サンダー(→)・クラウザー(↓)。
「全問正解! よくできました」
今日は休日。
天気も良く、今日は勉強日和です。
朝、のんびりと朝食を食べた後。
のび太君は殺せんせーとお勉強中だ。
「ねえ殺せんせー。これ、小学一年生の問題だよ。こんなかんたんな問題ばっかりでいいの?」
「おお、良くぞ聞いてくれました」
勉強机にかじりついているのび太君って中々貴重に感じる。
彼って寝っ転がっているか机で寝ているかのどっちかだろうから。
「今の君に必要なのは自信です。自分にもできる、という思いが何よりも大切なのですよ」
ああ、彼はやれば出来る、というのは知ってるけど。
彼もやろうと思えば、テストで100点を取る事はそう難しくないはずだ。
「では。簡単な問題に慣れた所で、前にやったテストの問題をやってみましょう」
「えー。こんなの僕には無理だよ」
「ニュルフフフ。大丈夫です。分からない所は積極的に聞いてください。ここには学ぼうとする君を笑う者はいません」
この調子だと彼も普通に勉強が出来るのも、そう遠い未来ではないように思える。
うん、頑張ってほしい所だ。
「今日できなくても、明日できるようになればいいのです。それこそが人間の力なのですから」
殺せんせーも中々良い事言うなあ。
私もこんな先生が欲しかったです。
「ふふ。楽しそうだなあ」
触手に指導を受けている少年は、案外まんざらでもなさそうで何よりだ。
しかし、教育とは。
私が人に教えるなんて。
研究室のころは、後輩に教えることが多少はあったが。
私って基本的に人望無かったからなあ。
―私の精神だけが、少しだけ昔の別の場所へと飛ぶ。
そこは私の中にある脳噛ネウロと暗殺教室の世界。
現代的な私立椚ヶ丘中学校の理事長室である。
「今回の件は、貴方が教えたかったりします?」
目の前には落ち着いた机に座っている男性が、高級だが下品ではない整ったスーツ服を決めていて。
部屋には至るところに何らかの賞のトロフィーだとかが、それもごく最近のばかりのものが飾られている。
彼こそは暗殺教室の悪役、浅野學峯だ。
「彼は我が校の中でも、私に次ぐ優秀な教師だ。タカオ先生からの依頼であっても、彼ならば安心して任せられます」
アルカイックな笑みを浮かべる彼は、人好きな指導者のそれだ。
のび太君の教師は彼にお願いしてもよかったかな、と思うところもある。
「もし、より盤石な体制が必要でというのであれば。私がのび太君の学校に赴任しましょう」
「んー。そこまでする必要はないと思いますが」
そこまでやったら、のび太君の担任先生(あの人の名前なんだっけ?)の立場が危ういのではなかろうか。
有能かどうかは知らないけど、のび太君には慕われていたのに。
浅野先生が色々したら、魔改造される未来しか見えないぞ。
「タカオ先生。教育の本質とは何だと思われますか?」
「哲学的ですね」
理事長先生が、ぐっと椅子を引いて。
姿勢を整える。
「私はあまり、教育を良くは思っていません。別に、あなた方が嫌いな訳ではありませんが」
私は、教育は、その、うん。
親や先生方には良くしてもらったが、あまり良い思い出が無い。
それらにはいくつかのトラウマがある。
それは、教育というものの体質が関係していると後から知ったものだ。
「賢明な判断です。なにせ、教育とは"誰もが出来る簡単な仕事"ではないのですから」
「すみません」
割と強くあたってしまったつもりだったが、理事長はまるで困ったように笑うだけだ。
殺せんせーも含めて彼らは、私の世界の住人だ。
どこぞのアカネちゃんのように、基本は創造主である私に絶対服従である。
「人の心を砕き、自信を絶対と信じ込ませ、そこから新しい価値観に矯正する。つまり、我々のしていることは―」
とはいえ、私の世界の全員が単なるイエスマンや太鼓持ちという訳でもない。
彼らは私のためなら辛辣な言葉だって吐いてみせる。
というか、そっちの方が私的には好みなのだが。
「洗脳ですよ。優れた教師であるということは、優れた教祖でもあるということです」
「必要なことではあると思います。自然のままの人間なんて、見れたものではないのですから」
教育とは洗脳、確かにそうだろう。
となると、分かっていたが、一つ問題がある訳で。
「先生は、のび太少年をどうするつもりで?」
「どうしたいか。ですか」
私は子守を依頼されたが、特にノルマとかはない。
別に失敗しても、あの人は怒らないだろう。
良く言えば気楽な、悪く言えば責任が無い、今回はそういう仕事だった。
「私には、のび太君にに示せる道がありません。彼をどうしたい、というのが強く無いのですよ」
私も先生になりたい、とは思ったことがあったが。
結局はならなかった。
自信のない私は、根本的に教師に向かないからだ。
故に、私は私の世界の住人に教師役を任せたのだ。
「成程。彼自身に選択を任せるつもりだと」
殺せんせーは生徒の自主性を重んじる教育方針だ。
恐らく今回の場合、経営者的な目標を持つ理事長より適任だろう。
―そして、再び今に時を戻す。
「タカオ先生」
「どうしました?」
気づけば、のび太君は勉強が一息つき、一休みしているようで。
私に注意を向けている。
「それ、なあに?」
そうして、私が自分で用意した机の上のそれを指さした。
ああ、これはこの時代じゃまだマイナーなものだったな。
「これはコンピュータです。私達の代わりに計算をしてくれる機械なんですよ」
これは2010年ぐらいの、業務用ノートPCだ。
私が生きた時代では、最新鋭でも何でもないのだが。
この時代では間違いなく、どのPCよりも早い。
「例えばですね。"=1 + 2"とすると、ほら」
「すごーい!」
というかこの時代、家庭用の電卓もない。
剛田さんの所の商店が、そろばんで計算している時代だし。
これも、一種の異世界チートかなあ。
「図や文章を作る機能もありまして、これでちょっと教科書を作っていました。あなたが勉強しているのに、私だけ遊ぶわけにはいきませんからね」
いろんな世界を持っている私なら、世界から物を取り出すだけでなく。
世界から新たに新しい物も作れる。
教えるだけなら、適当に塾の教材を持ってきてもいいけどね。
私だけ遊んでいるわけにもいかない、というのは本当なのだ。
「ねえ、僕にもやらせてやらせて!」
「いいですよ。じゃあ、ゲームでもしますか」
ちょっと遊ぶことになるが、まあいいだろう。
遊ぶことも勉強です。
「”サンリオタイニーパーク”?」
「はい、まずは簡単なマウス操作に慣れましょう」
私はキティ―ちゃんたちサンリオキャラクターのゲームを立ち上げた。
幼児向けの簡単なゲーム集だが、PCのPの字も知らぬ初心者には最適だろう。
で、暫く楽しく遊んでいると。
外から大声が聞こえる。
「おいのび太! 野球しようぜ!」
窓から覗いてみると。
そこにはバットとグローブを持った大柄な少年と、変な髪形の小柄な少年が。
よく見た光景で見間違えるはずもない、ジャイアンとスネ夫だ。
「あら、ごめんなさい。のびちゃんは今、家庭教師の先生と勉強中なの」
「ええ!? そうですか、すいません!」
のび太君が対応するか迷っていると。
玄関から玉子さんが出て、対応してくれた。
ならしょうがないかと、ジャイアン少年たちは気安く去っていった。
「のび太の家に家庭教師だってよ!」
「ははは、あののび太が続けるワケないじゃん!」
二階でも聞こえるぐらいの声で、そういっているのが聞こえる。
それを聞いたのび太君は、また意気消沈しているようだ。
しょうがないなあ。
「そうですね。じゃあ、このパソコンで勉強したら、次は野球の勉強しに行きましょうか?」
「え!」
いいの、と聞いてくるが。
遊ぶのもまた勉強だ。
この世界では、劇場版イベントは発生しないが、その分彼にはいろんな物を見てもいいんじゃないかな。
「でも、ジャイアンたちと遊びたくないや」
「大丈夫ですよ。ジャイアンたちとはしませんから」
野球かあ。
そうだ、私も久しく野球をしていない。
せっかく身体能力上がったんだし、この際スポーツをするのも良いかもしれない。
「バッティングセンターに行きましょう。良いところ、知ってるんですよ」
**
バッティングセンター。
そこにはバッティングボックスだけでなく、自動販売機やパンチングマシンが並んでいる。
1970年台にもバッティングセンターというのは全国的に広がってはいたが。
そこはのび太の時代には似つかわしくない、現代的な装いの場所だ。
「目をつぶってますね。ああ、そのままで大丈夫です。バットは振らず、今は良く見てください」
のび太少年が、ややへっぴり腰でバットを振るう。
ボールはバットにかすりもしていない。
そんな状況だが、私は彼を肯定する。
「いいチャージングです。ボールに慣れたら、次はボールが来る場所にバットを持っていきましょう」
100km/hのアーム式ピッチングマシン、ボロ助の腕が縦回転し。
ボールがこちらに投げ出される。
別に変化球でも何でもない、ど真ん中の甘い球だが。
彼はまだそれしか投げられないし、またそれが彼の正しい姿なのだ。
「連コ、連コ」
「ちょ、ちょっと待つだ! お客様!」
ちゃりんこちゃりんことメダルをマシンに入れていたのだが。
傍にいた若い店員さんに何故だか止められた。
「そんなに連続で動かしたら、壊れてしまうっぺ」
「ああ、ごめんなさい。じゃあ別の機体に移りましょうか」
今の時間、他の打席も十分空いている。
隣の打席でも使えばいいだろう。
「ふふ。いいなあ、この感じ」
今、私たちは22世紀の江戸川に来ている。
ここはこの時代の最新鋭のバッティングセンターという訳ではないのだが。
それでも、この雰囲気は私の良く知っているそれとよく似ている。
そうしたこの場所で、私たちは暫く楽しい時間を過ごした。
そして、イベントはまだまだ始まったばかりだ。
描きたいのがあるから、そこまで進められるといいなあ。
???「お姉ちゃ~ん」