海賊船は、じりじりとこちらの船に近づいて来る。
こちらも備え付けの大砲で攻撃を行っているが、効果はいま一つのようだ。
私も“空気砲“で射撃を行っているが、命中はしない。
私はのび太のようにはいかないようだ。
大分距離が近づいたところで、急に海賊船が加速した。
何事かと思ったが、水しぶきが増えていることから加速装置でもつけているのだろう。
そうしてこちらに距離をつめたところで、海賊船からアンカーのようなものが複数飛び出し、こちらの船に固定された。
そこから、海賊船の乗組員がこちらに乗り込んでくる。
アクア団みたいな恰好をしている男たちだ。
「へっ。お嬢ちゃん。痛い目にあいたくなければ大人しくしているんだな」
私に相対した男から、舐めまわすような視線を感じる、気がする。
下種な目、というのはこういう眼をしているのだろうか?
私は人の気持ちに疎いので、よくわからないが。
「それはこちらの台詞です。降伏は無駄です、抵抗しなさい」
あ、台詞間違えた。
まあ、いいか。
殺しはしないけど、大人しくなってもらおう。
「舐めやがって!」
そうやって、こちらへカトラスで斬りかかってくる。
それを私は手にした刀、『妖刀ちゅんちゅん丸』で迎え撃つ。
「せい!」
「な。ギャッ!」
この『妖刀ちゅんちゅん丸』は非殺傷による相手の無力化を目指して自作したひみつ道具である。
内臓コンピュータにより自動で戦ってくれる“名刀電光丸”をベースに。
合成ができる“ウルトラミキサー”や改造ができる“天才ヘルメット”と”技術グローブ”を用いて調整したものだ。
動作チェックはしていたが、実践でも問題なく機能しているようだ。
その証拠に相手は倒れたが、傷一つついていないようだった。
「こいつも戦闘員だ! 囲め、囲んでしまえ!」
アクア団らしき男たちが、数人でこちらを囲んでくる。
私はそれに臆することなく、適当に斬りかかる。
一人を斬り倒したが、その隙に他の人間がこちらへ斬りかかってくる。
「馬鹿め! 隙あり!」
そうして、私にカトラスの一撃が直撃した。
斬られた私はというと、特に痛みを感じない。
カトラスは私の身体に当たると、そのまま根元からボッキリと折れてしまった。
あの少女から貰った服も、傷一つついていないようで安心した。
「い!? なんだこいつ! 刃物が通らねえぞ!」
この世界に来てから、私は“強力ウルトラスーパーデラックス錠”を服用している。
これは一日一錠飲むことで、誰でもウルトラスーパーデラックスマンになれるというものだ。
ウルトラスーパーデラックスマンはスーパーマンより強い、らしい。
スーパーマンは良く知らないが、核爆弾を食らっても死なないらしいので、初期のネウロぐらいの強さはあると見た。
今の私は空を自力で飛び、鉄パイプを素手で曲げることが出来る。
「やあ!」
「ぎゃあ!」
この世界に超人は多かれど。
その多くがスーパーマンより強い、ということは無いらしい。
目の前の彼らも強いは強いのであろうが、ミスターサタンぐらいの強さでしかないのだろう。
「か、勝てるか! こんな化け物の相手なんぞできるか!」
「に、逃げるぞ!」
私の元から、海賊たちが逃げていく。
数こそ多いが、元より彼らは雑兵なのだろう。
傭兵と一緒で、勝てないと分かるとすぐに逃げる。
しかし、化け物と呼ばれたのはちょっとショックである。
「助太刀が必要ですか?」
道が開けたので、船長とボニーの元に向かう。
二人は海賊の船長らしき人と斬り合っている。
それなりに二人も使い手であろうが、それを海賊はいなしているようだ。
「あ、ああ。頼む」
「お前さん、生きていたのか」
二人が海賊から距離を取り、私の方を見て驚いた。
恐らく、私が戦えるとは思っていなかったのだろう。
私もこうして戦うのは初めてなので、あながちその推論も的外れではないのだろうが。
「女。俺の部下に何しやがった? 何者だ?」
何者か。
ただの人、というのは簡単だが。
それは、あまり適切ではないだろう。
―私は、化け物だ。
「名乗る程のものではありませんが。私の名前はタカオ。不束ですが、この世界で最強を目指す者です」
**
海賊の船長を一撃でのした後、私は誰もいない場所で引きこもっていた。
海賊たちは逃げ、他の場所では残った船員が殺された船員たちの死体を処理している。
死体は海で水葬、流れた血はブラシで流しおとされる。
そうした光景に、私は強い嫌悪感を覚えたのだ。
「まったく、お嬢ちゃんは本当に素人みてーだな。戦うってのはつまり、こういうことだってのによ」
ボニーが私の元に訪れる。
彼は何かを恐れているようだが、私には何に恐れているかは分からない。
その手には私が渡したビール瓶を持っていて、小刻みに震えている。
「でも、お嬢ちゃんの御蔭で勝てた。その点は礼を言わないとな」
恐らくは、この船の人たちもこんな商売をやっているくらいには強いのだろう。
それでも800万ベリーの犯罪者には勝てないのだろう。
そういった意味では、彼らは幸運であったと言える。
「それは一市民として、当然のことをしたまでです。それと、あの海賊はどうなるのですか?」
「あれは嬢ちゃんの手柄だ。嬢ちゃんが持って行けよ。次の街には海軍が居るしな」
彼らは、海賊だ。
恐らく海軍の手でどこかに収容された後に、見せしめのために殺されるのだろう。
私が殺すようなものだ。
犯罪者とはいえ、あまり気分の良い話ではない。
私がいなかったら、とさえ思える。
「どうだ、俺たちの船で用心棒をするってのは」
「いえ、それは」
「分かっているよ。最強になりたいんだろ?」
こんなんで、私は最強を目指すことができるのだろうか?
正直、今すぐにでも辞めたい気分である。
「嬢ちゃんならできるかもな。向いてるとは思えないが」
「そうですね」
しかし、私に辞めるという選択肢はないのだが。
あの少女に逆らうのが怖い、というのも若干あるが。
辞めたとして、そうした後にどうすればいいのか。
それが分からない。
そのことが、どうしても怖かった。
「できれば、そのまま海軍にでも入ってくれ。間違っても、海賊になんぞなるんじゃねーぞ?」
「それは、考えておきます」
**
それからというものの、私は
一回お金を手に入れさえすれば、ひみつ道具で無限に増やすことができるのだが。
異世界に来て無職であるのも嫌なので、当分は賞金稼ぎとして活動することにしたのだ。
溜まったお金は適当な団体に寄付したり、この世界でしか手に入らないような珍しいものを買ったりしている。
「お、『鉄腕』か。今日も海賊を捕まえてきたのか」
「ええ」
この人は、海軍本部の大佐らしい。
名前は覚えていないが、毎日のように顔を合わせているので、すっかり顔なじみになっている。
私はポケットから“4次元ペットボトル”を取りだし、大佐に差し出した。
中には人が閉じ込められており、ぐたっと伸びている。
「こいつは?」
「さあ?」
「さあ、って。おいおい。もし、海賊じゃなかったらどうするんだ?」
「賞金首かどうかの確認はしているので。問題はないはずです」
これは本当だ。
手違いという可能性も考えられるので、“○×うらない”を使って襲う前に判別している。
海軍さんたちが分厚いビンゴブックを持って、中に居る男を識別している。
「“雲隠れ”のロバーツ。2億ベリーか。大物だな」
「クモクモの実を食べた雲人間だそうです」
「
こうして、悪魔の実の能力者とかち合うことも度々であるが。
今の所、特に問題なく倒してきている。
能力者、といっても大半は自らの力に酔ったものが多いので、楽に倒せることが多い。
逆に、無能力者の方が己を鍛えているだけ手ごわいと感じるような気がする。
まあ今の所、どっちも誤差の範囲内なのだが。
「よくやってくれた。賞金はどうするか?」
「いつもの銀行にお願いします」
二億ベリーともなると、直接受け取りは何かと面倒だ。
相手側もそうなので、素直に銀行で受け取ることにする。
「でだ。せっかく来たんだし、コーヒーでもどうだ?」
「私はコーヒーを飲めないので。紅茶をお願いします」
「分かった。紅茶だな」
私はコーヒーが好きだが、嘘は言っていない。
海軍のコーヒーは物凄く不味く、砂糖やミルクを入れてもとても飲めたものではない。
だから、それは飲めないと言っただけである。
そうして私は応接間の席に座って、ゆっくりと紅茶を楽しむ。
私には味も香りもわからないが、なんとなく良い紅茶を使っているような気がする。
砂糖とミルクという贅沢品も惜しみなく使わせてもらっているが、やはり素材が良いと味も違うのだろうか。
こうした待遇を受けているように、私の世間での扱いはそう悪くない。
やはり億越えの賞金首を狩れる人間は一握りであるからだろう。
現に海軍やバロックワークスなどの団体からスカウトを受けている。
ここに引き留められているのも、そうした活動の一環だろう。
と、応接間の扉が開き、大佐と共に背の高い人間が入ってくる。
その人物は黄色のスーツにサル顔というインパクトで、私をぎょっとさせた。
「へぇ~。キミが『鉄腕』か~。人は見た目に依らないものだね~」
海軍最大戦力の一角、大将黄猿ことボルサリーノ。
とんだ大物が出てきたものだ。