ありふれた職業の世界最強と歩む機凱少女   作:エルナ

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今回少し長めです。


あと原作ヒロインのユエが登場します。


第9話

時々、消耗品補充の為に拠点で錬成する以外、エクスとハジメは常に動き続けた。広大な迷宮内を休みながらの探索では何時までかかるかわからない。“夜目”の御蔭で暗闇は心配なくなった上、“気配感知”により半径十メートル以内なら魔物を感知できる。エクスはそれ以上の範囲を探知出来る。2人の探索は急ピッチで進められた。

 

 

そして、遂に階下への階段を見つける。2人は躊躇いなく踏み込んだ。

 

 

その階層は、地面が何処もかしこもタールのように粘着く泥沼のような場所だった。足を取られるので凄まじく動きにくい。

 

 

「チッ、動きづらいな。しょうがない、足場や“空力”を使うか」

 

 

「【開示】当機、飛べるよ?」

 

 

そう言いながらエクスは鉄の翼を典開する。

 

 

それを見たハジメは顔を引攣らせつつ、

 

 

「……お前、デタラメだな」

 

 

そうして、ハジメはエクスに抱えられながら探索を開始した。

 

 

背中に当たる、機械なのに柔らかい2つのものを極力無視しつつ、周囲の鉱物を“鉱物系感知”の技能で調べながら進んでいると、途中興味深い鉱石を発見した。

 

 

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フラム鉱石

艶のある黒い鉱石。熱を加えると融解しタール状になる。融解温度は摂氏50度ほどで、タール状のときに摂氏100度で発火する。その熱は摂氏3000度に達する。燃焼時間はタール量による。

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「……うそん」

 

 

ハジメは引き攣った笑みを浮かべ下のタール状の半液体を見下ろした。

 

 

「【質問】どうかした?」

 

 

ハジメの呟きを聞いたエクスが問う。

 

 

「この下の液体、100度で発火して3000度の熱を発するみたいだ。火気厳禁だなこりゃ」

 

 

「【開示】当機は問題ない。機凱種(エクスマキナ)には防水防塵防凍防火防弾防爆防魔防精霊——」

 

 

「お前は大丈夫でも俺は駄目なの!」

 

 

エクスの言葉を切り、ハジメが叫ぶ。

 

 

「……というかお前本当にデタラメ過ぎないか?」

 

 

「【解答】機凱種(エクスマキナ)は元の世界では全種族で中間程の力」

 

 

「……これで中間ってどんな世界だよ……」

 

 

「【解答】神々が永遠にも等しい時間、戦争をし続けている世界」

 

 

「……なんじゃそりゃ」

 

 

ハジメは呆れ顔で呟く。

 

 

「とにかく、絶対に火気厳禁だからな」

 

 

「【了承】」

 

 

そんな会話をしながら2人は探索を続ける。

 

 

途中、“気配探知”に引っかからないサメが出たが、エクスの観測装置にはしっかりと引っかかり、エクスの支援を受けつつハジメが倒した。

 

 

そして、階下への階段を発見した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

タールザメのいた階層から既に50階層は下っている。

 

 

その間に強力な魔物(笑)が居たが機凱種(動く理不尽)の援護を受けたハジメに敵わなかった。

 

 

例えば迷宮全体が薄い毒霧に覆われた階層では、毒の痰を吐く2mで虹色のカエル、麻痺の鱗粉を撒き散らす見た目モ○ラの蛾に襲われた。常に神水を服用してその恩恵に預からなければ、ただ探索しているだけで死んでいたはずだ。

 

 

それでも苦戦はするはずだったがエクスによって苦戦も殆ど無かった。

 

 

唯一カエルの毒をくらったときは直接神経を侵され、一番最初に魔物の肉を喰った時に近い激痛をハジメにもたらした。

 

 

慌てたエクスが文字通り瞬殺したのち神水を飲ませてくれた。もしもの為に奥歯に神水を仕込んでおいたので問題はなかったのだが、普段無表情のエクスが慌てる様は少し愉快であった。

 

 

大慌てになるくらい自分を大切に思ってくれてるのかと思うと豹変したハジメも少し嬉しかった。

 

 

因みに食糧としての味は蛾が上であったことがハジメは少し悔しかった。

 

 

また、地下迷宮なのに密林のような階層に出たこともあった。物凄く蒸し暑く鬱蒼としていて今までで一番不快な場所だった。この階層の魔物は巨大なムカデと樹だ。

 

 

ムカデは体の節ごとに分離して襲ってきたのだ。一匹いれば三十匹はいると思えという黒い台所のGのような魔物だった。

 

 

樹の魔物はRPGで言うところのトレントに酷似していた。木の根を地中に潜らせ突いてきたり、弦を鞭のようにしならせて襲ってきたり。さらにこの魔物、ピンチなると頭部をわっさわっさと振り赤い果物を投げつけてくるのだ。これには全く攻撃力はなく、ハジメは試しに食べてみたのだが、直後、数十分以上硬直した。毒の類ではない。めちゃくちゃ美味かったのだ。スイカのような味だった。

 

 

なお、この後、トレントモドキの果実の味をしめたハジメが迷宮探索すら忘れて狩りまくったのが原因で滅びかけた。

 

 

そんな感じで階層を突き進み、気がつけば五十層。未だ終わりが見える気配はない。ちなみに、現在のハジメのステータスはこうである。

 

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:49

天職:錬成師

筋力:880

体力:970

耐性:860

敏捷:1040

魔力:760

魔耐:760

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

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ハジメは、この五十層で作った拠点にて銃技や蹴り技、錬成の鍛錬を積みながら少し足踏みをしていた。というのも、階下への階段は既に発見しているのだが、この五十層には明らかに異質な場所があったのだ。

 

 

それは、何とも不気味な空間だった。

 

 

脇道の突き当りにある空けた場所には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。

 

 

ハジメはその空間に足を踏み入れた瞬間全身に悪寒が走るのを感じ、これはヤバイと一旦引いたのである。もちろん装備を整えるためで避けるつもりは毛頭ない。ようやく現れた“変化”なのだ。調べないわけにはいかない。

 

 

ちなみにエクスは何も感じていない。それを聞いたハジメが内心で「デタラメめ」と呟いた。

 

 

ハジメは期待と嫌な予感を両方同時に感じながら準備を進めていた。

 

 

自分の今持てる武技と武器、そして技能。それらを一つ一つ確認し、コンディションを万全に整えていく。全ての準備を整え、ハジメはゆっくりドンナーを抜いた。

 

 

そして、そっと額に押し当て目を閉じる。覚悟ならとっくに決めている。しかし、重ねることは無駄ではないはずだ。ハジメは、己の内へと潜り願いを口に出して宣誓する。

 

 

「俺は、生き延びて故郷に帰る。日本に、家に……帰る。邪魔するものは敵。敵は……殺す!」

 

 

目を開けたハジメの口元にはニヤリと不敵な笑みが浮かんでいた。

 

 

扉の部屋にやってきたハジメは油断なく歩みを進める。特に何事もなく扉の前にまでやって来た。近くで見れば益々、見事な装飾が施されているとわかる。そして、中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれているのがわかった。

 

 

「? わかんねぇな。結構勉強したつもりだが……こんな式見たことねぇぞ。エクスは分かるか?」

 

 

「【解答】不明。該当なし」

 

 

「つまり、分かんないってことか」

 

 

もちろん、お互い全ての学習を終えたわけではないが、それでも、魔法陣の式を全く読み取れないというのは些かおかしい。特にエクスはそこら中から本をパクっていたのだ。

 

 

「相当、古いってことか?」

 

 

「【同意】おそらく」

 

 

2人は推測しながら扉を調べるが特に何かがわかるということもなかった。エクスの解析でもよく分からなかった。

 

「仕方ない、何時も通り錬成で行くか」

 

 

一応、扉に手をかけて押したり引いたりしたがビクともしない。なので、何時もの如く錬成で強制的に道を作る。ハジメは右手を扉に触れさせ錬成を開始した。

 

 

しかし、その途端、

 

 

バチィイ!

 

 

「うわっ!?」

 

 

扉から赤い放電が走りハジメの手を弾き飛ばした。ハジメの手からは煙が吹き上がっている。悪態を吐きながら神水を飲み回復するハジメ。直後に異変が起きた。

 

 

オォォオオオオオオ!!

 

 

突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡ったのだ。

 

 

ハジメはバックステップで扉から距離をとり、腰を落として手をホルスターのすぐ横に触れさせ何時でも抜き撃ち出来るようにスタンバイする。エクスは今回も危険がない限り手は出さない為動かない。

 

 

雄叫びが響く中、遂に声の正体が動き出した。

 

 

「まぁ、ベタと言えばベタだな」

 

 

苦笑いしながら呟くハジメの前で、扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している。

 

 

一つ目巨人の容貌はまるっきりファンタジー常連のサイクロプスだ。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。侵入者を排除しようと2人に視線を向けた。

 

 

その瞬間、

 

 

ドパンッ!

 

 

この迷宮の魔物は哀しいやられ方をする定めなのだろうか。そう思わずにはいられない。

 

 

凄まじい発砲音と共に電磁加速されたタウル鉱石の弾丸が右のサイクロプスのたった一つの目に突き刺さり、そのまま頭を吹き飛ばし、貫通し、後ろの壁を粉砕した。

 

 

左のサイクロプスがキョトンとした様子で隣のサイクロプスを見る。

 

 

「悪いが、空気を読んで待っていてやれるほど出来た敵役じゃあないんだ」

 

 

ハジメがサイクロプス(左)を仕留めようと行動を開始しようとした時後ろのエクスから声がかかった。

 

 

「【質問】余裕そうだから新武装の実験していい?」

 

 

「……そんなもん作ってたのかよ」

 

 

そう言いながら、ハジメは後ろに飛び去る。そして、エクスが敵が目の前にいるにもかかわらず、トコトコと自然体でサイクロプス(左)に向かって歩いて行く。

 

 

仲間のあんまりな死に方に激昂したサイクロプス(左)がエクスに向かって走り出す。

 

 

エクスはそれを真っ直ぐに見据えながら新しい武装を典開した。

 

 

「【典開(レーゼン)】——偽典・電磁砲(レールガンアポクリフェン)

 

 

そして、電磁加速された弾丸が先のサイクロプスのように目に直撃し、頭を粉砕した。

 

 

「……なんで使えんの?」

 

 

それを見ていたハジメはそんな声を上げた。

 

 

なんてことはない。ハジメにレールガンの仕組みを教わりそれを模倣したのだ。設計体(ツアイヘン)ではない為時間はかかったが(それでも数分だが)特に問題なく作れた。

 

 

何故レールガンを模倣したかと言うと、エクスが所有する兵器は火力が高すぎるのだ。なので物理攻撃しか出来なかったので、レールガンを模倣したのだ。

 

 

説明を聞いたハジメが口を開けて固まったのは言うまでもない。

 

 

そして、2人は哀れなるサイクロプスから拳大の魔石を取り出し、扉まで持って行き、それを窪みに合わせてみる。

 

 

ピッタリとはまり込んだ。直後、魔石から赤黒い魔力光が迸り魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。

 

 

ハジメは少し目を瞬かせ、警戒しながら、そっと扉を開いた。

 

 

扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっているようだ。

 

 

中は、ハジメ達か召喚された聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

 

 

その立方体を注視していたハジメは、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。

 

 

近くで確認しようと扉を大きく開け固定しようとする。いざと言う時、ホラー映画のように、入った途端バタンと閉められたら困るからだ。

 

 

しかし、ハジメが扉を開けっ放しで固定する前に、それは動いた。

 

 

「……だれ?」

 

 

掠れた、弱々しい女の子の声だ。ビクリッとしてハジメは慌てて部屋の中央を凝視する。すると、先程の“生えている何か”がユラユラと動き出した。差し込んだ光がその正体を暴く。

 

 

「人……なのか?」

 

 

 “生えていた何か”は人だった。

 

 

上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗いている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでもエクスに匹敵する美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

 

流石に予想外だったハジメは硬直し、紅の瞳の女の子もハジメをジッと見つめていた。やがて、ハジメはゆっくり深呼吸し決然とした表情で告げた。

 

 

「すみません。間違えました」

 

 




機凱種(エクスマキナ)が全種族で中間程って言うのに疑問がある方がいるかもしれませんが異界序列6位(天翼種)以上より弱いのは言わずもがな。しかしそれ以下の種族より強いと思うので中間程だと言いました。


それと、ハジメがエクスが何も感じないと言ったことに「デタラメめ」と呟いたのは機械何に勘があることと、自分が悪寒を感じる程の危険に何も感じないことが理由です。


そして、ここら辺からハジメがエクスに惹かれ始めます。

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