Paranoia Agent   作:倉木学人

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ワンピース編です。
そんなに長くないです。


ウィーアー! その①

「ここが、“ONE PIECE”の世界だ。勿論、あくまで無数にある世界の一つだが」

 

 車は、森の中にある小屋の前で止まった。

 私はドアを開け、足を地に着ける。

 

 一見、元の世界の森とそう変わらない気もするが。

 なんとなく、空気が澄んでいる気がする。

 

「何故、ワンピースの世界なんです?」

「全体の強さもほどほどで、一定の身体能力を確保すれば、生きるのは楽な世界だからな。ひみつ道具があれば十分無双もできるだろう」

 

 本当に生きるのが楽なのだろうか。

 作中で死人はそこそこ出ているような気がするが。

 

 確かに、Mr.2とかが死んでそうで死んでなかったりするので納得はできるが。

 それでも、なぜワンピなのだろうか。

 

「他の有名所の世界だと、ドラゴンボールやNARUTOの世界になるが。あの辺りは強さのインフレが起きている以上、少々難易度が高いだろうからな」

 

 なるほど、こちらに配慮してくれている訳だ。

 ドラえもんのひみつ道具は確かに強力だろうが。

 だからと言って、いきなり暗黒大陸やグルメ界などに放り込まれるのは誰だって嫌だろう。

 ひみつ道具は使えるだろうが、いきなり使いこなせるとは到底思えない。

 とはいえそれなら、名も知れぬファンタジー世界でも良いだろうに。

 

「有名作品から選ぶ理由が分かりませんが」

「別にマイナー作品や未知の世界から選んでも良いけどね。有名作品を基準にすれば、ほら。強さも分かりやすく、箔がつくような気がするだろう?」

 

 すごい下らない理由だった。

 まあ、こちらも特に行きたい世界はないので、それで良いのだが。

 

「ま、そういった世界に行きたいなら、異世界旅行に慣れてからが良いだろうね。強さのインフレが起きている作品は、ある程度戦闘に慣れた後ぐらいが丁度良い」

 

 少女は再び、車のエンジンを作動させる。

 彼女はもっと面倒を見てくれるかと思ったのだが。

 ここで、お別れのようだ。

 

「君が安定するまで見守っても良いが。あえて放置するのも親の務めというものだろう。その小屋の中はあと十年ぐらい安全だから。しばらく拠点にすると良い」

 

 じゃあ、また会おうね。

 気が向いたら、私に顔を見せてくれ。

 と、そう残して少女は去って行った。

 

 

 小屋に入ると、中には何もなかった。

 マインクラフトで最初に作る家の方がもっと豪華だろう。

 粗末な小屋だが、綺麗にはしてある。

 あの少女が事前に入って、手入れをしていたのかもしれない。

 

 とりあえず“未来デパート通販マシン”を取り出そうと思ったが、ここには机も何もない。

 椅子と机を出そうと思いポケットに手をやると、すわり心地の良さそうなチェアが出てきた。

 

 ひみつ道具か? 

 と思ったが、どうやら何も機能の無いすわり心地の良いだけのチェアのようだった。

 どうして、こういうものが入っているか疑問に思った。

 

 そういえば、ドラえもんは慌てるとどうでも良いガラクタを取り出す癖があったのを思い出した。

 おそらくひみつ道具でないガラクタも、そういった原理でこのポケットに入っているのだろう。

 嬉しいが、無駄にかゆい所に手が届きすぎる気がする。

 とりあえずは机も用意して、“未来デパート通販マシン”をしばらく眺めるのであった。

 

**

 

 あれから、少しマシンとにらめっこをしながら考えた。

 それから、いくつかのひみつ道具を試しに使ったりもした。

 そうしたら三日が過ぎたので、またひみつ道具を使って休んだりもした。

 そうして出た結論は、郷に入っては郷に従え。

 ひとまずこの世界の一員として過ごすことに決めた。

 お金はないが、補給は無限大だ。

 生きるのにはそう難しくはない、はず。

 

「すいませーん」

 

 異世界に来たのなら初めにやることがある。

 そう、異文化コミュニケーションである。

 この辺りは完全にアドリブで、特に考えていないが。

 そこら辺の港で、積み荷作業をしているガタイの良いおじさんに話かける。

 

「どうした? 嬢ちゃん?」

 

 嬢ちゃん、嬢ちゃんかあ。

 そういや、嬢ちゃんになったんだなあ。

 どうでもいいけど、風呂に入ったりしてなんか微妙な気分になったんだよな。

 あるものがなかったり、ないものがあるのを認識すると違和感が凄いのだ。

 

「嬢ちゃん?」

「あ、いえ。その。ここがどこかを知りたくて」

「何言ってんだい。ここはハイシャ村だよ」

「ハイシャ村、ですか」

 

 ちなみに、この村の場所やここがどの辺りに位置しているのかは、“自家用衛星”を使って把握している。

 漫画に関してはうろ覚えだが、地理的に恐らくここは東の海(イーストブルー)に位置しているのだろう。

 

「それと、質屋さんを探しているのですけど」

「質屋ぁ? 質屋なんてものはこの村にはねえよ」

「え? 物を売る場所って、村にはないのですか?」

「物売りかあ。嬢ちゃんが何を売るのかは知らんが。街に行ったほうが良いんじゃねえかねえ」

 

 どうやら、ここは何もないような田舎のようだ。

 安全と言えばそうなのかもしれないが、始まりの場所にしては物足りない場所だ。

 

「金が欲しいんなら、とりあえずは酒場で働いたらどうだ? 嬢ちゃん可愛いし、こんな田舎なら人気もでるだろ」

「あー。それは。ちょっと」

 

 飲食業で働くのは苦手意識がある。

 日本で働いたことはあるが、別の手段があるのなら進んでしたい仕事ではない。

 

「ところで、嬢ちゃんの腰に下げてるのは刀か?」

「ええ」

 

 私も強くなるとは決めたので、戦士になってみようとは思っている。

 腰に下げているのは勿論、ひみつ道具だ。

 

「腕に自信があるなら用心棒、ってのもアリかもしれんが。嬢ちゃんはやめといた方が良さそうだな」

「どうしてですか?」

「刀の良さは分からんが。嬢ちゃん、素人だろ?」

 

 その言葉に関して全く反論はできない。

 武は柔道を学校でならったが、私の成績はいつも1だった。

 戦闘に関しては完全に素人である。

 喧嘩なんて一度もしたことない。

 

「まあ、そうですけど」

「だから、やめときな。だから間違っても、あそこにいる海賊になんかに手を出すんじゃねーぞ?」

 

 男は、そうして遠くに泊めてある船を指差した。

 あれは木造の、サイズ的にフリゲート船だったか?

 あまり大きな船ではないようだ。

 ジョリーロジャーを掲げてはいないが、見た感じどうも継ぎ接ぎな感じがする。

 

「“ちょび髭”のフック。懸賞金800万ベリーのイカれヤローさ。最近、この辺りに滞在しているらしい」

 

 ベリーの相場は良く分からないが。

 主人公ルフィの初期が確か3000万ベリーなので、随分と低く感じる。

 それが顔に出ていたのか、男からはあきれられた。

 

「嬢ちゃんなあ。アイツらは犯罪者だぞ? 嬢ちゃんみたいなのが勝てる相手じゃねーっての」

「ですよねー」

 

 イーストブルーなので、多分バギーとかのポジションなのだろう。

 あれは漫画じゃ弱そうに描かれてはいたが、一般人には間違いなく脅威だろう。

 

「ありがとうございました。じゃあ、近くの街まで目指してみます」

「おい、嬢ちゃん。目指すってどうすんだ。近くの町までそこそこあるぞ」

 

 移動系のひみつ道具を使おうと思ったが。

 それを言う必要はない訳で。

 

「歩いて?」

 

 そういうと、深いため息をつかれた。

 

「ああ、わかった。用心棒として雇ってやるから、俺たちの船に乗ってけ。だが、乗せるだけだからな?」

「ありがとうございます」

 

 ひみつ道具で移動するのもいいが、一応船も体験することにした。

 どうせ、強くなる以外は目的も方針もないのだ。

 ここら辺は勉強の意味でも、提案に乗ることにした。

 

「まったく」

 

 この人は随分とお人よしのように感じる。

 あるいは、船の上で奴隷だとかR18的な展開に持って行ったりするのだろうか。

 一応対策はしているが、用心しておこう。

 

**

 

「ったく。勝手に女を俺の船に乗せやがって。ボニーよお、お前何様のつもりだ?」

「すいません船長。でも、まあいいじゃないですか。おかげで良い酒が手に入ったんですし」

「まあ、それは否定しねえがよお」

 

 私を乗せてくれた男の名はボニーというらしい。

 今はこの船の船長に絡み酒をくらっている。

 

 酒は“グルメテーブルかけ”を使って出し、さらに“フエルミラー“を使って増やしたものだ。

 どんな酒がウケるかは分からなかったが、生ビールは好評のようだ。

 ワンピース世界にビールがあったようなと思っていたが、読みは当たっていたようで何よりだ。

 

「俺の船に乗る者は拒まんがよお。だからといって、選ばないって訳じゃねえんだぞ?」

「でもこの酒、美味いっすよね」

「そうだな! ガハハ!」

 

 船長はビール瓶から、豪快に一気飲みする。

 この人は品が無いが、敬意を払える人間だと思う。

 少なくともこんな不審者を見て、まず乗船拒否するぐらいにはまともなのだろう。

 普通はそうする、誰だってそうする。

 

「しかしよお。おめえ、付き合う女は選んだほうが良いぜ」

「いや、別に。そういう関係ではないんですけど」

「お人よしなのは良いがよお。いや、良くねえわ。アレは間違いなく厄介の種だ。お前の頼みじゃなかったら、普段ならぜってえ乗せねえよ」

「あー。悪かったですよ」

 

 私は退屈にひみつ道具をいじりながら、海を眺めている。

 すると沿岸に、先ほど見た船がこっち目がけて走っているのが見えた。

 

「ボニー。海賊船が近づいてきています」

「何だと?」

「港で見た海賊船が、こっちに向かって近づいて来ています。振り切れそうですか?」

 

 海賊、という言葉に周囲がざわつく。

 私がその方向を指すと、双眼鏡を持った船長がしかめっ面を作った。

 

「いや、無理だな。どう考えてもアッチの方が速い。アッチは小型で改造船だろ」

「となると、やるしかないな。たく、ウチの船を狙うたあ。アイツら、本物のイカれヤローだったみてーだな」

 

 船員たちは各々の武器を取り出す。

 それはカトラスだったり、マスケット銃だったり。

 私も腰の刀を抜いて、戦いに備える。

 

「期待はせんが。自分の身ぐらいは自分で守れよ?」

「ええ」

 

 これが初戦か。

 負けはしないと思うが、不安は残る。

 

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