ある蜘蛛のお話 作:蛟ㅤ
~宴会 当日~
『カイ』
「なんだ?エニシ?」
『シタガ、サワガシイ』
「ああ、今日はな、村で宴会をやってるんだよ」
『エンカイ』
「宴会っていうのはな、たくさんの人が集まって食べ物を食べたり、歌ったり、踊ったりするんだ。今やってるのは、金持ちのおっさんが開いてるみたいでな、村のみんなに振る舞ってるんだとさ。太っ腹な話だよな」
『カイハ、エンカイ、イカナイ』
「おれは騒がしいのが苦手だから、ここでエニシと一緒にいるほうが性に合ってるんだよ」
『ショウニ、アッテル』
「えーっと、エニシと一緒にいるほうが好きって意味だよ」
『……エニシモ、カイト、イッショ、スキ』
「ははっ、ありがとな、エニシ」
──グギュゥゥ~…
『…カイ、イマノオト、ナンダ』
「ぁー、……小腹が空いた音、だな」
『コバラ』
「……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけお腹が空いたって意味だ」
『……カイ、コレ、タベロ』
「いいんだよ、それはエニシのために持ってきたんだから、それに、食べてないと消えちゃうんだろ?それは嫌だからな」
『……カイ、アリガトウ』
「気にすんなよ、友達だろ」
「エニシ!」
『カイ、ボロボロ、ドウシタ』
「村の奴らがお前のことを殺そうとしてる!夜が明けたら山狩りをするって、みんなが話してる!」
『ドウシテ』
「エニシが金持ちの息子を殺したって、悪神だから殺そうって……」
『エニシ、ヤッテナイ、ニンゲン、コロシテナイ』
「だよな、わかってる。エニシはそんなことしないよな、……でも、もう山狩りは止められないんだ!だから、一緒に遠くに逃げよう!」
『……イイノカ』
「なにがだ?」
『カイ、カゾクイル、イッテタ、エニシジャナイ、トモダチイル、イッテタ』
「あんな奴ら家族でも友達でも何でもない!おれが、エニシはそんなことしないって、エニシは悪くないって言っても誰も信じなかった!家族も友達も、村のみんなだって、化け蜘蛛のことなんて信じられない、殺すべきだって、聞いちゃくれなかった!だから、いいんだ……、エニシ、一緒に逃げよう」
『……カイハ、ソレデ、イイノカ』
「いいに決まってるだろ。それに、友達はずっと一緒にいるもんだって言ったじゃないか」
『……ウン』
それから一人と一匹は、山を離れて、遠くへ遠くへ、誰も知らない場所を求めて歩き続けました。
谷を越えて、河を渡り、人の手の入っていない、草木の生い茂る美しい森にたどり着きました。
「ここまでくればもう大丈夫かな、人の気配もしないし、エニシを悪く思うやつも出てこないだろ」
『……カイ、アシ、ワルイ』
「そうだなぁ、もう動かすのも難しいな、今までどうりに食べ物も取ってこれないし……」
『……カイ、エニシ、タベモノ、トッテクル』
「えっ?……大丈夫なのか?」
『……ワカラナイ、デモ、トッテクル』
「そっか、じゃあ、頼りにしてるぞ。エニシ」
『マカセロ』
『トッテキタ』
「おぉ!大物じゃないか!どうやったんだ?」
『キノウエカラ、イトデ、シメアゲタ』
「へぇー、エニシ、スゴイじゃないか!」
『エニシ、スゴイ、ホメロ』
「あぁ、おれの自慢の友達だよ!」
『ジマン…………、カイ、ハヤク、タベヨウ』
「なんだよ、照れてるのか?」
『テレテナイ、ハヤク』
「はいはい」
『カイ、タベモノ、トッテキタ』
「…………」
『カイ』
「……あっ、あぁ、戻ってきてたのか、エニシ、スマン、ちょっとぼーっとしてた」
『……カイ、エニシミタイ』
「……そう、だな。エニシの色とそっくりで、お揃いだな」
『カイ、カラダ、ワルイ』
「……大丈夫だよ、食べ物食べてればそのうち治るさ」
『……ソウカ、タベモノ、タクサン、タベロ』
「ははっ、たくさん食べたらエニシの分が無くなっちゃうだろ、おれは少しでいいよ」
『ダイジョウブ、マタ、トッテクル』
「……そっか、じゃあいただくよ。……いつもありがとうな、エニシ」
『キニスルナ、トモダチ、タスケアウ』
「そう、だよな、友達だもんな」
『カイ』
「…………」
『カイ』
「…………ん、…どうしたんだ、…エニシ」
『……カイ、カラダ、ドウスレバ、ナオル』
「……大丈夫だよ、…もう少し…休んでれば、…すぐに…治る」
『カイ』
「…………クスリが…あれば、……治ったかも──」
『クスリ、トッテクル、カイ、マッテロ』
「……おい。…エニシ、…話を」
『カイ、クスリ、トッテキタ、ツカエ』
「…………」
『ドウシタ、ハヤク、ツカエ』
「…………ありがとうな、…エニシ、…でも、…このクスリは、……使えないんだ」
『ドウシテ、クスリ、アレバ、ナオル、イッテタ』
「…………お前、…最後まで…話を聞かずに…行ったから」
『カイ、タスケタイ』
「…………そっか、…おれのために…とってきて…くれたんだよな。」
『ハヤク、ツカッテ、カラダ、ナオセ』
「…………エニシ、…このクスリ…どこから…持ってきた?」
『ニンゲンノ、スミカ』
「…………そう…だよな、…じゃあ、…エニシは…クスリの代わりに、…何か…置いてきたか?」
『……オイテナイ』
「…………それは、…ダメなこと…なんだ。…一方的に…物をもらうことは、…奪うって…いって。…悪いこと…なんだ」
『……デモ、カイ、タスケタイ』
「…………エニシ、…ごめんな。…言い忘れてた。…友達は…片方が…悪いことを…したら…もう片方が…止めなきゃ…いけないんだ。……だから、…このクスリを…使ったら…友達じゃ…なくなっちゃうんだ」
『…………』
「…………だから、…このクスリは…返して…くるんだ」
『…………ワカッタ』
『カイ、クスリ、ツカエ』
「…………だから、…悪いこと──」
『アカイイト、タクサン、タクサン、オイテキタ』
「…………」
『ダカラ、オネガイ、ツカッテ』
「…………」
『……カイ』
「…………そっか、…ありがとうな、…エニシ…クスリを…飲むから…体を…起こすの…手伝って…くれるか」
『ワカッタ』
「…………そんなに…急がなくても、…ゆっくりで…いいぞ」
『ハヤク、カラダ、ナオセ』
「…………わかったよ」
サラサラ、ゴクッ
「ゴホッ、ゴホッ!」
『カイ、ドウシタ、ダイジョウブ』
「…………あぁ、…大丈夫だよ。…クスリってのは…こうなるもんなんだ」
『カラダ、ナオッタ』
「…………あぁ、…エニシのおかげで、…すぐに元気になりそうだよ」
『ヨカッタ』
「…………なぁ、…エニシ、…おれがいなくなっても、…お前は…生きていけるか?」
『……ナンデ、ソンナコト、イウ、トモダチ、ズット、イッショ、ウソ』
「…………なにいってるんだ、…おれとエニシは…赤い糸で…結ばれてるんだろ?…だから、…ずっと一緒だ。…お前が…結んでくれたんだろ?…それとも…嘘だったのか?」
『……エニシ、ウソ、ツカナイ』
「…………ほら、…大丈夫だろ?…それで、…おれがいなくなっても、…お前は…生きていけるか?」
『……ダイジョウブ、エニシ、タベモノ、トレル、イキテイケル』
「…………そうだよな、…エニシは…スゴいもんな」
『ソウ、エニシ、スゴイ、ダイジョウブ』
「…………なぁエニシ、…おれたちが…山で出会ってから…いろんな事が…あったよな」
『…………』
「…………辛いこともあったし、…酷い目にあったことも…あるけど」
『…………』
「…………楽しかった。…お前と…仲良くなるのが…嬉しかった」
『……ウン』
「…………なぁ、…エニシ、……おれと……友達に……なってくれて……ありがとうな。……おれは、……おれは…幸せだったよ」
『……カイ、…エニシモ、エニシモ、トモダチニ──』
「────」
『……カイ』
『……カイ、…ヘンジ、シテ』
『………………カイ』
『……………………………カイ』
『……カイ、ゴメン、エニシ、ウソ、ツイタ』
──あるところに一匹の蜘蛛がいました。その蜘蛛はとても心優しい蜘蛛で、動けない友人のために食べ物をとってきては、毎日毎日看病をしていました。しかし、時間が経つにつれて、友人の体は治るどころか悪化していったのです。それからまもなくして友人は死んでしまいました。ですが、その顔はとても安らかで、幸福に満ち溢れていたそうです。
友人が死んでから、蜘蛛はだんだんと小さくなっていきました。蜘蛛はそれに気づきましたが、友人のそばを離れず、自身が消えるその時まで、一緒にいたそうです。
──これは、ある森のお話。その森の一角には、奥が見通せないほどに、赤い糸のようなものが壁状に張り巡らされていて、獣はおろか、人間も立ち入ることが出来ませんでした。その壁は刃物でも切れず、炎でも燃えず、まるで外から来るものを拒むように、中にあるナニカを守るように、その森の不思議として、語り継がれていきましたとさ。
──カイ アリガトウ トモダチ ズット イッショ
最初にクスリを持ってきた時にカイが使わなかったのは、またエニシが人間に悪い存在だと認識されるのを避けたためです。
カイが エニシが生きていけるかの心配をした時、エニシはカイが死ぬのを察して、大丈夫、生きていける、と、カイが心配しないように、カイを安心させるようにいいましたが、エニシが洞窟から出てきてカイと出会ってから小さくならなかったのは、カイから食べ物をもらっているおかげではなく、カイに縁結びの神ではなく、ひとつの生き物として認識されていたからです。
エニシ自身、そのことに気づいていなかったから『大丈夫だよ、生きていけるよ』という意味合いの言葉を言いました。
エニシが初めてついた、最初で最後の、優しい嘘でした。