Paranoia Agent   作:倉木学人

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ちょっと短めになったけど、まあいいや。


ドラえもんのうた その④

 ドラーズの試合の後、のび太君は野球がマイブームになったようです。

 以前からジャイアンから誘われて野球をやってはいたけども。

 今は自分から進んでやるようになったようだ。

 

 のび太君、ちゃんとした指導を受けていなかっただけで野球の才能自体はあるんだよね。

 クロえもんが原作ドラえもんの立場で来るパターンもあり得たらしいし。

 ブラックホールズの面々が指導している御蔭もあって、ガンガン成長していっている。

 

 身体づくりさえ私が補助してやれば、プロ。

 いや、メジャーリーグも夢ではないように見える。

 これには未来のセワシ君もにっこりだろう。

 

「のび太君。本来の歴史では、自分の会社を燃やした後、環境保護の仕事に就くんでしたっけ」

 

 ま、後は本人次第だ。

 

 22世紀が存在する、この世界の未来は明るい。

 どうなっても悪いようにはならないだろう。

 羨ましい限りである。

 

「タカオ様、タカオ様」

 

 のび太君の部屋で一人くつろいでいると。

 例の机が開き、そこから真っ黒な姿のアリスが顔を出した。

 

「どうしました?」

「アタゴちゃんが完成しましたんで、そのことを連絡しました」

「ありがとうございます。今向かいますね」

 

 私が立ち上がるが、彼女はじっとこっちを見ている。

 どうしたのだろう。

 

「のび太君はいいんで?」

「ああ。またここに戻ってきますよ。それに、今は私の子が面倒を見てますし」

「成程」

 

 私ものび太君の机の中、異次元トンネル内に入り、落下に身を任せる。

 すると、私は人ひとりが入れそうな大きさの鏡の上に着地した。

 

 これは、超人ロックに出てくる”ラフノールの鏡”か。

 鏡の中には、アリスの全身が映っている。

 これは超能力バリアでできた宇宙船のようなものだが。

 彼女はこんなこともできるのか。

 

「フレデリカ様の世界まで案内は必要で?」

「はい。一緒に行きましょう」

「りょーかい」

 

 

**

 

 

 鏡は世界を跳んでいく。

 様々な世界を経由し、景色はめぐるましく変わる。

 目指す先は過去の、ひたすら過去へ。

 そうした先の終着点が”ハローワールド”という世界らしい。

 

 私にとってこういう”過程”は必要ないのだが。

 常人がこの世界に跳ぶには本来こういう”道”が必要なのだとか。

 

「おかえり、二人とも」

 

 その世界に入った途端、あの病弱そうな少女フレデリカが私たちを出迎えた。

 どうやら出待ちしていたようだ。

 

「うっす」

「ただいま、です」

 

 私たち二人は適当に挨拶する。

 そうすると、目の前の少女は満足そうにほほ笑んだ。

 

「タカオ。あの世界を正してくれてありがとう。あの世界はいずれ、他の世界に大きな影響を及ぼすことになるだろうね」

「はあ」

 

 あの世界、そんな大事そうには見えなかったが。

 私がよくよく見ても良く分からなかったから、恐らく当人のセンスの問題なんだろうな。

 

 私たちが何に価値を見出すかは、当人のみが判断すること。

 あの世界はこの少女の琴線に触れたのであろうか。

 

「でだ、アタゴについてだが」

 

 そう言って、少女は後ろを振り返る。

 私たちもその先に視線を向ける。

 

 するとネオンカラーのビル群の中から、一人の少女がぼんやりと。

 やがてくっきりと姿を現していく。

 

「お姉ちゃ~ん!」

 

 とてて、と歩いてきたそれは私を見ると抱き着いてきた。

 

 黒くさらりとした髪に犬耳、背丈は私より二回りほど小さい。

 私と同じ白を基調としたセーラー服を着ている。

 私が女子高生ぐらいだとすると、彼女は中学一年ぐらいだろうか。

 

 彼女が私の妹、アタゴだと見て分かった。

 

「お姉ちゃん? お姉ちゃんっ! お姉ちゃん♪」

「は、はは。本当にアタゴだ。また会えて嬉しいですよ」

「私もー」

 

 私も彼女の幼さの残る身体をぎゅっと抱きしめる。

 

 感触は人間のそれと同じだが、その中身は人間と全く異なるのだと私は理解できる。

 

「この機械の身体は。前の私と同じですね」

「姉妹だからね」

 

 私が色々な”高雄”を混ぜたようなデザインであるように。

 妹も色々な”愛宕”を混ぜたようなデザインをしている。

 

 見た目はアルペジオの愛宕に一番近い。

 

「この機種の正式名称はAmberoid(アンバロイド)。能力は異世界への移動に特化しているが、基本スペックだけで神を名乗れる程度の力はある」

「まんまアンバーの王族ですね」

 

 モデルは真世界アンバーの王族たちがモチーフか。

 そういやコーウィンも自身の世界であるアヴァロンで神みたいなことをしていたなあ。

 異世界に銃火器を持ち込んで、自分を神と崇める兵士たちに与えていたんだっけ。

 

「私を策略で貶めたりしませんよね?」

「んー?」

 

 アタゴの顔をじっと見る。

 

 アンバーの王族たちはどいつもこいつも武術と魔法の両方に優れ、陰謀策略に長けた危険人物だったが。

 妹もそういう所があるのだろうか。

 

 兄より優れた妹だったとはいえ。

 もしそうだったらお姉ちゃん泣きそう。

 

「そんなことはしないよ。私はお姉ちゃんの為にいるんだから」

「な、なんか不穏な言葉が聞こえたような気がしますが、まあ、いいでしょう」

 

 超自然である私と、単なるアンバー擬きでしかない妹の差はアリと巨人程あるのだが。

 私は精神的に脆い。

 精神的にはたぶん妹の方が強いような気がする。

 

「で。どうしたい? 仕事にする。報酬にする。それとも私?」

 

 私はアタゴをぎゅっと抱きながら、少女の方を向く。

 

「そういえば、仕事は報酬がありましたね。何があるんでしょう」

 

 確か、アタゴは報酬の前金でしかないんだっけ。

 成功報酬は聞いていなかったが(というかそこまで興味はなかったが)。

 いったい何だろう。

 

「ここに、仕事と報酬をセットで持ってきた」

 

 少女が私に、まっかっかな手紙を差し出した。

 西洋風な形状の手紙で、爆弾を模したシールで封がしてある。

 

「この手紙は。ウィルスに見えるのですが」

「その通り。”レター・ボム”にはウィルスが仕込まれている」

 

 レター・ボム。

 確か元は、Wiiのハッキングプログラムの名前だっけ。

 

「知っての通り。私は君を、というか超自然を殺す研究を行っているが。それは今回の集大成だ。その手紙を開けばハッキングによって、君を殺す空間にご案内さ」

 

 このプログラムを開くと、開いたものはリンク先へ強制的に飛ばされるようだ。

 その先で私をあれこれしよう、という魂胆だろう。

 

「成程。その挑戦。受けて立ちましょう」

 

 私は封を切ろうと、シールをカリカリする。

 

 あ、結構開けにくい。

 他の人が簡単に開けれないようにしてあるのか。

 まあ、こんなの私ぐらいしか開けないだろうけどさ。

 

「殺すのが報酬って、大分狂ってるよなあ」

「破滅願望も、立派な志さ」

 

 アリスが呆れた表情でつぶやいた。

 そういえば、私以外の超自然ってまだ会ったことないんだよな。

 フレデリカ様に今度紹介してもらおうかな。

 

「お姉ちゃん。死なないでね」

「死にませんよ。死んでも蘇りますし」

 

 アタゴが心配そうにしているが。

 超自然を殺せる手法は確立していないらしいし。

 

 もし死んだら、その時は残っているブラックホールズになんとかしてもらうか?

 

「いざ、鎌倉」

 

 私はそうして、手紙の封を解く。

 

 すると、私の意識が瞬時にブリックした。


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