Paranoia Agent   作:倉木学人

2 / 16
オリジナル設定を試験的に用いてます。

いずれオリジナルが描きたいなあ。


夢の島思念公園 その②

 カフェを離れ、私たちは一つの建物に入る。

 そこには、緑の液体で満たされた水槽があった。

 

「これが、転生プログラムだ。本当は、私が産むべきなのだろうが。あいにく、私にその気は。ね。だから、人工的にやらせてもらう」

 

 水槽には機械と階段が据え付けてある。

 そこから人が干渉できるようになっているようだ。

 

「この液体の中に入ることで、入ったものの記憶以外を分解し、新しい身体を再構築する。ダレン・シャンの最終巻に、似たようなものが登場していただろう? やっていることはそれに近いな」

 

 その物語はすんなりイメージできた。

 ある登場人物が液体により人間の身体を溶かして、自分の部下を作って いたのを思い出す。

 母親の胎内から生まれる訳ではないが、これも生まれ変わりとは言えるだろう。

 

「ベースとなる身体を形成し治すことで、気分はリフレッシュできるはずだ。仕事もはかどるな」

 

 確かに、私の身体は不満だらけだ。

 頭に障害があり、身体は病弱だ。

 整形や肉体改造をする趣味は無いが、元の身体に執着する理由は一つもない。

 

「既に準備はできている。いつでも飛び込むと良い」

 

 言われるがままに、私は階段の上まで歩んだ。

 だが、そのまま飛び込もうとすると、足がすくんで動かなかった。

 

「どうした? 嫌、とは違うか」

 

 怖くはないはずなのに。

 だけどこの期に及んで、私は何かを惜しんでいる気がする。

 それを望んでいたはずなのに、今を失うことが何故か恐ろしかった。

 

「怖いのか? 痛みは感じないようにできているが。それとはまた別の怖さか?」

「え、ええ。情けない話ですけど、押してくれませんか?」

 

 少女が階段を上り、私の背中に手を触れた。

 

「わかった。じゃあ、押すよ?」

 

 少女のものとは思えぬ力強さで押され、私の身体は宙を舞った。

 液体が目の前に迫り、私は思わず眼を閉じた。

 

**

 

 私は液体の中で目を覚ました。

 ケーブルにつなげられているが、不思議と息苦しさは感じない。

 液体越しに新しい自分の身体が、ガラス越しに少女が機械を操作しているのが見える。

 少女がボタンを押すと、液体が下に吸い込まれる。

 私が自力でケーブルをはずすと、周りのガラスの壁が取り払われた。

 

 私は試験管の中にでも居たのだろうか?

 

「やあ、おはよう。気分はどうだい?」

 

 身体と頭が嘘のように軽い。

 今まで病気に悩まされていたのが嘘のようだった。

 

「生まれ変わったようです。それと」

 

 少女がバスタオルを私の新しい身体に押し付けてくる。

 元の貧相な身体ではなく、豊満さと柔らかさを兼ね備えている。

 

「女性の身体なんですね」

「嫌だったか?」

「いえ。そういう訳ではないですけど」

 

 私は男性だった。

 今は女性ということだろう。

 

 だが、そこに自分でも驚くほど、驚きは感じない。

 この身体は不思議と自分にしっくりする気がする。

 今までのあらゆる苦痛から解放されることは、その程度の変化は些細に思える。

 

「服はこれを着てくれ。最初は私も手伝おう」

 

 私に与えられた服装は白の下着に白の軍服、黒のスラックスだ。

 加えて、少女が私の黒髪に手を回し、シュシュを使ってポニーテールを作った。

 

「うむ。よろしい。格好いいぞ」

 

 それを見て、少女は満足そうだ。

 私は映える姿になったのだろうか?

 あまり、誇らしいとは思えないが。

 

「ああ、早速だが、ポケットから何か出してみると良い」

「何か、お勧めの道具とかはありますか?」

 

 適当にタケコプターでも出せばいいのだろうが。

 何となく気になって、そう口に出した。

 

「そうだな。“未来デパート通販マシン”はお勧めだ。どんなひみつ道具があるかを知る事が出来る上に、ひみつ道具の補充もできる」

「なるほど」

 

 私はスラックスの右のポケットに手を突っ込んだ。

 明らかに、ポケットに突っ込んだ感じがしない。

 何かに手が当たり、私はそのままそれを掴んで引きずり出した。

 ノートパソコンのようなものが、私の手の中で巨大化しながら出てきた。

 

「てれててっててー」

「うわ」

 

 それを私はそばにあった机の上に置いた。

 電源ボタンらしきものを押すと、画面が明るくなる。

 どうやら無事に使えるようだ。

 

「うむ。さて、能力の確認も済んだ。ここで色々試してもいいが。そろそろ異世界へと渡るとするか」

 

 ひみつ道具は、ポケットに戻した。

 戻すときは小さくなって、すんなりと入った。

 

 少女に連れられて、私は外に出る。

 すると入口に、古ぼけたデザインの車が待ち構えていた。

 スポーツカーのように、二座席しかない車だ。

 入るときには、こんな車はなかったはずだが、大方この少女の力だろう。

 

「このデロリアンの座席に乗ると良い。アメ車だから運転席は日本と逆だよ」

 

 この車はデロリアンらしい。

 しかし、これで異世界に行けるとは思えない。

 

「ですけど、これってタイムマシンではないのですか?」

「聞いて驚け。このデロリアンは世界間の移動もこなすのさ」

 

 私はデロリアンの座席に乗り込んだ。

 少女が乗り込み、カチカチとボタンを何回か押すと、車はペダルに足もついていないのに一人で動き始めた。

 

 車が走っていく。

 窓をみると、そこにはネオンカラーのビルは消えていた。

 そこは高速道路だったり、砂漠の中の道だったり。

 

 眺めているだけで、景色はどんどん変わっていく。

 

「ところで。君は異世界というものを、どう捉える?」

 

 そんな中で、少女が口を開いた。

 単なる雑談の感覚なのだろう。

 

「どう、とは?」

「異なる世界が、どのように広がっているか。という認識の問題さ。異世界を行き戻りするには、異世界に対する知識が必要だろう?」

 

 確かに異世界旅行をするにあたって、異世界に渡るための知識がないのは不自然だとは思う。

 その世界に定住するならともかく、戻れなくなったりするのは不便だ。

 異世界転生なんかをする奴は普通元の世界に戻らないので、気にしたことはなかった。

 

「異なる世界はジョジョのD4Cのように、直線的に平行して世界が存在しているのか。ただ、OFFの世界のように二次元的な広がりの中で、一点一点世界が存在するのか。それとも、真世界アンバーのように、世界に頂点があってそこから広がっているのか」

 

 異世界が存在する世界、というのは結構な作品で語られている。

 少女は自分も知っている、いや自分が知っている世界をいくつか挙げてくれているのだろう。

 

「認識によって上位世界があって、娯楽として楽しめる下位世界があるとか?」

「それもあるな」

 

 私が口にしたのは、自分の世界が上位世界であり、娯楽として語られる下位世界になら移動できる、といったパターンだ。

 具体的な作品名は思い浮かばないが。

 確か、ネット小説で偶に見るパターンだったと思う。

 

「実際の所、こういった認識は全て正しい」

「全て?」

「つまり、認識できるだけ、世界は広がるという訳だ」

 

 それもよくある設定だろう。

 日本のネット小説だけでも、かなりの数の世界があったのだ。

 それを考えると、何ら不思議ではない。

 

「魔法少女リリカルなのはの管理局をイメージしてもらうといいのかな? 彼らは複数の世界を認識し管理しているが、それでも彼らの認識の外にはまた別の異世界やらがあるのだよ」

 

 なのはは良く知らないが、言わんとしていることは分かる。

 恐らくリリカルなのは世界というと、世界の集団ひとまとまりを指すのだろう。

 そしてその集団は無数に存在する。

 

「どれだけの世界があるのでしょう? もしや無限大だとか」

「その通りさ。例えばドラえもんの世界と全く同じ世界と指定するだけでも、それこそ星の数以上にある訳だ」

 

 ふと、その中にも真に“原作”というものが存在するのだろうかと考える。

 自分が読んでいた作品も、何かしらの世界の影響を受けたものなのか、と。

 卵が先か、鶏が先か。

 そこまで行くと、どうでも良い話だろうが。

 

「ただし、全ての世界に影響を与えることのできる“頂点”だけは別だ。これらは一つしかない。所謂、真世界アンバーに当たる場所だ」

 

 アメリカのファンタジー作家、R・ゼラズニィ作の“真世界アンバー”の世界。

 アンバーこそが真なる世界であり、地球を含む他の世界はその影響を受けた影でしかないとされる。

 こうして移動している世界も、影の一つでしかないのだろう。

 

「“頂点”と言うべき所を、私は9つ確認している。一つは私の居た場所、“始まりの世界(ハロー・ワールド)”。他の8つは私の家族や友人が管理している。もしかすると、それ以外にも存在するかもしれないが。あいにく見たことはないな。“頂点”以外の管理者は腐るほど居るが」

 

 恐らく、真世界アンバーは腐るほど世界に存在する。

 しかし真に一つしかない世界は、全体にも八つしか存在しないのであろう。

 言っていることが私自身よく分からないが、多分それで正しいはずである。

 

「世界間の移動については、行きたいと認識さえすれば、いずれそこに繋がるであろう」

「随分と雑ですね」

「それで問題はないはずだからな。少なくとも私の影響を受けた君なら、私の場所は容易にギャクタンできる」

 

 命綱で君と私は繋がっているようなものさ。

 少女はそう付け加えた。

 

「詳しく知りたいなら、私を尋ねると良い。それか、学習系のひみつ道具を使って自分で勉強することだ」

 

 異世界に行くのは、そんなに簡単なのだろうか?

 ドラえもんだと、そこそこ難しいような気もしたが。

 不可能ではないだろうが、できるひみつ道具は思いつかない。

 

「一応、異世界旅行についてのマナーも語っておこうか。仮に世界に管理者が存在している場合。現実変容の力、例えばウソ800とかを使うのはマナー違反だ。世界法則の書き換えは迷惑だから、彼らの世界では自重しようね」

 

 ウソ800というと、ドラえもんを復活させたアレだろう。

 万能に近い道具の一つであるが、何が駄目なのだろうか。

 

「タイムパトロールみたいな存在がいるかもしれない、ってことさ。彼らの邪魔は、彼らとの敵対を意味するからね」

 

 花壇をいじる側としては、花壇をいじられるのは困るということか。

それもそうだなと納得する。

 

「さ。着いたよ。ここが君の新しい世界だ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。