「……なぁ。何時間くらい経った?」
闇の中を歩き続けるハジメはエクスに言った。
「【解答】56時間19分48秒」
「もうそんなか〜」
エクスとハジメは真っ暗な階層を進み続けていた。途中、石化させて来るトカゲ(ハジメはバジリスクと呼んでいる)や羽を散弾銃のように飛ばしてくるフクロウなど様々な魔物が現れたが全てエクスとハジメに倒された。ちなみに後半は無双しまくるエクスにハジメが戦闘経験を積みたいと言い、ハジメが殆ど倒した。
階下への階段は未だ見つかっていない。
「……そろそろ拠点を作るか。獲った魔物や鉱石も多くなってきたし」
「【了解】【質問】どこにする?」
「ここ」
そういうとハジメは壁に手を当てる。首を傾げるエクスをよそにハジメは錬成を開始する。特に問題なく壁に穴が空き、奥へと通路ができた。ハジメは連続で錬成し、六畳程の空間を作った。……錬成出来なかったら恥ずかしかったなと思ったのは内緒。
「【理解】そういえばハジメの天職は錬成師だったね」
なるほど、といった表情になったエクスが言う。
それを聞きながら、リュックからバスケットボール大の大きさの青白い鉱石を取り出し壁の窪みに設置する。その下にはしっかり滴る水を受ける容器もセッティングしてある。
「【質問】これは?」
「なんかすごい回復能力がある水を出してくれる石。俺はポーション石って呼んでる」
その石は【神結晶】と呼ばれる歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だったりする。
神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したものだ。直径三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。
その液体を【神水】と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。神代の物語に神水を使って人々を癒すエヒト神の姿が語られているという。
そんなこの2人は知る由も無い為エクスはすぐに興味を失った。エクスの出身の世界でもこんなものは無く、一部の生物ではない種族や他種族に一瞬で殺される人間以外の種族は狂気乱舞する代物ではあるが
「さて、じゃあ、早速メシにしますか」
ハジメは、リュックから容器に入れた(錬成で作成)肉を取り出す。そして“纏雷”でこんがり焼き始めた。本日のメニューは、バジリスクの丸焼きと、羽を散弾銃のように飛ばしてくるフクロウの丸焼きと、六本足の猫の丸焼きである。調味料はない。
「いただきます」
むぐむぐと喰っていると次第に体に痛みが走り始めた。つまり、体が強化されているということだ。だとすると、ここの魔物は爪熊と同等以上の強さを持っているのだろう。確かに、暗闇という環境と固有魔法のコンビネーションは厄介ではあった。もっとも、暗闇をものともしないエクスの観測装置やエクスのデタラメな戦闘能力、更にハジメのドンナーによる射撃が当たれば皆木っ端微塵なので、ハジメ的に実感は湧かなかったが。
ハジメは神水を飲みながら痛みを無視して喰い続ける。幻肢痛から始まり苦痛続きだったハジメはすっかり痛みに強くなっていた。
「【質問】本当に強くなるの?」
「ああ。ほら」
ハジメは自分のステータスプレートを見せる。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:23
天職:錬成師
筋力:450
体力:550
耐性:350
敏捷:550
魔力:500
魔耐:500
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・夜目・気配感知・石化耐性・言語理解
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「【理解】本当だ」
「疑ってたのか?」
「【解答】嘘をついていないことは分かっていたけど信じがたかった」
ハジメはエクスの言葉を聞きながら自分のステータスプレートを見てみた。予想通り大幅に上昇していた。技能欄も三つ増えたようだ。よくよく見ると、確かに先程より遥かに周りが見える。
どうやらこれが“夜目”の効果らしい。奈落の魔物にしてはショボイ気もするが、この階層においてはとんでもないアドバンテージだ。……まぁエクスがいるからいらないかも知らないが。後は、文字通りの技能だろう。惜しいのは、バジリスクの固有能力が何故“耐性”であって“石化”じゃないのか、ということ。「石化の邪眼! とかカッコイイのに……」と、若干ガッカリするハジメだった。
そして、ハジメは消耗品を補充するため錬成を始めた。
弾丸は一発作るのにも途轍もなく集中力を使うのだ。何せ、超精密品である。炸薬の圧縮量もミスは許されない。一発作るのに三十分近く掛かるのだ。自分でもよく作れたものだと思う。人間、生死がかかると凄まじい力を発揮するものだと自分ながらに感心したものだ。
もっとも、手間がかかる分威力は文句なしであるし、錬成の熟練度がメキメキと上昇していくので何の不満もない。
御蔭で、鉱物から不純物を取り除いたり成分ごとに分けたりする技能が簡単に出来るようになったし、逆に融合させるのも容易になった。実際、今のハジメの錬成技術は王国直属の鍛治職人と比べても筆頭レベルにある。
ハジメは黙々と錬成を続ける。まだ、一階層しか降りていないのだ。この奈落が何処まで続いているのか見当もつかない。錬成を終えたら直ぐに探索に乗り出すつもりだ。少しでも早く故郷に帰るためにグズグズしてはいられない。ハジメは奈落の底で神結晶の青白い光に照らされながら始まったばかりの迷宮攻略に決然とした表情をエクスは側からじ〜〜と見つめていた。
「……………………そんなじっと見るのやめてくれね?」
ハジメは文字通り瞬き1つせずに見つめる美少女に顔を引きつらせ言った。
バジリスク戦カットです(汗)いや〜皆様から石化はしないのではと意見をいただき、それで書こうと思ったのですが「あれ?石化しないなら苦戦しないし、書く必要あるか?」と思いカットいたしました。
しかし、よく考えるとこの先の敵全てに苦戦する要素がないんですよね(汗)使徒の〝分解〟やアルヴヘイトやエヒトには少しくらい苦戦するかもしれませんが。
アルトシュとか出した方がいいですかね?ご意見下さい(切実)
あと時間は適当ですw