、腕、足に叩き込まれる拳は黄金の壁に防がれた。黄薔薇はC-MOONの<重力逆転>を警戒してか防御に金の全てを回した。

 

 

 <転移>——————十m弱の短距離転移。黄薔薇の背後の虚空に亀裂が走る。出現まで二秒。

 

 

 普段の黄薔薇なら通じない悪手。しかし、激動に身を任せ、C-MOONに気を取られている今がチャンス!

 

 無事出現し斬る。此方の存在に気付いたようだが回避不可。このタイミングでは金の防御は間に合わない。咄嗟の判断か、それとも苦し紛れの抵抗か。首を切断する刃の軌道上に左手が割り込んだ。

 

 

(関係ない。このまま斬り——————)

 

 

 刀が砕け散った。

 

 

「………………は?」

 

 

 間抜けな声が漏れる。魔靭の一撃を受け止めた、防いだならまだ判る。魔靭を破壊するなど相手との実力が天と地の差が開いていれば可能だろうが錬金術師の彼女は念動をつかはない。研ぎ澄まされた念動ごと刀が破壊される。其れだけで十分だった。

 

 隙だらけのラグナに黄薔薇は左手を振り下ろす。解る。解ってしまった。真に危険なのは金などでも<破壊の右腕>などでもなくあの指輪!

 

 黄金の触手により両腕が無くなったC-MOONを強制支配し身代わりにした刹那、粉々に分解された。

黄薔薇から離れる。C-MOONは四肢が無く内蔵が腸から散乱し上半身だけの状態でイヴの心臓でギリギリ起動している状態。もう今回の戦闘では使い物にならない。

 

 黄薔薇はC-MOONの血を浴び、血化粧されていた。

 

 

「……何だその指輪は?」    

 

「聡明なあんたのことだ指輪(これ)が何なのか気付いてんだろ?」

 

「だが……あれは!?まさか……完成させたのか……<賢者の石>を!?」

 

「そうだ!!……っと言いたい処だが残念ながら<固体化>に成功したのはコレだけ。定期的に調整しないと暴走する不安定な物質だがちゃんとした手順で扱えば最大の切り札となる。結果は見ての通り」

 

 

 柄しか残っていない刀。 

 

 

(名刀とはいえ唯の鉄で魔靭によく此処までもってくれたと感謝すべきか……魔剣、せめて材質魔鉱の魔具があれば……)

 

 

 黄薔薇を観察する。C-MOONの血で肌が汚れている。

 

 

(<賢者の石>は想定外過ぎて驚いてしまったが、今のところ()()()()) 

 

 刃の無い刀を鞘に収めため息をこぼす。

 

 

「諦めたか?まぁ~武器も人形も壊されたあんたは裸同然なんだしそれも仕方ないか。その潔さは褒めて———」

 

「俺の勝ちだ」

 

「———は?」

 

 

 黄薔薇にはさぞ滑稽に映っただろう。刀も人形も破壊され、破壊の力により体の内側はボロボロの満身創痍。

 

 圧倒的不利。逆転なんかありえない絶望的状況。

 

 なのに勝った。俺の勝ちだと言った。

 

 ——————笑止。

 

 

「ぷっ……くはははははは!!脳の一部でも破壊されたかぁ?冗談にしては傑作過ぎるぞ!」 

 

 

 黄薔薇は肩で息をするほどお腹を抱えて笑い転ける。人目を気にせず此方を小馬鹿にする盛大な笑い。

 

 

「三十秒」

 

「はははははは……え、何だって?」 

 

「後三十秒で貴方の負けだ。残り二十七秒に」

 

「……何をした?」

 

 

 ラグナの毅然とした勝利を確信した顔。冗談でも出まかせでもない、この男は私の体にナニかを仕掛けたのだ。

 

 攻撃を受けた覚えも触れられた覚えもない。やはりブラフか?だが、もし——————触れられた?

 

 

「……人形の……血?でも、あれは……」

 

「"手に触れなければ問題ない"……か?誰がそう言った。疑問に思わなかったのか?C-MOONは"未完成で精密操作はおろか出力制御も出来はしない"っと。そんな人形が手だけに力を集中するなんて出来るわけないだろ」

 

 

 残り十五秒。

 

 

「じゃっ、じゃあ!何で素手だけで戦わせていたんだ!」

 

「C-MOONに触れた形あるモノは全て逆転する。全てだ。作った俺が言うのもなんだが扱いにくいんだ。だからわざわざ力を抑え込む術式が刻まれた衣類を着せていた。手だけを露出させた拘束具(ドレス)をな」

 

 

 残り——————八秒。

 

 

「いくら発動までにラグがあるからってこんなに時間が経ってれば……」

 

「<重力逆転>は直接触れれば数秒で発動する。血もC-MOONの体の一部だ」

 

 

 ——————六秒。

 

 

「血は発動しにくいんだ。最低でも三分は掛かる」

 

 

 ——————五秒。

 

 

「その<賢者の石>もまだ未完成らしいな。膨大な魔力の塊の石。不安定だが方向さえ示してしまえばそう難しくはない」

 

 

 ——————四秒。

 

 

「黄金の操作もこの屋敷の再構築もキメラも<賢者の石>で()()安定している。違うか?」

 

 

 ——————三秒。

 

 

「刀の破壊にC-MOONの大破に割いた力の流れで<賢者の石>をコントロールしていた流れに綻びが生じたはずだ」

 

 

 ——————二秒。

 

 

「そろそろ逆転が始まる。悪いがこの戦争……」

 

 

 ——————一秒。

 

 

「俺の勝ちだ」

 

 

 ——————零。

 

 

 

 

     ☦     ☦     ☦     ☦     ☦

 

 

 

 

 二体のキメラが突然。悶え、苦しみだす。

 瘴気を恩賜の腐毒(ロトンブレス)をくらって肉が腐ってもケロリと反撃してきたキメラが痛みに悲鳴を上げる。

 

 獣。

 

 人間の声ではない。歪で耳障りな音。

 

 キメラの肉体が崩れ溶けていく。

 

 それでもキメラは牙を穿つ。だけどもう届かない。足が無いから。

 

 地面を這い爪を立てる。だけどもう届かない。腕が無いから。

 

 キメラは肉体が崩壊しながら敵意の眼光をギラつかせる。皮膚は溶け、唯の歪な塊になりながらも唇がパクパク動く。それで何を言ったか容易に想像できた。

 

 

 "殺す"

 

 

 獣らしい人間らしい言葉。

 

 私も殺す。敵対する者全て殺す。

 

 

「そのまま死ぬのは悔しいだろう。惨めだろ。だから……私が殺してあげる」

 

 

 二体のキメラに恩賜の腐毒(ロトンブレス)を放つ。苦しみも与えず一瞬で腐り、黒い液体になる。

 

 これがせめてもの手向け。この戦争を楽しませてくれたお礼。

 

 

「ん……これは……」   

 

 

 先程まで使えなかった<天眼>が使える。ラグナの居場所が判る!

 

 

腐毒なる獣(ベヒモス)があれば楽なんだけどな……もっと強くならないと」

 

 

 アストは崩壊する屋敷を駆ける。屋敷に充満していた膨大な魔力は消え、一際大きな魔力を放つ存在を察知することが出来るようになった。

 

 ラグナは無事か。クレオはどうなったのか。何方が勝ったのか。

 

 走る。走る。走る。走る。走る。

 

 大きな扉の先に魔力を感じる。扉をぶち破ると、傷だらけだがしっかりと自分の足で立つラグナと——————うつ伏せで倒れたクレオがいた。

 

 

 

 

 

 

 

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