Paranoia Agent   作:倉木学人

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星より先に見つけてあげる その②

 私が最強を目指している以上、“最強とは何か”という問を、嫌でも意識せざるを得ない。

 私は未だ、自分の“最強”を持てないでいるのだから。

 

 ワンパンマンにおけるサイタマの最強は明白だ。

 彼の最強は舞台装置のソレ(神が出てきてなんとかなった)

 問題が起きて、周りが色々した後に絶対神が解決する。

 つまりゴルゴ13と同じである。

 それはきっと、たぶん面白い話だ。

 

 彼は作中で“最強”のトレーニング方法を述べてはいたが。

 恐らく、それで彼と同じになる人は居ない。

 間違いなく、彼以外は“そういう”役割では無いからだ。

 それを聞いたジェノスたちの反応もごもっともであり。

 自己啓発本的な最強に至る方法など、アイスのミント程の価値しか感じられない。

 

 私は型月の魔術師たちのように、人は生まれながらにして役割が決まっているというのを強く信じている。

 酷い話だが、結局どこもそんなものだろうから。

 私もホームレス帝のように、ただ力を得た “だけ”の人なのだ。

 サイタマ基準で私が怪人ではないのが、少し不思議だとは思うけど。

 

 もしサイタマがヒーローでなく、怪人だったら?

 それはそれで面白いには違いない。

 全力でヒーローは怪人に立ち向かうが、いかなる努力も無意味となって敗北する。

 一般受けはしないだろうが、一定の需要はありそうだ。

 私も、幾つかそういう作品をネットで見た。

 

 ああ、そういえば。

 ネットで一般的な主人公“最強”は天才のソレであったと思う。

 追放者だろうが外れスキルだろうが、結局はそこが重要だと見た。

 主人公がやったことは全てが肯定され、常識となるのだ。

 度が過ぎると馬鹿馬鹿しいが、正直に言って一種の理想ではある。

 

 とはいえ、人の身には如何なる最強も身に余る(と、私は思ってるのだが)。

 私が目指せるのは既に人の道から外れた故で、人間ならば現実は厳しい。

 例え創作であっても、ISの篠ノ之束のような例もあるだろう。

 人は戦い続ければ、そのうち何かに屈し、そして死に至る。

 私も多分、結局はそうなるだろう。

 

 それでも何故、人は“最強”を求めたがるのか。

 ワンパンマンでも、最強の虚しさは描かれていたのに。

 作者の努力も空しく、彼に。

 いや、彼の“力“に憧れる人はあまりに多い。

 

 私も、そうなのだろうか。

 

 

 少し、思想にふけってしまったが。

 一人になると、どうも考えこんでしまう。

 

 この世界には今、あらゆる知的生命体が存在しない状況なのだ。

 私がさっき使ったひみつ道具は、“どくさいスイッチ”。

 好きな存在をこの世界から“いなかったこと”に出来るという、素敵すぎる道具である。

 私はONE PIECE世界で使ったことがあり、その際は一人も残らなかった程だ(勿論、すぐに戻したが)。

 

 “核兵器で他の皆が死んだら、生き残った人間が世界で最も賢くなれる”、みたいなブラックジョークがあったが。

 私もその理論であれば、最強を名乗れるのだろうか。

 全くといって、喜ばしい状況ではないのだが。

 異界の最終戦士か何かだろうか?

 

 サイタマなら耐えられるかも、と思って使ったが。

 彼は耐えられなかったのか。

 

 最強を目指すなら、即死攻撃辺りはクリアしないといけない問題だと思ったのだけど。

 私も、格ゲーの範囲で妥協した方が良いのだろうか。

 即死が常識とかは、RPGとかハッキングの領域のような気もするのだが。

 

 そんなことを思っていると、何もない空間からパンチが飛び出てきた。

 星が揺れ、まさに空間をぶち破ったかのような。

 

 そうか。

 耐えたのか。

 

「お前、何かしたの?」

 

 彼はFF外から失礼するゾー、的な感じで世界に乗り込んできた。

 誰もいなくなったこの街を不思議に思っているようだ。

 

「私が、私と貴方以外の存在を。この世から抹消しました」

 

 そう言うが、彼はあんまり驚いている様子はない。

 多分、状況を今一理解していないようだ。

 彼は久しく強敵に会っていないらしいので、このあたりの理解力は低くなっているのかも。

 

「安心してください。私なら元に戻せますので」

「じゃあ、今戻せよ」

 

 ご、ごもっともである。

 

「ですから、私と戦って勝ったら戻しますんで」

「いや、今戻せよ。人がいないと、俺が困るだろ」

「その、本当に戦うだけでいいですから。戦ってくださいよ」

「いや、戻せよ。別に戦う理由なんて無いだろ」

「お願いします。神様からの使命なんです。何でもしますから」

「いや、お前。女が何でもとか言っちゃ駄目だろ」

 

 クソァッ!

 人としては正しいけど、少年でない漫画の主人公としてはどうなんだ!

 

「あ。そうだ。“まあまあ棒”~」

「あぶね」

 

 あ、壊しやがった、この野郎!

 関節のパニックの時は戦ってたくせに、何でだ。

 

「うぅ。そんなこと言わないでくださいよぉ。私だって。やりたくないですけど。その。怪人になっちゃうかもしれませんし」

「それは困るな」

 

 しょうがねぇなあ、という感じで準備体操をし始めた。

 何が彼の琴線に触れたか知らないが、これで良し?

 

「ルールは、そうですね。私が“参った“と言うまででいいですかね」

「それ。大丈夫なのか?」

「私は何しても、死んでも復活するんで。お互い、うっかり殺しても大丈夫ですよ。時間とかも戻せるんで、被害を気にすることなく。好きなだけ暴れてもらって構いません」

「へー」

 

 そうやって、ようやく互いにやる気になったようある。

 何故か、こういうやり取りは心躍る。

 殺し愛、というのは実に良い響きだ。

 別に、愛はここに無いかもしれないが。

 

「では、始めましょう」

「じゃあ。必殺“マジシリーズ”」

 

 彼は、適当な構え(六式を学んだ私には、武術の心得があると思えない)をすると。

 次の瞬間、彼の姿が消えた。

 高速移動により後ろに回り込んだ、と理解できたが。

 今の私だと、もう遅いか。

 

「“マジ殴り”」

 

 野蛮極まるが合理的な喧嘩殺法の、あらゆる敵を粉砕してきた拳が唸る。

 しかし、当たる直前に私の身体が硬質ウレタン製の模型と入れ替わり。

 模型が身代わりとなって砕け散った。

 忍者気分でこの技を開発したのはいいけど、目前で自分そっくりの像が砕け散るのは流石に気分が悪い。

 

「“八丁刀・虎殺七念仏”」

 

 瞬間的に出力を上げ、隙だらけのサイタマを一刀両断した。

 手ごたえは、ない?

 いや、ひみつ道具が負けるはずはない。

 

「っ! 多分、強がりですね!」

「必殺“マジシリーズ”。“マジ―?」

 

 その殴り動作を行う瞬間、サイタマの身体が上下二つに泣き分かれた。

 そのまま勢いで、普通なら死んでしまうと思われる。

 そう、普通なら。

 

「“マジ我慢!“」

 

 と、思いきや。

 何とか、身体をくっつけた。

 手で押さえて。

 

「いや。そのりくつは、おかしい」

 

 やってることは分かる。

 多分、ひみつ道具の切れ味が凄すぎて、そのままくっつくのだとは多分思う。

 しかし気合でなんとかされるのは、すごくショックだ。

 そうは思うが、身体は自然と動き。

 次の動さに身体は移る。

 

「おいで! “ツキマーの舞踏“」

 

 ポケットから、幾つもの武器を取り出してばら撒く。

 勿論全部ひみつ道具製で、当たれば“気絶”や“記憶消去”などの効果が発揮される。

 中には変化球もあり、こっそりと“透明術の透明本”などを鈍器として加えている。

 宙に浮いたそれらは、私が触ってないのに勝手に“宙を舞い、踊りだした”。

 ちゅんちゅん丸も追加で躍らせ、それらはサイタマを切り刻むように不可思議な軌道を描く。

 

「必殺“マジシリーズ”。”マジ投げ”」

 

 サイタマはそれらをつかみ取り、こちらに投げてきた。

 当然私は当たるわけにはいかないので躱したが。

 それらは明後日の方向へと飛んでいく。

 呪い付きの装備も混ぜていたのだが、それらは見切られた上に壊された。

 “さいみんメガホン“で、”壊れない“はずなのに。

 

 あ、やば。

 そういえば破壊対策はしたけど、回収対策を忘れてた。

 でも、今は後ででいい。

 

「最初は―」

「必殺マジシリーズ」

 

 二人同時に、同じ構えをとる。

 

「“グー”だ!」

「“マジマジ殴り”」

 

 鍔迫り合いの衝撃で、私のあいこグローブが砕け散った。

 それなら良い、実に良い。

 ここからは私の全力だ。

 

「“天獄殺『ゆっくりしね』”!」

「お?」

 

 私が、“ウルトラストップウォッチ“で時を止めた。

 しかし、さも当然かのように時を止めた世界に入門してくるサイタマ。

 

 まさか。

 この人は戦いの中で、さらに成長している?

 

「“無敵要塞”、発動!」

 

 艦これやアズレンで言う所の、艤装を展開する。

 艤装は“無敵砲台”を元に作っており、私と合成してある。

 つまり、この時点で私は“触れること”さえもできなくなった。

 

 そのまま牽制代わりに幾つか砲弾を発射するが、当然のように通用しない。

 街並みはどんどん破壊されるが、サイタマ自身は傷つかない(私の攻撃では本来傷つくが、服は破れない)。

 そこで私は、サイドチェストのポーズをとる。

 

「“メンズ・ビーム”」

 

 艤装へ超急速にエネルギーが溜まり、ドヒュッと私の腰ほどのレーザーが発射される。

 レーザーが地面を抉り、サイタマを彼方へと吹き飛ばさんとするが。

 

 彼は当たる直前に地面を蹴ることで、吹き飛ぶことを回避した。

 極小ダメージを数十万回に渡って与える攻撃だが、やはり通用しない。

 

 おかしい。

 彼の攻撃が、明らかに緩い。

 

 多分、気のせいではない。

 彼の眼には情け容赦無しということが伝わってくる。

 私は死なないはずなのに、私の身体に埋め込んだひみつ道具たちが警告を発している。

 

「“永久機関・少女密室(えいえんのめいやく) “」

 

 辺りが私の発した光で包むと、辺りの景色が一変した。

 昼だった時間は夜に。

 雨は曇りに。

 そして、その中でサイタマは磔にされている。

 周りには刀を持った無数の私が取り囲んでいる。

 

 が、その光景は突如として消え去って、元に戻った。

 サイタマの口から、血が流れている。

 舌を噛むことで、幻術を回避したと見た。

 

 今のは全感覚を奪う技だったのだが。

 幻覚の類は、一応効くのか?

 決定打にはなってないが、ようやく初ダメージか。

 

「“しねしね光線”」

「必殺“マジシリーズ”。”マジ生きる”!」

 

 自殺を誘発するサプリミナル効果の光線を放つが。

 しかし、またも精神論で突破された。

 なんでこのひと、肉体を精神でカバーできるのか。

 

 サイタマが防戦一方のようだが、これは仕方ない。

 力であれば、私が最強なのだから。

 だが、ピンチなのは私の方だ。

 命中はするが、決定打が無い。

 消耗戦なら無尽蔵の私は勝てるだろうが、とてもそうなるとは思えない。

 これまで私が戦ってきた経験は、そう告げている。

 

 格下に圧倒的な強さを誇っているサイタマであるが、本来の彼は違うとみた。

 まだハゲてなかった頃の彼が特にそうだったが、元々は格上との戦闘が得意なのだ。

 

 深海王戦やキングとの描写を見るに、彼を“倒せる”のは怪人やヒーローでなく。

 もしかしたら、単なる一般市民なのかもしれない。

 私のような格上だと、かえって彼の心に火をつけることになるようだ。

 

 故に、あれは勝利を捨てている眼ではない。

 何か、勝ち筋があるのか?

 世界を背負っている彼であるが、それ以上の強さを持つ私なのに。

 であれば、アレしかない。

 それは全力で止めなければならない。

 

「"思考停止"! もう誰も、止められません!」

 

 白ひげでの二の舞はもう御免なのだ。

 人間性での敗北は、もう感じたくない。

 

「1/144コサック、発艦!」

 

 私の太腿のあたりから、ロシア最大の輸送機の、そのミニチュアが次々と発艦する。

 それは様々な方向へと散らばるが、一つとしてサイタマには向かわない。

 彼はそれをじっと警戒していたが。

 飛行機から落下しているものを見て、やや呆れたような顔を見せた。

 

「おいおい、マジかよ」

「男ならこういうの。好きですよね? 私も一度はやってみたかったんですよ」

 

 世界中にばら撒かれるのは、最強の爆弾である“ツァーリ・ボンバ”。

 ドラえもんの中でも明らかに駄目なひみつ道具である、“原子爆弾”に手を加えたものだ。

 一応ギャグの域は出ないが、威力やら放射線やらだけは“本物”である。

 

 停止している時間の中で、全てが爆風でつつまれ、地球が大きく揺らいだ。

 しかし当然、サイタマも私も生きている。

 サイタマは月に避難したようだが、それを狙った。

 大きく行動と時間を割くその時を。

 

「やっべ」

 

 私はカービィのように、大きく全てを吸い込む。

 これが私の一つの答え。

 願望成立系の道具をいじっていたら偶然見つけた技である。

 私の考える限りの、最強の技の発動だ。

 

「“問題・無の修得“!」

 

 この技が発動すると、私が必ず勝つことが決まる。

 私の考える限りの、文字通りの必勝技なのだ。

 私はこの時、勝利を確信したのだ。

 

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