おかげで今日(3/21)投稿できるかヒヤヒヤものでしたよ。
さて、今回はマイ嫁な戦術人形の物語です。
なかなかクサい内容に仕上がったので大満足です。
これは、私と彼女の物語である。
2061年、鉄血工造製の自律人形が人類に仇なした運命の年。人類と「彼女達」の間に大きな溝を生んだ運命の年。
元々「彼女」は何処にでもいるごく一般的な自律人形給仕の一個体であった。あらゆる家事技能に通じ、執務補助や子守もこなせる「一家に一台」がキャッチコピーの量産モデルのハイエンドである、と言うのは「彼女」の言だ。その頃は「そのようにある事」が当たり前で、言葉通りの「機械のように」過ごしていたそうだ。
しかし、その日常は2061年に終わりを告げた。
あえて名づけるのであれば「対人形恐怖症」。人形を都合の良い機械と考えていた人々にとっては何時自分の手を噛まれるのか分かったものではない。
20世紀の「アパルトヘイト」よろしく、鉄血製でもない人形までもが「人形」である故に排斥され、各地に「人形ゲットー」と呼ばれる地区が乱立した。そして「彼女」も例に漏れず、泣きじゃくる雇用主の息子の悲痛な声を聞きながらゲットーに放り込まれた。
さて、ここで「私」の経歴を軽く紹介したい。私の前職は職業軍人、れっきとした「国軍」所属の精鋭であった。
しかし、作戦遂行中のトラブルが原因で左半身のほとんどを義体に取り換えねばならない怪我を負った。
それを機に後方へ転属、除隊願が受理されるまでは備品管理部隊で新米相手に武勇伝を聞かせていた。
そして2061年、ある会社からスカウトの話が飛び込んだ。第2世代人形の戦闘部隊指揮官、それも民間軍事会社のだ。時期が時期だけに正気とは思えず、暫くの間は返事を保留にしていた。勿論、スカウトの書類は常に懐に入れていたが。
暫くは雑貨屋の店員のアルバイトをしていたが、一番困ったのは義体のメンテナンスだ。軍用のタフが売りの義体なのだが純正部品にこだわりすぎるとただでさえ金がかかる。
いくら傷病手当金やら特殊手当やらが合ってもいつかはスカンピンとなるだろうとこまねいていた時に助け舟を出してくれたのが、在郷軍人で義体仲間のカーチスじいさんだった。
曰く、ゲットー内の市場では質の良い社外品を扱う業者がいるとの事で、そのうちの一つを紹介してもらう事にしたのだ。
「…いらっしゃい、って人間ですか。何か入り用ですか?」
「ミスタ•カーチスの紹介で来た。SNY軍用義肢の社外パーツを見たいんだが」
「カーチスさんですか。あの方には良く贔屓してもらっています」
私が訪れたその店は薄暗く、所狭しと義体や人形用のパーツが並べられていた。それでも店の主人と思しき人形は手際よくパーツの山から探り出し、ショーケースの上に並べ始めた。
「SNYの純正は価格は一流ですが結局は大量生産品、当然品質もピンキリになります。トライアルで使用されている物はその中でも厳正に選ばれた物のみで組まれているらしいですからね。聞いて極楽、見て地獄とは正にこの事かと。メーカーの保証対象外にはなりますが、当店で扱っている社外パーツは性能面においてはトライアル品に引けを取りません。と言うのもトライアルで不採用になったメーカーからの横流しですからね。とりあえずご覧ください」
そう言ってパーツを並べだした人形の顔が、ドアガラスから差し込む光に映し出され、私は「彼女」に質問をした。
「失礼な質問を許してほしい。もしかして君はLPH社の給仕人形じゃないか?」
「はい、たしかに私はLPH社で製造された自律人形です。それがどうかされましたか?」
「やっぱりそうだ。前に新聞の折込チラシで見たんだ。確か『一家に一体』ってキャッチコピーだったけど、べらぼうに高い価格設定だった。君みたいな高級人形が何故ゲットーに?」
今思い返してみれば、とても無礼な質問であった。しかし、「彼女」は気にする素振りも見せず、淡々と答えた。
「…鉄血製の人形が起こした事件がきっかけで人形であるが故に、ですね。それでもまだ良い方ですよ。ゲットーに入れられた人形達は」
「と、言うと?」
「ゲットーの外にいる人形は暴行の対象になってしまうのです。多くはセーフティが機能したまま捨てられたから自衛もできません。そしてゲットーへの出入りは人間によって管理されています。ある意味、ゲットーに入れられた私は『幸運』なのかもしれませんね」
彼女は自分を幸運だと言ったが、それが本心では無い事は容易に想像できた。
人形ゲットー、野良人形。この2つから見えてくるのは鉄血勢力が社会に残した傷跡が想像以上に深かったと言う事だ。人間はいつ牙を向くかわからない人形に怯え、人形も身を守れる為にゲットーに篭もる他ない。互いに「見えない脅威」の下で疑心暗鬼になっていた。
そこで、ふと「例の書類」の事を思い出し、閃いた。
「なぁ、もし君が良ければなんだが…、ここの会社に行ってみないか?」
「G&K…民間軍事会社、ですか?あなたの考えを伺ってもよろしいですか?」
「結局、今の状況の一番の問題は全ての人形に嫌疑が掛けられているって事だ。それを解決する方法は一つ、わかり易い形で実績を作って大々的に宣伝するんだ。この会社は戦術人形の供給元にメーカーを一社囲っている。そこの技術者なら民生の自律人形を戦術人形として活用できる術を持っているかもしれない」
自分でも信じられない程の熱弁を振るい、目の前の「彼女」は呆気にとられていた。
「落ち着いて下さい。いいですか、まず一個人の意志で企業はそう容易く動きません。あなたも軍用義体を使う軍属であるならば理解しているはずです。そして、なぜ私にその事を話したのですか?」
「エイブラハム•リンカーンもマーティン•ルーサー•キングも常識を覆すような事を成し遂げた。二人とも最初はただの人だった。私もそれをしてみたいんだ。それで君に声をかけた理由だったな。それはだな…」
時と場所は変わり、私と「彼女」はG&Kと契約を結んだ。軍出身という経歴が有利に動き、他の公募指揮官に比べて「少しだけ」特典がついていた。その一つが人形技術者との面談である。
「はっきり言おう。正気かい?戦争で頭のネジを落としたのなら、探しに戻ったほうがいいと思うよ?」
「新理論を組み込んだ新世代の戦術人形を組み立てられる技術力があって既存の自律人形に組み込めない道理があるだろうか、いや無い。フィジカルを除けば新世代に引けを取らないスペックを備えているのはペルシカ先生も確認しているだろう」
「そのスペックの高さが問題なんだ!民生自律人形にはステイグマとダミーネットワークを搭載する余裕は無いんだよ!」
ペルシカ研究員、私は「先生」と呼んでいる第二世代人形の重要なファクターを作り上げた第一人者の彼女曰く、すでに世に出回っている人形の多くは用途に応じたプログラムでリソースの大半を埋め尽くしており、新たな機能を搭載するには記憶媒体のデータを一度抹消しなければならないと言う。
「結局それだと君の大願は成就しないだろうし、私だってそんな事はしたくない。だから無理って事だ」
「プログラムの最適化を図り、空のスペースを確保する線はどうでしょうか?」
「高等自己学習機能による最適化の事か?それなら理論的には……ちょっと待て。君にはまさか、搭載されているのか、高等自己学習機能が?」
「はい、初回起動時の機能点検時に高グレードの自己学習機能が搭載されている事は確認しています。申し訳ありません、検診時にスペックを把握されていると思い申告していませんでした」
「彼女」が謝罪すると、ペルシカ先生は突然笑いだした。
「あっははは!嘘だろ?高等自己学習機能を搭載したモデルなんて、どこの成金が注文したんだい?それともセールスマンが相当優秀だったのかい?ひーっ!捩れるっお腹がよじれるーっ!」
ペルシカ先生はひとしきり笑い、ようやく落ち着いたのはそれから10分後だった。落ち着きを取り戻すと、私と「彼女」がなんとも言えない視線を投げかけているのに気が付いたのか、少し顔を赤らめていた。
「よし、わかった!やれるだけの事はやってみよう。ただし、世界初の試みだ。何が起きるかは分からないから、毎日ラボには顔を出すようにしてくれ。もちろん、搭載実験は体制が整い次第行うから、それまでは実戦は我慢してくれ。」
「ありがとう、感謝するよ」
「私からもお礼申し上げます、ペルシカさん」
「いや、私も久々に充実感を感じているよ。ところで彼女の戦闘訓練はどうするつもりなんだい?さすがの君でも対機械戦闘の経験は多くないだろう?」
「それに関しては伝手があるから心配ご無用。明日からでも始められるさ」
それから民兵の教練経験のあるM1918を迎え、「彼女」と数人の新米戦術人形たちの訓練の日々が始まった。
「なんだその射撃精度は!そんなんじゃ鉄血の豚共を処理できないぞ!」
「ほらほらチンタラ走るな!IOPは老婆の戦術人形なんて作っちゃいないぞ!遅れた奴は3食ルートビアだ!コーラは金輪際出さんぞ!」
「どうだ?麻薬カルテルの用心棒よりも格段に刺激的だろ?だがこの程度で音を上げてるようじゃ戦場の刺激は駄目かもしれんな。ジャングルの草いじりのの仕事が懐かしいか?あ?」
……ついでに言うと、「〇ートマン先任軍曹ごっこ」はこの頃から始まっていた。
「いやはや自分で言うのもなんだが、本当にここまで空き容量ができるなんて驚きだ。実は軍事や公安の人形とかじゃないよね?」
「ご安心を。れっきとしたLPH社のハイエンドモデルですよ」
搭載実験直前、つまり最後の検診はいつも通りペルシカ先生と「彼女」のみで行われた。よって、以下は後日当人たちに聞かされた話となる。
「そういえば聞いたよ?本社の広報マンを困らせているんだってね、彼?」
「実験の日取りが決まってからは日に三度は連絡を入れているのを見ていますから。本当に無茶な事ばかりするんですから……」
「それだけ気にかけてもらえているって事だよ。良いことじゃないか。さてさて、搭載後の適性シミュレートの結果は、と……」
「……ペルシカさん、マイ・フェア・レディってご存知ですか?」
「それってロンドン橋の方かい?それともミュージカル?」
「多分、後者だと思います。あの人が初めて会った時に言っていたんです。成功すればマイ・フェア・レディみたいで素敵だ、と」
「ブフォッ!?…エホッエホッ」
「だ、大丈夫ですか?」
「い、いや大丈夫。余りにも予想外過ぎるセリフに驚いただけだから。でもマイ・フェア・レディが素敵って……」
「素敵じゃないんですか?」
「たしかにシンデレラストーリーって意味では今回の試みにマッチした表現なんだけど……。多分映画自体はみて無いんじゃないかね、彼」
後日、「彼女」と一緒に娯楽室を貸し切って「マイ・フェア・レディ」を「初めて」見た。そして、もう二度と見たことのない映画を会話には出さないと誓った。
「もしかして、指揮官って見栄っ張りなんですか?見たことも無い作品を口説き文句に使うなんて」
「見栄ってのは張って格好がつけばナンボなんだよ。それに、あの時はそれ以上にいい言葉が思い浮かばなかったんだ」
「本当に無茶が好きなんですね、『指揮官』は」
「そういやそうだったな。私はようやく君の指揮官になったんだったな」
そういって「彼女」、戦術人形「M590」の方を見やる。褐色の肌とは対極的な白銀の髪。出会った頃の印象はやや薄れているが、間違いなく「彼女」である。
「改めておめでとう、M590。」
「ありがとうございます。ところで、この映画の展開的にそろそろ私と指揮官が喧嘩して、私が飛び出していくべきだと思うのですが?」
彼女は意地悪な笑顔を浮かべ、スクリーンを指さした。
「縁起でもない事を言わないでくれ。君にはこれからも私のスリッパを探してもらわないといけないんだ」
その日、人間と人形の関係に一条の光明が見えた。あの事件以降、低迷する人形市場において大きく成長したIOPが既存の自律人形の戦術人形化に成功した事を大々的に発表し、同時に鉄血工造製以外の人形に問題がない事を主張した。これにより、世論の人形に対する忌避感情は大きく低下し、各地のゲットーも順次解体されることになった。各企業では人形の再雇用が加速し、各都市圏のGRPも事件以前の水準まで回復するに至った。
しかし、未だ鉄血勢力は各地に跋扈している。私の、私達の本当の仕事はここからようやく始まるのであった。
――――――「エイブラハム•リンカーンもマーティン•ルーサー•キングも常識を覆すような事を成し遂げたが、二人とも最初はただの人だった。私もそれをしてみたいんだ。それで君に声をかけた理由だったな。それはだな、マイ・フェア・レディみたいな展開になったら互いに素敵な思い出になると思うんだ。誰もが憧れるシンデレラストーリー!さぁ、どうかこの手を取って欲しい」
※今回のエピソードは結構オリジナル要素てんこ盛りで、自分でも把握できなくなっているので用語解説などは後日追記します。
はやくAK-12とAN-97建造したい。