ありふれた職業の世界最強と歩む機凱少女   作:エルナ

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第3話

ハジメが自分が最弱であることを突きつけられた日から2週間が経った。

 

 

現在、ハジメは訓練の休憩時間を利用してエクスが一角を占拠している国立図書館にて調べ物をしている。

 

 

ハジメはこの2週間の訓練で成長するどころか役立たずぶりがより明らかになっただけだったため、力が無い分、知識と知恵でカバーできないかと訓練の合間に勉強しているのである。

 

 

そんなわけで、ハジメは“北大陸魔物大図鑑”という大きな図鑑を暫く眺めていたのだが……突如、「はぁ〜」と溜息を吐いて図鑑を机の上に放り投げた。ドスンッと重い音が響き、偶然通りかかった司書が物凄い形相でハジメを睨む。

 

 

ビクッとなりつつ、ハジメが急いで謝罪する前に、ハジメの隣に居たエクスが絶対零度の視線を司書に向けると今度は司書がビクッとなり、急いで謝罪した。

 

 

ハジメは理不尽を被った司書に心の中で同情——謝罪をした。

 

 

そして、ハジメは自分の役立たずぶりや無能さ()()()溜息を吐く原因に目を向けた。

 

 

この2週間エクスは文字通りどこにも付いてきた。風呂やハジメの部屋などは全力で拒否したので来ないが、それ以外は食事中、訓練中、今のように勉強中にも付いてきて、こちらをじ、と見つめてくる。

 

 

これによりクラスメイト達(特に男子)の視線が痛い。さらに香織がエクスに突っかかり、エクスがそれを無視する、という一連の流れが日常と化していた。光輝がエクスに注意したこともあったがそれすらも無視していた。

 

 

まぁ〜エクスがどこにもくっついてくるおかげで直接イジメられることはないがエクスのような美少女が近くにいると年頃の男子としては辛い。さらにクラスメイト達の視線も辛い(大事なことなのでry)

 

 

まだハジメが強ければクラスメイト達も納得できたかもしれないがハジメは最弱である。クラスメイト達も何であんな奴が、と思っているに違いない。僕もそれ思ってます、と声を大にして言ってやりたい。

 

 

ハジメのステータスは2週間みっちり訓練して2しか上がっていない。さらに魔法適性もないことがわかり、近接戦闘も魔法も無理。頼みの天職・技能の“錬成”は鉱石の形を変えたりくっつけたり、加工できるだけで役に立たない。

 

 

一応、頑張って落とし穴や出っ張りらしきものは地面に作ることは出来るようになったし、規模も大きくなりつつあるが……対象に直接手で触れなければ効果を発揮出来ない術であるため戦闘で役に立たないことに変わりはない。

 

 

「【注意】訓練の時間が迫っている。遅れるよ?」

 

 

「えっ⁉︎あ、ありがとう」

 

 

急に話しかけられたことに驚きつつ、お礼を言い、図書館を後にしようと立ち上がったところでまたエクスが声をかけてきた。

 

 

「【開示】当機は少し用事がある。先に行ってて。すぐ行く」

 

 

「わ、わかった」

 

来なくていいです、と言いたいところだがぐっと我慢して訓練施設へ向かって行った。

 

 

さて、残ったエクスの用事というのは借りてた本を返すことだ。ほかの街や村から無断で——もしくは無理やり——本を借りてるエクスだがきちんと返してはいる。そのついでに他の本を借りてはいるが……

 

 

しかし最近はハジメを観察していたせいであまり返す時間がなく、少し本が溜まっているのでそれを一気に返すのだ。

 

 

まぁ〜残っている本は5冊だけでその5冊を借りたところが少し面倒なところなので放置していただけなのだが……。

 

 

その5冊を借りたところはまず【ハルツィナ樹海】の亜人たちから2冊。彼らは人間から差別を受けているため霧が深かったり、魔物が出たりする樹海に引きこもっているのだが、そんなもの機凱種(デタラメ)には意味がなく、何度か本を借りているのだが、他の街などと比べて抵抗が激しく、面倒なのだ。

 

 

もう3冊を借りたところは【ヘルシャー帝国】、実力至上主義を掲げている国なのだが、ナンパしてきた奴をボコったらそいつがそこそこ強い奴だったらしく、国から勧誘がきて面倒なのだ。

 

 

「【典開(レーゼン)】——偽典・天移(シュラポクリフェン)

 

 

そんなわけで自業自得ではあるが少し憂鬱になりつつまずは【ハルツェナ樹海】に転移した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

さて、場所は変わって訓練施設から少し離れた死角になっている場所。。現在、ハジメは檜山大介率いる小悪党4人組(ハジメ命名)に稽古という名のリンチにあっていた。

 

 

エクスが近くに居たせいでハジメに何も出来ず、鬱憤が溜まっていたようだ、魔法や打撃でハジメを思う存分痛めつける。

 

 

ハジメは子供の頃から人と争う、人に敵意や悪意を持つのが苦手で誰かと喧嘩しそうになった時はいつも自分が我慢していた。誰かと喧嘩するより自分が我慢した方がいいと考えてしまう。だから抵抗しない。

 

 

しかし、そろそろ痛みに耐え難くなってきた頃、突然、怒りに満ちた女の子の声が響いた。

 

 

「何やってるの!」

 

 

その声に「やべっ」という顔をする檜山達。それはそうだろう。その女の子は檜山達が惚れている香織だったのだから。香織だけでなく、香織の親友である八重樫雫(やえがししずく)と光輝、そして光輝の親友である 坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)もいる。

 

 

そこで檜山が弁解をするが、香織はそれを聞かず、蹲るハジメヘ駆け寄る。

 

 

檜山達は光輝達に三者三様の言い募られ、誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。香織の治癒魔法でハジメが徐々に癒されていく。

 

 

「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ」

 

 

苦笑いするハジメに香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

 

 

「いつもあんなことされてたの?それなら私が……」

 

 

何やら怒りの形相で檜山達が立ち去った方を睨む香織を、ハジメは慌てて止める。

 

 

「いやそんないつもってわけじゃないから!大丈夫だから、ホント気にしないで!」

 

 

「でも……」

 

 

「大丈夫。いつもはエクスがいるからさ」

 

 

そう言ってハジメは自分の失態を悟った。何故なら香織の顔が暗くなったからだ。

 

 

「へぇ〜、そういえば今、居ないね。どうしたの」

 

 

笑顔なのにとても怖い顔でそう聞かれ、顔を引きつらせながら答える。

 

 

「え、えっとなんか用事があるらしいですよ?」

 

 

そう答えた直後、エクスが突然現れた。

 

 

「【帰還】今帰ったよ。……?【質問】何かあった?」

 

 

「え、えっと。何もなかったよ」

 

 

何て最悪のタイミングで来るんだと思いながら答える。

 

 

「【解析】嘘を感知。【質問】何があった?」

 

 

何故バレた、と思いつつどう答えるか考える。

 

 

「イジメられてたんだよ。君が居ない間にね」

 

 

考えていると、トゲのある言い方で香織が答える。

 

 

「【理解】今されたということは当機がいない時を狙われた?【解決】当機がずっとハジメの居る【要求】だからハジメそろそろ部屋に入れて?」

 

 

「だ、駄目——」

 

 

「だ、駄目に決まってるでしょ‼︎男の子の部屋に女子が何て……」

 

 

ハジメが答える前に香織が答える。

 

 

「……【解答】当機は機械。見た目だけで性別はない」

 

 

「えっ、えっとそういう問題じゃないの!」

 

 

返答があったことに驚きながら香織はなおも突っかかる。

 

 

「訓練が始まるよ‼︎さぁ行こ!」

 

 

バチバチと火花を散らしながら睨み合う2人にそう言いながらハジメは訓練施設に戻る。それを見て他の者達も訓練施設へ向かう。

 

 

ハジメは訓練施設に向かいながら今日何度目かの溜息を吐いた。本当に前途は多難である。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルドから伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルドは野太い声で告げる。

 

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

 

 そう言って伝えることだけ伝えるとさっさと行ってしまった。ざわざわと喧騒に包まれる生徒達の最後尾でハジメは天を仰ぐ。

 

 

(……本当に前途多難だ)

 

 




エクスの口調が難しい……。

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