そして、エクスの新しい名前が決定しました!
新しい名前は本編にて。そして、意見を下さった方々誠にありがとうございます!
エクスが扉へ向かって歩き出すと次の瞬間には身体中に付いていた血が消えた。あいもかわらずのデタラメぶりにもはや半眼で見つめるしかないハジメとユエがその後を追い歩き出す。
すると奥にあった大扉が独りでに開いた。
新手か!と警戒し、ハジメとユエは足を止めたが、エクスは気にも止めず歩き続ける。生体反応はなかったがそれが理由ではなく、警戒出来るような精神状態ではなかったためだ。
その様子を見た2人は警戒しつつもエクスの後をついていく。
中へ入った3人は呆然とした。
中には広大な空間に住み心地の良さそうな住居があったのだ。
頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が太陽のように浮いていた。
さらには、注目するのは耳に心地良い水の音。壁の一面が滝になっている場所があった。天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。よく見れば魚も泳いでいる。
川から少し離れたところには何も植えられていない大きな畑もある。その周囲に広がっているのは、家畜小屋だ。動物は流石にいないが、水、魚、肉、野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。
川や畑とは逆方向には岩壁をそのまま加工して住居のようになっていた。
流石のエクスもこの光景には驚いたようだった。
我に帰った3人は住居らしき物の中に入った。
中は3階建てのようだった。
一階にはリビング、台所、トイレ、そしてお風呂があった。
二階には書斎や工房らしき部屋があった。しかし、本棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開けることはできなかった。力づくで開けようとしたエクスを2人が宥め、3階へ上がった。
三階は一部屋しかないようだ。そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。
そして、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。人影は骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。しかし、薄汚れた印象はなかった
その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……
「……怪しい……どうする?」
ユエもこの骸に疑問を抱いたようだ。おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようである。
「まぁ、地上への道を調べるには、この部屋がカギなんだろうしな。俺の錬成も受け付けない書庫と工房の封印……調べるしかないだろう。ユエは待っててくれ。何かあったら頼む。」
「ん……気を付けて」
ハジメはそう言うと、魔法陣へ向けて踏み出す——前にエクスが魔法陣へ踏み出す。未だに無言で不機嫌オーラを発しているエクスが魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。
直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。
やがて光が収まり、黒衣の青年が立っていた。
魔法陣が淡く輝き、部屋を神秘的な光で満たす。
中央に立つエクスの眼前に立つ青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ていた。
「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」
話し始めた彼はオスカー・オルクスというらしい。【オルクス大迷宮】の創造者のようだ。
「ああ、質問は許して欲しい。これは唯の記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」
そうして始まったオスカーの話は、ハジメが聖教教会で教わった歴史やエクスの知識、ユエに聞かされた反逆者の話しとは大きく異なった驚愕すべきものだった。
それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。
神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は“神敵”だから。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。
だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時、“解放者”と呼ばれた集団である。
彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。そのためか“解放者”のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。“解放者”のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。
彼等は、“神界”と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。“解放者”のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。
しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。何と、神は人々を巧みに操り、“解放者”達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした“反逆者”のレッテルを貼られ“解放者”達は討たれていった。
最後まで残ったのは中心の七人だけだった。世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を打つことはできないと判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。
長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。
「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」
そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、エクスの脳裏に何かが侵入してくる。しかしエクスは今それどころではなかった。
「いやぁ、にしても、何かどえらいこと聞いちまったな」
「……うん……どうするの?」
ユエがオスカーの話を聞いてどうするのかと尋ねる。
「うん? 別にどうもしないぞ? 元々、勝手に召喚して戦争しろとかいう神なんて迷惑としか思ってないからな。この世界がどうなろうと知ったことじゃないし。地上に出て帰る方法探して、故郷に帰る。それだけだ。……ユエは気になるのか?」
一昔前のハジメなら何とかしようと奮起したかもしれない。しかし、変心した価値観がオスカーの話を切って捨てた。お前たちの世界のことはお前達の世界の住人が何とかしろと。エクスもあの様子なら似たようなものだろう。しかし、ユエはこの世界の住人だ。故に、彼女が放っておけないというのなら、ハジメも色々考えなければならない。ユエは僅かな躊躇いもなくふるふると首を振った。
「私の居場所はここ……他は知らない」
そう言って、ハジメに寄り添いその手を取る。ギュと握られた手が本心であることを如実に語る。ユエは、過去、自分の国のために己の全てを捧げてきた。それを信頼していた者たちに裏切られ、誰も助けてはくれなかった。ユエにとって、長い幽閉の中で既にこの世界は牢獄だったのだ
その牢獄から救い出してくれたのはハジメだ。だからこそハジメの隣こそがユエの全てなのである。
「……そうかい」
若干、照れくさそうなハジメ。それを誤魔化すためか咳払いを一つ。
「そういえば、さっきの話エクスが前に言っていた話と似てたな。確か、神々が永遠にも等しい時間、戦争し続けている世界だったか?……エクス?」
そこでようやくハジメ達はエクスの様子がおかしいことに気がついた。
胸に手を当て、小刻みに震えている。俯いた顔からはよく見ると涙が滴り落ちている。その様子はヒュドラの黒頭がユエに精神攻撃をした時のユエのようであった。
「おい!エクス!大丈夫か⁉︎」
もしや、あの話は罠だったのだろうか、と考えるハジメだったが、エクスは首を横に振る。
そう、ハジメの言う通りあの話はエクスのいた世界に似ていた——というより大まかな流れはほぼ同じだった。
違いは神々が直接戦争に加わっていないことと神々の手駒が弱いこと、“解放者”達が失敗したことだろうか。
エクスがいた世界は神々が全ての神々と精霊を統べる『唯一神』という主神制定の戦争を行なっていたのだ。
その戦争では神々はそれぞれの眷属——種族を造り、他の神々を殺させようとした。眷属達は音速で駆け、空間を渡り、山を消し、大陸を砕く。
戦争は泥沼化。最低でも2万年以上戦争は続き、天は灰燼が覆い星は全球凍結。『霊骸』というほぼ全ての生物の致死の猛毒が塵と灰が混ざり、『黒灰』と化し、降り注ぎ、大地を覆った。
星すら殺さんと続いたこの戦争——大戦を終わらせようとしたのは唯一、神々に造られず、地球と同じように猿から人へと変わった人間。
神々から造られなかった故に魔法を使えず、使われたことに気づくことすら出来ない。強大な身体能力も持たず、特殊な能力も持たず、他の種族から見れば塵芥。他種族の交戦の余波で集落ごと全滅。
その中で徹底的に逃げ隠れし、2人のために1人を殺し、4人のために2人を殺し、逃げ延びる。
しかし、1つの集落の長の少年に1機の
少年は誰も死なせたくなかった。例え人間を殺しまくっている他種族だろうと。しかし、心に鍵をかけ、多のために小を切り捨てていたが、
同じく、人間であるたった177人を率いて。神々——
しかし、最後の詰めで神々の眷属の中でも最悪の種族——
しかし、その遺志を他の
オスカーの話はエクスの不安感を煽るものであった。
もし——もし残った
シュヴィの心が今まで以上に騒ぐ。帰りたい、と。
エクスとて人間達やリクがどうでもいいわけではない。大戦を終わらせようとした彼らを尊敬し、憧れた。
怖い、帰りたい、会いたい。シュヴィの心が騒ぐ。
エクスが震えていると、ハジメがエクスの頰を手を添え、顔を上げさせた。
顔を上げたエクスと目が合うとハジメは気恥ずかしそうに話し出した。
「あ、あのなエクス。俺、結構お前のこと好きなんだぜ」
唐突な告白にエクスは機体温度が上昇するのを感知した。
「クラスメイトに裏切られて1人きりになった俺のところへ来てくれてさ、それからも俺を助けてくれて、嬉しかったというか……だから……その……」
カリカリと頰を掻きながら、照れ臭そうにハジメは言う。
「何に怖がっているかは知らないが、少なくともこの世界にいる間は一緒にいて力になるからさ。泣くなよ。お前が泣いてると俺も悲しいっていうか……」
我ながら何臭いセリフ言ってるんだとガリガリ頭を掻き、話を逸らす。
「あ、後、お前新しい名前が欲しいって言ってたよな。〝エルナ〟ってのはどうだ?お前の目も月っぽいし、〝エクス〟って名前も悪くないと思うしな」
さて、新しい名前を貰ったエクス改めエルナは顔を赤く染めながらフリーズしていた。
喜び恐怖羞恥不安。シュヴィの心とエルナの心がせめぎ合う中、エルナは……
「レ、【
逃亡を……選択した……。
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ハジメから逃げたエルナは現在【海上の町エリセン】の近郊の海の深海で文字通り頭を——いや、全身を冷やしていた。
未だ、シュヴィの心とエルナの心がせめぎ合う中、エルナは先ほどの記憶を『最重要』とタグを付け、大事に保存し、小さく微笑んだ。
はい、というわけでエクスの新しい名前は『エルナ』となりました。えりのるさんありがとうございました!
他にアンケートにご参加くださった方々もありがとうございました!
選んだ理由はやっぱり愛着の湧いていたエクスと組み合わせていたからですね。ルナがラテン語でドイツ語じゃないので悩みましたがよく考えたら命名するのはハジメなんだからドイツ語にこだわらなくてよくね?と思い、この名前にしました。
後、途中で挟んだノゲノラの世界の説明はここまで読んでいて知らない人は多くないと思いますがノゲノラを知らない人のための説明です。書いていて思ったのはノゲノラは頭脳戦のアニメなのにそこらのバトルアニメのキャラより強い奴らばかりなのかということですねw
次回はもっと早く出せるように頑張ります!