今回の執筆にあたって、ハメのスポーツ小説たちを参考にしました。
バッティングセンターで程よく汗をかいたころ。
のび太君がギブアップの声を上げた。
まあ、結構遊んだのではないだろうか。
「打ちましたねー」
「つ、つかれた」
水で薄めたスポーツドリンクの容器を手渡した。
それをのび太君は美味しそうにごくごく飲むのであった。
「このまま帰るのも味気ないですし。ちょっと休んでいきましょう」
「うん」
時は夕暮れ。
22世紀の空飛ぶタクシーに乗って。
私達は過去ではなく、次の目的地にへと向かう。
ちなみに、私たちが22世紀に居てもいいのかという疑問はあるが。
まあ、私がドラえもんポジションだしなあ。
タイムパトロールは青タヌキに甘いのだ。
よって、彼らは私にも甘い、完璧な論理だ。
「ここは、野球のスタジアム?」
「今から草野球チームの試合が始まるそうで。せっかくですし、観戦しましょう。特等席ですよ」
「よくわからないけどわーい!」
私たちは中の受付の人間に顔パスし。
ドーム型スタジアムにあるボックス席へと足を運んだ。
「わああ。すっごい豪華!」
「はは。何か注文します?」
この部屋は窓からだけでなく、備え付けのテレビで観戦することもできる。
まさにスウィートな待遇の部屋なのだ。
テレビを映すと、そこには複数の個性豊かなドラえもん型ロボットたちの姿が見える。
「何あれ。狸型のロボット?」
「猫ですよ。猫型ロボット。ここでは彼らも野球をするのです」
「へえー」
彼らはドラえもんのスピンオフ作品であり”ドラベース”の主人公チーム、江戸川ドラーズである。
ちなみに、チームの名付け親はドラえもんだからドラーズなんだとか。
「おい、クロ。今日の試合の相手、まだ来ないのか?」
「ああ。もうすぐ時間なんだが」
兄貴分のヒョロえもんが、素振りをしているキャプテンの黒猫型ロボットのクロえもんに問いかける。
グラウンドの整備ロボットたちの作業も終わり、もうすぐ試合開始時刻なのだが。
観客は満席状態で、彼らは今か今かと試合を待ち望んでいる。
しかし未だ、相手チームは姿を見せない。
「ブラックホールズ、ねえ。ぜんぜん聞いたことがないけど、どんなチームなんだろ?」
勿論、試合のセッティングをしたのは私だ。
22世紀に来たなら、彼らの活躍が見たかったから。
私があれこれして試合を申し込んだのだ。
「!」
「何だろあれ」
突如として闇次元の扉が開き、人間の集団が現れる。
彼らは黒いユニフォームに深緑のつばという、見慣れないユニフォームカラー。
顔には影がかかって良く見えないが、その様子から野球をしにきたのは明らかだった。
彼らこそはパワポケシリーズのラスボス、"ブラックホールズ"。
電光掲示板が点滅し、情報が更新される。
ブラックホールズ
1 中 マルピノ
2 遊 トモサワ
3 右 アムスト
4 左 ゴヂラ
5 三 キヨモト
6 一 パライソ
7 二 ニーソ
8 捕 サトウ
9 投 シゲゴロ
*ひみつ道具*
・ころばし屋
・ビッグライト
・どうぶつねんど
江戸川ドラーズ
1 中 トラえもん
2 右 チビえもん
3 遊 スズえもん
4 右 エーモンド
5 三 クロえもん
6 一 ヒョロえもん
7 捕 バクえもん
8 二 ピョコえもん
9 投 ヒロシ
『今が旬の草野球チーム、江戸川ドラーズ。本日はどのような野球を見せてくれるのでしょうか』
実況の声に、観客からの歓声が上がる。
江戸川ドラーズ、草野球チームとはいえ地元故か人気は高い。
『対するは次元の向こうからやってきたブラックホールズ。なんと、全員が野球漫画やゲームの登場人物ご本人という驚異のチームです!』
より一層高い歓声が上がる。
彼らは全員が漫画やゲームのヒーローなのだ。
人気だけなら全然負けていない。
ちなみに、ゲーム関係は私が趣味で入れた。
原作では漫画の人物だけだ。
「ま、マンガやゲームの人物が相手かよ」
「え、アレ。ご本人?」
「すごーい!」
そう、ご本人である。
私の世界から持ってきた、とは但し書きはつくし。
私の趣味が入ったせいで、ベストメンバーではないとはいえ。
ともかくその実力は本物だ。
「面白い! いざ、勝負!」
『さあ、試合開始です。ドラーズ先発はひろし君。ノビのあるストレートとフォークボールが持ち味』
**
『いよいよゲームも終盤。7回の表は同点の場面から始まります』
点数は10対10。
随分と乱打戦になったな。
多くの選手を抱えるブラックホールズとしては、そういう展開でもいいのだが。
「バッターは”ファミリースタジアム”より、マルピノ。バントをランニングホームランにする程度の俊足を持っています』
「お、おい。ヒロシ。大丈夫か」
「へ、へいきだ!」
ひろし君が、肩で息をしている。
人間もロボットもスタミナは有限。
こうも打たれると投手としては負担が大きいだろう。
選手数が少ないドラーズはこういった場面で不利だ。
『おっとヒロシくん、打たれた!』
「!」
そして弱ったピッチャーで抑えられる程、ブラックホールズは軟な相手ではない。
ゴヂラから手痛い長打を浴びてしまった。
辛うじてホームランは逃れたが。
それでもランナーのアムストをホームへと返してしまったのだ。
『これは痛い、この場面で一点を許してしまいました』
この後、後続をなんとか抑えきれたものの。
この一点は両者にとって重い意味を持つ。
『ブラックホールズ。選手の交代をお知らせします。ピッチャー、シゲゴロに代わりまして。アスワン』
『おおっと。ブラックホールズ、ここで投手交代。アストロ球団よりアスワンの登板です』
ブラックホールズは投手陣をリレーするようだ。
この一点を死守するつもりなのだろう。
登板したアスワンは170km/hオーバーの剛速球とファントム大魔球、三段ドロップの三つの決め球を持った怪物ピッチャー。
どの球も十分に恐ろしいのだが、アスワンはそれを後先など考えず全身全霊を込めて投げ込んでくる。
その鉄腕を前にして、ドラーズ打線は三者凡退となる。
「おい、ヤバいぞ。もうひろしは限界だ」
「俺は、まだ!」
「もういい。休むんだ」
身体的な疲れと強打者に撃ち込まれた精神的な疲労により、ひろし君は 限界を超えている。
それでもマウンドに立とうとする精神力は少年漫画の主人公の相棒に相応しい。
でも、流石にちょっと休んだほうが良いと思う。
別に世界の命運とかは背負っているわけじゃないし、無理して戦う試合じゃないんだよ?
ヒョロえもんの気遣いはごもっともであろう。
「でも、代わりに誰が投げるの?」
その台詞に、ベンチのミケえもんとミカちゃんがドキリとする。
彼らは控え選手ではあるものの、この場面で起用できるほどの実力はない。
さて、どうするのだろう。
「いっそのこと、”どうぶつねんど”で新しいピッチャーを作るか?」
「いいね! よーしさいきょうのピッチャーを作るぞー!」
そうして、ひみつ道具の粘土をこねだすドラーズ。
まあ、悪くはない考えかな?
うん?
何かアムストが観客席に向かって挑発している?
アムストの視線のその先には。
「っ! いいだろう」
あれは、白猫型ロボットのシロえもんじゃないか。
ライバルのクロえもんの試合を見に来ていたのか。
彼はそのドラえもんハンドを観客席のドアに手をかける。
「オレが投げる」
「し、シロ!」
”どこでもドア”を通り抜け、シロえもんがドラーズのベンチに現れた。
あのシロえもんが、とベンチが湧きだつ。
「シロと、また一緒に野球ができる、のか?」
「勘違いするな」
クロえもんがやや戸惑いながら話しかけるが。
シロえもんの態度は冷たい。
「オレは。アイツらに挑みたくなっただけだ」
彼は元ダメロボットだったせいか、野球には人一倍真剣だ。
野球で挑まれたからには無視するわけにはいかなかったのだろう。
中々いいじゃないか。
ちゃんと掲示板に反映させとかなきゃ。
『おおっとお! 江戸川ドラーズ、ここで投手交代。なんと、荒川ホワイターズのシロえもんが乱入だあ!』
まさかの展開に、観客がより一層湧きだった。
この時期のシロえもんはプロに指名されていたからなあ。
敵としては手ごわいが、味方となれば頼もしい限りだ。
ブラックホールズは野球漫画やゲームの主人公格の集まりであるが。
シロえもんもまた、野球漫画のライバルである。
魔球・
対するドラーズの攻撃は決してぬるくはないが、それでも一点は遠い。
まるでここで死んでも良いかのようなアスワンの闘志溢れる投球は、この世界においても中々見られるものではない。
それでも段々とではあるが、ドラーズはアスワンを攻略し始めていた。
アスワンの弱点はその全力過ぎる投球にある。
彼のコントロールはそう悪くないが、どうしても疎かになってしまう点があるのだ。
キツイ球を受け流し、フォアボールや甘い球を狙う。
そうすることで、なんとか一点をもぎ取れるかと思われた。
しかし九回の裏、無情にもアナウンスが鳴り響いた。
『ブラックホールズ。選手の交代をお知らせします。ピッチャー、アスワンに代わりまして。トーア』
マウンドに現れたのは、帽子を被らない男。
髪を染めて逆立たせ、やる気がなく、熱血やスポーツマンシップといった言葉を全く感じさせない態度ではある。
それでも彼の登場により、観客席は一層湧きだつ。
彼もまた人気者の一人であり、読者の一部から神のごとく崇拝を受ける男だった。
「やばいぞ。”ONE OUTS”の”渡久地東亜”だ」
スズえもんが顔色を悪くさせながらつぶやいた。
それに対して周囲の反応は芳しくない。
「だれ?」
「ヤツは、ギャンブラーだ。120km/hのストレートしか投げれないが、コントロールはバツグン。そして、全く打てないんだ」
何故そんな奴が打たれないんだ?
至極当たり前で当然の疑問にドラーズは包まれる。
そして、それこそ相手の思うツボだった。
ドラーズ最後の回、先頭打者はトラえもん。
ドラーズ一の俊足の持ち主である。
一投目はスローボール。
急速は100km/h程度のど真ん中。
好球と思いバットを振るうが、これがストライク。
ストレートにも関わらず、ボールがバットを避けるような軌道だった。
二球目はストレート。
急速は120km/h程度で、内角低めの際どいコース。
トラえもん、これを見送りでストライク。
三球目はスローボール。
これはさすがにやばいんじゃ、と警戒し。
じゃあこれならどうだ、と奇を狙ってバントを選択。
『おおっと、ここでバントだ!』
ボールはバットに当たったが、ボールはキャッチャーの手前で転がる。
そのままキャッチャーのサトウが拾い、一塁に送球。
結果はアウトである。
これでワンナウト。
二番打者はチビえもん。
名前の通りのおチビさんで、とても長ーいバットを振るうのである。
初球は内角の甘い球。
チビえもんはこれを喜んで振るうが、無駄に長いバットに内角の球では飛距離が出ない。
二塁へのゴロとなり、ニーソが余裕を持って一塁に送球。
これでツーアウト。
三番打者のスズえもん。
彼は現状トーアのことを一番良く知っている人物ではあるが、全くといって打てるイメージが湧かなかった。
故に、”とっておき”を使うのである。
初球は真ん中の甘い球。
しっかりとしたスイングでスズえもん、これを振るう。
結果はセンターフライ、これで試合終了である。
と、思いきや。
センターのマルピノが余裕を持っての捕球の寸前で、突然すっころんだ。
記録はヒット、記録はヒットである。
ここにきて、スズえもんはひみつ道具である”ころばし屋”を使っていたのだ。
スズえもんはバッターボックスに立つ前に、”ころばし屋”の硬貨入口へ万札をねじ込んでいた。
それがここで効していたのだった。
なんとか塁に立つことができたスズえもんであったが、その表情は険しい。
彼にとっては、”ひみつ道具を使わされた”という印象しか抱けなかったのだから。
四番打者のエーモンド。
彼はドラーズの主砲ではあるが、さて。
もう後がない状況とはいえ、一打逆転のチャンスであり、出来ればここで仕留めておきたいところである。
一投目は高めのスローボール。
エーモンド、これを落ち着いて振るう。
しかしストライク。
二球目は高めのストレート。
これも落ち着いて振るうが、やはりストライク。
追い込まれ、もう後がないエーモンドはサングラス越しに相手の目を見た。
その目には、何も感情が浮かんでいなかった。
自分のことなんて、全く眼中にないかのようで、底冷えするようだった。
「オ、オオオオオオオ!」
トーアが無慈悲にリリースする瞬間。
エーモンドは思わず、事前にクロえもんから渡されていたビッグライトを相手ピッチャーに向けた。
するとビッグライトから出た光がトーアとボールをぐんぐん巨大化させる。
そうして放り投げられたボールは、その巨体をぐんぐん膨らませながら。
バッターボックスのエーモンドとキャッチャーのサトウ、そして審判の身体を押しつぶした。
押しつぶされながら、審判はなんとか声を上げる。
「で。デッド、ボール」
『おおっと、デッドボール。ここでデッドボールです!』
よろよろ、とボールの下からエーモンドが這い出る。
バットを支えとしてなんとか立ち上がり。
そのままバットを地面へと叩きつけた。
「ダムン・イッツ!」
怒りのあまり、バットをへし折ってしまったのだ。
折れたバットは捨てられ、そのままバチバチと燃え始める。
デッドボールによりエーモンドは出塁したものの。
彼には屈辱、それしか感じなかった。
これがトーア・トクチか。
『五番、サード。クロえもん』
ここで一層、歓声が上がり。
会場のテンションは最高潮へと達した。
『ここで、バッターはチャンスにはめっぽう強いクロえもん。果たして、一打逆転となるでしょうか。それともここで終わってしまうのでしょうか』
「さあ、こい! トーア、勝負だ!」
絶対絶命のピンチであるとはいえ、クロえもんは笑ってバッターボックスに立つ。
この展開が楽しくて仕方がないのだろう。
それでこそ、主人公たるというものだ。
対するトーアはいつも通りだ。
淡々とテンポよくリリースする。
投げるは内角低め、ギリギリのストレート。
「これならどうだ! 必殺、”ブラックホール打ち”!!」
バットの回転により風圧を起こし、ボールを吸い込もうとする。
クロえもんの必殺打法だ。
次の瞬間、カキンと心地の良い音が響いた。
自分の野球チーム持ってるオリ主って珍しいっすね。
サッカーだったらブラジルオールスターズとか持ってます。