か細い指を一頁目に戻すように
あるいは二巻目を手に取るように。
その読み手が、現実を拒み続ける限り。
-Fate/EXTRA, ナーサリーライム,Matrix 01より
※追記:3/31誤字修正
そこは幾多数多のファイター達の、戦いの終点とも称すべき場所。
オルゴール人形の姫が、マッチョな仮面男を追い立てていく。
やがて姫の舞で、男は大きく吹き飛ばされていく。
台の外は奈落の底。
男は必死に空を蹴り、台上へと戻ろうとするが。
無情にも姫の平手が男に重なり、否定の絶叫を上げながら落ちて行った。
「クソがァ!」
そこで、サイタマがコントローラーを投げた。
勢い余って接続されているゲーム機に直撃したが。
流石のゲーム
「ふふふ。私も嘗て、地元で最強といわれたおと、女ですから。その程度では勝てませんよ」
息抜きがてら、ちょくちょく格ゲーの練習をしていたのが役だったようだ。
私にゲームの相手をしてくれる友達はいないが。
その際は“架空人物たまご”で召喚した英霊がゲーム相手になってくれた。
イスカンダルや孔明先生とゲームするのは楽しかったです。
「さて、次は何で戦いましょうか?」
「くそー。舐めやがって」
サイタマも超級のヒーロー故に、ゲームも決して弱くは無い。
とはいえ、私もそこらの怪物ではない訳で。
機械の精密さを持つ私相手では、私が有利といった所か。
「ところでさ」
「はい。何でしょう?」
「何で俺ら、スマデラしてんの?」
まあ、そうなりますよね。
私は苦笑いした。
私の奥の手である『問答・無の習得』が発動した。
その結果、“特に何の脈絡もなく“私たちはサイタマの部屋でゲームをすることになったのだ。
彼は今までその状況に疑問を持たなかったようだが。
ようやく現状に気づいたらしい。
「ですから、私が皆を元に戻した後。お互いに納得できる形で、再戦しようという話になったじゃないですか」
「あ。そうだったわ。悪い悪い」
あの戦いにおいて私が好き放題やらかした結果、地球滅亡を通り越していたが。
私が時や因果律やらを戻したので、今は全て元通りになっている。
人は普通に暮らしているし、ヒーローたちも普通に活動している。
勿論、私のことを覚えている人はサイタマだけだ。
「お前、本当にすげーんだな」
「この場合は、私の主人が凄いのですけどね。それに、貴方程ではありませんよ」
筋トレと覚悟だけで、本物のヒーローになったサイタマに褒められるとは。
嬉しくはあるが、互いにベクトルが違うだろう。
「しかし、もうこんな時間ですか」
「はえーな」
時間を見ると、もう夕方だ。
外の雨は悪化するばかりで。
子供にとっては容易く帰れない、といった所か。
「こういう時間は、随分と久しぶりです」
誰かとゲームをするのは楽しい。
年を取るにつれ、私の周りから一緒に遊ぶ人は消えていった。
変わらないのは私だけだった。
ひどく、さみしい。
「あなたには。私がどう見えますか?」
特に何も考えることなく、その言葉が出てしまった。
「ん? そりゃ」
今一つ何考えているか分からない顔が、こっちに向けられる。
適当に描かれた目の、熱い視線を感じる。
「ヒーローなんじゃね?」
その時、私に電流が走る。
「ふ。ふふ。私がですか」
その言葉が、嬉しかった。
自分はそう高尚な存在ではないと分かっているが。
それでも、だ。
「えへへ」
この感覚は、本当に久しぶりだ。
それは、いつのことだったろうか?
褒められたのに、とても照れくさく感じる。
「で、では、この辺りで失礼しますね」
「おう。また遊ぼーな」
部屋のドアから(“どこでもドア“ではない)アパートの外に出ようとしたが。
私の身体が、再びピタリと止まった。
「また、ですか」
この世界には、二度と訪れるつもりはなかったが。
そう言われると、もう一度会いたくなる。
「あ。そうですね。折角ですから、私の主人に会ってみませんか?」
「ん?」
幸いにして、私には無限の時間と財がある。
彼の時間も空間も、全て私は好きにすることができるのだ。
**
「やあ、お帰り。おや?」
私の作ったどせいさん型のオブジェクト、“スペーストンネル2“が時空を超えて瞬時に出現する。
ここはコンピュータの中の電子世界、“ハロー・ワールド”。
ネオンカラーのシュミレート空間の中で、彼女という神は住んでいた。
私たちがトンネルを潜り抜けると。
胴に対して大きい頭が可愛らしく、首をややかしげるのを見た。
「お前がタカオを作ったヤツ? 思ったよりなんか、普通だな」
「サイタマ。流石に不敬ですよ」
「ふふ、良い良い。かわいい物さ」
何か、どこかで見た光景だ。
例えるなら、王が彼女で、勇者が彼で。
その場合、私が宰相ポジションなのか。
「そうか。君はサイタマか。君の活躍は、アメリカでも聞いている。君は人気者だからね」
「へー。知らなかったわ」
アメリカ?
神様に出身があっても不思議ではないが。
神は実在して、しかもアメリカ人だった?
「よろしい。君達の到着を歓迎しよう。要望があれば好きに言うと良い。私の権限が許す限り、何でも叶えて見せよう」
「といってもなー。俺は誘われて来ただけなんだけど」
「そうか、そうだな」
彼女は小さな身のローブの中からレーザーポインタ(のようなもの?)を取り出して。
直光を近くにあったネオン柄の店の、大きな展示ガラスに向けて照射した。
「タカオは早速、データの確認をしたい。サイタマは、観光でもするかい?」
ガラスはデジタル液晶となり、そこから携帯のように鏡を映し出す。
鏡は異形の少女の姿が。
『フレデリカか。そろそろ来る頃だと思ってたが。仕事か?』
その少女は、何と言うか、黒い。
眼も肌も髪も真っ黒で、某しげるや黒人もここまで黒くはない。
モノトーンのゴスロリファッションに身を包んでいて、髪には赤のリボンと島風のアレみたいなカチューシャをつけている。
そんな少女が、鏡の中から腕を後ろに組んで覗き込んでくるのだ。
怖い。
「ああ。娘が友人を連れてきたのでね。適当に面倒を見て欲しい」
『どんな奴だ?』
「ワンパンマンって言えば分かるかな」
鏡の中からはっきり声は響いてくるし、こちらも届く。
スピーカーもないようだが、鏡の向こうも空間が続いているようだ。
というか、日本語なのか。
私は英語だろうがチェンバル語だろうがペラペラになっているけど。
皆、日本語上手だなあ。
『ワンパン? アンパンじゃなくてか? まさか、戦えとは言わないよな』
「そこは君に任せるよ。暫く、観光案内をよろしくね」
『ん。分かった』
その少女がサイタマに手招きをする。
サイタマはやや戸惑ったが、そのまま鏡の中を不思議そうに通り抜けて行った。
鏡は元のモニターに戻る。
「えっと、彼女は?」
「恰好の通り、“アリス”だ。昔からテレポートが得意な子さ」
言われてみれば、鏡の国のアリスかと気づく。
普通は、あそこまで真っ黒じゃないだろうが。
「私は気が遠くなる程に自分の娘を作ってきたが。稀に、外部から人材を取り入れる事もある。彼女は、その中の一人だ」
ああ、私以外の“子供”がいたとしても不思議ではない。
あのアリスと言った少女も、恐らくは自分と同じ境遇なのだろうか。
昔から神様転生は不思議だと思う。
なぜ、神は人に力を与えるのか。
人が神にそうあってほしいと思うのはそうだろうが。
「彼女の“存在の意義”が不思議かい?」
「はぁ」
神に近くなった私からしては、神が人にそれをする理由は分からない。
ドラえもんも万能だが、乞われるまで動かない。
だからこそ、私は自分をヒーローと思わない。
「君がそうであるように、私は殆ど完ぺきな全知全能さ。恩恵を与える神様というのは、全知とも全能とも遠い所にいる。人は母なるガイアではなく、大神ゼウスにこそ祈るのだ」
目の前の彼女に、不可能が?
それはちょっと、考えられないのだが。
「だからこそ、次は君の問題を明かそう。君の“答え“を見せてくれ」
**
「これが、私の答えのような。何かです」
「ふむ? 私からは何も。随分と珍しい」
今、私の手には一振りの刀が握られている。
そこには何もない。
しかし、確かにそれは存在する。
「説明してくれるかな」
どうやら、彼女からは何も見えてないらしい。
言っておかなければならないのだが、これは馬鹿には見えない服だとか、そういうものではない。
「今、私が持っているのは『無の習得』によって得た刀です」
この”刀”は、私が“持つ“と思わなければ”持つ“ことはできない。
刀には『0:00』と銘があるが、私が“見る”と思わなければ“見る”ことはできない。
元から飛躍しすぎて最早”ひみつ道具”とは言えなくなったこれは、恐らく私以外の誰にも扱うことはできないだろう。
「原理はよくわかっていないのですが。“過程”をすっ飛ばして“結果”を得ることが出来ます」
簡単に言えば、これは脳噛ネウロの“
ただし、これは“斬る“のではなく“作る“。
私の想像が許す限り、この刀に一切の不可能はない。
そして、そこに論理は一切存在しないのだ。
もはや、刀とも言えない代物だ。
サイタマ戦ではこの刀を使い、“
この現象を、私はとあるフリーゲームにあやかって【八百長】と呼んでいる。
「ふむ、成程。事情は大体把握できた」
少女がこくり、こくりと頷いた。
そして興味深いと小さく呟く。
「そうだな。その発想をする子は偶に見かけるが。私が観測できない、というのは本当に珍しい」
論理的ではない、という点は問題無いだろう。
ドラえもんを始め、ギャグ漫画など理不尽だらけなのだから。
そして、私のひみつ道具はこの人から支給されている。
この人の手から、私ははみ出てはいない、はずだ。
「“私たち“は殆ど全知全能なのだが。殆ど、という所が重要なんだ。何せ、完璧な全知全能というのは」
全知全能、という存在はあまり珍しくはない。
キリスト教やイスラム教のは全知全能というより、神々の集合体と言うべきだが(彼は地方の一神教だったが、各地の宗教を吸収して全知全能となった存在だ)。
思い浮かぶのはクトルゥフにおける蒙昧白痴のアザトート、先ほど述べられたギリシャの地母神ガイア。
彼らは思い浮かべるだけで世界を創造することが可能だろう。
「他者の存在を必要と“しない”。『神は存在する。何故なら聖書にそう書かれているからだ』 ―つまりは、自分だけで自分を証明できるのだ」
なるほど、彼らは世界が存在する前から存在するのだ。
ちっぽけな人間の存在など気に留めないし、全く必要としない。
「その僅かな不可能の原則には、“同格相手の支配ができない”というものがあるんだ。私が言いたいことは」
そして、私たちは世界を創造する。
しかし私たちが彼らと違うのは、そこには理由を必要とする所であるのだ。
アザトートが世界を作る理由など、考えるだけ無駄だろう。
「君は“私たち“と“同格“になったようだ」
思わず黙り込んでしまう。
いくら力を得ても、私には戸惑いが残っている。
そこには万能感による納得と、渇望による不納得が同居している。
「私が、そんなはずでは」
「君は新発見さ。私も、“ほぼ”全知全能だからね」
彼女はひどく悲しそうに笑っている。
私には、私を憐れんでいるようにも見える。
何でも叶えるようになった、私を。
「あなた様も、把握している訳ではないのですか」
「確かに観測はできる。君の身体には大量のセンサが埋め込まれていた。外部から観測も行っていた。故に観測不可能になった時間から、君が“昇格”したタイミングは把握していた。だが、その前までも“観測できない”」
“あの子”もまた同格だからだろう。
そう、目の前の少女は付け加える。
「私の第一の娘にして、全ての元凶さ。君はどこから“あの子”の干渉を受けていたのだろう? だが、あの子が考えることは、彼女自身も知らない」
私は、自分でここまでたどり着いたと思えない。
ひみつ道具は、それを証明してくれる。
であるならば誰かの仕業かと言われたら、それも納得だ。
でも、こんなのどうしろと言うのだ。
「君にとって、重要なのは。これから、かな」
「どうするか、ですか」
「そうだ」
どうしてここにいるのか、気にはなる所だが。
私は、いくつか選択があるようだ。
幸か不幸か、私には選ぶ権利があった。
「私にとって、君は新しい同格だ。大切な仲間であり、これから多くの新しい発見があるだろう。是非、私の研究に参加して欲しい所だ」
私の同格たちに、誰でもなれるようにするのが永遠の研究テーマなのさ。
彼女はそう笑うが、私には可能だと思えない。
「しかし、君のことを推定するならば。その前に報酬を与えるべきだろうね」
そういえば、そういう事を言っていた。
彼女は私に報酬を与えられるのだろうか。
「報酬、ですか。でもまだ」
「大丈夫。既に君は、私より強い。確かめてみるかい?」
当然、戦う必要はないだろう。
少女は私の創造主だが、別に彼女のことを憎んでもいないし、恨んでいる訳でもない。
それに、私も彼女と同格になったせいか、彼女を屈服させるイメージが湧かない。
私は彼女より、強いとは思うのだが。
「この仕事の報酬として、候補を二つ考えていた。一つは新しい仕事だ」
「成程。それは良い報酬です」
私も、求められるままに最強を求めていた。
そうでなければ、自分に耐えられなかったからだ。
私には生きる理由が無い。
私は生きる理由を欲している。
「もう一つは、“死“だ。これも”全能が叶える願い”としては十分だろう?」
目的を失った今、私は再び
一度は生まれ変わった私だったが、結局はこうなるのか。
「これは最早。私が与えられるのだろうか疑問だが。とはいえ、かつて自ら役目を終えた同格の者は居た。それの状況を再現することは可能かもね」
私は不老不死を通り越して、永遠なる不滅の存在になってしまったようだが。
それでも、滅ぶことはできるのだろうか。
「私を、殺して頂けますか」
新しい依頼も、悪くはない。
だがそれ以上に私は、言いようのない絶望に囚われていた。
全知全能になった今も、私は何故か、不幸なままだった。
「君も、難儀だな。君は他の誰よりも、あの子によく似ている」
少女は、私を真摯に見つめてくれる。
それが私にとっての救いだった。
彼女だけは、私を助けてくれようとしてくれている。
「では、私の“必殺技“をお見せしよう。『ゾンビ・ウィンドウズ』の『クラッシュ・ミー』。 共同開発のプログラムさ。君で、耐久試験といこうか」
彼女の周りの建物の幻影が消える代わりに、幾つものモニターが現れ。
それらがそれぞれ、美しきスタンバイモードの風景を映し出す。
ああ、かの”
「あ」
大量の光が炸裂し、私の目の前が真っ白になる。
今、私の、思考ヶとき”れてぃ<
次回から、ドラえもん編に入っていくはずです。
思い入れがある作品なので、
機会があれば続けようと思います。