いずれオリジナルが描きたいなあ。
カフェを離れ、私たちは一つの建物に入る。
そこには、緑の液体で満たされた水槽があった。
「これが、転生プログラムだ。本当は、私が産むべきなのだろうが。あいにく、私にその気は。ね。だから、人工的にやらせてもらう」
水槽には機械と階段が据え付けてある。
そこから人が干渉できるようになっているようだ。
「この液体の中に入ることで、入ったものの記憶以外を分解し、新しい身体を再構築する。ダレン・シャンの最終巻に、似たようなものが登場していただろう? やっていることはそれに近いな」
その物語はすんなりイメージできた。
ある登場人物が液体により人間の身体を溶かして、自分の部下を作って いたのを思い出す。
母親の胎内から生まれる訳ではないが、これも生まれ変わりとは言えるだろう。
「ベースとなる身体を形成し治すことで、気分はリフレッシュできるはずだ。仕事もはかどるな」
確かに、私の身体は不満だらけだ。
頭に障害があり、身体は病弱だ。
整形や肉体改造をする趣味は無いが、元の身体に執着する理由は一つもない。
「既に準備はできている。いつでも飛び込むと良い」
言われるがままに、私は階段の上まで歩んだ。
だが、そのまま飛び込もうとすると、足がすくんで動かなかった。
「どうした? 嫌、とは違うか」
怖くはないはずなのに。
だけどこの期に及んで、私は何かを惜しんでいる気がする。
それを望んでいたはずなのに、今を失うことが何故か恐ろしかった。
「怖いのか? 痛みは感じないようにできているが。それとはまた別の怖さか?」
「え、ええ。情けない話ですけど、押してくれませんか?」
少女が階段を上り、私の背中に手を触れた。
「わかった。じゃあ、押すよ?」
少女のものとは思えぬ力強さで押され、私の身体は宙を舞った。
液体が目の前に迫り、私は思わず眼を閉じた。
**
私は液体の中で目を覚ました。
ケーブルにつなげられているが、不思議と息苦しさは感じない。
液体越しに新しい自分の身体が、ガラス越しに少女が機械を操作しているのが見える。
少女がボタンを押すと、液体が下に吸い込まれる。
私が自力でケーブルをはずすと、周りのガラスの壁が取り払われた。
私は試験管の中にでも居たのだろうか?
「やあ、おはよう。気分はどうだい?」
身体と頭が嘘のように軽い。
今まで病気に悩まされていたのが嘘のようだった。
「生まれ変わったようです。それと」
少女がバスタオルを私の新しい身体に押し付けてくる。
元の貧相な身体ではなく、豊満さと柔らかさを兼ね備えている。
「女性の身体なんですね」
「嫌だったか?」
「いえ。そういう訳ではないですけど」
私は男性だった。
今は女性ということだろう。
だが、そこに自分でも驚くほど、驚きは感じない。
この身体は不思議と自分にしっくりする気がする。
今までのあらゆる苦痛から解放されることは、その程度の変化は些細に思える。
「服はこれを着てくれ。最初は私も手伝おう」
私に与えられた服装は白の下着に白の軍服、黒のスラックスだ。
加えて、少女が私の黒髪に手を回し、シュシュを使ってポニーテールを作った。
「うむ。よろしい。格好いいぞ」
それを見て、少女は満足そうだ。
私は映える姿になったのだろうか?
あまり、誇らしいとは思えないが。
「ああ、早速だが、ポケットから何か出してみると良い」
「何か、お勧めの道具とかはありますか?」
適当にタケコプターでも出せばいいのだろうが。
何となく気になって、そう口に出した。
「そうだな。“未来デパート通販マシン”はお勧めだ。どんなひみつ道具があるかを知る事が出来る上に、ひみつ道具の補充もできる」
「なるほど」
私はスラックスの右のポケットに手を突っ込んだ。
明らかに、ポケットに突っ込んだ感じがしない。
何かに手が当たり、私はそのままそれを掴んで引きずり出した。
ノートパソコンのようなものが、私の手の中で巨大化しながら出てきた。
「てれててっててー」
「うわ」
それを私はそばにあった机の上に置いた。
電源ボタンらしきものを押すと、画面が明るくなる。
どうやら無事に使えるようだ。
「うむ。さて、能力の確認も済んだ。ここで色々試してもいいが。そろそろ異世界へと渡るとするか」
ひみつ道具は、ポケットに戻した。
戻すときは小さくなって、すんなりと入った。
少女に連れられて、私は外に出る。
すると入口に、古ぼけたデザインの車が待ち構えていた。
スポーツカーのように、二座席しかない車だ。
入るときには、こんな車はなかったはずだが、大方この少女の力だろう。
「このデロリアンの座席に乗ると良い。アメ車だから運転席は日本と逆だよ」
この車はデロリアンらしい。
しかし、これで異世界に行けるとは思えない。
「ですけど、これってタイムマシンではないのですか?」
「聞いて驚け。このデロリアンは世界間の移動もこなすのさ」
私はデロリアンの座席に乗り込んだ。
少女が乗り込み、カチカチとボタンを何回か押すと、車はペダルに足もついていないのに一人で動き始めた。
車が走っていく。
窓をみると、そこにはネオンカラーのビルは消えていた。
そこは高速道路だったり、砂漠の中の道だったり。
眺めているだけで、景色はどんどん変わっていく。
「ところで。君は異世界というものを、どう捉える?」
そんな中で、少女が口を開いた。
単なる雑談の感覚なのだろう。
「どう、とは?」
「異なる世界が、どのように広がっているか。という認識の問題さ。異世界を行き戻りするには、異世界に対する知識が必要だろう?」
確かに異世界旅行をするにあたって、異世界に渡るための知識がないのは不自然だとは思う。
その世界に定住するならともかく、戻れなくなったりするのは不便だ。
異世界転生なんかをする奴は普通元の世界に戻らないので、気にしたことはなかった。
「異なる世界はジョジョのD4Cのように、直線的に平行して世界が存在しているのか。ただ、OFFの世界のように二次元的な広がりの中で、一点一点世界が存在するのか。それとも、真世界アンバーのように、世界に頂点があってそこから広がっているのか」
異世界が存在する世界、というのは結構な作品で語られている。
少女は自分も知っている、いや自分が知っている世界をいくつか挙げてくれているのだろう。
「認識によって上位世界があって、娯楽として楽しめる下位世界があるとか?」
「それもあるな」
私が口にしたのは、自分の世界が上位世界であり、娯楽として語られる下位世界になら移動できる、といったパターンだ。
具体的な作品名は思い浮かばないが。
確か、ネット小説で偶に見るパターンだったと思う。
「実際の所、こういった認識は全て正しい」
「全て?」
「つまり、認識できるだけ、世界は広がるという訳だ」
それもよくある設定だろう。
日本のネット小説だけでも、かなりの数の世界があったのだ。
それを考えると、何ら不思議ではない。
「魔法少女リリカルなのはの管理局をイメージしてもらうといいのかな? 彼らは複数の世界を認識し管理しているが、それでも彼らの認識の外にはまた別の異世界やらがあるのだよ」
なのはは良く知らないが、言わんとしていることは分かる。
恐らくリリカルなのは世界というと、世界の集団ひとまとまりを指すのだろう。
そしてその集団は無数に存在する。
「どれだけの世界があるのでしょう? もしや無限大だとか」
「その通りさ。例えばドラえもんの世界と全く同じ世界と指定するだけでも、それこそ星の数以上にある訳だ」
ふと、その中にも真に“原作”というものが存在するのだろうかと考える。
自分が読んでいた作品も、何かしらの世界の影響を受けたものなのか、と。
卵が先か、鶏が先か。
そこまで行くと、どうでも良い話だろうが。
「ただし、全ての世界に影響を与えることのできる“頂点”だけは別だ。これらは一つしかない。所謂、真世界アンバーに当たる場所だ」
アメリカのファンタジー作家、R・ゼラズニィ作の“真世界アンバー”の世界。
アンバーこそが真なる世界であり、地球を含む他の世界はその影響を受けた影でしかないとされる。
こうして移動している世界も、影の一つでしかないのだろう。
「“頂点”と言うべき所を、私は9つ確認している。一つは私の居た場所、“
恐らく、真世界アンバーは腐るほど世界に存在する。
しかし真に一つしかない世界は、全体にも八つしか存在しないのであろう。
言っていることが私自身よく分からないが、多分それで正しいはずである。
「世界間の移動については、行きたいと認識さえすれば、いずれそこに繋がるであろう」
「随分と雑ですね」
「それで問題はないはずだからな。少なくとも私の影響を受けた君なら、私の場所は容易にギャクタンできる」
命綱で君と私は繋がっているようなものさ。
少女はそう付け加えた。
「詳しく知りたいなら、私を尋ねると良い。それか、学習系のひみつ道具を使って自分で勉強することだ」
異世界に行くのは、そんなに簡単なのだろうか?
ドラえもんだと、そこそこ難しいような気もしたが。
不可能ではないだろうが、できるひみつ道具は思いつかない。
「一応、異世界旅行についてのマナーも語っておこうか。仮に世界に管理者が存在している場合。現実変容の力、例えばウソ800とかを使うのはマナー違反だ。世界法則の書き換えは迷惑だから、彼らの世界では自重しようね」
ウソ800というと、ドラえもんを復活させたアレだろう。
万能に近い道具の一つであるが、何が駄目なのだろうか。
「タイムパトロールみたいな存在がいるかもしれない、ってことさ。彼らの邪魔は、彼らとの敵対を意味するからね」
花壇をいじる側としては、花壇をいじられるのは困るということか。
それもそうだなと納得する。
「さ。着いたよ。ここが君の新しい世界だ」