Paranoia Agent   作:倉木学人

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思ったより予定が狂ったので投稿。
本作は不定期更新です。


ある風景の中で その①

「あ、あれ?」

 

 私は眠っていた。

 永遠に覚めることのない夢を見ていた。

 だが、目が覚めた。

 

「やあ。おはよう、タカオ」

 

 私は意識が覚醒すると、事実に困惑するしかなかった。

 

 周りを見渡すと、そこは見知った軍港である。

 海には国籍がまばらな幾つもの艦艇と。

 浮きドッグだが、とてもそうは思えない程に巨大すぎる鉄の建築物【スギズプラズニル】が浮かんでいる。

 

「これは。私、死んだはず、では?」

「確かに。私の“クラッシュ・ミー“で、君は強制フリーズに追い込まれた」

 

 良く分からないまま、ほぼ全知全能不老不死の存在になった私。

 そして、その私と同等の存在であるらしかった少女。

 そんな彼女に、私は介錯をお願いしたのだ。

 

 ―私は、自分の消滅を想像できないが故に。

 

「だが。まあ、リポップしたようだね」

 

 彼女が繰り出した“技“は、私にも見覚えがある。

 名前からして、ブラウザクラッシャーを参考にしたものだろう。

 要するに処理能力を超えた情報を読み込ませることで、機能を停止させる類の。

 それは無限の力を持つ私が相手でも、ひょっとしたら可能なのかもしれない。

 現に、しばらくの間私は停止していたようだ。

 

「そうです、か」

「ごめんね」

「いえ。いいんです。なんかやっぱり、こうなるような気がしたので」

 

 少女が謝るが、彼女にもどうしようもなかったのだ。

 自分とはちょっと異なる(ほぼ)全知全能の彼女ができないなら、まあそうなのだろうと納得している。

 まあ、仕方ないのだ。

 

「うん。じゃあ。とりあえず、サンドバッグから解放してくれないかな」

「あ。はい」

 

 私の周囲には、複数の美女美少女が取り囲んでいる。

 彼女らはこの世界の住人で、侵入者を今まさに警戒しているのだ。

 

 凍りつく美貌を持つコンゴウ(蒼き鋼のアルペジオ)。

 デジキャラットみたいな猫耳美少女の明石(アズールレーン)。

 JK風お嬢様の熊野(艦隊これくしょん)。

 

 そして目の前にはあの神々しい少女が。

 息も絶え絶えの状態で、何故かサンドバッグ(Elona)に吊るされていた。

 なんでじゃ。

 

 

 

「娘たちに任せるには酷だったとはいえ。君の元へ辿り着くのは、中々に骨だったよ」

「す、すいません」

「うむ。実に頼もしい限りだ」

 

 この少女は私とほぼ同じ能力を持つとはいえ、生身の肉体的には貧弱らしい。

 私のセンサーは、適当な棒で殴ればそのまま死んでしまいそうだと告げている。

 まあ私と同じなら彼女も残機無限故に、それでも問題ないのだろうが。

 

「あそこにあるのはアイワナの月かい? 三回襲われたが、アレが特にキツかった」

「まあ、です」

 

 彼女はこの世界に侵入し、私を探していたようだが。

 防衛システムに見つかって、一応の責任者である私の元へ運び込まれたらしい。

 彼女は暴行を受けたが、結果的に私に会えたので問題はないとのこと。

 それで良いのだろうか。

 

「ところで、ここの世界は」

「シド星ウィルキア王国、ルルイエ泊地ですけど」

「ふむ」

 

 自分で口にして何だが、ひどい世界だ。

 規則があるようで、不規則に。

 この世界は色々なものが、節操なく混ざりすぎている。

 ドラえもんの力をもってして、他の事にも手を出していた私のように。

 

「ふむふむ。君の記憶の断片が、いくつも積み重なった場所、ということか」

「みたいです」

 

 この世界は、他ならぬ私のものだ。

 目の前の少女が“ハロー・ワールド”という世界を持っていたように。

 私が所持し、私が支配している世界なのだということが分かる。

 

「じゃあ、この世界の名前は決めているのか」

「ええ」

 

 この世界は見覚えが無いが、知っている。

 幼いころから夢見がちだった私は、いつからかこのような世界を思い描いていた。

 この世界の住人は私が出会った全てであり、私の中で永遠に生き続ける存在なのだ。

 その有様は、遊戯王のペガサスのそれに良く似ている。

 

 ―しかしまさか、私が“実際に“この世界を持つことになろうとは。

 

「この世界は、“カングバンド”。私が完成を夢見た世界の、成れの果てです」

「大元は冥王モルゴスの鉄獄(Angband)か。良い名だ」

 

**

 

 とりあえず、気持ちが落ち着いたので。

 彼女と共に、私は彼女の世界に戻ることにした。

 

 少女がデロリアン車を呼び出し、私がそれに相乗りした後。

 彼女が管理している世界の一つらしい場所に着いたのだった。

 

 そこは東京スタジアム程のドームで、中は薄暗いがハッキリ照明がついている。

 中心の鉄格子の中で、勇者と魔王が闘っている。

 その周囲には現代風の若者たちが集まっていて、やれーだの殺せだの言って騒いでいる。

 

 見た感じどうも、剣闘士の闘技場に類するものが行われているようだ。

 

「ただいま」

「お。ちーす」

 

 ドームのロイヤルスイートの席で、あの黒い黒い少女が立ち見していた。

 こちらを確認するや、あちらは簡単なあいさつをした。

 

「アリス。さんでしたっけ?」

「ん。呼び捨てで御願いします。俺はフレデリカ様の小間使いに過ぎないんで」

 

 なんか、彼女から距離を感じる。

 ほぼ初対面だし仕方はないか。

 

「俺たちでは、“超自然”の御方には敵いません」

 

 その言葉に首をかしげそうになるが。

 恐らくは、私のような存在のことだと見当がついた。

 

「わ、私たちのことですね」

「私が名づけたのさ。私の関連世界では私たちの事を、そう呼ぶのだ」

 

 詳しいことは用を済ませた後で、詳しく説明しよう。

 彼女はそう言ってほほ笑む。

 

「で、サイタマは元気にしているかい?」

「よく楽しんでますよ。ほら、丁度今から殺るみたいです」

 

 そういえば、ここに来たのはサイタマでか。

 今更ながら、そのことを思い出した。

 私は時空が自由自在なので、その内に彼と会おうと思っていたが。

 

 なるほど、彼はここで戦っていたのか。

 この少女の元なら、彼の期待する強敵と合えるのかもしれない。

 

「金属の、スライムか」

 

 先ほどの試合が終わり、新しい試合が始まるようだ。

 電光掲示板には、【ハゲマントvs. はぐれメタル】と描かれている。

 

 はぐれメタルといえば、ドラクエに登場する経験値の塊として有名なアレであるが。

 見た感じ、どうも様子がおかしい。

 

「あれは、変愚蛮怒のはぐれメタルですね。見た感じ、サイタマなら倒せるかな? ってぐらいの強さのようですが」

 

 それには目が一つしかなかった。

 鈍い金属色の身体をゆらゆらとさせ、口もないのに笑顔を浮かべているのが分かる。

 

 それを狩ろうとするものがいても可笑しくはないが、間違いなく狩られる側は逆となる。

 

 ドラクエのモンスターというのは、どこか愛嬌のあるデザインなのが常であるが。

 目の前に見えるはガルマッゾの同類だろう。

 

「タカオ様なら、どうやって倒します?」

「“さそうおどり“と、”まじんぎり“なら、確実そうですね」

「そう言える所は、流石っすね」

 

 物理攻撃以外に完全な耐性を持っているはずのアレは、奇妙なことに“魔法で完全に制御されている”のだ。

 サイタマが今入場しているのに、襲わないのがその証拠。

 つまりは明確に弱点が存在しており、私にも制御が可能であるということを示している。

 私では勝負にならないだろう。

 

(とはいえ、這いうねる混沌『ナイアトラルホテップ』や、いたずら者の『ロキ』等を易々と葬る変愚プレイヤーでも裸足で逃げ出すほどの、HDDクラッシュに例えられる程の雑魚モンスターです。彼はどう相手どるのでしょうか?)

 

 はぐれメタルもワンパンマン世界なら、“竜”を超える脅威であろう。

 サイタマ程強いかと言われれば微妙だが、強さ自体はかなり近い。

 良い勝負になることだろう。

 そして、勝負は強さだけでは決まらない。

 

 今、ゴングが鳴り、戦いが始まった。

 

**

 

 先手を仕掛けたのは、はぐれメタルだった。

 サイタマもありえない程早い、しかしはぐれメタルはそれより早かった。

 それは複数の神話体系を含んだ世界の、あらゆる怪物の中で最速なのだ。

 ドラゴンボール世界級でなければ、一回行動する毎に三回以上の行動が許される程に早い。

 そして、彼はまだ本気ではないようだ。

 

 最大閃熱呪文(べギラゴン)が唱えた瞬時に発動し、炎の渦となってサイタマの身体を包み込む。

 変愚の魔法というのは高難易度だが必中である。

 難易度はそこまで高くない魔法とはいえ、使い手の格により決して軽くは無い威力であるはずだ。

 

「―」

 

 だが、当然のようにサイタマはノーダメージである。

 所詮は炎属性の魔法。

 炎に対して免疫があれば、全くダメージを受けない攻撃だ。

 勿論、サイタマはその手の耐性を持っている。

 

 彼が何かしらのアクションを起こす前に、それは瞬時に跳躍した。

 決して目に留まらず、リングの中を360°自在に飛び回る。

 それの“にげだした“は目に留まらないスピードだ。

 だが、決して逃げ回っている訳ではない。

 

「それを私たちの目で視認できる、ということは。あのリングの時空だけ捻じれてますね」

「ま、こうでもしないと。一般人は観戦できないですんで」

 

 言うまでもないことが、それは非常に臆病な存在だ。

 早くて固くてHPが少ない、そこまでは原典(ドラクエ)と同じである。

 ただ一つ違うのは、それが殺意に満ちているということなのだ。

 

 極大爆裂呪文(イオナズン)が唱えられ、炸裂する。

 そして、当然のように直撃する。

 避けることは決してできない。

 

「ッ!」

 

 カス当たりではなく、明確にダメージがある。

 寮としては少しながら、彼の身体の“体積”がすりへっていた。

 その様子は、金色のガッシュにおけるクリア・ノートの攻撃が当たった感じ、と評すべきか?

 

「サイタマ。魔法への完全耐性がないのですか」

「少なくとも、この彼は。ということだろう」

 

 無色の魔力による爆発は、決して何度も受けてはいいものではない。

 何度も受ければ、死に至るのは想像に難くない。

 

「さあ、サイタマ。遊んでいる暇はないぜ」

 

 彼はスロースターターだが、やる気があれば話は別だ。

 彼のプレッシャーが一気に膨れ上がり、彼もそれと同じスピードで動き回るようになる。

 しかし、それでもそれに届かない。

 

 魔法としての瞬間移動(テレポート)を持つそれは、瞬時に距離をとることができる。

 それに対して物理的な移動手段しか持たない彼には、それと適切な間合いを取る事ができないのだ。

 その上でスライムの身体が、サイタマと同程度の速度をたたき出すのだからたまったものではないだろう。

 

「成程。アレならば、彼の強さを測ることができるのですね」

「彼、随分と体力があるんだね。ここまでして、少しずつしか削れないとは」

 

 とはいえ、このままなぶり殺し、というのも違うようだ。

 完全に見える、あのショートテレポートだが、欠点もある。

 

 あのテレポートはランダム制御で、着地点が制御できないタイプなのだ。

 テレポート魔法にも制限がかかっているようで、リングの範囲内にしかテレポートできていない。

 となると、彼の隣にテレポート、ということも十分有り得る。

 

 しかも、どうも“乱数のかたより”が見える。

 コンピューターゲームというのは、乱数に使うテーブルが不完全にならざるを得ない。

 そのためゲーム中連続して攻撃を空振りするとか、レアアイテムを良く拾うなんて現象が起こるのだが。

 それが、この現実でも起きている。

 

 だから、似た範囲にテレポートする、なんて現象が今まさに起きていて。

 サイタマがそれを捉え、拳を入れた。

 

「うお!?」

 

 しかしスライムの身体で半円を作り、その攻撃を“ひらりとみをかわした”。

 はぐれメタルは素早さだけでなく、防御力も高いのだ。

 

「必殺“マジシリーズ“」

 

 見かねたサイタマはダメージを必死に耐えながら、力をためる。

 あの構えは見覚えがある。

 

―マジ反復横跳び!

 

 全力の反復横跳びが、無数のサイタマを作り出す。

 そしてそのまま突進するのだ。

 

「まずいですね。変愚のはぐれメタルは“アレ“があるのに」

「アレ、か」

 

 それを見たはぐれメタルが動きを止め、手を作り出して天に掲げる。

 手で光を握り、束となる。

 それを分身するサイタマ目がけて投げつけた。

 

―光の剣

 

 あれこそが超能力で出来た、必中の攻撃。

 光はサイタマの幻影にぶつからないかの所で爆発して。

 檻の中を力で満たした。

 

「死んだか?」

 

 光が一体に包み込んだので、中の様子は見ることが出来ない。

 流石にサイタマでも、今ので死んだかもしれない。

 別に死んでも、私と少女がいるので、復活は容易だけど。

 いざとなったら、私がザオリクでもべホマでもかけることにしよう。

 

 とはいえ、死んではないようだ。

 

「お?」

 

 なんか、リングの中に、地面で出来たかまくらがある。

 多分、あの中にサイタマがいるようだが。

 瞬時にアレを作って回避したか。

 

「地面は、耐神構造とかではないのですか?」

「まあ、そんぐらいはしてますけど。あの程度の芸当は、出来なくもないですかね」

 

 それを見た、はぐれメタルが魔法をいくつもぶつける。

 しかし、地面はびくともしない。

 地面にも攻撃はできるが、破壊はできない、ということか。

 崩すには地面を採掘しないといけないが、魔法にはそれができない。

 

「穴熊、ですね。これはサイタマの勝ちになりそうです」

 

 このままタイムオーバーなら、はぐれメタルの勝ちなのだが。

 だが、それはその戦術を取ることは無い。

 モンスターとしてのそれは、怪物故にその概念を理解できない。

 それは臆病だが、殺意しかないのだから。

 

 それは慎重に、慎重にかまくらへと近づく。

 時々テレポートでフェイントをかけるさまは、だるまさんがころんだを思い出す。

 

 そして、その触手がかまくらに手を伸ばした瞬間。

 かまくらが壊れ、サイタマ渾身のストレートが撃ち込まれる。

 

 パンチは見事に命中し。

 液体の身体がふるふると震え、そのままびしゃりと崩れ落ちた。

 かいしんのいちげき、といった所だ。

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